Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

母のオートマティズム

2011-04-26 12:18:49 | その他
信州土産の美味しそうな「蕗味噌」と「みすず飴」を見比べて
いたら、「蕗味噌」は自分用、「みすず飴」は施設に住む母に
よいという直感がしてさっそくスクーターで施設に向かう。
その前に小分けして父親と亡妻の位牌がある仏壇にも供えるの
も大切と、財木屋製の線香をたいてついでに咲き始めた躑躅の
小枝を切って一輪挿しと一緒に置いて陽春を愛でることに。

ちょうど母の施設は三時のおやつ時間、仲間のお年寄りと整列
しておやつを食べる母の姿を遠くから眺めると、この一年の間
にすっかり身の丈も小さくなってしまった。
面会室での会話は耳が遠いのでいつも筆談だ。このみすず飴は
ゼリーみたいで柔らかな歯ごたえと控え目な甘みが昔から一貫
している。好物が到来した時の母はいつも相好を崩すのではな
くむしろ渋く不機嫌っぽい表情で自分の袋へ素早く仕舞いこむ。
戦中、戦後を生きてきた庶民の擬態的表情なのだろうか?
早い夕食が終えて小腹の空くようなときに、施設員の視線を
警戒するように好物を取り出す母の姿が浮かんでくる。

談話していると気のよさそうな若い看護師が書き込み板を持って
母に質問をする。
どうやら朝の便通報告のようで、「2センチくらのが5つ」と
応え腹の周りをこする仕草をする。
その応えに続いて「あんたも赤ん坊の時はよく緑便ばかりして」
「生まれたときは産婆さんがおでこに大という字を貼り付けた」
「へその緒を切るまもないくらい勝手に転がってしまったよ!」
「あんたの親指、生まれたときとおなじように「蝮指」だね」
心配事に混じって出る言葉はオートマティズム的言語奔出だ。

廊下に張り出した筆書きの季節言葉は「新緑」「山女」という
題で母は私の名前に関連する一字をとって「新緑」でエントリー
している。
一時間くらいして施設を辞する時の私の仕草はいつも母の右肩
をポン!と叩くことである。