(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

(予告編)読書 『京の寺 奈良の寺』~自選随想集(竹西寛子)

2014-02-27 | 読書
以前、この著者の作品『詩華断章』をとりあげたことがありました。著者が好きな詩歌、とくに古詩、和歌、短歌などを引用してのエッセイでした。今回のエッセイは、文字通り京都や奈良の古刹を訪ねての旅について書かれたもので、とても味わい深いものがあります。


(制作中です、しばらくお待ち下さい)






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読書/エッセイ (続)今宵はミステリー(ジェフリー・ディーヴァー編)

2014-02-19 | 読書
児玉清さんが、その著書『寝ても覚めても本の虫』で、あまり取り上げなかった警察小説の雄、ジェフリー・ディーヴァーについて徹底的に語ります。とくに、リンカーン・ライムシリーズについて。

トム・クランシーやJ・グリシャム、フレデリック・フォーサイス、ネルソン・デミルなどの作品は大い楽しませてもらった。しかし、彼らは最盛期をすぎている。そんな状況の下で1997年、ジェフリー・ディーヴァーは、『ボーン・コレクター』を引っさげて登場した。今でも次々と新作を提供して、私たちを楽しませてくれている。彼の作品の中で最も魅力的なのは、なんといってもリンカーン・ライムシリーズである。科学捜査という新しい分野のミステリーに取り組み、かつジェットコースター・サスペンスと言われるほどプロットが次々と変転し、読むものを惹きつけてはなさない。

 リンカーン・ライムはニョーヨーク市警の科学捜査部長であったが、捜査中の事故で脊椎を損傷し、四肢が麻痺。動くのは左の薬指一本のみ。かつてテレビドラマで「鬼警部アイアンサイド」というのがあったが、彼は銃弾をうけて下半身不随になり、車椅子で活躍するということで、人気を集めた。ライムの状態はそんな生易しいものではない。後遺症に悩み、いつ死に至るかも知れぬという不安と戦いながら事件の解決に当たるのである。
 彼のことを述べるまえに、著者のジェフリー・ディーヴァーについて。児玉清は、実はパリの書店で、著者本人と遭遇している。

          


 ”その本が書棚に戻される瞬間、裏表紙に印刷された作家の写真の、異様なまでに鋭い眼光が僕を睨みつけた。1998年3月、パリの英語専門店でのことだ。ハードカバーのコーナーで面白そうな本を物色していた僕は、たったいま、隣の客が戻したばかりの本を棚から引き出した。するとそこには、火星人を思わせる異相の男性が、深い眼窩(がんか)の奥に知性あふれる目を炯々(けいけい)と光らせて佇んでいたのである”


 リンカーン・ライムシリーズの作品を時系列的に列挙してみよう。

 (ボーン・コレクター)シリーズ第1弾。事故で四肢麻痺となり、車椅子に縛り付けら れたままのライムが、赤毛の美女警官アメリア・サックスの助けを得て、稀代の連続殺 人鬼、ボーン・コレクターを追う。

 (コフィン・ダンサー)武器密売裁判の裁判の重要参考人が航空機事故で死亡。NY市警は殺し屋”ダンサーのしわざと断定。ライムに追跡協力を依頼する。ダンサーは、二日後に行われる大陪審で、ある大物武器密売人に不利な証言をする証人を消すためのに動き出す。自在に容貌を変えるダンサーに狙われたら最後、絶対に生き延びることはできない。世界最高の犯罪学者リンカーン・ライムが彼を捕らえるのが先か、殺し屋が三人の証人を消すのが先か。

  (エンプティ・チェア)連続女性誘拐犯は精神を病んだ”昆虫少年なのか。自ら逮捕した少年の無実を証明するためサックスは少年と逃走する。それを追うライム。師弟の頭脳対決はどうなるか?

 (石の猿)沈没した密航船からニューヨークに逃げ込んだ中国からの不法難民。彼らを追う蛇頭”ゴースト”。正体も居場所も不明は殺人者を捕らえるべくライムが動き出す。中国人刑事ソニーの協力も得て、ライムはついにゴーストの残した微細証拠物件を発見する。

 (イリュージョニスト、魔術師)封鎖された殺人事件の現場から、犯人が消えた。ライムとサックスは、イリュージョニスト見習いの女性に協力を依頼する。シリーズ最高のでんでん返しの連続!

 (12番めのカード)単純な強姦未遂事件は、米国憲法成立の根底を揺るがす140年前の陰謀と結びついていた。現場に残されたパックから一枚のタロットカードが発見された。その意味とは? 『魔術師』で活躍した女性マジシャンもカーラも登場する。

 (ウオッチ・メーカー)”ウオッチメイカー”と名乗る殺人者あらわる! 手口は残忍極まる、そしていずれの現場にも文字盤に月のマークがあるアンティーク時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を10個買っていたことが分かる。被害者候補は、あと十人いるのであ。訊問の天才、キャサリン・ダンスとともにライムは犯人を追う。しかし、あまりに緻密な犯罪計画。驚愕のミステリー。

 (ソウル・コレクター)ライムのいとこ、アーサー・ライムが殺人容疑で逮捕された。アーサーは無実を主張し続けているが、現場からはアーサーの犯行を裏付ける物的証拠がいくつも発見される。ニューヨーク市警は真犯人に翻弄されるまま、無実の市民を誤認逮捕したのか?情報化社会の恐ろしさを描く。

 (バーニングワイヤー)2010年、マンハッタンの電力網が襲われる。

 
 まだ日本では邦訳がでていない新作が、2冊ある。

 (The Kill Room)・・・・・2013年
 (The Skin Collector)・・‥2014年5月発売予定


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 これらの傑作群から、ぼくはさらに次の三作を選ぶ。『ボーン・コレクター』、『コフィン・ダンサー』そして『ウオッチメイカー』だ。さらにどうしても選べといわれればを、シリーズ第一作目の『ボーン・コレクター』を。この本について詳しくご紹介したい。もちろん、ネタバレにならないようにして。

          


(ボーン・コレクター)

ケネディ国際空港からタクシーに乗った出張帰りの男女が忽然と姿を消し、やがて生き埋めにされた男が見つかった。パトロール警官のアメリア・サックスは通報のあった場所へ、捜索に行く。アムトラックの列車が通過する線路の路傍で死体が土中に垂直に埋められていた。手だけが地上に突出し、薬指の肉はすっかり削ぎ落とさ、指の骨にはカクテルリングがはまっていた。サックスは走ってくる機関車を止め、その脇の6車線の道路も通行止めにして、現場を保存した。

リンカーン・ライムは、介護士トムの手伝いとケアを受けながら損傷した体と格闘していた。トムは毎日、関節可動領域の運動療法を施し、ライムの筋力には幾らかの弾性が戻ったし、拘縮も食い止められ血行は改善された。しかし、将来へののぞみがあるかどうかは、まだはっきりしていなし。襲い来る痛みに自殺を考えることもあった。

 そんなライムだが世界最高の犯罪学者としての腕を見込んで、NY市長と市警からライムに事件解決に手をかしてくれるよう要請がきた。ライムは、現場捜査を重視していた。そして基盤捜査(グリッド捜査)を重視していた。ライムは初動捜査を行ったアメリア・サックスを呼び、次の現場捜査をに、自分の手足となって動くようにさせた。

 ”先入観を持たない現場鑑識が欲しいからだ”

ここからがストーリーの真骨頂だ。現場の様々な物件を発見し、分析し、同定して、そこから第二の犠牲者にたどり着く。しかし、次から次へと生贄を求めて、”骨”(ボーン)を収集するボーン・コレクターはどこに居るのか? 発作が起こり、激痛にうめくライム。脳内の血管が破裂しそうになり、死をも覚悟する。知り合ってまだ一日しかたっていないサックスとライムは、しばしプライベートな会話をする。そのうち時刻は午前3時を回る。音楽を聞こうと、サックスはクローゼットの扉を開ける。

 ”その途端サックスは、驚きに息をのんだ。そのクローゼットは小さな部屋のようになっていて、CDが千枚ほどもびっしりと並んでい サックスは埃をかぶった黒いハーマン・カードン社製高級ステレオに指を滑らせた。まもなくリーヴァイ・ ス タッブスとフォートップスのラブソングが流れはじめ、サックスはクローゼットを出ると長椅子に歩み寄った”

そう、二人の心が溶け始めた瞬間である。・・・こういうシーンもあちこちにあって、読んでいても楽しい。ユーモアとウイットに富んだ会話もある。 
 
 終章では、犯人ボーン・コレクターがサックスを襲い土中に埋める。またライムも彼の魔手にかかる・・・? いやあ、最後まで引きずり回されます!


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 せっかくなので、このシリーズについて語った、故・児玉清さんの言葉をご紹介しておこう。それは、もう一つの最高傑作『ウオッチメイカー』の後書きにあることばである。

 ”このシリーズの面白さの秘密だが、その第一番目にあげたいのは、悪人、しかも冷酷無比な極悪人を描かせたら、この作家の右に出る者はないであろうと思える程の  毎回新たに登場する悪人たちの人物造形の見事さだ。世の中にはたしかに悪い奴がいる、と思っていても、いや感じていても、身の毛もよだつといった極悪人は普通の人間にはなかなか想像も及ばない。ところが、ディーヴァーの作品に登場する悪人たち、悪い奴は、いずれも遥かに常人の想像を超えた超のつく極悪人だ。しかも最悪なのは頭の切れも天才的であって、実に狡智にたけているので、容易にしっぽを捕まえさせない上に、冷酷で、目的達成のためや、単なる愉悦のために平気で人を殺す奴だから不気味でこわい。法の網の目を巧みにくぐり抜けて行くので、なかなか捕まえられない。”ボーン・コレクター””コフィン・ダンサー””魔術師”と名付けられた彼らがみんなそうだ。だから、読者は犯人の恐ろしさとおぞましさに心底震え、そのなかで犯人への怒りが、ふつふつと湧いてくる。こんな奴は早く成敗しなければ、と猛烈に憎み憤慨する。これが面白さを生む大事なファクターなのだ。・・・・”

 連続殺人鬼ウオッチメイカーは、史上最強の敵かもしれないと、翻訳者の池田真紀子さんは言っている。作者のディーヴァーも、インタビューで新しい悪役を生み出す喜びを語り、中でも”ウオッチメイカー”は、マイ・フェイバリット・キャラクターだ答えている。”

 そして児玉さんは、こうも言っている。”アメリカのリーガル・スリラーの雄、ジョン・グリシャムのミステリーの面白さをプロットの作りの妙と称えて「グリシャム・マジック」などと書いたことがあるが、ディーヴァーのプロット作りの巧妙さに較べれば小学生の技といえる”

 いやいやこのシリーズは、繰り返し読んでも面白い。やめられませんなあ! そうそう、もう一つ気に入っているのは、作品の最後に、なにか明るい希望の光を示唆するようなことに、いつも触れているのである。ベッドから下りられなかったライムが、第2作では車椅子を器用に操って一階に新設された研究室を動きまわっている。アメリア・サックスとの関係も、微妙に進展する。いずれは脊椎損傷も、何らかの回復も見せるのではないかとの期待も抱かせる。とにかく少しは明るいラストシーンは好きだ。藤沢周平が『用心棒日月抄』でみせた佐知と又八郎の会話のように。

 ”「ふむ」と又八郎はうなった。唖然としてしばらく佐知を見詰めてから、くるりと背を向けた。風景はもとのままだったが、別離の重苦しさは足早にほぐれてゆき、四囲がにわかに明るく見えてきた。不意に又八郎は哄笑した。晴れ晴れと笑った。年老いて、尼寺に茶を飲みに通う自分の姿なども、ちらと胸をかすめたようである。背後で佐知もついにつつましい笑い声を立てるのが聞こえた”

     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(児玉清の知らない世界)
 A・J・クイネルの小説をどういうジャンルと分類するのかは、知らないが、元傭兵のクリーシーが活躍する冒険小説は、最高に面白く、読んでいて燃えてくるものを感ずる。そして、この作家の本のことを教えてくれたのが、最近亡くなられた仏教学者の紀野一義さん、というところがまた奇縁というべきか。いずれ、彼の世界を、日をあらためてご紹介したいと思っている。









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音楽/エッセイ あなたと夜と音楽と

2014-02-13 | 音楽
読書/エッセイ あなたと夜と音楽と

 ずいぶんと音楽を~とくにクラシック音楽を~聞きこんできましたが、まだまだ聞いたことのない曲がたくさんあります。この年になって、そういう曲を掘り出すというか、出逢えるのはとても嬉しいことです。今夜は、先夜出会った曲にちなんで一筆、書いて見ました。余談ですが、この記事のタイトルは、あとで気がつきましたが、敬愛するジャズ・ピアニスト、ビル・エヴァンスのアルバムの題名なんですね。これはこれで素晴らしい
演奏です。いつもは、繊細なビル・エヴァンスがアップテンプなピアノで疾走する楽しい音楽を奏でています。ジャズのことは、またの機会に。


 さて今夜はシューベルトの歌曲「夜と夢」です。過ぎ去った美しい夜と夢に対するかぎりないあこがれを歌ったもので、多くの美しい歌曲をつくったシューベルトの作品の中で最も美しい曲ではないでしょうか。詩はウイーンの詩人、マテウス・カシミール・フォン・コリン。

 聖なる夜よ、お前は降りてくるのだね、
 夢たちもまた波立ってくるのだね、
 お前の月の光が、この空を抜け、
 人間たちの静かな心を抜けて下りてくるように
 彼らは聞き耳を立てる、喜び一杯に
 そして叫ぶ、夜が明けたとき
 戻っておいで、聖なる夜よ!
 甘い夢よ、帰って来ておくれ!


 Heil'ge Nacht,du sinkest nieder;
 Nieder wallen auch die Traume
 Wie dein [Licht]1 durch die Raume,
 Lieblich durch der Menschen Brust

 Die belauschen sie mit Lust;
 Rufen,wenn der Tag erwacht:
 Kehre wieder,heil'ge Nacht!
 Holde Traume,kehret wieder!

 
 この曲に出会った、きっかけはオンキョーのハイレゾ音楽配信サイトです。PCでダウンロードし、それにUSB TACと呼ばれるユニットを接続して、ちょっと上等なヘッドフォン(ゼンハイザー)で聞いています。CDよりも、遥かに高品質で臨場感のある音を楽しむことができます。近々、ソニーのHDDオーディオプレーヤーシステムに、音楽をPCからWiFiで飛ばして聴く予定です。

 この方法のお陰で、最近は、これまであまり知らなかった歌手や演奏家、作曲家の演奏や作品に触れるようになってきました。たとえばジャズヴォーカルの鈴木輪、ソプラノの森麻季、塚谷水無子のバロックのオルガン演奏、ポピュラー曲ではエルトン・ジョンの「黄昏の路」などなど。ただこの方法の欠点でもあるのですが、LPレコードについていたような詳細な曲や演奏家の説明がないのです。あっても少ない。しかし、それがまたいいところでもあります。何の説明も見ることなく、とにかく曲に集中する。それで、その曲を気に入ればいいのです。よく絵の展覧会に行くと、多くの人が、とくにおばちゃん連、先に解説のパネルを熱心に読んでいます。まず絵を見るのが先だと思うのですが・・。音楽も同じで、まずは聴くことですね。


(やっと本論です)
ダウンロードしたアルバムは「シャコンヌ」と題されたもので、長谷川陽子のチェロ、仲道祐子のピアノというデュオです。ヘンデルの歌劇「リナルド」の曲からはじまり、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番「シャコンヌ」などが収まっていますが、その最後を飾るのがシューベルトの歌曲「夜と夢とD827」です。わずか4分の短い曲ですが、チェロのゆったりと穏やかな調べにうっとりしました。夜寝る前に聞くと、心が落ち着いてきます。シューベルトは、なんと美しい曲を書いたのか、と感嘆します。演奏も透明感に溢れ、また静寂につながってゆくピアニッシモ! なんども繰り返し聴いていました。

     

 しかし、この曲は今まで知らなかったので、少し調べてみました。もともと歌曲なのです。かのジェラール・スーゼー(バリトン)とかリリック・ソプラノのエリー・アメリング、などなど多くの歌手が歌っています。あのフィッシャー・ディスカウも。プロフェッショナルは、本当にいい音楽を知っているんですね。そして嬉しい事に、この曲を聴き比べできるブログに遭遇しました。

<TaubenPosto~歌曲雑感>というブログです。歌曲好きの方が書いておられますが、フランツとの愛称があるだけで、詳しいことはわかりません。でも、素晴らしいブログです。クラシックの歌が好きな方は、ぜひのぞかれることをおすすめします。


いろんな人が歌ったり、演奏しています。この中で、ボクはソプラノのエリー・アメリングの歌、またバーバラ・ヘンドリックスの歌に加えやはりフィッシャー・ディスカウの歌が好きです。

 (突如、関西弁で)それがですねえ。これをギターで演奏するのがエエンですわ。韓国のプレーヤーですねん。Oh Seung Kook、少しアップテンポで演奏するスタイルには、はまりそうですわ。別途、iTuneで一曲買いましてん! いやあ、音楽ってよろしなあ! 心が満たされる想いですわ。みなさんは、どないです?



           ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ついでのことですが、シューベルトの歌曲というと「美しい水車小屋の娘」「冬の旅」「魔王」などがよく知られています。「冬の旅」など、フィッシャー・ディスカウに憧れ、よく口ずさみました。でも、みんな失恋の歌のなど暗いですね。ところが、彼が最後に書いた「白鳥」は、みな明るい希望に溢れたものばかり。その中に、ザイドルの詩に曲をつけた「鳩の使い」という曲があります。

 ”わたしは忠実な伝書鳩を一羽飼っています。鳩は毎日わたしの恋人のところへ手紙を運んでくれますが、疲れるということがありません。この忠実な鳩の名は、<あこがれ>というんです”

 天才シューベルトの文字通り、”白鳥の歌”の歌です。


     ~~~~~~おわり~~~~~


(お詫び)「今宵はミステリー」の続編を載せるつもりでしたが、「夜と夢と」という、あまりにも素晴らしい曲に巡り会えたので、その歓びを分かち合いたく、ここに臨時に書きました。次回は、「ミステリー」、とくにジェフリー・ディーヴァについてしっかり書きますので、お許しください。










 
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読書/エッセイ 今宵はミステリーそして少し読書遍歴を

2014-02-08 | 読書
読書/エッセイ 今宵はミステリー

 敬愛する児玉清さん(2011年5月没)が『寝ても覚めても本の虫』(新潮文庫 2007年2月)という本を書いておられる。これは読書好きの児玉さんが、海外のエンターテインメント系の小説を読み漁り、楽しんだ読書日記ともいうべき本である。そのカバーするジャンルは、ミステリー、サスペンス、ハードボイルド、冒険小説、リーガル・サスペンス、スリラー、国際謀略小説、SFなどなど。彼は、これらをひっくるめて海外面白本と云っているが、ここではひとまとめにして「ミステリー」と称することにする。児玉さんの凄いのは、翻訳ではもう読む本がなくなった、としてすべてハードカバーの新作を原語で読むというところだ。私も時折、シドニー・シェルダンなど会話が多くて読みやすい原書を手にすることがあるが、時間ばかりかかって、さーっと読みこなすに至らない。語学力のなさを痛感する次第である。

 児玉さんは、第一章の(いつもそばに本があった)で、どうして本が好きになったのか、若かりしころからの読書遍歴を語っている。ということで、それを真似て、まず私の読書遍歴から始めることにする。それが、じつに児玉さんのと似ているのである。

(まずは読書遍歴)
 高校に入ってしばらくした頃、クラスメートの家に遊びにゆくとそこには廊下を埋めた書棚に「ハヤカワ・ミステリー」が、ずらりと並んでいた。彼の父上の蔵書である。お許しを得て、遊びにゆくたびに数冊づつ借りだして、読み漁った。エラリー・クイーンの「Xの悲劇・「Yの悲劇・などなど、アガサ・クリスティ、カーター・ブラウン、ウイリアム・アイリッシュ、ジョルジュ・シムノンなどなど。小口と天地が黄色に染められたこのシリーズには、魅了されたものだ。後は、岩波文庫でドイツ文学を読んだ。G・ケラーの「緑のハインリッヒ」、ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」「デミアン」などなど。

 会社に入り、家庭を持ちすこしは余裕が出てきたころ、今度は自分で本を買って読むようになった。少し豪華な本も。それが、山の詩人と呼ばれたフランスの登山家、ガストン・レビュファーの『星と嵐』など。ちょうと山登りもやっていたので、こ中のアルプスの写真をみては、しびれていた。



 さて児玉さんが、こう言っている。
”僕が翻訳物、いわゆる外国小説に憧れるようになった直接の原因は、高校時代に遭遇したシュテファン・ツヴァイクの『マリー・アントワネット』『ジョゼフ・フーシェ』『アモク』『人類の星の時間』といった一群の小説にある。ツヴァイクのテーマであったデーモンにしびれ、人生の不可思議、人間の運命、宿命といった超自然の力、理性を超えた魔力ともいえる神秘な力に心を深く抉られ、すっかり虜になってしまったのであった。”

     

 彼のように高校時代に、ではないが、ツヴァイクには何故か心を惹きつけられ、みすず書房から出ていた全集を買い揃え読みふけったものである。そして、ここも児玉さんと似ているのであるが、それらの本を後で捨ててしまったのである。彼は本がぼろぼろになり、奥さんに責められて捨てたのである。僕の場合は、そうではなく1995年阪神・淡路大震災の時に、物の価値観が変わったためである。でも後から買い戻すことは難しかった。他にもロマン・ローラン全集、尾崎喜八詩文集、研究社の『英語歳時記』などなどがある。まことに勿体ないことをした。価値ある本への、冒涜でもあると、後ほど気づいた。フランス文学では、『チボー家の人々』、 ラブレーの『ガルガンチュア』などなど。もちろんスタンダールの『赤と黒』や『パルムの僧院』も。『恋愛論』の結晶化作用にも、うんうんと頷いたこともある。

 1980年代に入り、いわゆるエンタメ系の本にも手をだすようになった。印象残っているものを挙げると、マイクル・クライトン『アンドロメダ病原体』『失われた黄金都市』『ロスト・ワールド』、ネルソン・デミルは、アメリカ東海岸のロングアイランド育ち、そこを舞台にしたものが多い。ジョン・コーリーシリーズの『ゴールド・コースト』『プラムアイランド』、ニューヨーク空港でのテロ事件を追う『王者のゲーム』などなど。読み出したら、面白いのでやめられない。そしてリーガル・サスペンスならなんといっても、ジョン・グリシャムだ。『法律事務所』『ペリカン文書』。そして今手にしているのは、『The Runaway Jury』(陪審評決」 巨大煙草メーカーをめぐる陪審員裁判の様子を描いたもの。邦訳がないので、kindle版で原書を読んでいる。



 最近の読書について語る前に、探偵物のことを忘れることができない。まずレイモンド・チャンドラー。彼の書いた私立探偵フィリップ・マーロウ。シリーズ二作目の「さらば愛しき女よ』などなど作品も多いが、それ以上にその名を高からしめたのは、フィリップマーロウの名セリフであろう。

 ”タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない”~
If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.」

 「ギムレットには早すぎる」というせりふもある。これは、『長いお別れ』に出てくるせりふ。店を開けたばかりのバーで、マーロウとテリー・レノックスが友情を育むシーン。またレノックスが、ギムレットのレシピを語る。

 ”本当のギムレットはジンとローズのライム・ジュースを半分ずつ、他には何も入れないんだ”

うすい緑がかった黄色の神秘的な色」をしたギムレット、マーロウの真似をしてよく帝国ホテルのランデブー・ラウンジ・バーのカウンターでいきがって注文したものである。



 だいぶ脱線してしまったが、なんと言ってもロバート・B・パーカーを忘れる訳にはいかない。マサチューセッツ州出身でボストンを愛した小説家。2010年に急逝してしまった。彼の生んだ私立探偵スペンサーのシリーズは、39編。『約束の地』『レイチェル・ウオレスを探せ』『初秋』『約束の地』『晩秋』などなど.





このハードボイルド作家の描いたスペンサーは、元ヘビー級ボクサーであるが、ただのマッチョではない。料理もつくる食通であり、そして詩を愛し、”当時の人々の生活がどんなものだったか、知りたいのだ。読むことによって、600年の隔たりをこえた継続感が得られる点が好きなんだ”と言っては14世紀のことを書いたバーバラ・タックマン著『ディスタント・ミラー』などをひもとく読書家。ベニイ・グッドマンの1938年のライブアルバムを聴き、ソニー・ロリンズやジョニー・ハートマンを好むジャズ愛好家。美術館にハドソンリバー派の絵を観に行く美術愛好家。アメリカントラッドを好み、身だしなみにこだわるスタイリスト。要は、かっこよく、しかも人生を楽しんでいる。『初秋』では、固く心を閉ざし何事にも関心を示さない問題児ポール・ジャコミンに、自信をつけさせるべくウエイトリフティングを始めさせた探偵スペンサーは、ポールに、なぜウエイトリフティングなのかと尋ねられてこう答える。

 ”得意なものがなんであるか、ということより、なにか得意なものがあることの方が重要なんだ。おまえにはなにもない。なににも関心がない。だからおれは、おまえの体を鍛える、丈夫な体にする、十マイル走れるようにするし、自分の体重以上の重量が挙げられるようにする、ボクシングを教え込む。小屋を造ること、料理を作ること、力いっぱい働くこと、苦しみに耐えて力をふりしぼる意志と自分の感情をコントロールすることを教える。そのうちに、できれば、読書、美術鑑賞や、ホーム・コメディーの科白以外のものを聞くことも教えられるかもしれない。しかし、今は体を鍛える、いちばん始めやすいから”

 スペンサー・シリーズを読んでゆくと、なかなか味わいのあるセリフがでてくる。パーカーが書き、熊谷嘉尚氏が写真をつけた『スペンサーとボストン』という本が、手元にある。(早川書房 1989年4月)この本には写真付きで、それらのセリフも紹介されている。ロバート・パーカーの大ファンであるボクにとっては、宝物のような本である。先年、ボストンを訪れた時は、この本に描かれたスポットを追って歩き、スペンサーのことを偲んだものである。

     

(写真は、スペンサーが文中ですすめるイタリアン・レストラン、トスカーノ)

 ”名はスペンサーだ。サーのつづりは、詩人とおなじようにSだ。ボストンの電話帳に
  載ってるよ。<タフ>という見出しの項似な”ー『初秋』


 ”自分が知っていることを教えてやる。おれは大工仕事を知っている。料理の仕方を知っている。殴り方を知っている。行動の仕方を知っている。”ー『初秋』

 ”「前に君を二年ほど失ったことがある。おれは、きみがいなくても生きてゆける
  ことを知った。同時に、生きてゆく気持ちを失ったことも知った。」
  「なぜなら?」
  「なぜなら君を愛しているからだ。おれの人生におけるきみは、静寂の縁の音楽の
  ようなものだから」”ー『真紅の歓び』

 ”彼女が私の胸に顔を押しつけ、私たちはそのまま、長い間、黙って身動きもしないで立っていた。
  「命あるかぎり」私が言った。
  「もっと長いかも知れないわ』スーザンが言った”



 さてさて、もう一度戻って最近のミステリーの読書について語らねばならない。トム・クランシー、スティーブン・ハンター。フレデリック・フォーサイス、それに大好きな
クライブ・カッスラーなどの本について。ああ、そうそうそれにロバート・ラドラムのことも。

でも長くなるので、いったんここで筆を擱き、次項(続編)で語り継ぐことにする。そこでは、「本論」ともいうべき、ジェフリー・ディーヴァーのことを主に取り上げる。






 
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