君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
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「海を見たかい」 九話 図書館の幽霊

2012-07-22 13:01:34 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える大学生1年          秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?     ミソカとツゴモリ
能力は高いが見えない祖父             秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女        春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる          大川孝之


 「図書室の幽霊」 


「カイ。俺はお前に聞いておかないといけない事がある」

 それは夏の初めの学食での事だった。
 珍しく文系の学部までやって来た大川が、かしこまってしゃべりだした。

「俺は真理ちゃんと付き合いたいと思うんだが…お前は…それをどう思うかと…」
「真理ちゃん?ああ、タマリの事か?良いんじゃないか。彼氏いないし」
 と答えると
「良いのか?」
 と念を押してきた。
「はぁ?なんでそんなに気にするんだ?」
「だから…」
「何だよ」
「俺はだな、お前に彼女が出来たら俺も彼女を作ろうと思っ…いや。誓っていたんだ」
「…何で俺に彼女なんて関係ないじゃ…、…お前…まさか」
 俺は孝之を睨みつけた。
「今になって、何言ってるんだ。お前が誰と付き合おうと俺には関係ない!」
 俺は読んでいた本を閉じると孝之をもう一度睨んで席を立った。
「まて、カイ。俺はそんなつもりじゃない」

 俺は、孝之が掴もうとした手を振り払った。
 こんな態度こそが、俺がまだ気にしていると思わせてしまうと思った。
 だが、孝之の優しさなのか、押し付けがましい親切なのかが、わからなくなる時があるのが俺自身、気に入らなかった。
 俺は学食を後にした。

 孝之の事は嫌いじゃない。
 東京で再会してからは、上手くやっていると思っていた。

「うわべだけの関係なのか…」

 こんな事なら人類学ではなくて心理学も専攻しておけば良かった。
 だけど、うわべだけならそれでも良いさ。
 四年という限られた年月を楽しく過ごせれば、それでいい。


 何日かして、久保田真理と会った。
「大川君が最近、私を避けるんです。何かあったのですか?」
 と聞いてきた。
 全く、不器用なやつだな。と俺は思った。
「俺も最近会ってないから知らないんだ」
「カイ君の所に住んでいるんじゃないの?」
「違うよ。何日か泊めただけだ」

 翌日、俺は借りていた本を返しに図書室へ行った。
 その日は、午後から雨だった。

 いつもより薄暗く感じる図書館で俺は捕まった。

「お前の闇が大きくなると本当にたやすいねぇ」

 そんな声で俺は目が覚めた。
 さっきまでと同じ図書館なのに違う空間がそこにはあった。


 図書館にいるヤツだ。
 こんな小物に…。
 俺は本棚の間の通路に倒れているらしい…。
 ヤツの姿は視えない。
 かろうじて動く顔を上げる。
 見渡しても何もいない。

「おい!出て来い」

「怖い。怖い」
 とバカにしたように答える幽霊。

「燃やすぞ」
「出来るの?今のお前に」
「出来るさ」
 俺は携帯を出して雷帝で電撃をするつもりだった。
 ポケットから携帯を取り出し、腹這いのまま携帯を見る。
 だけど、その唱えるべき言葉が浮かばない。
「私はね。ここで知識を食べているのさ。皆が集めた知識を。お前にはここにはない物がある。私の知らない物だ。楽しいねぇ」
「喰われた?」
 では、俺はここから出る術も持たないのか?
「そうだよ」
「返せ」
「美味しいねぇ。美味しいよ」
「返せ」

 それは俺を構成する俺の知識だ。
 それが無いと俺は俺で無くなる。

「頼む。返してくれ…」

 俺を構成する知識、普通の人にはない物。
 俺はそれが嫌いだった。
 

 秋月家の本家「三鷹の一族」は財界や政界に強い影響力を持つそんな一族だ。


 俺は高校一年のあの夏の事件の後で、病院に来てくれていた三沢結花をどうして追い帰したのかを聞いた。
 それは、三沢は一族では無いから、だった。

「海、お前にはもう決まった婚約者がいるんだ」

「はぁ?何を、そんないつの時代の話だよ。何でそんなの。勝手に決めんなよ」

「年々三鷹の能力は薄れてきている、そんな中で、お前が産まれた。じいさんは一族の意向に従わなかったが、結局、妻は一族の人間だった。母さんは三鷹の遠縁なのは知っているだろう?お前もそれに従わないといけないんだ」

「じいちゃんがどうだろうと。親父がどうだろうと。俺の好きな人は俺が決める」

「いいか、海。血の呪縛からは逃れられん。じいさんと私は視えない。だが、お前は三鷹からは見逃してもらえないぞ。じいさんが米沢に来た時にお前の特出してきた力を封印したのを覚えていないのか?」

「封印…?」

 俺は小さい頃、透視や念写、予知が出来たんだ。
 それで俺は一度「三鷹」に連れて行かれた。
 神社みたいな大きな屋敷、けど、そこは神聖であって神聖ではなかった。
 俺はそれが怖くなって、泣き出したんだ。

 その日俺は三鷹の家に入る予定になっていたと後で聞いた。
 けれど、俺は三鷹に引き取られる事は無かった。
 不安定になった俺では使い物にならないと、両親は何か別の契約をしたらしい。
 そのおかげで俺は秋月海として育つ事が出来た。
 じいちゃんが俺を封印したから、俺は「秋月海」でいられた。
 それにはまた別の重い意味があったのだが…。
 あの事件でその封印を俺は破る所だったんだ。
 我皇との対峙した事で再び三鷹は俺に目をつけたのか?


「三鷹は俺に何を望んでいるんだ?俺を駒にする気か?」

「今、三鷹はお前の従兄弟、誠記くんが継いでいる。お前を今更、術者にするつもりはないようだ。だが、あの三鷹に行った日にはもうお前の結婚相手は決まっていたんだ」

「だから、なんだよ。それは…結婚相手って…。俺は三沢を彼女にしたいなんて思っていない…だけど…三沢結花は被害者じゃないか。我皇があそこに居たのは三鷹の所為なんだろう?」
「あの日、急な呼び出しさえなければ、お前を止めれた…」
「…その呼び出しも、三鷹なのか?我皇も?結花達が旧校舎に行ったのも?美緒が俺に助けてと言ってきたのも?」
「海…」

 俺は、何の為に生まれて、ここにいるんだ。
 三鷹の言いなりになる為に俺はここにいるんじゃない。
 だけど…。

「お前と彼女を会わせないのは、お互いが傷付かないようにする為だ。わかってくれ」

「わかってたまるか」


 大川の声がする。

「俺が彼女を作らないのはお前に遠慮しているからだ。あの時、結花がお前を好きだと気が付いて俺はお前を出し抜こうと、あの肝試しを計画した。それで、あんな事になって、お前に助けられて…。あの夜、お前も結花が好きなんだと気が付いて。俺は何も言えなくなった。だから、あの時の罪滅ぼしに俺はお前が彼女を作るまで俺も作らないと誓ったんだ」

 親父と大川とがダブって見えた。
 
 違う…それは…違うんだ。

「孝之が俺を気にする必要は全くないんだ」

 事件の後で、俺が三沢結花に何も言わなかったのは、俺を好きだと言った。
 あの彼女の言葉が本当の事だったのかがわからなかったから…。
 俺から言い出すきっかけが無かっただけだ。
 
 必死に俺の弁護をしてくれた結花。
 自分が話せば話すほど、俺の噂が広まり俺を落としてゆく事に彼女が気付き、もう話さなくなり、彼女が自分自身の行動に後悔をしてしまったから、俺たちは余計に離れるしかなかった。

 三年経った今になって、結花が俺を追って東京に出て来た言った大川。
 俺はあの時のように人を想えない…。
 俺たちは…。
 決着をつけなければならない。
 


「秋月 晦(ミソカ)」


 俺はカイだ。

 ミソカじゃない…。
 ミソカは俺じゃない。

 俺をその名で呼ぶのは、三鷹か…。

「そんな所…いては…三沢さんも…春野さんも大川くんも…」

「何?」

「……」
「何が…彼らがどうしたって…」
 相手の声がよく聞こえない。

「…ま…」
「何が…」
「………」
「…れませ…よ…」


 何?
 
 何かが、俺の傍にいて…うるさいんだ。

「あれ?もうお願いしないの?」

 うるさい。聞こえないだろ。

 おい!
 待てよ。三鷹!

「ねぇ、土下座して私に許しを請う姿をまた見たいんだけど」

「てめぇ…調子こいてんじゃねぇ。図書館の幽霊。俺の上からどけ」

「おい。三鷹!」
 
 何をする気なんだ。

 俺は…。お前を…!


「ミソカ。頼む」

「了~解っ!」明るい声がした。

「図書館の幽霊さん。これ以上、カイに手を出したら承知しないからね。さっさとそこから消えなさい」

 ミソカに追われて図書館の幽霊はどこかの古い本に消えたようだ。
 薄暗かった部屋に明るさが戻った。
 確かにヤツは人の知識が好きな幽霊だが、その知識を取ってゆく事はしない。
 だから俺は放置していた。

 今回は俺の心が結花の出現と大川の言葉で動揺した所為で招いた事のようだ。

「ミソカ、ありがとう」
「お安い御用よ。だけど、あんなの捕まるなんて…ワタシ心配しちゃったわ」

「ごめん…。ね、ミソカ。これどけてくれない?」
「えっと、ちょっと無理っぽい…」

 手に持ったままの携帯が大川から電話だと鳴っている。
 俺の上には幽霊が落としていった分厚いハードカバーの専門書が何冊も乗っていた。
 丁寧に棚一つ分落としてある。
 簡単に抜けれそうになかった。 

「孝之…」
「カイ。大丈夫か?どこにいる?」
「悪い…図書館だ…助けてくれ」
「お前のとこの図書館だな。すぐ行く」

「それと、タカユキ、俺たちはもう一度、結花に会ってこの関係を確認しないといけないようだ」
「…カイ」

「あの時の話をしておきたい」


 三鷹は俺に忠告をしに来た。
 こんな所で引っかかっているようじゃ、何も守れない。と言ったのだろう。

 そう、三鷹が俺に何を望み、何をさせたいのかはわからない。

 だけど、多分、そう時間が無いのだろう。
 今まで、あんな風に俺の前に三鷹が来る事は無かった。

 俺が育つのを待っている?
 それは、力だけじゃなく、年齢でもない。
 その両方を待っている?
 俺が強くなるのを待っている?

 …そんな気がした。


 だが、その日はそう遠くないだろう。







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