(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

読書メモ『神田村通信』~フラヌール鹿島

2008-03-29 | 時評
『神田村通信』(鹿島茂 清流出版 2007年12月)

 フランス文学者にして書評家の鹿島茂が、青春の街としての神田、そして仕事場であり生活の場としての神田について語る雑文。本当に雑文のかたまりで、香り高いというようなものではない。しかし本好き、古書店巡りも最近好きになりだした私には、結構オモロイ本ではある。

本の帯に「本の街・神田神保町に暮らす”フラヌール鹿島”の全生活を公開」と書かれてある。「フラヌール」は遊歩、遊歩者と訳されるフランス語。気の向くままに街を歩き、カフェに立ち寄ったりウインドーショッピングをしたりと、ぶらぶら歩きをする、あるいはそういうことをする人という意味らしい。知ったのは、初めてだが、そういう行為は大好きだ。

 著者の名前は、数年前に手にした『成功する読書日記』で知っただけで、詳しいことは知らない。しかし、その本の中で書かれている書評をみると、まあびっくりするくらい雑学の大家だ。

 「日本植民地探訪」(大江志乃夫 新潮選書)
 「丸谷才一と21人のもうすぐ21世紀ジャーナリズム大合評」(都市出版)
 「アンジェラの灰」(フランク・マコート 新潮社)
 「バブルとデフレ」(森永卓郎 講談社現代新書)
 「金融地獄」(岸部四郎 いれぶん出版)
 「おてんばキクちゃん巴里に生きる」(チェルビ菊枝 草思社)
 「パリをあそび尽くせ」(石橋美砂ほか 原書房)
 
などなど。谷岡ヤスジの漫画の本のことまで出てくる。もう負けるわ。

 さて鹿島茂は、書庫に本が収まりきらぬことから職住近接ということで都心は神田・神保町に5年前から居を移した。そして神田村の住民になったのである。そうなるとこれまでの郊外ライフとは、まったく違った生活の断層が見えてきた。クルマも捨ててしまった。ちかくに大型スーパーはない、衣料品や生活雑貨を買うには、地下鉄で二駅離れ日本橋の三越にいくしなかい。銀行も神保町の交差点にあったが消えた。などなど生活面での不便さはあるが、これを補って余りあるものが、都心ライフにあると云う。文化的なアクセスの良さ、美術館めぐりに最適、タクシーでどこでもアクセスかんたん。ランチを探して街をぶらつく楽しみ、そしてもちろん書店のまっただ中にいることで仕事の資料探しにも事欠かない。そんな生活の様子が詳しく描かれている。その他にも「愛しのフランス今昔」や「ロスの格差社会」などなど。


そしてこのオジサン、お洒落にも関心が高いようだ。社交ダンスを習い、香水を好み、”日本にも(中高年向けの)アヴァンギャルドなアパレルメーカー、出現せよ”と叫ぶ。楽しきフラヌールである。鹿島茂という人と、古書店巡りのお好きな方には、楽しい一冊だろう。

コメント
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