君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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「海を見たかい」 十四話 迷走前編

2012-07-24 02:52:56 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える大学生          秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?   ミソカとツゴモリ
能力は高いが見えない祖父           秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女      春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる        大川孝之
高校の同級生 カイが好きらしい…       三沢結花
秋月の本家 三鷹家の若き当主         三鷹誠記

 

 「迷走」前編


 何をしていたのだろう?
 どこに行こうとしていたのだろう?

 わからない。
 覚えていない。
 だた、わかるのは、
 自分があそこに居てはいけない事だけ…。
 ただひたすらに逃げていた。

「助けて」

 そんな声を聞いたのはそんな時、
 どこだ?
 どこで呼んでいる?
 ここは暗いんだ。
 何も見えない。
 ふいに誰かに手を掴まれた。

「助けて」

 彼を俺は助け上げた。
 そして俺たちは…。


「アキラ」
「どうした?疲れたか?」
「今日は忙しかったからなぁ」

 と口々に声が掛かる。
 そう、今日は僕のデビューの日だった。
 呆けてる場合じゃない。
 最後の客を見送って俺たちは店に戻った。

「どうだった?」
「ハズしたとこあったけど、良かったぜ」
「ありがとう」

 これが最後だった。


「何があった?」
「もう戻らない」
「どうしたい?」
「突き止めたい犯人を」

「僕と一緒になろう」

「何をしたい?」




 大学二年の春だった。

 俺は坂を上ってくる春野の気配を感じてミソカにこう言った。
「ここを守って。春野を守って欲しい」と、これが彼らをここに縛る。

「ここからは俺だけの…」
 そう言って俺はメゾンの前を入れずに通り過ぎる春野を追った。
「マズイな…。ここに入って来れない程の物を連れている…」
「春野」
 ハルさん…。
 今、俺の所で動かせるのはいない。
 俺だけで何とかしないと…。
 春野に追いついた俺は、リュックから護符を取り出し春野の前に回りこむと護符を通して念を送った。
 吹き抜ける風と一緒に、春野から何かが外れる。
 彼女はこれで安心だ。
「俺の家まで戻って、そして…待ってて」
 空を飛んでいた春野から出たモノが戻って俺の中に入ってくる。
「怨念…?」
 何人分の…?
 暗い…深い…思い…。

 俺はその後、失踪した。




「カイはどこ?」
 メゾンに入るとミソカは春野にそう聞いた。
「会ったのかな?だけど…私は何があったのか覚えていなくて…ここに戻るように言われたような…気がするだけなの…カイくん!」

 その後、約一ヶ月、カイの行方はわからなかった。

 大川と春野が方々に手をつくして探した。
 春野のオカルト情報のツイッターにある書き込みがあった。
「よく似た子が、新宿のクラブでバイトをしている」
 早速、春野は友人と見に行った。
「カイ君がホストなの?」
「ううん。バーテンの見習い?ってか、忙しい時に呼ばれる臨時みたいなのだって」
「秋月海くんはいますか?」
「カイに用事だって」
 春野は意外に早くカイに会えた。

「カイくん。何で連絡してくれないの?皆心配してるんだよ」
「ちょっと、やっかいな事になってて、ここを出れないんだ」
「ここ?この店?何、ここヤバイの?」
「違う。店じゃない。ここ。この新宿から出れないんだ。携帯も通じないし」
「?」
「どういう事?なんで?携帯できるわよ。出れないって?じゃ、私たちも出れないの?」
「ううん。春野たちは出れるよ。携帯も通じる。これは俺だけだから」
 カイは圏外になっている携帯を見せた。
「他の人のを借りても駄目で、公衆電話も俺が使うと通じないんだ」
 誰かにかけてもらっても駄目だった。不通になっちゃうとカイが言う。
「だから、事件を解決しないと許してくれないんだ」
「事件?」
「八年前の失踪事件」
「失踪?どんな?」
「ここは前はライブハウスだったんだ。けど…ここで歌ってた人で蓮見明良って人がね。居なくなったんだ。だけど、今、彼はここに居るんだ」
「ええ??どういう事?」
「さっき、俺を呼んだ彼が蓮見明良。全く同じ名前なんて有り得ないだろう?」
「彼は…霊なの?」
「ううん、ちゃんとした人間。身元もはっきりしている。もう一年以上ここで働いている人だ」
「いくつ?」
「二十四歳」
「失踪している蓮見を調べる為、警察にも行ったけど、年間何万も行方不明を出してるこの国じゃ、事件にならないと動いてくれない。家族ももう諦めている事件だから、何もしてもらえなかった」
「蓮見明良ね」
 と春野はメモして、知人に電話をしようとしたが、不通になっていた。
「俺と居るからだよ」
 と諦めたように笑った。
 電話は後でかけるとして、と春野。
「でも、カイくん。他に電話がだめなら手紙とか、一緒に居ない時にかけてもらうとか出来たでしょう?」
「お願いした人が何らかの事情で携帯を無くしたり壊したり、酷い時は怪我をしてしまったんだ。だから諦めた…その内、何かで分かるだろうと…」
「…そっかぁ…」
「で、事件だけど、解決する手口は彼と、蓮見の兄」
「お兄さん?」
「俺の部屋にいるよ」
「まだ俺は仕事で行けないから先に行っててもらっていい?春野ならきっと会える。いや、視える」
 春野は友人と別れた後で、大川に連絡をした。
「ねぇ、ミソカちゃん達は駄目なの?まだメゾンから出れない?」
「あれは、カイでないと戒めが取れないな…なんでそんな事をしていったんだろう…」
「とにかく、タカくんだけでも来て」
「了解」
 春野は大川と合流してカイのメモにあったマンションへ向かった。
 店に程近い、ワンルームマンション。


 カイの言った意味がすぐにわかった。
 蓮見の兄は霊だったのだ。

「こ、こんなに霊っぽい霊って久しぶり」
 と不謹慎な事を春野が言ってしまうほどの霊だった。
 青白い病弱そうな顔色、細い体。
 消えそうな声、ほとんど聞こえない。
  こんなに弱いのに、何故ここに留まっているのだろう?
「…犯人を…」
 と霊はそれだけ言った。
「失踪事件なのに犯人がいるの?」
「弟は何をしてたんだ?」
「何でそう思ったの?」
「何があった?」
「どうして?」
 と立て続けに聞いたので彼は消えかける。
「あ、ちょっと…」
 と見えている春野があわてる。
「なんでカイを巻き込んだんだ?」
 と大川の問いに霊が反応した。
「……」
 と春野を指差す霊
 そして、消えていった。
「わ、私?」

「ま、また私なの?」
「ま、そうだろうな。ミソカが言ってただろ?カイは春野を追っていった。春野しか戻らなかった。って」
「そうよねぇ、でもあの日私、カイくんに会ったけどそれすらもよく覚えてないのよ」
「前に、あの狼みたいのってのに操られていた時も覚えていなかったんだから、そういう時ってわからないんじゃないのか?」


「それは、憑依されている状態の事を言うね」
 とカイが入ってきた。

「お兄さんには会った?」
「ええ」
「何か言った?」
「犯人をって、良く聞き取れなったけど…多分それだけ」
 そっか…とカイ。
「ねぇ、カイくん。このお兄さんが私に憑依していたの?」
「ううん。あの日、春野についていたのは弟の方、もう祓うって問題じゃなかったから…とにかく、引き剥がしたら、俺が捕まっちゃって…気がついたらこの街だったんだ」
「じゃ、弟さんは死んでいるの…?」
「そう…お兄さんはそれを知らないままここにいる」
「教えないのか?」
「言っても聞いた時しか信じないんだ。彼らは時間が止まっているからね」
「どうするんだ?どこまでわかっている?」
「弟さんの失踪の原因はまだわからない。お兄さんの方はここに弟を探しに来たけど見つからずに実家に戻って失意のまま病死だそうだ。でも一番の謎は同じ名前の蓮見」
「経歴に怪しい点はなかったってのも変だよな」
「誰かのを偽っているとか?」
「だと思うんだけど…憑依だとしたら、彼は霊だ」
「でも、あんなにはっきり見えて、ちゃんと会話もして、仕事もしてるんでしょ?」
「そんな霊っているのか?」
「わからない…」
「俺たちは一度帰って外から調べてみる。また来る」
「頼む」
「カイくん。ミソカ達を解放できないか?」
「俺が直に言わないと駄目だろうな」
「何で残して行ったの?」
「…ここには、得体の知れない大きな穴があるんだ。人の欲望とかが折り重なって出来たもの…。ここには霊も渦巻いている。捕まったら逃げられないんだ。ここに連れて来たくなかった」
「でも、新宿に行くとは思っていなかったでしょ?」
「何となく、ヤバイ気配がしたから、残した…」
「そっか、あの子達が居たらあの彼の正体もすぐにわかるのにね」
「そうだね」

「カイ」
 と孝之が神妙な顔をしてカイを呼んだ。
「…何だ?」
「いや、なんでもない」
 そして、孝之と春野の二人は家へと戻って行った。


 底知れぬ、穴の上にある街。

 新宿…。









 迷走後編……つづく






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