Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

2管ペットの味わい

2014-12-12 16:58:12 | JAZZ

木曜日は週仕事が区切れる。そこで解放される夕方はボーカリスト、モニカ・ゼタールンドを描いた「ストックホルムでワルツを」という映画を見るか、新宿1丁目にある「サムデイ」における実力派トランペッター、高瀬龍一、伊勢秀一郎をフロントに据えたジャズコンボのライブを聴くべきか迷ったが、映画の方は年末の最終週までに先送りすることでライブ目当てに新宿御苑付近まで歩くことにする。昼飯が勤務先の近くにあるセブンイレブンで急ぎ飯のプアーなミートソースパスタだったせいか、急速に空腹感を覚える。紀伊国屋書店のある新宿通りを伊勢丹方面に向かって歩いていたら、左側の小路から香ばしいカレーの匂いが雨上がりの湿気をふくんだ空気に運ばれてきた。これは悩ましい香りである。雑居ビルの2階にある老舗カレー専門店「ガンジー」があることを想い出す。「サムデイ」の剛直なアマチュア料理と同じ値段帯なら、煮込んで磨きがかかっているルーの深いプロ的滋味の方がよいと思って寄り道してビーフカレーを注文する。添えられている古風な福神漬もふんだんで、その深い色艶は新興チェーンの「coco一番屋」などで供せられるおざなりな輸入風福神漬とはやっぱりキャリアが違う。

まっとうな東京カレーライスを腹に納めて10分後には「サムデイ」に到着したら、ライブはすでに始まっていた。地下へのドア口から漏れてくる2管ラッパのメロディーはウエイン・ショーターが作った「フット・プリント」の最後のミステリアスなリフ部分のようだ。バンドのお頭は高瀬龍一で伊勢さんはゲストというドラムレスコンボである。このコンビは二度聞いているが、今回が一番よいプログラムだった。お二人のラッパがもつ微妙な質感の違いを楽しめる曲が真のジャズ研究家でもある高瀬龍一によって適切にチョイスされていた。高瀬さんの音色は粒立ちもよくスムーズなブロウが綾なすさまはハードバップ黄金時代のラッパ吹きを彷彿とさせていつも興奮させられる。ジョン・コルトレーンの早い持ち曲「ロコモーション」などでそれはそれは顕著である。

伊勢さんは音色の切れよりも含示に複雑な味わいがあって近頃はバラードプレイで素晴らしい真価を見せている。この晩における2部のバラード・ソロ「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」などでは痩せてジャズ風「腎虚」の佇まいを感じさせる伊勢風メランコリーの到達点が鮮やかに示されて涙腺が緩んでしかたなかった。

高瀬選定による2管ラッパの補完というべきか合力の成功はドン・チェリーの「アール・デコ」、クレア・フィッシャーの「モーニング」の2曲だった。ドン・チェリーが作った曲だからさぞかし放恣的かと思いきや、スイングジャズに通じるエレガンスと精細即興の見事なブレンド力に圧倒される。バックを勤める続木徹のピアノがもたらす無機質な抒情触感はこのような領域で力を出すということも分かった。それにしても充足タイムは足早に過ぎ去っていく。伊勢さんらに別れを告げて23時05分発、「相模大野」行き急行に滑り込みセーフという時間になってしまった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿