君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十五話「銀の祈り 金の願い」   

2012-03-31 01:26:32 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」十五話「銀の願い 金の祈り」

 貴方を…僕が許す?
「何をです?」と聞いてみようと思ったけれど、何を指しているのかはもうわかっている気がした。
「僕の償いも許してもらえるなら…」
 そう答えるとブルーはにっこりと笑った。
 そして、君のどこに過ちがあるというんだ?と言った。
「けれど、ブルー。僕がもし、生まれて来なければ良かった。これ以上生きていても良い事なんて一つも無い。と言ったら貴方は僕になんと言いますか?」
「それは、とても残酷な言葉だね」
 ブルーは言う。
 そう…。
 彼にとって最も無慈悲な質問なのだ。
「さっきの僕の許しはいつまでも有り得ない事になってしまうね」
「それは…僕が貴方を許さないなら、貴方も僕を許せなくて。僕が貴方を責めるなら、貴方も僕を責め続けるのですか?」
「君が自分を価値の無いものだと辱め続けるなら、僕はいつまでも自分を責めていなければならなくなる」
「……それでは、僕は貴方を救えない。救う資格さえ無くなってしまう。僕がここに居る理由も無くなってしまう」
「そうだよ」
「それは…酷過ぎます」
「ああ」
「僕は…自分を否定する事も出来ないんですか?」
「否定ばかりでは何も生まれない。前に進めないから、君は過ちなど犯していない。全ての物事は、行程と結果でしかない。君はその時その時、最善だと思って選んできたのだろう?後悔すらも結果だ。ならば、もう自分を責めないで、そろそろ許してあげてもいいんじゃないか?そうすれば、僕も許される」
「僕が僕を許したとしても、そこには何があるのですか?」
「僕にはわからない。それは君自身が見つけないと。言っただろう。全てはやってみないとわからないと」
「…貴方はどこまでも酷い人ですね」
「それは、君も同じだろう?」
 と微笑んだ。

 最善を選ぶ事など出来はしない。
 その時、その時で選んで来た道の全てを最良と思って生きていける人間などいない。
 これしか出来ない。
 ここまでしか来れない。
 そんな道を選び取って人はそれでも進むのだ。
 そして、それがわかっていて最善だと言い切るしか僕らには出来なかった。
 それはとても酷い事だ。
 後悔する事も成した事の結果でしかない。
 それはとても冷たい。
 貴方は先はわからないと言った。
 僕はまだ終わる事を許されていないのだ。
 最後の瞬間が訪れた時に良いも悪いもその全てを自分の物として受け止めていくしかないのだ。
 ブルーはまだ進めと、僕に言っている。
 ここが終わりではないなら、貴方は何を言いたくて現れているのですか?
 死者の想いの塊よ。
 貴方は何を語るのですか?
 そんな僕の心を見透かすようにブルーは言った。
「そうだね。懺悔でもしてみる?」
「懺悔?」
 またそんな大変な事を簡単に言う。
「終わりではないと言うのに?」
「終わりではないが、ここが始まりでもあるから」
「僕が生きて居ないと言う事ですね」
「君がここでの全てなんだ」
「……」
「時間はまだあるだろう?ここで全てを見せていけばいい。僕はそれを君に望む」
「僕は…」
「最初に戻ろう。君は何が知りたい?僕はそれに答えをあげるよ」
 そう言ってブルーはまた笑った。
「本当に…酷な人だ。貴方は…。何でも自分の思い通りに行くと思ってるんでしょ?」
 変な方向にすねない。と軽くあしらわれてしまったが、ブルーは手を伸ばし僕の頭を軽くなでた。
「…そんな事をしたら泣いちゃいますよ」
 と言うと、
「それは困るな。泣かないで話して欲しいからね」
 とブルーは言う。
「…だから、何を聞けばいいのか…」
 彼は小さなため息をついた。
「なら、こうして引き出さないといけない…」
 とブルーがそう言って手を上げると、僕の胸からカードが滑る音と共に出てきて宙を舞った。
「あっ…」
 痛みは無かったが、気力が抜かれた感じがして、僕は床に手をついた。
 二人を囲むように放射線状に散らばる七十七枚のタロットカード。
「君の心を並べて、返ってないカードを一枚、一枚、返していけば…見えてくる。君の全てが」
 ブルーが裏を向いている一枚を拾おうとする。
 僕にはそのカードが何かわかった。
「待って、ブルー!」
 僕は遠くにある一枚を飛ばして彼の前に出した。
「問いだ。さっきと同じ答えはしないで下さい」
 ブルーがそのカードを表に返した。
「ここはどこか?か…。ここは君の心が作った君の自我を守る最終の場所だ」
「…僕の自我…」
 この厚い雲、底が見えない場所で、こんなガラスに守られたのが、僕の心?自我?
 そうだ…気がついていた。
 誰にも心を許しているようで、許してはいなくて、強いようでいてとても、もろい。
 それが僕だ。
「君はマザーから逃れてこれを作った」
「それはどうして?」
「それは次のカードで答えよう」
 ブルーは二枚目を選んだ。
 それは
「貴方は何故ここに?」だった。
 合計七十八枚。
 最初に裏返しのままのカードは全部で五枚あった。
 残りは三枚。
「ジョミー。僕がここに来たのは、君を助けたいから…。君は地球再生の為ならマザーの言いなりになってもそれは人としてミュウとして当然の行為だと思っていたね。でも君の本心はそうは思っていなかった。悩み迷っていた。それで…」
「僕は人としても、ミュウとしても異端だった。だから、この力が人類の未来の為になるならと思っている」
「マザーにとってはそれは好都合だったんだ。君が絶望すればする程、落ちれば堕ちる程、君を取り込みやすくなるのだから。だから、僕はそれを阻止する為にここに来た。君が君の全部が取り込まれてしまったら、もう僕にはどうにも出来ない。だから、僕の姿を見せ、力を解放させてここを作らせた」
 ブルーがそう言った時、もう一枚が飛んだ。
 カードがかえる度に遠い昔に封印されていた記憶が僕の中に蘇ってきていた。
 それが、床に座り込んだままの僕を苦しませていた。
「…僕は貴方に…助けてもらう資格はない…」
 僕は…貴方に…。
 もう耐えられない。
「僕も死ぬ。助けないで。僕は何度僕を殺せばいいんだ」
「耐えるんだジョミー。僕は助けに来た。僕はこの手を絶対離さない。だから…」

 時間が動きを止めた。
 ブルーが手に取ろうとしたカードが空中で止まる。
 カードにはジョミーの細い青い剣が刺さっていた。
「ジョミー…」
「その…カードを返す前に聞きたい事があります…」
「……」
「ここは時間も何もない場所だと言いながら、何故貴方は急ぐのですか?こんな…方法を取ってまで…どうして…」
「…ここが何もかも超越した場所にあるのは、もう君にもわかるね?…だけど…僕は君の本心を知りたいんだ」
 ジョミーはその答えに違和感を感じた。
 明快にはぐらかす感じが彼のやり方だ。
 僕のは小さな部分を曲げていって自分のペースにする。
 今は彼のやる事に乗っていった方が良いのだろうと思いつつ、僕は言葉を続けた。
「それを知った時…、貴方はどうするのですか?」
 本当はどうなるのですか?と聞きたかった。
「君を守る。僕はそれしか考えていない」
「では、僕は貴方を…」
 青い剣を引き抜き、ブルーはカードを返した。
 そこには
「人を憎んでいいですか?」
 とあった。
 ブルーは少し寂しげに笑うと、
「でも、これには対でもう一枚ある」と遠くのカードを飛ばした。
 もう一枚は
「人を愛してもいいですか?」
 だった。
「ジョミー。僕は人を憎んでいたよ。生まれてくる同胞を何人も目の前で殺されて、何も出来ずにただ見ているだけだったから、残虐な人間をすべて殺してしまおうと何度も思った。だけど、ある日、マザーが僕に言ったんだ」
「…僕を探し出せですよね?」
 ブルーは静かにうなずいた。
「貴方はミュウのオリジン。貴方は人に作られた実験体だった。特殊な力を植え付ける実験で…、ただ一人成功した。最初のミュウ…そこから、ミュウの歴史は始まった…」
 ジョミーはブルーを見上げる。
「そう…、僕も人であり、ミュウなんだ。僕は人を捨てて生きる道を選んだ。それでも生きるには地球が必要だった。心の拠り所だ。ミュウの指針だ。それを目標にして皆を導いてきた。僕にはそれしか出来なかったからね…。そして、君を探し出した」
「…僕は…僕のした事は…」
「ジョミー」
「だから…僕は…貴方に何もしてもらう資格は無い…」
 涙が床に落ちる。
 僕は泣いていた。
 これじゃ、本当に懺悔じゃないか…。
 そう思っても涙は止まってくれない。
 僕は下を向いたまま、泣き続けるしかなかった。
 ブルーは僕の前に座り、床に散らばる僕のカードを集めた。
 カードは宙を舞い彼の手に収まった。
 一枚だけ裏のまま残るカード。
「すべてを思い出したんだね…君には辛いだろうが…それが事実なら受け止めて欲しい」
「ブルー…」
 僕は泣き続けた。
 一枚を残してカードが僕の前に置かれる。
 僕はそれに手を伸ばした。カードがまた滑る音と共に僕の胸に戻った。
「君に資格が無いと言うのなら…きっと、それは君と同じように僕にも無い」
「いいえ。いいえ」
「ミュウのDNAは君を守っていた。それを君は自分の罪だと言うのなら、それはミュウ全体の罪になる。君は僕らの希望だったんだ」
「いいえ…」
 僕は首を振った。
「ジョミー、僕に同じ事をして。僕の心を出してごらん」
「……」
 僕は無言で首を振った。
「ジョミー。罪があるのは僕の方だ。心を見せたら、きっと、僕は君のよりもっとずっと沢山表にならないカードがあるだろう。君の心は憎むと愛するが対になっていたけれど、僕の憎むには対が無い」
「ブルー。貴方には人をミュウを信じる心があった。それが愛するのと同じくらいに…」
「僕には人は愛せない」
「…言わないで下さい…」
「ジョミー」
「もう何も言わないで、下さい」
 もう聞きたくない。
 僕が懺悔をしなければならないなら、いくらでもする。
 貴方を苦しめるのはしたくない。
「何も…」
 聞きたくない…。
 貴方は何も悪くない…。
 それはさっきまでの状況と逆転していた。
 僕は自分を責めて貴方を傷つけていた。
 今は、貴方が…。
「君が僕を好きだと言ってくれた時は嬉しかった。本当に嬉しかったんだ」
「わかっています…それは…だから」
 だから、もう。
 話さなくていいんです。
 ジョミーは俯いていた顔を上げて、ブルーを抱きしめた。
「もう、何も…」
 わかっていますから…。
 全ては僕が…。

「ジョミー」
 ブルーは自分の胸から一枚カードを取り出して、宙に飛ばした。
 それは二人の上でくるくると回った。
「本当に嬉しかったんだよ」
 ブルーのカードはジョミーと同じ
「人を愛してもいいですか?」
 だった。

 そのカードに誘われるように僕の意識は落ちていった。
 ジョミーの体をブルーは優しく抱き止めた。




  続く










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