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ハロルドとモード(邦題/少年は虹を渡る)

2008-07-28 16:23:30 | Weblog

先日のブログでちょっと紹介しましたが、DVDで「ハロルドとモード(邦題/少年は虹を渡る)」を観ましたのでさっそく書きます。

この作品は1971年のアメリカ映画です。長年に渡り熱狂的ファンに支持されてきたこの映画は、現在でもいろいろなブログに取り上げられているのですでにご存知の方も多いのではないでしょうか。でも私は別の視点、つまり映像と音楽のコラボレーションのすばらしさという視点からこの映画の感想を書きたいと思います。

まずストーリーを簡単に紹介します。

主人公のハロルドは、首つりをしてみたりプールで溺れてみたりといった自殺ごっこを日々繰り返し、頭の中は死ぬことでいっぱいという悲しい青春を送っている少年です。少年といってももう19歳なんですが...

そんなハロルドがモードという老女と知り合います。

モードはもうじき80歳ですが、ヌードモデルをしたり自動車泥棒をしたりと大変活発に人生を謳歌するおばあちゃんなのでした。

ハロルドはモードと付き合ううちに人生の大切なことを学び、やがて一人前の男として脱皮していく...という物語です。

さて、そのすばらしい物語を盛り上げてくれるのがキャット・スティーヴンスの名曲達です。彼の特徴ある声とアコースティック・ギターの弦とピックが触れ合ったときのザリッザリッという素朴な音が、物語のテイストとぴったりマッチしてすばらしいシーンを作り出しています。

上の画像はキャット・スティーヴンスの写真をもとにCGでおこしてみました。写真と見比べるとやっぱりちょっと顔が違うんですが、照明やマイクでライブ感を出して髭をはやしてみたら何とかスティーヴンスに見えなくもないかな...なんとなく和風の顔立ちになってしまいましたが。

キャット・スティーヴンスは所謂シンガー・ソングライターといわれるジャンルのミュージシャンです。

ティーンネイジャーのときに早くもポップスターとしてデビュー。「ザ・ファースト・カット・イズ・ザ・ディーペスト」「マシュー・アンド・サン」「ヒア・カムズ・マイ・ベイビー」など良い曲を残しています。ソングライターとしての才能はすでに当時から開花していたものと思われます。

その当時の映像をyouTubeなどで観ると、スティーヴンスの表情はあまり楽しそうではありません。なんかいやいやアイドルをやらされているような感じ。やがて結核になり入院。ポップスター時代に終わりを告げます。

病気が癒えると今度はシンガー・ソングライターとして活動を開始。「ワイルド・ワールド」「雨にぬれた朝」「ピース・トレイン」「オー・ベリー・ヤング」などヒット曲を連発。たちまちスーパースターに上り詰めます。同じくシンガー・ソングライターとしてエルトン・ジョンやキャロル・キング等が活躍していた時代です。

ところがスーパースターの座も居心地が良くなかったのでしょうか?キャット・スティーヴンスは、1978~79年ころ突如イスラム教に改宗しユスフ・イスラム(Yusuf Islam)と名乗ります。

そして現在61歳となった彼は、今も枯れた味わい深い歌声を聴かせてくれています。

映画の中では、キャット・スティーヴンスのシンガー・ソングライター時代の1stアルバム及び2ndアルバムからチョイスされた曲が使われていますが、そのほかに映画のためにスティーヴンスが新たに2曲書き下ろしました。

書き下ろした中の一曲が「If you want to sing out, sing out」です。

この曲は映画の中でモードがピアノを弾きながら歌っています。いやぁ~、いいですねえ。なんとも言えない味わい...

キャット・スティーヴンスがギター一本で歌う「If you want to sing out, sing out」も、もちろん最高。基本的にはかなり地味な曲の部類に入ると思うんですが、聴き込むほどに味わいが増してくるスルメのような名曲です。

それにしても、なぜキャット・スティーヴンスの曲が「ハロルドとモード」という映画にこれほどマッチしているのでしょうか?

もちろん他のミュージシャンの楽曲がこの映像のバックで流れたとしても、それはそれでまた別の一つの作品として完成するとは思います。でも私としてはキャット・スティーヴンスとのコラボレーションを超える作品にはなりえないと勝手に決め付けています。

望んでいなかったアイドル歌手のようなポップ・スター時代を経て、自分の思うような音楽活動が出来るようになったシンガー・ソングライター時代。

しかしそこも自分が最終的に落ち着く場所ではなかったようです(1976年のマジカット・アース・ツアーのライブ映像を見ると非常に神経質な一面を見せている)

ところがユスフ・イスラムになってからの彼の表情はとても柔和で、まるで2ndアルバム「ティー・フォー・ザ・ティラーマン」のアルバム・ジャケットに描かれた農夫のような雰囲気さえ漂わせています。

それは探し求めていた自分の居場所にようやくたどり着いた人の表情ではないかという気がします。

ハロルドは自殺未遂を繰り返しながらSOSを発信していたのでしょう。それを受信した(?)モードが彼を導いてゆきます。

もがきながら自分の生きる道を求めていたハロルド...そのバックに流れる曲は、同じように自分自身が本当に望んでいる姿、たどりつく場所を求めて歌い続けていたキャット・スティーヴンスの曲以外には在りえない、というのが私の結論です。

映画のラストシーンは、バンジョーを弾きながらスキップして遠ざかっていくハロルドの後ろ姿です。

その背中はモードを失った悲しみでいっぱいです。でも大地に足をつけて生きていくであろう男の自信も微かに漂っていました。





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