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『くまーその先へー』
「フィシス」
シャングリラの通路を歩いていたフィシスにジョミーが声をかけた。
「ああ、フィシス。君を捜していたんだ。ブルーの所の帰り?」
「ええ、あの、ジョミー?」
「ん?」
微かな違和感を感じたフィシスは彼に手を伸ばす。
その様子を見て、ジョミーは優しく彼女の手を取った。
「ほら」
「え?」
「何だと思う?」
フィシスの手は暖かなふわふわの毛皮の感触に笑顔を浮かべた。
「ミトン?これはぬいぐるみですか?」
「そうだよ」
明るくジョミーは答えて、次はフィシスの手を自分の頭に導いた。
「ジョミー。これは耳ですか?丸い耳」
「そう。熊だ。カチューシャなんだ」
「熊ですか。でも、どうして?」
「あのね。今日はハロウィンなんだよ」
「ハロウィン?」
「……」
何かに気が付いたアルフレートが言おうとしたのをジョミーは指を立てて口に当て「(黙ってて)」とウィンクで合図をした。
「トォニィ達も皆も、僕と同じ熊やウサギや猫の仮装をしているよ。中庭に行ってあげて」
「ええ、わかりましたわ」
「お菓子ももらえるよ。行ってらっしゃい」
ジョミーは二人に手を振って見送った。
ジョミーの姿は、手には茶色の熊のミトン、足は同じ色の熊のスリッパ、頭にまあるい熊耳だった。
「フィシスが白なら、ブルーは黒かな?」
ジョミーはそんな事を言いながら、ブルーの部屋へと向かった。
「黒より青が良いのか…な?」
ジョミーはブルーにミトンとカチューシャを付けて、そう呟いた。
「ジョミー」
ブルーのテレパシーが優しくジョミーの頭の中に入ってきた。
「ああ、起こしてしまいましたか…」
「今日は何だい?」
ブルーは目を閉じたまま答えた。
「ブルー。今日はハロウィンなんですよ」
「ハロウィン?」
「そうです」
「でも、ジョミー。今日は…」
「ええ、違います。10月じゃありません」
「ではどうして」
「トォニィが古い本を見つけてきて、お祭りをしたいって言いだしたんです。皆で用意して、僕もクッキーを焼いたんですよ。今、中庭でパーティをしています」
「それは、見てみたいな」
「ぜひ、来て下さい」
「ジョミー」
「はい?」
「それで僕は何の仮装をしているんだい?」
「熊です。黒い熊です…」
ジョミーの語尾が小さく震えた。
「ジョミー?」
「目を覚まして下さい。ブルー」
「ジョミー…」
「ブルー。今は二月です。二月十四日」
「ああ」
「僕は誰も失わずに、本当のハロウィンを迎えたいと思っています。だけど…それは無理なのですね…」
「……」
「こんな事しか出来ない自分が憎いです」
「ジョミー。泣いているのか?」
ブルーはふわふわのミトンの手でジョミーの頭を撫でた。
そして、ゆっくりと目を開けた。
「泣いてなんかいないです。泣いてどうにかなるならいくらでも泣きますよ」
「泣かないで」
「泣いてないです」
ブルーから目をそらしたジョミーの目から毀れる一筋の涙。
「…すまない」
「ブルー。今日は何月何日ですか?」
「それは、君がさっき、二月十四日と」
「バレンタインですよ。起きて下さい。チョコを貰い損ねちゃいますよ」
「ジョミー。僕は一つだけでいいよ。君が隠している一つがいい」
「ソルジャー・ブルー。これは運命なんですか?」
「いいや。ジョミーこれは僕が選んだ道だ」
「わかっています…。次に貴方が目覚めた時、何かが起きる…だから僕は」
「そう、僕の命はもっとずっと前に尽きる筈だった。。それを伸ばしここまで来た」
「ブルー。きっともうすぐなんです。もうすぐ貴方の見たかった地球へたどり着けます」
「ああそうだね。僕らは地球へ行けるだろう」
「そうですよ。僕たちは…あの青い地球へゆける。だから、生きていて下さい」
「くれないのかい?」
「チョコあげたら、キスしてくれます?」
「ああ。君が泣きやんだらね」
「次の今日も、その次の今日も、もっと先の今日も。ずっと先の分までキスして下さい…」
「わかっているよ。ジョミー」
「ソルジャー・ブルー」
ブルーはジョミーが泣き止むのを待たずに優しくキスをした。
おわり
※トォニィが5才くらいの設定になっています。
時間ぎりぎりUP。
仮題のままUPしてしまいました^^;
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