Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

村上春樹の本

2012-11-26 11:05:26 | JAZZ
足の親指の予後治療をかねて近所の中規模な内山整形外科へ通っている。待合室は自分も含めた年配者や怪我をした幼児でいつも混雑している。当然待たされる時間もあるが、この病院の経営者なのか、お医者さんなのかはわからないがなんだかとても趣味がよい。殺伐になりやすい病院のイメージを爽快に払拭する努力を壁クロスの色調や展示版画で積極的に補っているのだ。柔らかな色彩が外科病院に蔓延している疼痛を和らげてくれるようだ。メインはカシニョールの大判版画が壁を占めている。南仏あたりのリゾート地のカフェで寛ぐブルジョア女の気位が伝わってくる版画である。中には片岡珠子の花弁を描いたリトグラフ等も混じっていて見飽きることがない。リハビリ用の先端的な医療機器もたくさん揃っているから、さしずめ才色兼備の活性に充ちた整形外科医院といったところだ。

待合室の書棚も一風変わっていて妙な古本が紛れている。村上春樹の少しカジュアルにくだけた「そうだ村上さんに聞いてみよう「282の大疑問」」(2000年朝日新聞社刊)なんて本があったりする。待合室でこれを飛ばし読みしていたら、不倫やエッチめいた読者からのメール質問に丁寧に答える流行作家の誠実な律儀性に思わず失笑する箇所もあるのだが、村上氏が愛好するジャズやオーディオの話が登場する箇所は、やはり見逃すことができない。誰かの質問に応えている箇所には使用スピーカーのことが書いてあった。
それで思い出した。村上氏は職業作家になる前から、経営するジャズ喫茶で使っていたアメリカJBL社のユニットを収めた、タイプ4530という黒塗りのバックロードホーンをいまだに愛用しているのだということを知った。実に見事に一貫したエンスージアストぶりに今更ながら驚く。30数年も同じスピーカーでよく満足できるな?という疑問は凡人の感想だろう。50年代後期の名ベーシスト、ポール・チェンバースのベースラインを擬音でさらさらと表現するところなどは、やはりあのスピーカーとの長い対峙時間を物語るエピソードだ。
職業作家になってから、村上氏とはどこかで4~5回会っている。最初は千葉の習志野付近にある彼の新居だった。ここでも千駄ヶ谷のカフェで使っていた黒塗りスピーカーは健在だった。その後は、新宿・紀伊国屋裏のDUGだったり、渋谷・南平台で彼の高校時代からの友人が経営しているカフェだったり、偶然の邂逅もある。最後に出会ったのは、横浜市内のレコードショップ内だった。昨日会ったばかりみたいな口調で、紛失してしまったアルツール・ベネディッティ・ミケランジェリのラベルを捜しにきたと、ジョギングファッションのいでたちで語る姿は、やはり筋金いりのLPマニアのそれだった。超有名者になっても偉ぶったバリアを感じさせない昔ながらの匿名的で謙虚な気風を持った稀有の人物を維持している。外科病院の待合室で刺激されたせいか、しばらく遠ざかっていた村上春樹の文章を読んでみたくなった。ちょうどステレオサウンドに連載していた「意味がなければスイングはない」これの文庫本が引越し紛れの荷物からでてきて、夜勤時の隙間で舐めるように読み始めている。連載時はジャズ対象者だけに限って飛ばし読んでみたものだ。いまはブルース・スプリングティーンとかウディー・ガスリーなどフォークやブルースのジャンルの為自分にとってあまり理解できない音楽家に関する解釈に魅了されている最中だ

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