つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

これが……

2012-02-24 23:00:40 | ファンタジー(異世界)
さて、ほんとうは別のを借りたかったんだけどの第986回は、

タイトル:パンツァーポリス1935
著者:川上稔
出版社:メディアワークス 電撃文庫('97)

であります。

ほんとうは「GENESISシリーズ 境界線上のホライズン」が本屋で平積みされていたり、アニメになっていたりしていたので、こちらを読みたかったんだけど、あいにく図書館の予約が入っていたので断念。
そこでならばデビュー作なんかを、というわけで本書です。

ストーリーは、

『1920年のドイツ……ドイツで最も有名な冒険家であるフーバー・タールシュトラーセを乗せた有人宇宙船は、打ち上げの成功とは一転、予定の衛星軌道に乗らず、宇宙へ飛び出そうとしていた。
衛星軌道を周回するしか機能がない宇宙船で重力圏外へ行くと言うことは死とイコールであった。
それを知った技師であり、宇宙船を設計したパウルは、親友であるフーバーとの交信を行うが、フーバーはパウルに最期の言葉を残し、パウルはフーバーを追って宇宙へ行くことを決意する。

15年後……。
1935年のドイツのとある上空では、ドイツ空軍の飛行空母ブラドリックブルクの甲板でふたりの男が対峙していた。
ひとりは青年で、もうひとりは空母の指揮官である軍人だった。

青年ヴァルターと指揮官であるオスカーは軍で開発された機体dp-XXXを巡って意見を戦わせていたが、dp-XXXで宇宙へ行きたいと主張するヴァルターと、dp-XXXを危険視するオスカーとではいくら話を続けても平行線をたどるだけだった。
交渉は決裂し、オスカーはヴァルターを始末しようとするが、そこへdp-XXXが迫ってくる。
dp-XXX、ヴァルターがカイザーブルクと呼ぶ機体は、空母から出撃した機体を撃破し、ヴァルターを乗せてベルリンへと飛び去っていった。

一方、ドイツでも五指に入る武器商の娘であるエルゼは、広大な自宅の森の中で馬を歩かせながら父親と口論になっていた。
そのとき、森の中から煙が出ていることに気付き、そこへ向かうと兵器の使用で故障したカイザーブルクを修理するために降り立ったヴァルターとパウルに出会う。

ふたりのカイザーブルクで宇宙へ行くと言う夢に興味を覚えたエルゼは、カイザーブルクの性能や機体を見聞きしたり、修理のための協力をしたり、はたまたカイザーブルクにヴァルターとパウルのふたりを追ってきた軍との戦闘になし崩し的に巻き込まれたりするうちに、宇宙へ行くことに惹かれていく。』

読み終わったあと、真っ先に思ったのが、キャラもストーリーもオチも薄っぺら~い話だな、と言うこと。
巻初のカラーイラストにある人物紹介に簡単なキャラ説明がある。
ヴァルターは「傲岸不遜、この世に恐れるものないって感じの青年」とあって、そのとおり。
……と言うか、それ以外に語りようがないほどにそれだけのキャラで人間味の微片もない。

パウルは頑固者とあるが、いわゆる職人気質的な頑固者のステロタイプなキャラだし、エルゼに至ってはなぜふたりに協力し、なぜ宇宙へ行くことを決意したのかと言った重要な部分がすっぽり抜け落ちていて、キャラが立っていない。

ストーリーも特に目立った特徴もなく、盛り上がりにも欠け、割合平板に進んでいく。
まぁ、ヴァルターのフルネームとか、成長していくカイザーブルクの過程とか、空中戦とか、人によっては読みどころはあるのかもしれないけど、正直「それで?」って感じでおもしろいとは全く感じなかった。

まぁ、設定だけはしっかりしているようで、カラーイラストの最後に年表があったり、精霊の力を結晶化したものを動力とする精霊式駆動機関と言った概念、実在の地名や歴史(第一次世界大戦とか)を使いながらもパラレルワールドとしての世界観を構築と言ったところとかは評価していい部分であろうか。
表紙裏の「変形成長する飛行戦闘艦。光剣で斬りむすぶ空中戦と、数多くのアイディアを盛り込んで」って煽り文句、単に設定のことしか言ってないか? って気がしてきた……。

しかし、これが第3回電撃ゲーム小説大賞<金賞>受賞作ってんだからなぁ。
まぁ、まだ3回目だし、いまみたいに秀逸な作品が多数応募されるような時代じゃなかったのかもしれないけど、それにしてもこれが金賞ってのはなぁ……。
私が審査員だったら金賞どころか最終選考にすら選ばないぞ、きっと。

と言うわけで、ラノベ点を考慮するまでもなく、落第決定。
もっとも、最初がこれでもいろいろ書いていれば「境界線上のホライズン」みたいに人気が出て、アニメにもなる作品が出てくるんだから、書き続けていくのも大事なことなんだぁねぇ……。


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