東京電力集金人 (3)集金用携帯端末機
集金用携帯端末というのは、俺たちが持ち歩く業務用の必需品のことだ。
『ハンディターミナル』というのが正式な名称だ。
身近に見るハンディターミナルの例と言えば、宅配便のお兄ちゃんが玄関先で
「ピピッ!」とバーコードを読み取っている姿が思い浮かぶ。
特定の業務にたずさわっている人々でなければ、操作することのない
いたってマイナーな、携帯端末機のことだ。
電気料金やガス料金などの支払い方法として、口座引き落としや、振込み、
窓口への持参、集金員による集金方法などがある。
ひと昔前は手書き用領収書の冊子を所持して、集金員が各家庭を回った。
そいつがハイテク化をされ、端末の機械を利用するようになっただけのことだ。
毎朝、その日に集金すべき料金一覧のデータを受け取る。
データは営業所を出る前に、ハンディターミナルにダウンロードされる。
訪問した先で客から料金を受け取ると、パパッとこいつ(ハンディターミナル)を操作して、
領収書を作成し、相手に渡す。
1軒目が片付くと、次に指定されているお客の家へと移動する。
いたって便利なようだが、こいつにも盲点はある。
不意の依頼で、俺の集金用マスターデータに記録されていない別件の客先を訪れ、
電気料金を受け取る場合も発生する。
他の取扱店や、他の集金員が集金すべき業務を急きょ代行するわけだ。
ときには本来の電気料金以外の金を、集金する場合も発生する。
そういう時、こいつはまったく役に立たない。
俺のハンディターミナルには、その日行くべき相手にだけ領収書を発行するように
最初から、がっりと制限がかけられている。
仕方がないから手書き用の領収書を発行して、相手先に渡すことになる。
一日の集金業務が終了すると、その足で営業所へ戻る。
ただしその日のノルマの、85%以上の集金を達成してからのことだ。
相手が有ることだから、思いのほか楽勝でスムーズに集金が進むこともあれば、
その逆に、居留守や空振りばかりでまったく進展しない日も有る。
運が良ければという要素が常に絡む、辛い仕事だ・・・
担当者に、ハンディターミナルと領収証の冊子と、集金してきた電気料金を渡す。
これで集金員としての俺の1日が終了することになる。
案外知られていないことだが、東電はこのハンディターミナル機を公募で選び出す。
ようするに、安い単価で競争入札しろと言うことだ。
業務用ハンディターミナルを製造しているメーカーは、国内だけで数十社もある。
一番安いところへ落札するから、張り切って入札しろと発破をかけるわけだ。
昨年は集金用のハンディターミナル機、2000セットを公募している。
日本の法人資格を所有していること。財務の健全性がちゃんと保たれていること。
必要とされるソフトの開発に迅速に対応すること。
契約の終了時から5年間以上サポートしろ、と言うきわめて厳しい条件をつけている。
これらの条件をすべて満たしたうえで、ハンディターミナル機と付属の機械一式を、
130,00円以下で東電に提供しろと高飛車に言い切っている。
何かと世間から誤解されがちな東電だが、こんなところにも会社の体質がよく表れている。
俺たちにしてみれば大切な必需品だが、常に塵や埃にまみれ、素手では触れたくないと
思うのが、このハンディターミナルという機械だ。
キー刻印は擦り切れている。しょっちゅう使う一番大事なENTキーや、
トリガーキーが取れてしまっているハンディターミナル機もある。
中には、無線アンテナが無くなった無線ハンディターミナルなんてやつまで有る。
フォークリフトに踏まれて、筐体はボコボコ。
画面はひび割れたたままのハンディターミナルだって、いまだに現役で動いている。
当日、何を渡されても文句を言える立場ではないが、それでもそんな状況の
この端末機を見ると、無性に不憫になるときが有る。
堅牢性に優れているハンディターミナルは、どんな過酷な形になっても健気に動き続ける。
傷つき、壊れる寸前でも電源が入る限り、酷使をされる運命の持ち主だ。
俺は今日も傷だらけのこいつを握って、指定された集金の仕事に出る。
追伸・フォークリフトに踏まれると、普通は壊れて再起不能状態になります。
たたまたま運よく生き残った頑丈や奴もいた、という意味です、念のため。
(4)へつづく
落合順平 全作品は、こちらでどうぞ
集金用携帯端末というのは、俺たちが持ち歩く業務用の必需品のことだ。
『ハンディターミナル』というのが正式な名称だ。
身近に見るハンディターミナルの例と言えば、宅配便のお兄ちゃんが玄関先で
「ピピッ!」とバーコードを読み取っている姿が思い浮かぶ。
特定の業務にたずさわっている人々でなければ、操作することのない
いたってマイナーな、携帯端末機のことだ。
電気料金やガス料金などの支払い方法として、口座引き落としや、振込み、
窓口への持参、集金員による集金方法などがある。
ひと昔前は手書き用領収書の冊子を所持して、集金員が各家庭を回った。
そいつがハイテク化をされ、端末の機械を利用するようになっただけのことだ。
毎朝、その日に集金すべき料金一覧のデータを受け取る。
データは営業所を出る前に、ハンディターミナルにダウンロードされる。
訪問した先で客から料金を受け取ると、パパッとこいつ(ハンディターミナル)を操作して、
領収書を作成し、相手に渡す。
1軒目が片付くと、次に指定されているお客の家へと移動する。
いたって便利なようだが、こいつにも盲点はある。
不意の依頼で、俺の集金用マスターデータに記録されていない別件の客先を訪れ、
電気料金を受け取る場合も発生する。
他の取扱店や、他の集金員が集金すべき業務を急きょ代行するわけだ。
ときには本来の電気料金以外の金を、集金する場合も発生する。
そういう時、こいつはまったく役に立たない。
俺のハンディターミナルには、その日行くべき相手にだけ領収書を発行するように
最初から、がっりと制限がかけられている。
仕方がないから手書き用の領収書を発行して、相手先に渡すことになる。
一日の集金業務が終了すると、その足で営業所へ戻る。
ただしその日のノルマの、85%以上の集金を達成してからのことだ。
相手が有ることだから、思いのほか楽勝でスムーズに集金が進むこともあれば、
その逆に、居留守や空振りばかりでまったく進展しない日も有る。
運が良ければという要素が常に絡む、辛い仕事だ・・・
担当者に、ハンディターミナルと領収証の冊子と、集金してきた電気料金を渡す。
これで集金員としての俺の1日が終了することになる。
案外知られていないことだが、東電はこのハンディターミナル機を公募で選び出す。
ようするに、安い単価で競争入札しろと言うことだ。
業務用ハンディターミナルを製造しているメーカーは、国内だけで数十社もある。
一番安いところへ落札するから、張り切って入札しろと発破をかけるわけだ。
昨年は集金用のハンディターミナル機、2000セットを公募している。
日本の法人資格を所有していること。財務の健全性がちゃんと保たれていること。
必要とされるソフトの開発に迅速に対応すること。
契約の終了時から5年間以上サポートしろ、と言うきわめて厳しい条件をつけている。
これらの条件をすべて満たしたうえで、ハンディターミナル機と付属の機械一式を、
130,00円以下で東電に提供しろと高飛車に言い切っている。
何かと世間から誤解されがちな東電だが、こんなところにも会社の体質がよく表れている。
俺たちにしてみれば大切な必需品だが、常に塵や埃にまみれ、素手では触れたくないと
思うのが、このハンディターミナルという機械だ。
キー刻印は擦り切れている。しょっちゅう使う一番大事なENTキーや、
トリガーキーが取れてしまっているハンディターミナル機もある。
中には、無線アンテナが無くなった無線ハンディターミナルなんてやつまで有る。
フォークリフトに踏まれて、筐体はボコボコ。
画面はひび割れたたままのハンディターミナルだって、いまだに現役で動いている。
当日、何を渡されても文句を言える立場ではないが、それでもそんな状況の
この端末機を見ると、無性に不憫になるときが有る。
堅牢性に優れているハンディターミナルは、どんな過酷な形になっても健気に動き続ける。
傷つき、壊れる寸前でも電源が入る限り、酷使をされる運命の持ち主だ。
俺は今日も傷だらけのこいつを握って、指定された集金の仕事に出る。
追伸・フォークリフトに踏まれると、普通は壊れて再起不能状態になります。
たたまたま運よく生き残った頑丈や奴もいた、という意味です、念のため。
(4)へつづく
落合順平 全作品は、こちらでどうぞ