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つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

夏、昭和の残照②

2023年08月06日 11時11分11秒 | これは昭和と言えるだろう。
                   
わが津幡町に「池ケ原(いけがはら)」と呼ばれる地域がある。
山懐に抱かれたそこは、僕の祖母と所縁が深い。



大正時代初期、池ケ原の近くに生まれ、東京で髪結いをしていた彼女は、
福島県出身の大工・祖父と結婚。
3人の子宝に恵まれた。
残念ながら長男と三男は若くして病没。
生き残った次男坊が、僕の父親である。

時は太平洋戦争真っ只中。
日本の敗色が濃くなるにつれ、帝都上空に銀翼を煌めかせた大型戦略爆撃機が飛来。
“超空の要塞”B29から降り注ぐ火の雨を避け、
一家は祖母の親戚筋が暮らす池ケ原へ身を寄せた。
戦後、そのまま津幡町に根を下ろし現在に至る。
つまり池ケ原は、僕個人にとっても馴染みの地。
子供の頃は、よく遊びに来ていた。

疎開先になった家は、雑木林に囲まれた農家。
広い土間を備えていて、一歩足を踏み入れると仄かに土の匂いがした。
裏には井戸があり、周りに地衣類が繁茂する池はいつも湿潤で、
アカハライモリやアカガエルが生息していた。
ユニークな両生類を観察したり、井戸で冷やした西瓜を食べたり、
灯りに引き寄せられてきた甲虫や蛾を捕まえたりして夏を過ごした。
母屋の外、離れの五右衛門風呂に浸かっていると聞こえてくるキジの鳴き声。
家の中からはネズミを追う飼い猫の物音もする。

--- 生家にはない「wonder」に満ちた池ケ原が大好きだった。

さて、この日訪れてみたのは「池ケ原分校」跡。
集落の峠の頂点に位置し、少し開けた敷地の奥には、かつて、小さな校舎が建っていた。
それはもう僕の記憶の中ににしかない過去の風景と知っていたが、
何か往時の面影を見つけることが出来たら幸いと思っていた。





今そこにあるのは「農事組合法人 池ケ原ファーム」の事務所と倉庫。
農薬・化学肥料を5割以下で育てる「特別栽培米」に取り組む団体である。
偶然、一日の作業を終えた関係者の方にお目にかかり、少し立ち話。
過疎化が進む池ケ原の存続を期して、日々汗を流していらっしゃるとの事。
手入れの行き届いた美しい棚田は、努力と思いの賜。
先月(2023/07)の大雨を乗り越え、やがて秋には美味しい新米が実る。
もしご興味があれば、ご購入くださいませ。
詳しくはこちらにメール、またはお電話でお問い合わせを





ハナシは「池ケ原分校」跡に戻る。
時間も78年前に遡る。

昭和20年8月2日未明。
後に僕の父親になる少年が、校舎横の松の木に登り息を呑んで彼方を凝視していた。
自分の真上は星が瞬く深い闇。
だが、真夜中を過ぎても、西の空は夕暮れの色のまま。
---「富山大空襲」である。
サイパンからやってきた174機のB29が、50万発を超える焼夷弾を投下。
市街地の殆ど全てを焼き尽くそうとしていた。
その燃え盛る炎が、池ケ原の山の稜線をくっきりと浮かび上がらせる。



爆音が奏でる悪魔の葬送曲が、彼の耳を打つ。
硬い松の表皮に爪を立てた手が、小刻みに震えていた。
                        

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2 コメント

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Unknown (象が転んだ)
2023-08-09 16:20:44
私のお袋はB29のジュラルミンで包まれた銀色の機体が鮮やかに眩しく映ったらしいです。

富山大空襲
興味深く読ませていただきました。

近い将来、アメリカがアメリカを焼き尽くす時が来るでしょうね。
その時、アメリカ国民は自国を燃え尽くす、ド派手な轟音と共に飛び散る炎に、何を思うのでしょうか。
この時期は特に、色んな事を考えますよね。
返信する
象が転んだ様へ。 (りくすけ)
2023-08-09 17:00:25
コメントありがとうございます。

B29の機体にハッとしたという話は、
何度か耳にしたことがあります。
それだけ兵器としての次元が高く、
機能美が備わっている証明かもしれません。
そして、4発エンジンが唸りを上げる
轟音の怖ろしさを口にする方も多いようです。

アメリカがアメリカを焼き尽くす時の光景、
それはまだ想像がつきませんが、
さぞ怖ろしいでしょうね。

ところで九州北部は明日10日にかけ、
台風6号の影響が大きいようですね。
貴兄に大事がないことをお祈り致します。

では、また。
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