Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

風呂から帰って

2013-03-08 08:47:43 | JAZZ
近所になんとたった100円で入浴できる風呂施設を発見した。むろん温泉施設ではない。米軍基地・座間キャンプの敷地西側を走るのどかなJR相模線沿いにある市が運営している地域施設の中にある。一人暮らしが難儀するポイントはいくつかある。風呂を沸かして入浴の後に清掃することの厄介である。ましてや設備に付いているガスのバランス釜の時代遅れな沸し性能と追い炊き時間のじれったさ、これも面倒臭がりやにはやっかいな項目の一つだ。湿気が増えてくる初夏より先の風呂場管理は嫌なものだと、風呂に入る度に感じていた。それらは伊勢原の大きめな借家をやめてコンパクトなマンションへ移ったので解決するかと思っていた。しかし部屋掃除、ダイニング、トイレの清潔維持等はやっとのことでコンスタントになってきたのに、風呂場と手付かずの専用庭だけがどうもはかどらない。

先日も行きつけの食堂で、そこの主とこれから秦野の日帰り温泉を浴びてから、夜勤へ出かける話をしていた時だ。たまにその食堂で一緒になる看護士の女性が話を小耳に挟んでいて、入浴できる施設が近くにありますよ。と教えてくれた。翌日地図で教わったとおりに行ってみたら、ほんとに100円で入浴できた。市販のマップを調べてみても入浴施設を名乗っていないから分る筈がない場所である。地元限定の情報というものがあるもので、無駄であっても言葉を交わすということの余得を感じた。毎日は時間的に無理だが週に5日かよっても500円だ。自分も爺さんには違いないけど、加齢臭を漂わせる爺さん同士がたった100円の為に、並んで口開けを待っている姿はかっこいいものではなさそうだ。

これから春先には線路沿いの桜並木の景観がとてもよさそうである。看護士さんの小学生の子供さんが桜の本数を数えたら、その数は106本だったそうである。しばらく桜並木でも眺めて時間をかせいで、空いた時間を見計らって入れば浅ましいことにはなりそうもない。風呂問題が解決したら、こんどは庭作りの課題が待っている。風呂の帰りに来年に向けて黄色い水仙を2鉢買ってきた。花が終わったらこの球根を埋めて来年の開花を待ってみようと思っている。

帰ってきてコーヒーを沸かしてから部屋を片付ける。しばらく未開封だった荷物にマリリン・モンローのバンドロケ風景のパネルが出てきた。これをDKの壁に飾って春を呼ぶことにする。いつもながらモンローの横顔のたおやかさに幻惑されてしまう。この前にようやっと434ページを読了したジョン・ハモンドの「ジャズプロデユーサーの半生記」にもモンローがちょっぴり登場してくる。1950年代の半ばのことで、アメリカ社会はそのころでも黒人差別は根深い問題を孕んでいたようだ。アメリカの鉄道王を祖父に持つジョン・ハモンドは優れた黒人音楽家の為にエール大学を中退して1930年代あたりから白人サイドでの元祖追っかけみたいなことを重ねて、健康なアメリカ人が本来持っているリベラリズムを義侠心豊かに発揮しすぎてたくさんの敵も作ったようである。

モンローはそのころマリリン・モンロー・ミラーと名乗っていて、「セールスマンの死」で有名なアーサー・ミラーと生活していた。ジョン・ハモンド夫婦が住むNYのハイソアパートの上階部には彼らが住んでいるという夢みたいな話だ。黒人がアメリカ文化の向上に果たした役割を趣旨としたイベントにジョン・ハモンドがアーサー・ミラーをパネリストとして誘う話合いがもたれた折らしい。苦い現実を知り尽くしているアーサー・ミラーはその要請を断ったらしい。黒人俳優が白人を演じることをアメリカの一般大衆が支持するはずがないというのが根拠で、今では信じられないような話である。それを聞いていたパートナーのマリリンがやはり義侠心を発揮してアーサー・ミラーに噛み付いたという記述がある。「あんたったら何言ってんの。黒人の俳優には可能性がないですって」(森沢麻里訳)とジョン・ハモンドを援護したらしい。

1時間に及ぶ話し合いは実らなかったが、後年ジョン・ハモンドはモンローについて述懐している。「マリリンはすばらしい女性だ。彼女を見るのはそれだけで目の保養になるが、彼女が自分の考えを一生けんめいしゃべっているときは、その美しさがなおきわだって見えた」ジョン・ハモンドの伝記にはやはり横道に逸れたこの種の美味しい話がたっぷりと詰まっている。音楽関連という範疇を超えた20世紀アメリカ社会史としても読める内容だ。マリリンの楽しげなパネルを見ていたら、ジョン・ハモンドの書中に随所に登場してくる彼がこよなく愛好していたテディ・ウイルソンのピアノがふと聞きたくなった。


やはりロートルになってしまったオリバー・ジャクソンのドラム、ミルト・ヒントンがベースで参加しているフランスのブラック&ブルー盤によるCDが、老いてもテディ・ウイルソントリオのジャズスピリッツの健在を示す好アルバムである。ジョン・ハモンド的にも懐かしい曲のオンパレードで音も現代的にしっかり優れている。タイトルは「THREE LITTLE WORDS」である。「時さえ忘れて」「セントルイスブルース」「わが心ここにあり」「あなたの面影」、ジョン・ハモンドもいつか復唱したことがある古い時代が生んだエレガンスな曲ばかり詰まっている。

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