君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十話「追憶の破片」

2012-03-07 03:00:08 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十話「追憶の破片」

  Shangri-La 展望室
 一回目のワープが済んだシャングリラは月へと向かっていた。
「キース・アニアン。お前はジョミーの体について知らないと思っていたが、あまり驚いていないように見えるけど、本当はどうなんだ?」
「知らなかった。気が付かなかった事に驚いている」
「まぁ…、あんたは人間だから、見えなくなった分を力で補っていたら人間にわかるはずがない。セルジュだって気が付いてないし。同じミュウのシドですら…何年も気がつかなかったんだから…。しっかし、シドってわかりやすいなぁ。さっきは、喧嘩を売るんじゃないかと思った」
 その少し子供っぽい言い方に「お前はいくつなんだ?」とキースが聞いた。
「歳?んーと、十五かな?」
 戦う為に大人の体へと成長させたトォニィはまだそんなに若かったのかとキースは思った。
「今年から十六歳以下の婚姻は許されないんだっけ?早くにしておいて良かったよ」
「ソルジャーになったのは九歳くらいだったのか?」
 とまだ年齢を気にしているキースにトォニィは言った。
「結婚して、子供もいるんだから。ガキ扱いするなよ」
「お前たちは本当にデータじゃ読めないな…」
「キース、お前の心も読めないよ」
 トォニィが言う。
「さっき、少しだけ見えた気がしたが、すぐ見えなくなった。何が気になったんだ?」
「…お前は知らなくてもいい事だ」
 キースが答えた。
「今僕は一つ一つ潰してゆくしか手が無いんだ」
「今回の事とは全く関係がない」
「それは僕が判断する」
 そう言うトォニィから青いオーラが上り始めた。
 彼の気持ちはわかる。だが…。
「…今回の事の手掛かりになるとは俺は思えないし、お前が聞いても、辛くなるだけの、そんな内容でも聞きたいのか?」
 その問いにトォニィは無言でうなずいた。
「…お前が自分は大人の男だと言うのなら教えてやろう…」
「僕はもう大人の男だ」
 そう言うと余計に子供なんだと言っているように見えるのだが、とキースは思いながら話し出した。
「ジョミーが俺の所でジュピターとして行動していた頃の事だ…」
 キースは惑星ノアでの暴行事件の話をした。
 静かに聞いていたトォニィは
「そんな事があったんだ…ヴィーが言ってジョミーを怒らせたのはそれだったんだ…」 と言った。
 そしてしばらくの沈黙の後。
「でも…なんであんたは何をどう気にしている?」
 と聞いた。
「俺は…」とキースは少し考えてから話を続けた。
「俺は、さっき言ったように、一緒に居ながら、体の事に全く気が付かなかった自分に腹を立てている。ジョミーにノアの事件の事を問い詰めた時に、力が使えない事の恐怖を…人間のようになったと。それがとても怖かったと言った。俺は、力は使えない人間だから、殺されそうになっても無事だったのなら、そこまで怖がる事はないと思った。だが、真実は…そんな恐怖じゃ無かったんだと気付かされた。五感を力で補っていたのなら、目が見えないような耳も聞こえないような状態で…縛られて…殴られ脅されて犯された…そんな最悪な状態で殺されると思うのは、ミュウの人以上の力がある分、人より余計に悔しく思い、恐ろしく感じたのだろうと…。どこまでの恐怖だったのだろうと…」
「……」
「人としての尊厳(プライド)を守るなら、自死も考えたのだろうが…それはあいつには許されていなかった。それなのにあいつは逃がした、それを俺は責めた。今頃になって守ってやれなかった事を情けなく、理解すらもしようとしないで、自分勝手に同じように暴力で…あいつを責めた自分を後悔しているんだ…人間だから気付けなくて仕方なかったとは思えない…」
「僕はあんたを慰めたりしないよ。そんな事が起きるなら行かせなきゃ良かったと思っている」
 そう言って窓の外の宇宙(そら)を見たトォニィの手から青いオーラが出ていた。
 そいつらもう処刑されてるんだっけ?出来るなら生き返らせて、もう一回殺してやりたい。とトォニィがはき捨てた。
「トォニィ…」
「でも、多分…それって、予知したから逃しただけじゃないね…思いが戦争をした事まで遡ってしまったんだ。ジョミーの中で人を殺してきた事実と、殺せなくなった今が、葛藤してるんだ。未来を一番望んでいるのはジョミー…。貴方のなのに。その未来はもうすぐそこなのに」
「……」
「…さっきさ、シドがどうしてジョミーばかりそんな目に遭うんだと言ったけど本当にそうだよ。何で僕らは、こうして後悔ばっかりしてなきゃいけないんだ!後悔してくれたら嬉しいってジョミーは言ったけど、アレはどういうつもりだったんだよ!僕には何も出来ないって。そう言うの?僕だって…タイプ・ブルーなのに…。ソルジャーなのに…。何もさせないって言うの?それで僕を守るって言うの?そんなのって…優しさじゃないよ…。ジョミー!」
 シャングリラをトォニィの行き場の無い悲しみと怒りが、貫いていった。

「…きっと、ジョミーは人類だけじゃなく君たちにも、償いたいと思っていたのだろう。だから、共生都市を進めた。体の事も心配をさせまいと誰にも言わなかった。だから…一人で旅立った」
 とキースが言った。
「それは…どういう?償い?ミュウにも?何故?」
「半年前に何をしようとしているのかと、ジョミーに問い詰めた時に、自分の生まれた訳が自分にそういう行動させるのだろうと言っていた。俺は人類側で調べてみた。そして、何世紀もあいつのDNAを遡った。あいつが人類の軍部に入って調べたかったのはそこだった。SD250年、286年、345年、408年、479年、532年、567年、そして581年。この年号の年にはミュウが何らかの事件を起こして人類に動揺が走った年だ。これに符号するのが、ジョミー遺伝子の先の人間の出生や十四歳の成人検査なんだ。きっと、これだけではないだろう、DNAを探っていったらもっと顕著な事が起きていたのかもしれない。淘汰されゆく遺伝子の足掻きのような事が…きっと、あいつはそこまで潜って自分の生まれを知った」
 と一気に話した。
「それは……」
「想像通りだ。トォニィ…」
「何世紀もジョミーのDNAは守られていたって事?」
「そうだ」
「……」
「ジョミーは自分を皆が生かしてくれたと言ったが、消されそうな遺伝子が一つを選び育てた。それはまるでミツバチが女王蜂を育てるように一匹だけを大事に守り育て、タイプ・ブルーに、ソルジャーにしたという事だ」
「…そんな…」
「多分、この事を知っていたのはブルーだけだろう。250年より前は不明だが、それ以後はモビーディックが関係している。でなければタイミングよく問題は起こせない」
「何故…」
「先読みが出来るなら…簡単な事だろう?この人間は未来(ジョミー)に繋がる、死なせてはいけない。そんな所だろう」
「何故…そんな」
「最初はお前がジョミーに望まれて生まれたと言うように、ブルーが望んだから生まれたのかもしれない。それか、ただの偶然、以前、ジョミーが女の子のミュウを見つけたように、この人間は強いミュウになると見つけ、その人間を殺させないようにしただけかもしれない。そして、その子供がもっと強くなると気付いたら…?お前だって、守って育てて、真に覚醒するその時を待ちたいと思うだろう?」
「…思う。そう思うけど…それは…希望なの?」
「ブルーにはそう見えたのだろう」
「でも!」
「そうだ。それはジョミーには絶望にもなる」
 とキースが言う。
「同族の犠牲の上に立つソルジャーになってしまう…」
 とトォニィが言った。
「……」
「キース…その事をジョミーはいつから知ってたと思う?」
「それはわからない。だが、気付いた…きっかけは多分、大戦中。あいつが軍部に潜入する機会は戦争中なら何度でもあっただろう?」
「テラズナンバーか…ジョミーは自分で壊したいって言ってた……。キース、この続きはまた後にしていいかな?一人で考えたいんだ…」
 了解したと言うと、キースは展望室から出て行った。

 僕らミュウは、人からマザーに作られた異種。
 キースは作られた人類の代表。
 ジョミーの友人、サム、スウェナ、そしてシロエ、きれいに配置された友人達。
 僕達はジョミーが望んで産まれたタイプブルー。
 ブルーは?
 彼だけ「オリジン」なのか?
 ブルーも彼でさえも?
「キース」をグランドマザーが作ったように、彼と同じように、全てが「ジョミー」を作り育てる為の素材だったんじゃないのか?
 そうじゃないって…誰が…答えてくれるのか?
 答えが欲しい。
 ジョミー教えて、そうじゃないって…言って欲しい。
 でも、それでも…、どうか、ジョミー、絶望に囚われたりしないで…。
「お願いだ。ジョミー。辛くても、たとえ叶わない願いでも、最後まで諦めたりしないで。僕らミュウは粘り強いのでしょう。あなたの総てが作られていたとしても、僕は、僕だけは信じる。信じ続けるから…」
 トォニィは叫んだ。

 やがて、シャングリラは二度目のワープに入った。
 ブルーが居るという「月」が近づいてくる。
 窓の外を星が流れてゆく…
 時間も流れてゆく…
「キース、彼も駒だったのか?」
 きっと彼はまだ何かを知っている。
 ブルーにも協力をしてもらわなければ…。
 それでも謎は解けないかもしれない…。
 解けても何も出来ないかもしれない…。
 ジョミーはそれを望んでいないのかもしれない…。
 それでも、僕たちは取り戻したいんだ。
 ジョミーを。



   続く







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