(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

今年の読書ベストテン

2006-12-31 | 時評
今年は、おそよ120冊ほどの本を手にした。そんなかで印象に残った本をパーソナル・ ベストテンとしてリストアップしてみました。なお、これらの本のいくつかにについては、書評を順次書く予定です。

 ①折々の歌三百六十五日 日本短詩型詞華集 (大岡信 岩波書店 03・2)
   これまでの「折々の歌」から、和歌・短歌・俳諧・俳句・近世の歌謡などの
   詩歌を集成したもの。掌におさめ、愛唱したい歌が溢れている。

    ”たちまちに君の姿を霧閉ざし或る楽章をわれは思いき”
                            (近藤芳美)
 ②北方領土 (岩下明裕 中公新書 05・12)
   日露間の領土交渉に関する新しい考え方を提案した好著。

 ③外交(上・下)(ヘンリー・キッシンジャー 日本経済新聞社 02・6)
   600頁を越える大冊が2刷。17世紀以降の外交とアメリカ外交の分析。
   外交とは、国益なりと、思い知らされる。外国との関わり合いを考える人
   に必見の著である。

 ④暗黒日記 全3冊 (清沢冽 ちくま学文庫 02・6)
   昭和17年から終戦の年までの日記。戦後に外交史を書くために、戦時下の
   社会や政治を見つめた。優れたリベラリストの残した記録は、後世にとって
   貴重な資産といえる。
   
 ⑤絵画の領分(芳賀徹 朝日新聞社 84・10)
   明治・大正と日本洋画史の勃興期を、個々の画家について丹念に、その足跡を
   追った。絵画と文学、俳句などが相互にからみあいいわば、絵画を通してみた
   近代日本といえる。面白さ極まりなし。

 ⑥ルービン回顧録(ロバート・E・ルービン 日本経済新聞社 05・9)
   クリントン大統領の下、財務長官としてメキシコ通貨危機やアジア通貨危機
   などを乗り切った日々を描く。ホワイトハウスの意志決定の内幕がわかって
   興味津々だ。意志決定のと人生全般にたいするアプローチの仕方として、
   蓋然性思考を、繰り返し説いて興味深い。

 ⑦半歩遅れの読書術(荒川洋治ほか 日本経済新聞社 05・10)
 ⑧ことのは草(大岡信 世界文化社 96・1)
   日本の詩歌や伊勢物語、はては世阿弥の風姿花伝などなど文学や芸術における
   「命ある言葉」について書いたエッセイ集。こんな貴重な本も古書房でしか
   手にはいらない。私にとっては、宝物のような蔵書のひとつだ。
    
 ⑨いろんなインクで(丸谷才一 マガジンハウス 05・9)
   本の帯に、「ひとの本好きが、本好きの友だちに出す手紙。これはそんな本」
   とある。書評のユニークな定義からはじまり、かずかずのたくみな書評が溢
   れていて惹きつけられる。A.S.パイアットの『マティス・ストーリーズ
   残酷な愛の物語』は、この書評をみて早速手に入れた。
   
 ⑩みんなの意見は案外正しい(J・スロウィッキ- 角川書店 06・1)
   梅田望夫の『ウエブ進化論』の中で紹介された本。よく日本の政治家が、 
   「・・・のことは専門家に任せて・・」というが、そうではなく、むしろ
   正しい状況下では、集団はきわめて優れた知力を発揮する。集団の知恵に
   ついて研究した本。
   


 次点に個人の句集だが「冬満月」(碇英一 東京四季出版 02・10)、 
経営書では、「ビジョナリーカンパニー」(J・C・コリンズ 日経BP出版
センター 03・1 第24刷)を挙げたい。そのほかのジャンルとして、
「森鴎外と美術展」(06・10 和歌山近代美術館)は絵画と時代の関わり
合いを綿密に考証した企画展として素晴らしいものであった。

松岡正剛の「千夜千冊」とまでは、なかなかいかない。でも気にいった本に
ぶつかるとそこからあちこち寄り道をし、深く読んでゆくので、このくらいの
ペースがいいかな、と思っている。

いよいよ年の暮れだ。一年は早い。みなさま どうぞ良いお年をお迎えください。
平和で明るい日本であることを祈りつつ。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読書『半歩遅れの読書術』

2006-12-28 | 時評
『半歩遅れの読書術Ⅰ』(日経新聞社 2005年10月)

かなりの本を読んでいる積もりでも、たとえば須賀敦子の『本に読まれて』(中公文庫2001年11月)を読むと、マルグリット・デュラス、ブローデル、アントニオ・タブッキなど知らない作家の名前が出てくる。そう、知らない作家、知らない本、知らない話は山ほどある。それを並はずれた読書経験をもつ読み達者30名のひとたちが、教えてくれるのが、この本である。その中には、川本三郎や久世光彦、小林恭二、それに水村美苗などの名前がある。

作家の堀江敏幸が<詩人との再会>と題して紹介する山田稔の『北園町913番地 天野忠さんのこと』(編集工房ノア、02年)では、若い時期に電車でいつも一緒になり、ふたことみこと交わす程度の淡い交わりがあったきりで、つきあいのなかった人物の存在をなつかしく思いだしたエピソードを語っている。詩人である、そのひとが、大きな文学賞を受賞したことを新聞で知り、それにお祝いの葉書をだした。すると、ただちに返事がきて、
「ご散策のみぎりにでもお立ち寄り下されば幸甚です」とあった。山田さんは、散歩を名目に自書を持参し、手紙と一緒に詩人の家のポストに入れてくる。翌日、自宅のポストをのぞいてみたら、大部の『天野忠』詩集が書状とともに投げ入れられていた
。本人が届けてくれたのである。なんと贅沢な散歩の応酬だろう。おふたりの照れ屋ぶりと頑固ぶりと茶目っ気に、私は打たれる・・・。
堀江は、もうひとつ『天文台日記』(石田五郎 中公文庫BIBLO 04年)に関して、こんなことを書いている。

 ”にもかかわらず、著者は忙しさに埋没しない。観測日にかかわりのある
  歴史的発見の挿話にふれ、観測中にビル・エバンスやバッハを鳴らし、
  リルケやアポリネールの詩を吟じながら深夜の星々にたちむかい、空に
  星のものではない光が戻ってくるころ活動をやめる・・・

川本三郎氏は、<音楽への思い>と題して文芸評論家新保友祐司氏の音楽エッセイ集
『国のささやき』(構想社 02年)を挙げている。

 ”地味な本だが素晴らしい。スター演奏家やポピュラーな名曲に目もくれず、
  「海道東征」はじめ自分がいいと思う曲や演奏家をまっしぐらに称賛して
  いること。たとえば指揮者では隠者のようなカールシュリヒト。バッハの
  無伴奏チェロ曲ならアンナー・ビルスマ。・・・
  シベリウスが好きでフィンランドのアイノラの生家を訪ね、林の中でひとり
  ウオークマンで交響曲5番を聴くところなど、こちらも感動する。”

(余談)チェロのビルスマは、好きな演奏家のひとりだが、彼が、シューベルトのアルペジョーネ・ソナタをチェロ・ピッコロという小型のチェロで演奏したディスクはその流麗な演奏で絶品といえる。

書き出すときりがないが、いやいやとにかく楽しい。しかし、これらの読書人の本の紹介にもまして強い印象をうけたのは、この本のまえがきにある次の文章である。

 ”情報を得るための読書があり一方で、人生の不思議さ、物語の面白さに、打ちの めめされる読書もある。後者のような読書体験は、流れ去る情報の渦より、ずっと 後にやってくることが多い。こんな考えから、新刊書ではなく、あえて刊行後1~ 2年経た本を中心に取り上げる読書コラムが誕生した”

この文に勇気づけられて、遅れがちになった読書日記を再開することにした。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画<敬愛なるベートーヴェン>

2006-12-28 | 時評
読書日記といいながら、ブログの冒頭を映画の話題で飾るのは、気が引けないでも
ない。だが、年末にふさわしいものであったので取り上げる事にした。お許しください。

≪敬愛なるベートーヴェン≫ Copying Beethoven・・・2006年英・ハンガリー                                   の合作

映画好きのワイフに誘われて観に行く。映画の舞台は、1820年代のウイーン。
耳がほとんど聞こえないベートーヴェンが第九交響曲を初演するシーンを中心に、彼を助ける女性コピイスト(アンナ)との心の交流を描く。彼女が、入りとテンポをステージの奥で合図してベートーヴェンの指揮を助ける。合唱が次第に高まって行く。観客が、曲の壮麗な調べに感動するシーンは圧巻である。実際の演奏は、ベルナルド・ハイティンク指揮するロンドン交響楽団。クライマックスに向かってうねるようなダイナミックな演奏、そしてソロイストのバスの歌唱も素晴らしい。映画の後書きを見ていると、実際に起こった事にヒントを得て、ドラマ化したとあった。
ちなみに、原題のコピーイングは、文字通り写譜のことをさしているが、同時みずからも作曲をしているアンナが、ベートーヴェンのような曲を作りたい、という想いを抱いていることにもつながっている。

映画が、終わって後書きをみていて主演のベートーヴェンは、エド・ハリスが演じて
いたことを知った。ちょっと見た目には、分からない。メーキャップで工夫し、さらに体重を増やすなどの苦労をしたらしい。彼は、コロンビア大学を卒業後、さらにオクラホマ大学で演劇を専攻したインテリだ。私の好きな俳優のひとり。アポロ13や、ザ・ロックでの渋い演技には魅せられた。ザ・ロックでは、サンフランシスコのアルカトラズ監獄を占拠した元海兵隊司令官役を演じ、ショーン・コネリーやニコラス・ケージと共演。コピイストは、ドイツの若手女優ダイアン・クルーガー。気むつかしいベートーヴェンとのやりとりを自然体でこなし、魅せる演技だ。

 180余年も前に作曲された音楽が、それこそ時空を越えて人々の耳を惹きつけるのは 何故だろう。”苦悩を通して歓喜へ”と唱うシラーの詩における言葉の力と、それを音符の嵐で表現したベートーヴェンの調べの魅力だろう。とくに交響曲に人の声を持ち込んだのが、効果的だ。バッハのマタイ受難曲でも、39番でバイオリンソロに乗って、”憐れみたまえ、わが神よ”とアルトのアリアが唱うと感動するという人が少なくない。第九の演奏は、いろんなディスクが出ているが、 私がもっとも愛聴するのは、第二次大戦の直後、復活したバイロイト劇場で演奏されたフルトヴェングラーのLP盤である。鬼気迫るが如き熱気と緊迫感で溢れた名演奏だと思う。ソプラノのエリザベート・シュワルツコップ、バスのオットー・エーデルマンなどの歌唱も素晴らしい。

奇しくもこの夜、NHKのTV(教育チャネル)で、『地球ドラマチック 第九交響曲物語』と題する1時間の番組があり、この曲が地球規模で平和と祈りと人類を結ぶ絆としてのシンボルになった様子を報じていた。 ああ、また第九を唱いたいな!

   ”音楽は、神の息吹・・・・・”
 

 
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ご挨拶/12月21日

2006-12-21 | 時評
草野ゆらぎ、です。日頃のご無沙汰お許しください
読書日記をあらためてブログで書くことにしました

これまで読書メモを一年分まとめて印刷し、かぎられた友人のみなさんや
同好の士にお配りしてきました。しかし一年を過ぎてから書くメモでは、
どうしてもタイムラグを生じてしまい、しかも大冊になる結果レスポンスも
頂きにくいことがありました。今回、そういう点を解消すべくブログを試し
てみることにしました。

ほかの人に比べれば比較的多くの本を読んできました。ただし、ノンフィク
ションやエッセイものが多く、文芸書のたぐいは、あまり多くありま
せん。それにミステリーやサスペンス、さらには趣味の関係から絵画の本
や音楽の本、旅行記/グルメ本など多岐ににわたっています。よくいえば幅広く、
悪く言えば手当たり次第に手にしているというのが実態かもしれません。

その中で感動を覚えたり感銘を受けたりするものも少なくありません。たとえ
それが大冊の中の一文であっても、それらを他の人たちに伝えたい、共有したいと
いう思いが、このブログをつくったきっかけです。
読書のことだけでなく、絵画や彫刻などの美術、音楽(クラシックとジャズ)、
詩とさらに最近始めた俳句、また時には社会時評まで話題が広がるかも知れません。
お楽しみ頂き、そこからまた新しい会話がはじまってゆけば、こんな嬉しいことはありません。

たまには、のだめカンタービレやゴルゴ13など漫画について書くかも知れま
せん。お遊びご容赦ください。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする