Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

冬支度

2013-12-15 12:33:01 | 自然

冬になって南からの光は台所部屋の奥まで届くようになってきた。土曜日にオーディオ三昧を兼ねて遊びにきた旧友の置き土産はいつもの今川焼だ。姫路「ご座候」製の横浜高島屋地下売店の焼き立て売れ筋商品である。子供時代は横浜弘明寺にあった「盛光堂」の今川焼をよくおやつで食べた想い出がある。大手スーパーの一角で売っている鯛焼きや今川焼はたいてい似非っぽい化学風ソフト味がするが、「ご座候」のものは皮も餡もナチュラルな昔風の味がする。

今朝はこれの食べ残しが一個だけ残っていた。オーブントースターで焦げ目を強く入れて皮をパリッと硬くして食べるのもなかなか美味い。餡は白餡でこれは下級グレードの「農家の荒茶」という掛川付近産の駄もの煎茶を濃い目に入れたものと相性がいい。マンションに越してきて庭をときどき手入れする習慣がちょっぴり身についた。お茶を味わったあとは日向ぼっこを兼ねた冬支度をする。日常生活というものは些細な憂鬱と喜びの反復である。近頃の喜びはなんといっても秋遅く孵化したメダカを分室に分けて眺めることにある。

親のいる場所では顆粒みたいなメダカは錯視にあって食べられてしまう。ちょうど孵化を確認したころ小さな水槽に移動した。日当たりはよいが木枯らしも吹き寄せてきて夜間は冷える場所だ。今朝も日当たりを求めて水面に浮上するメダカに餌を与えながら冬囲いを作ってやる。断熱材の切れ端を二重に畳んでセルロイド水槽を囲ってやる。これだけでも保温効果はあると判断して親の棲む大型ポリ水槽と両方にかけてあげることになった。この微粒子みたいな子メダカが三月時分には10数匹群れ泳ぐ様子を想像するのはやっぱり楽しいことである。

水槽を囲ったあとは植物類も冬支度する。まず観葉類は全滅しないように室内の明るい窓際にまとめる。赤や淡い黄色の菊類も枝を切って周りの雑草を除けて隙間に植え替える。この春に植え付けた雲南オウバイやモッコウ薔薇の根っこに近いところにも肥料をばらまいておく。オシロイ花と毒だみの畑だった専用庭には手を焼かされるが、一日で片付くものではないという自然の摂理を感じながら、今度は昼飯のパスタ(ボロネーゼ)を準備する日曜日の午後である。


落穂拾いの日

2013-12-08 11:36:54 | 自然

熱帯化した東京がようやく秋めいてくれるのは、皮肉なことに11月の末から12月の初旬になってしまったようだ。風が凪ぎ陽射しも柔らかな過ごし易いお天気が続いている。都内への勤めが無いときは専ら読書とどこかで衝動買いしてきた戦利品をうっとりと眺めて初冬の光りと戯れている。

そして暇の更なる隙間にはバイタボックス同軸2ウエイスピーカーでジュリー・ロンドンが歌う「麦畑」「スワニー川」「草競馬」など今ほど高度化した劣悪に染まり切っていない時代のアメリカが奏でる懐旧っぽいオールドソングをBGMとしている。最近では神保町の古書漁りで見つけた岩波文庫版山川菊栄の「わが住む村」などは反時代をモットーとする自分みたいなものには面白く豊かな本である。

 

日本民俗学の泰斗柳田國男に勧められて書いた神奈川県鎌倉郡村岡村(今の藤沢市・弥勒寺)付近に住み着いた山川夫人の田舎郷見聞録だ。夫が戦前の左翼系の学者として名高い山川均だったせいで、今の日本維新の会っぽい在郷軍人会から移住を反対されて困ったらしいが、その山川均はマルクス理論はともかくとして村岡定着以前に鶉(うずら)の繁殖事業をマニファクチャー的に成功させていたらしい。山川夫妻が住み着いたのは昭和10年代後半のことである。その時分に接した村の古老から口承した江戸から明治初期の東海道藤沢宿とその近辺の村落の有様が山川夫人の素晴らしく曇りなきフィルターをとおして記述されている。

今はなだらかな遊行寺坂が急峻な崖地だったとは!山坂の難行、苦行の旅人に対して活躍する雲助達のその日暮らし的生態、また旅の路銀が果てた行路病死者の埋葬法、現在の消費税と似たり寄ったりの人馬や物を献納させられる江戸幕府の強圧的「助郷」システムに喘ぐ村人の生態、村の年中行事のこと、おまけに古代からの相模地方の地誌的まとめも兼ねているからとても読みやすくて滋養分を吸収しやすい名著だと思った。

次に読んだのは太宰治の留守番弟子だった小山清の「落穂拾い」という短編小説だ。これは季節にも合っている。小山清もとてもマイナーな作家だが筑摩や講談社の戦後名作短編全集の類でも探せばどこかで出会える作品である。10月4日生まれの小山清が「晩鐘」や「落穂拾い」のフランス農民画家のミレーと誕生日が一緒ということに引っ掛けた昭和27年の名作が「落穂拾い」。

厠から垣間見る隣家の読書する少年のこと。夕張炭鉱へ出稼ぎに行った仲間のその後の結婚便り、神楽坂の似顔絵描きの青年のこと、近所の蒸かし芋売りの老婆のこと、三鷹だろうか吉祥寺だろうか小山清が住む町の古本屋の少女店主、心の片隅に温もりを齎してくれる気になる人物について作中で道端に咲く野菊を愛でるように愛でる筆致が小説的ヤマは低いのにやはり素晴らしい。健気に起業して立ち働く若い古本屋の少女店主、店に通って気心が知れたころ、少女は小山清の生誕日を祝って「耳かき」「爪きり」をプレゼントする。いかにも昭和27年風光景かもしれない。その包装紙をうれしく開封するとそれは少女雑誌の付録で、印刷物には世界の科学者、画家といった著名人の10月4日生まれが列記されている。小山清はその店主に感じている恋情というよりは慕情めいた喜びをじんわりと噛み締めていて、それが「落穂拾い」へと昇華していったのだと読後に感じる。


秋の新崎川

2013-10-13 21:32:11 | 自然

三連休の中日は絶好の渓流日和になった。夜勤明けを利用してドクター桜井氏と鶴巻温泉ホームにて電車合流する。秦野にて後続のロマンスカーに乗り換えできれば、湯河原駅10時発の「幕山公園」行きのバスに間に合う。小田急の改札でパスモカードの読み取り不調が発生してもたついていた為にあやうく予定電車は発車するところだった。小田原発JR電車のドアを閉じる寸前になんとかこじあけて車内へ入り込むことができた。これを逃すと次のバスは12時までないから必死である。幕山公園は連休のせいか、ハイカーが多い。萩は終わったが、ススキ、野葡萄等の雑草が植樹帯の隙間で秋を奏でている様子を楽しめるのも、徒歩釣行の素晴らしき余禄だ。

 

前回は竿先の事故があり気勢をそがれたが、今回も条件はよくない。渓流管理釣り場としては嬉しい家族バーベキュー日和である。竹竿に簡易仕掛けの子供達が歓声を上げる家族的幸福の構図がこちらには不幸な構図となる。ドクター桜井氏の上流はヤマメブロックで偏差値が高い。産卵期が近い為に禁漁寸前で釣り人は少ない。こちらはニジマス対象区でしばらくファミリー釣りの諸氏と隣り合って釣ることになった。

 

それでも5メートル強のアマゴ竿の試し釣りにはもってこいの場所である。幸運だったことは、ファミリー層には付き添いの婦人達もいて、ほとんどが午後になったらにわかバーベキューを済ませて退散してしまった。自分のエリアに隣接する下流には釣り残って警戒心が強まった残りマスの魚影も窺える。今回の餌はサケの卵の「イクラ」にしないでスーパーに売っていた珍しいアラスカ産という「マスコ」というイクラそっくりさんのマスの卵を使ってみた。これが食いがよく、下流の無人地区で効を奏した。三時を回って日が傾き始めるころまでに10数匹が魚籠におさまった。

無人エリアの拾い釣りでは、引きが強くなったニジマスとの駆け引きを楽しむことができて、これは「先憂後楽」というものだと思った。獲物の処理を思案したが、夕飯には塩焼きをして、あとはスーパー「フードワン」にて味醂、酒、西京味噌を購入。それらを和えた味噌に捌いたニジマスを漬け込んでみた。二日くらい経ったら賞味してみようと思っているところだ。


座間の向日葵日和

2013-08-16 21:14:18 | 自然
都市化が著しい座間付近でも田舎らしい情緒を味わえる場所が僅かながら残っている。相模川が流れる厚木市に繋がっている座架衣橋の手前で南北に大きく広がる田畑の区画はいつ訪れても気持が晴れ晴れするそんな情緒を感じる場所だ。


ときどき、あてもなくバイクを走らせて相模川の水を導水した農業用水路に活用している小川付近の農道で草花を撮ってみたりすることがある。その近くに大きな向日葵畑があるという噂を聞いたのはこの夏を迎えた6月頃だった。一度訪れてみようと思っていてチャンスを窺っていた。夜勤が明けて朝の気温は26℃、日中は今日も34℃といういかにも真夏めいた向日葵日和な連日である。

昼寝をすませて日が傾く頃を見計らってその噂スポットを訪れてみる。旧盆休みの家族連れが群れをなしているが、畑地が広いせいで騒々しいお祭り場所にはなっていないことが幸いしている。川の方から吹き寄せる風は満開の丈高い向日葵や穂をつけ始めた稲をさざ波のように揺らせている。茜色に染まり始めた西の空に聳える丹沢の山並み、流れ行く夏雲、向日葵とのコントラストを盛り上げる要素には事欠くことがない夕暮れまでのひと時を満喫することができた。

羽村の水

2013-07-17 08:46:48 | 自然
休日のカフェ巡りのついでに町を通過していてよい空気を感じると寄り道したくなる。裏高尾のついでに寄った多摩川の羽村堰付近もそんなよい空気の漂うところだ。春だったら付近の奥多摩街道沿いの桜並木に目を奪われる。夏はどうかなと思って川原沿いの広々とした土手を歩いてみる。前日よりも温度の下がった川風が心地よい。街道と多摩川護岸の隙間に位置する田園地帯は「羽中」という多摩川の水の惠みを最大限に活かしたエリアだ。区画のしっかりした広い青田が目に涼しい。

清流を導いた水路の水色がこれまた素晴らしい。鯉、ハヤ、虹鱒などが人を信頼して悠々と泳いでいる。カフェでもないかと蓮田や、向日葵畑を遠望しつつ、水路に沿ってそぞろ歩く気分のよいこと。カフェ「中車のんびりカフェ水車小屋」という黒い板壁の民家風カフェに出くわす。ランチなどのメニューもあるようだ。付近で行う予定の灯篭流しや夏祭りのポスターが貼ってあるが、店の戸は開いているのに残念!お休みだ。


戻ってからは水に親しんだせいか、夏の水菓子類をたっぷりと味わう。桃、イチジク、珈琲という午後のおやつに恵まれる。