ソニーとその遺伝子(余滴)
ソニーの経営者の一人、大賀典雄氏のことについて本ブログを読まれた方から少々反応がありましたので、ものづくりの原点という視点も絡めてすこし関連のエピソードを書いてみます。 (写真は、ソニー製の画像イメージセンサーの最新のもの)
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ソニーの盛田社長の後に第4代社長となったのは、岩間和夫氏(名古屋市出身、東大理学部)でトランジスタに着目し、日本の半導体産業の基板を創った。ところが社長在任中病を得て、急逝した。そのあと井深氏から、是非にと言われされ第5代社長となった大賀典雄氏は取締役を退いた時、16億円の退職金を手にした。税金4億円をとられた残りの12億円を軽井沢町に全額寄付し「大賀ホール」を建てた。若い頃はプロのバリトン歌手だったが、まだ中小企業に過ぎなかったソニーに入社したのは、創業者の井深氏・盛田氏から懇請された。まだ芸大の学生だった頃、ソニーが商品化途上のテープレコーダーにあれこれ意見を言ったのが契機になり、井深・盛田氏は、この男はソニーに必要”と感じた。
CDという光を使うディスク誕生したが、その容量を決めるのにフィリップスと激論を交わし、40分と決めたのは大賀の先見性によるものだ。のちにアメリカのCBSを買収したの時も大賀が交渉にあたっている。オーディオビジュアルの基盤を作り上げたのである。
60歳になった時、盛田に懇願してオーケストラの指揮に挑戦した。約束した”一回だけ”にとどまらず、何度も指揮棒をとり、とうとうベルリン・フィルの指揮までするに至った。その関係もあってカラヤンとの親交を結び、病床にあったカラヤンを自宅にたずね、その最後を看取っている。ちなみに大賀ホールは正五角形をしているが、”よい音を聴くには平行壁面があってはいけない”という大賀の提案に沿ったものである。
(大賀の経営者としての功罪)経済ジャーナリストの水島愛一郎がBuisiness Journalという経済誌に書いた記事がある。「ソニー、エレキ事業の弱体化と人材喪失を招いた、19年前の誤算)それによれば、
ソニーは世界的なブランドであるVAIO事業を日本産業パートナーズ(投資ファンド)に売却している。その凋落の原因は、皮肉にもVAIO事業をスタートさせて元CEOの出井伸之氏である。出井は1995年6月広報担当常務から14人抜きの抜擢で代表取締役社長に就任した。彼を指名したのは、13年間社長を務めた大賀典雄氏である。その指名の理由を聞かれた大賀はこう答えた。
”出井君を後継者に決めたのは、僕と同じように五ケ国語をしゃべり、外国人とも対等 に議論できる国際感覚を持っているからだよ”
これはしかし建前で、本当に後継にしたかったのはハンディカムの開発で大ヒットを飛ばしたM氏であった。ところがM氏が女性スキャンダルで雑誌に報道され、後継にするのを断念せざるを得なかった。大賀は創業者のひとりである盛田氏より、
”君の次の社長はエンジニア出身の人間を選んでくれよ”
と約束させられていた。苦渋の末の選択が出井氏であった。
出井氏は、VAIOで世界市場を席巻し名経営者ともうたわれた。ところが落とし穴があった。大賀氏が晩年語ったところによれば、
”ソフトバンクの孫正義社長の誘いに乗って衛星放送事業やIT事業に過度にはまり、エレクトロニクス事業の技術者を数百人単位でプロバイダー事業のSo-netに転籍させた。 このことがソニーのエレクトロニクス事業の活力を失わせていく原点になっていった”
大賀氏が懸念したように、ソニーのものづくり力の低下は、やがて2003年の深刻な業績悪化にとなって表面化した。(テレビ事業の大幅赤字、VSIOの衰退など)その後テレビ事業は、95年に出井氏からハワード・ストリンガー氏、さらに平井一夫氏へとCEOが引き継がれたものの、今日までの10年以上も赤字体質から脱却できない泥沼状態に陥り、今回、VAIO事業の売却とともに本社から切り離された。
ところで昨年二年ぶりに世界販売台数で、世界首位に返り咲いたトヨタもじつは64年前に経営破綻寸前までいっている。そのころから「ものづくり前にひとづくり」というスローガンで立て直し発展して世界ナンバーワンに上り詰めている。トヨタの例もあるが、このブログの前の記事「米沢へ」で触れたアメリカGE社の経営改革の強いスピリットを見習って欲しいものである。大賀は、”盛田さんとの約束である、ものづくりの分かる後継者を指名できなかったことは今日でも悔いている”と言っていた。
大賀は”ユーザーの琴線に触れる製品でなければだめだ”とも言っている。大賀はソニーブランドの確立に精魂を傾け偉大な経営者のひとりとしての評価が高いが、一方で影の面もある。
1988年にCBSレコード、1989年コロムビア映画(現SPE)を買収し、これで1兆円近い有利子負債を抱え込んだ。そのSPE経営陣に任されたのはハリウッドのプロデューサー、ジョン・ピーターズ、ピーター・グーパーであった。二人は、仕事をせず、私的に会社を食い物にし、投資額は60億ドルまで膨れ上った。。その二人を選んだのが、ソニー米国CEOであるマイケル・シュホフ。シュホフは、彼らを解任するどころか巨額な資金を映画制作につぎ込み愚作を連発した。この巨額の投資がソニーの屋台骨を揺るがしたのである。そして、そのシュホフ氏は大賀氏のお気に入り。ソニー本社の役員たちもシュホフの暴走に苦言を呈することもなかったとか。大賀は、社長13年、会長5年、取締役会議議長3年、名誉会長3年、相談役5年と29年間にわたりソニー経営に関わり、権力を維持してきた。この間、有能な人材は去り、文系が役員の大半を占めたのである。
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さてさて過去のことではなく、未来を語ろう。今後のソニーはどこを目指すのか? また輝きを取り戻すことができるであろうか? 2013年のアニュアル・レポートを見ながら、チェックしてみることにする。
現在のトップ平井代表取締役社長は2012年6月に就任、トップを2年間つとめてきた。彼はICU(国際キリスト教大学)の出身である。技術屋ではない。しかし開発現場にひんぱんに赴き、現場の声をよく聞くとのことである。アニュアルレポートには平井一夫社長の考え方がよく示されており、改革への強い決意も伝わってきて、好感がもてる。彼はグループの基本方針として、次の三つを挙げている。
(1)エレクトロニクス事業の強化
・3つのコア事業(モバイル、イメージング関連、ゲーム)の変革を加速
・テレビ事業の黒字化
・グループの総合力を生かした新興国での成長戦略を加速
・持続的な成長のための新規ビジネス(メディカル、セキュリティなど)の強化
・事業ポートフォリオのさらなる見直し
(2)エンターテインメント・金融事業の一層の収益力の強化
(3)継続的な財務体質の強化
そして経営目標としては売上は8兆5000億円、ROEは10%を目標としている。意気軒昂ではある。(実態は、まだROEはマイナスに沈んでいるが・・・)新しい芽としては、世界首位の画像イメージセンサーに期待できるし、またそれを利用しての自動運転技術への展開などもある。ソニー本来の遺伝子が受け継がれており、ものづくりのスピリットと風土がよみがえってくるかぎり、ソニーは復活を遂げるであろう。個人的な目でいえば、最近のソニーのデジタルカメラもいい商品であるし、またハイレゾ音楽機器も先鞭をつけている。音楽配信でもベルリン・フィルとの連携など注目すべき点が少なくない。
さてあなたはソニー株に希望を持ち、貴重なサムマネーを投じますか?
ソニーの経営者の一人、大賀典雄氏のことについて本ブログを読まれた方から少々反応がありましたので、ものづくりの原点という視点も絡めてすこし関連のエピソードを書いてみます。 (写真は、ソニー製の画像イメージセンサーの最新のもの)
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ソニーの盛田社長の後に第4代社長となったのは、岩間和夫氏(名古屋市出身、東大理学部)でトランジスタに着目し、日本の半導体産業の基板を創った。ところが社長在任中病を得て、急逝した。そのあと井深氏から、是非にと言われされ第5代社長となった大賀典雄氏は取締役を退いた時、16億円の退職金を手にした。税金4億円をとられた残りの12億円を軽井沢町に全額寄付し「大賀ホール」を建てた。若い頃はプロのバリトン歌手だったが、まだ中小企業に過ぎなかったソニーに入社したのは、創業者の井深氏・盛田氏から懇請された。まだ芸大の学生だった頃、ソニーが商品化途上のテープレコーダーにあれこれ意見を言ったのが契機になり、井深・盛田氏は、この男はソニーに必要”と感じた。
CDという光を使うディスク誕生したが、その容量を決めるのにフィリップスと激論を交わし、40分と決めたのは大賀の先見性によるものだ。のちにアメリカのCBSを買収したの時も大賀が交渉にあたっている。オーディオビジュアルの基盤を作り上げたのである。
60歳になった時、盛田に懇願してオーケストラの指揮に挑戦した。約束した”一回だけ”にとどまらず、何度も指揮棒をとり、とうとうベルリン・フィルの指揮までするに至った。その関係もあってカラヤンとの親交を結び、病床にあったカラヤンを自宅にたずね、その最後を看取っている。ちなみに大賀ホールは正五角形をしているが、”よい音を聴くには平行壁面があってはいけない”という大賀の提案に沿ったものである。
(大賀の経営者としての功罪)経済ジャーナリストの水島愛一郎がBuisiness Journalという経済誌に書いた記事がある。「ソニー、エレキ事業の弱体化と人材喪失を招いた、19年前の誤算)それによれば、
ソニーは世界的なブランドであるVAIO事業を日本産業パートナーズ(投資ファンド)に売却している。その凋落の原因は、皮肉にもVAIO事業をスタートさせて元CEOの出井伸之氏である。出井は1995年6月広報担当常務から14人抜きの抜擢で代表取締役社長に就任した。彼を指名したのは、13年間社長を務めた大賀典雄氏である。その指名の理由を聞かれた大賀はこう答えた。
”出井君を後継者に決めたのは、僕と同じように五ケ国語をしゃべり、外国人とも対等 に議論できる国際感覚を持っているからだよ”
これはしかし建前で、本当に後継にしたかったのはハンディカムの開発で大ヒットを飛ばしたM氏であった。ところがM氏が女性スキャンダルで雑誌に報道され、後継にするのを断念せざるを得なかった。大賀は創業者のひとりである盛田氏より、
”君の次の社長はエンジニア出身の人間を選んでくれよ”
と約束させられていた。苦渋の末の選択が出井氏であった。
出井氏は、VAIOで世界市場を席巻し名経営者ともうたわれた。ところが落とし穴があった。大賀氏が晩年語ったところによれば、
”ソフトバンクの孫正義社長の誘いに乗って衛星放送事業やIT事業に過度にはまり、エレクトロニクス事業の技術者を数百人単位でプロバイダー事業のSo-netに転籍させた。 このことがソニーのエレクトロニクス事業の活力を失わせていく原点になっていった”
大賀氏が懸念したように、ソニーのものづくり力の低下は、やがて2003年の深刻な業績悪化にとなって表面化した。(テレビ事業の大幅赤字、VSIOの衰退など)その後テレビ事業は、95年に出井氏からハワード・ストリンガー氏、さらに平井一夫氏へとCEOが引き継がれたものの、今日までの10年以上も赤字体質から脱却できない泥沼状態に陥り、今回、VAIO事業の売却とともに本社から切り離された。
ところで昨年二年ぶりに世界販売台数で、世界首位に返り咲いたトヨタもじつは64年前に経営破綻寸前までいっている。そのころから「ものづくり前にひとづくり」というスローガンで立て直し発展して世界ナンバーワンに上り詰めている。トヨタの例もあるが、このブログの前の記事「米沢へ」で触れたアメリカGE社の経営改革の強いスピリットを見習って欲しいものである。大賀は、”盛田さんとの約束である、ものづくりの分かる後継者を指名できなかったことは今日でも悔いている”と言っていた。
大賀は”ユーザーの琴線に触れる製品でなければだめだ”とも言っている。大賀はソニーブランドの確立に精魂を傾け偉大な経営者のひとりとしての評価が高いが、一方で影の面もある。
1988年にCBSレコード、1989年コロムビア映画(現SPE)を買収し、これで1兆円近い有利子負債を抱え込んだ。そのSPE経営陣に任されたのはハリウッドのプロデューサー、ジョン・ピーターズ、ピーター・グーパーであった。二人は、仕事をせず、私的に会社を食い物にし、投資額は60億ドルまで膨れ上った。。その二人を選んだのが、ソニー米国CEOであるマイケル・シュホフ。シュホフは、彼らを解任するどころか巨額な資金を映画制作につぎ込み愚作を連発した。この巨額の投資がソニーの屋台骨を揺るがしたのである。そして、そのシュホフ氏は大賀氏のお気に入り。ソニー本社の役員たちもシュホフの暴走に苦言を呈することもなかったとか。大賀は、社長13年、会長5年、取締役会議議長3年、名誉会長3年、相談役5年と29年間にわたりソニー経営に関わり、権力を維持してきた。この間、有能な人材は去り、文系が役員の大半を占めたのである。
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さてさて過去のことではなく、未来を語ろう。今後のソニーはどこを目指すのか? また輝きを取り戻すことができるであろうか? 2013年のアニュアル・レポートを見ながら、チェックしてみることにする。
現在のトップ平井代表取締役社長は2012年6月に就任、トップを2年間つとめてきた。彼はICU(国際キリスト教大学)の出身である。技術屋ではない。しかし開発現場にひんぱんに赴き、現場の声をよく聞くとのことである。アニュアルレポートには平井一夫社長の考え方がよく示されており、改革への強い決意も伝わってきて、好感がもてる。彼はグループの基本方針として、次の三つを挙げている。
(1)エレクトロニクス事業の強化
・3つのコア事業(モバイル、イメージング関連、ゲーム)の変革を加速
・テレビ事業の黒字化
・グループの総合力を生かした新興国での成長戦略を加速
・持続的な成長のための新規ビジネス(メディカル、セキュリティなど)の強化
・事業ポートフォリオのさらなる見直し
(2)エンターテインメント・金融事業の一層の収益力の強化
(3)継続的な財務体質の強化
そして経営目標としては売上は8兆5000億円、ROEは10%を目標としている。意気軒昂ではある。(実態は、まだROEはマイナスに沈んでいるが・・・)新しい芽としては、世界首位の画像イメージセンサーに期待できるし、またそれを利用しての自動運転技術への展開などもある。ソニー本来の遺伝子が受け継がれており、ものづくりのスピリットと風土がよみがえってくるかぎり、ソニーは復活を遂げるであろう。個人的な目でいえば、最近のソニーのデジタルカメラもいい商品であるし、またハイレゾ音楽機器も先鞭をつけている。音楽配信でもベルリン・フィルとの連携など注目すべき点が少なくない。
さてあなたはソニー株に希望を持ち、貴重なサムマネーを投じますか?