君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十二話「追憶の破片」

2012-03-21 02:56:08 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十二話「追憶の破片」
 
  Shangri-La
 やがて、シャングリラは三度目にワープをした。
 太陽系へと到達する。
 通常航行で後二日で「月」だ。
「キース。僕は「月」が嫌いになりそうだ」とトォニィが言う。
「だから…なのか?お前やフィシスや、僕達ミュウが地球を恋してやまないのは。いつでも、地球の為に犠牲になれるようにと、そういう事なのか?」
「そうではない。人類が人であるなら「地球」は、還るべき故郷。侵さざるべき最後の故郷だ」
「なら…人類とミュウと皆で再生するのが当然なんだろう?」
「そうだ」
「なんで、お前はそんなに平気なんだよ!」
「事は四百年前ブルーが生まれてからが始まりだ」
「だから?」
「俺はジョミーもブルーも信じる」
「もう。何もわからないよ。ブルーもジョミーも、お前もわからない」
「あいつは、俺に何も残して行かなかった」
「……」
「トォニィ、最後にあいつが行きたくない。と言った時、俺はあいつを殴った。行きたくないは本心だったと思う。だが…そう言っても、それに抗えないのなら、そこで俺なんかに弱い心を残して行ってはいけないと思った。だから…殴ってでも…」
「……」
「それが良かったのかはわからない。ジョミーが出てゆく時に振り返り「ありがとう」と言った顔は「ソルジャー・シン」だった」
「キース」
「信じてみないか?もう一度」
「信じる…か、キース。思い出した。ジョミーは…信じたら信じきる。決めたらどこまでも進む。愛がどこまでも大きいグランパ…。戦うしかなかった状況で第三の道を探し続けていた僕達のソルジャー。再び訪れた勝ち目の無い戦いに、あんたは、しっかり前を向いて進めと送り出したんだ。グランパが自分の命を懸けてでも守っただけの本当に価値のある男だったんだな、あんたは」
「それには…礼を言うべきなんだろうな…」
 キースは苦い思いを?みしめて静かに言った。
「ジョミーはずっと、自分の命を意識して生きていたんだね。僕はカリナが生まれた時、戦うのが怖くなった。今までそんな事は全然感じなかったのに守りたいものが出来て強くなるって言うけど…僕は弱くなったよ。あの子を失うのが怖くなった。それに自分があの子の前からいなくなる事も怖くなった」
「自分の命が自分だけの物では無いと気が付いたのなら、失うのが怖いと思うのは、人として当たり前の事じゃないのか?」
「お前たち軍人は守る為に戦うんだろ?それは怖くないのか?」
「守るべきモノを守る。その為に死んでゆくのは、尊い事だと思わないと戦えない。それに、軍人は死ぬ覚悟はしているが、死ぬつもりで戦ってはいない」
「僕は違ってた。ただ強いから戦ってた。自分が死ぬなんて全然…感じた事がなかった。だから、皆を守れと言われれば守るけど、ジョミーみたいに何年もずっと皆を守り続けて、今度は人類まで守ろうとして、遠い先の未来の為に自分を命を投げ出すなんてそんな…事は到底出来ない…」
「ジョミーと同じになる事はない」
「でも、それはそうだけど…」
「……」
「僕はメサイアでカリナが生まれた時にジョミーが贈ってくれた言葉の、最後の「ありがとう」を聞いて、ジョミーが遠くなっていくのを感じた。居ても立っても居られずに、セルジュと追って、そこでセルジュもありがとうと言われて…、それが僕達には「さようなら」と聞こえた。スメールでジョミーが倒れた時、ブルーも言われたって、彼は遠くなっていくジョミーを直に感じてたから、まだ立ち直れていない…」
「ジョミーの言葉だが、俺は「さよなら」とは聞こえなかった」
「何て思った?」
「行ってくる。と」
「……そう聞こえたの?」
「メサイアでの感謝の言葉に、あいつの覚悟を感じた。犠牲になりにいくつもりなど無い。自分の出来る事を果たしにゆくだけなのだと…」

 僕らが目指す未来はこうしてゆっくりとしかし確実に大きく育ってゆくだろう。
 僕らはそれを大切に育てて未来に繋げよう。
 それは、僕一人では出来ない。
 今までもこれからも皆の力が全てを築いてゆく。
 僕はこの世のすべてに感謝している。
 本当に、ありがとう…。

  月・黄昏の海
 月で眠るブルー。
 シャングリラで眠るジョミー。
 磁気嵐の中シールドを作って停泊するシャングリラ。
 三年前にキースとジョミーが来た頃より氷が大きく建物全体を包み込む青い塊になっていた。
 突き出た何本もの青い水晶、それはまるで墓標のような氷棺。
 溶けない氷がどこまでも青く青く透き通り…淡く浮かんでいた。
 シャングリラからその青い氷を見ているミュウ達が皆泣いていた。
 彼らは、その氷はジョミーの悲しみの塊なのだと言う。
 見ているのがとても辛いのだと言う。

「こんなとこに悲しみを置いてきたりするから、泣けなくなるんだよ」とトォニィが言う。
 月面に降りたトォニィが氷の中に跳ぼうとするが、強力な反発がくる。
 壊れないし、入れもしなかった。
 拒絶されるトォニィ。
 僕を拒絶するのはブルー?ジョミー?
 それとも二人共?
 ソルジャーズが協力を申し出るがトォニィはそれを断った。
「これは、苦しいのに苦しいと言えず、悲しいのに悲しいと言えなかった。ジョミーの心だ。ここは、何者も侵す事は出来ない。この僕に出来なかった事を、君達にさせるつもりは無い!」

 キースにはわからないが、能力的には多分ソルジャーズの方がトォニィより強いのだろう。
 ジョミーがクローンの二人を自分の側から離そうとしなかったのは、トォニィを守る意味もあったのかと、苦悩するトォニィを見つめた。
 そして、眼下の青い氷を見てキースは思った。
「ここで決心したのか?ジョミー」
 メサイアへミュウが旅立ち、月でブルーに再会した。
 お前はここで進むと決めたのか?
 もうあの日に答えは出ていたのか?
 なら俺のやってきた事は意味がないものだったのか?
 ブルーが俺に言った言葉。
「だが、お前なら、彼が…ジョミーが、道に迷わないようにする事は出来るだろう」
 俺はあいつを迷わないように導いて来てなどいない。
 信じると共に歩むと誓っただけだ…。
「その心のままに、愛すればいい」
 あれを、俺はどうとれば良かったのだろう…。
 人を誰かを愛するなんてした事の無い俺に、彼は何をさせたかったのか?
 結局俺はこうして何も出来ないまま、またお前を見る事になった。
 お前は俺を情けないヤツだと見ているのだろうな。
 この青い氷は…。
 キースは自分が泣いているのに気が付いた。
「泣くなんて久しぶりだな…」
 この涙は悲しみではなく後悔の涙だ。
 本当に彼を一人で行かせて良かったのだろうか?
 何をしてでも行かせるべきでは無かったのではないか?
 大切な人を死地に送り込み平気でいるやつなんて…。
 信じると言って本心をごまかしても駄目だ。
 俺はあいつを引き戻したい。
 取り戻したい。
 あの時、
「そうだね。僕は間違えていた…。ありがとう」
 そう言ってあいつは出て行った。
 俺達はこの道しか選べないのか?
 あの時、キースは閉まりかけたドアをこじ開けた。が、そこにはもうジョミーの姿は無かった。
 この俺が、先を見て進む事が出来るからと、あいつは俺を選んだのに、俺は何も出来ていない。
「最低で…最悪だ…」
 ジョミーが向かった先にブルーが居るのなら、ブルーは俺にジョミーを託すと言ったが、今度は、俺がお前に託す。
「あいつはまだ何も…何も掴んでいないんだ」


「トォニィ!大変です」
 月面にいるトォニィにシドが叫ぶ。
「ジョミーが消えました」
 その時、「青の間」には誰も居なかった。
 直前にフィシスの消え入りそうな悲鳴が皆に届き、青の間に向かったが、もうすでにジョミーの姿は無かった。


 
 続く








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