つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

幼気(いたいけ)と歴史を包む情熱のアロマ。

2023年05月27日 10時10分10秒 | 手すさびにて候。
                             
僕は、ほゞ毎日「コーヒー」を飲む。
朝、起きぬけに2~3杯。
午前と午後に、1杯づつ。
一日4~5杯飲むのが常。
苦手な方もいるだろうが、個人的には大のコーヒー好きである。

原体験は、小学校高学年の頃に飲んだモカマタリ。
有体に言って「金持ちの友人」宅へお邪魔した際、
ショートケーキと「奇妙な飲み物」が供された。
彼は、これがコーヒーだと言う。

『ええっ!?コーヒー牛乳もコーヒーガムも茶色やないか。
 えらく黒いコイツは、温めたコーラみたいや』

コーヒー嗜好のない家で育った田舎の子供は、
初めて接する「本物」に戸惑いを禁じ得ない一方、興味もそそられた。
原因はカップから湯気と共に立ち上る匂い。
不思議な薫香に誘われ、ついに口へ運ぶ。

最初に舌が感じたのは、強い苦味。
しかしそれだけではない。
甘味、酸味、ピーナッツやチョコレートに似たコク。
幾つものテイストが一気に押し寄せてきた。
何と複雑で豊かなんだと思い飲み下すと、暫くして身体の変調を覚える。
手足の末端がじいんと痺れ、意識が冴えてくるではないか。
まったく驚いた。
美味しくて得体の知れないパワーを秘めたもの。
そんな印象を抱かせたコーヒーとの出会いは、どことなくこのヒット曲に似ているのである。

ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載 第二百二十五弾『コーヒールンバ』。


                    


『コーヒールンバ』は、前掲「西田佐知子(にしだ・さちこ)」氏の他、
「ザ・ピーナッツ」「井上陽水」「福山雅治」「荻野目洋子」ら多くがカバーしてきた。
つまりは、日本で人気のナンバーと言っていいだろう。

原曲のタイトルは『Moliendo café(モリエンド・カフェ)』。 
対訳すると「コーヒーを挽きながら」。
南米・ベネズエラで発表されたオリジナルはエキゾチックな日本語詞と趣きが異なる。
農園で苛酷な労働に従事する若者が、恋に想いを馳せながら、貧しい己の現状を嘆きながら、
夜通しコーヒーミルで豆を挽いている情景を歌ったもので、哀愁漂うブルースに近い。
だが歴史を紐解いてみると、日本版にある「アラブ」の関わりが深いようだ。

コーヒーはアフリカ・エチオピア原産。
現地では、古くから葉や果実を煮たり炒めたりして食べていた。
それがイスラム文化圏にもたらされて以降、
宗教儀式の際の秘薬や、高官貴族の強壮剤として用いられる。
やがて時代が下ると一般でも愛飲されるようになり、世界中へ広まっていった。

--- さて、現在コーヒー豆の生産量世界一はブラジル。
その過程には、こんなエピソードがある。

前述のとおりコーヒーのルーツはアフリカ。
南米大陸に伝わり、フランス領ギアナで栽培が始まった18世紀当初、
隣国・ブラジルにはコーヒーの木は1本もなかった。
何とかギアナに負けない産地にしたいと考えたていたものの、
苗木や種は厳しく管理され、国外への持ち出しは固く禁じられていた。

そんな頃、両国の間に国境問題が持ち上がり、調停使節団を乗せたブラジルの軍艦がギアナに入港。
その船には『コーヒーの苗木を入手しろ!』…と、密命を帯びた海軍中尉が乗り込んでいた。
政治交渉は順調に進んだ。
片や裏工作は思うようにいかない。
困り果てた男は、現地で恋に落ちた相手、ギアナ総領事夫人に自分の使命を打ち明ける。
そして、別れの前夜。
晩餐会の席で、女は男に大きな花束を手渡した。
美しい花の中に数本のコーヒーの苗木を隠して。

2人のロマンスは実ることはなかったが、
秘密のプレゼントはアマゾンの河口で実を結ぶ。
コーヒー大国の起源は「南の国の情熱のアロマ」だった。
という奇譚である。
                           
コメント (2)
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