Sightsong

自縄自縛日記

井上ひさし『シャンハイムーン』 魯迅と内山書店

2009-09-24 22:00:00 | 中国・台湾

上海魯迅の家や記念館に足を運びたいとかねがね思っているのだが、毎回上海では時間がない。魯迅の家は、戦前の日本人街近くにあり(他の国とは違って、租界と自ら名乗っていただけ)、魯迅を世話した内山書店跡もやはりその近くにあるらしい。いまは神保町のすずらん通りにあり、その上は「アジア文庫」というアジア専門の書店になっている。私にとってはオアシスのような場所だが、やはり最近では覗く時間が取れない。

井上ひさしの戯曲『シャンハイムーン』(集英社、1991年)は、国民党から魯迅をかくまったころの内山書店が舞台になっている。全集か何かに収録されている、と演劇の仕事をしている人に聞いたが、 単体では古本を探すしかない。

晩年の魯迅は歯も身体もぼろぼろだったが、これは罪悪感によるものだった。北京の母を押し付けた妻への罪悪感。革命を唱えながら生き残ってしまっていることの罪悪感。仙台で学んだ藤野先生に嘘をついてしまったことの罪悪感。自分の作品のために死んでしまった青年に対する罪悪感。

ところが、歯の治療がきっかけで、魯迅は、周りの人々が贖罪の対象に見えるようになってしまう。そこから見えてきたのは、魯迅の自殺願望であった。

―――といった話だ。

井上ひさしらしく、説教くさく、正論の演説が違和感なく溶け込んでいるような側面が目立つ。しかし、暗い部屋の座卓で不健康そうに座っていそうな魯迅が、ここでは人間くさい存在として現れてくるのは愉快だ。読後の充実感のまま、さて何が書いてあったのだっけと思い返すと、何ということはない。まったく大した腕前である。

●参照
魯迅の家(1) 北京魯迅博物館
魯迅の家(2) 虎の尾
魯迅グッズ
丸山昇『魯迅』
魯迅『朝花夕拾』、イワン・ポポフ『こねこ』