読書/経営 ローソンの経営と新浪剛史~『個を動かす』(池田信太郎 日経BP社)
現ローソン社長の新浪剛史は2002年5月、三菱商事からローソンに出向した。当時ローソンは、ダイエー傘下にあり、その経営は極度の不振を極めていた。現在のローソンの状況からは、想像もできないほどであった。社長に就任して2ヶ月後、新浪は三菱商事から籍を抜き、その退路を絶った。それ以来の奮闘ぶりを、ライター池田信太郎は、『個を動かす』という著書で見事に描きあげた。かなり思い入れもある本ではあるが、人間新浪剛史の生き方を詳述した好著である。その内容をを紹介しながら、ローソン経営の実態に追って見たいと思う。
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読書/経営 ローソンの経営と新浪剛史~『個を動かす』(池田信太郎著)を中心として
企業経営については、長い間深い関心を持ってきた。一つには、自分自身が関わっていた研究開発が経営全体の中でいかにあるべきかを考えつづけてきたからであり、また最近は投資対象として企業をみる時に、その経営の実態を注視しなければならないからである。
さて投資対象として企業を見るときに、二つの視点から見るようにしている。一つは業績や財務の状況など経営を定量的に、つまり株価収益率(PER)や自己資本利益率(ROE)、売上高や利益の伸び、あるいはキャッシュ・フローの状況などなどの数字を見る。
もうひとつの視点は企業の経営哲学とか経営者の理念や考えかたなど数字では読み取れないものである。中長期的なレンジでの成長の可能性など将来の伸びを見るときには、この見方はかかせない。アメリカの超優良企業の条件を探った『エクセレント・カンパニー』(T・J・ピーターズ&R・H・ウオータ-マン)は、原著が1982年刊という古いものであるが、今でもその優れた企業の条件を語って、まれにみる優れた著書である。その中で上げられた企業の一例ををならべれば、ベクテル、キャタピラー、デルタ航空、フルオア、IBM、ジョンソン&ジョンソン、P&G、スリーMなどである。これらの企業は、今日でもNY市場のダウ30種に入っており、今でも着実な成長をしめしている。この著書で、革新的な超優良企業をよく特長づける八つの基本的特質は、以下のようなものである。
注)このうち3Mについては、私自身、その事業経営の多角化が他社に先んじて優れたものであることに着目し、1970年に同社本社(セントポール。ミネソタ)を訪れて事業の多角化、研究開発のありかたについ意見交換したことがある。まだ30歳そこその時である。よくそんな若造を快く受け入れてくれたものだと今でも感謝の念が消えない。
①行動の重視・・・・・やってみよ!だめなら直せ! 試してみよ!
②顧客に密着する
③自主性と企業家精神・・・社員が創意にあふれている
④ひとを通じての生産性向上・・・個人の尊重
⑤価値観にもとずく実践(フィロソフィー)・・組織体の持つべき基本的な考え方
⑥基軸から離れない・・・自分でどうやったら良いかわからない業種は買収しない
⑦簡素な組織・小さな本社
⑧きびしさと緩やかさを同時にたもつ
ローソンの新浪社長は、三菱商事の出身であり、1991年にアメリカ留学をし、MBAを取得している。この『エクセレント。カンパニー』(In Search for Excellence)を読んでいたかどうかは分からない。しかし、これからご紹介するところの新浪のローソンでの苦闘の歴史を振り返ってゆくと、上記に挙げられた超優良企業の八つの基本的特質をかなり含んでいるように見受けられる。
では、新浪はどのようにローソンを変革して行ったのだろうか。
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(2002年5月)新浪(当時42歳)はローソン社長に就任した。株価は、ダイエー中内からの懇請をうけ、三菱商事がダイエー傘下のローソン株を20%引き受けた時から、大きく下落しており三菱商事は不良債権を抱えていた。その株式を買いまし、28%を持ち株比率となった。経営陣の大幅刷新もおこなったが、効を奏せず、5月にダイエーは完全に手を引くことになった。当時ダイエーから送り込まれた余剰人員、組織のモラール低下、コンビニ経営の生命線であるITや物流網は非効率で運用コストも高かった。加盟店の資質も悪かった。満身創痍の中で、社長に就任して2ヶ月後、新浪は三菱商事から籍を抜くことで退路を断った。
(一番おいしいおにぎりを作ろう)就任早々、おにぎりに異物が混入するというアクシデントが起きた。新浪は、事実をすべて公表し、事態に正面から向き合った。新浪は社員を激励し、商品開発部に素人を送り込み、加盟店を支援する運営部にやらせた。新潟産コシヒカリの使用、鮭のはらの使用、、コスト削減などに取り組み、168円の高級おにぎりを発売、発売後2ヶ月で、1億個を売る切る大成功になった。組織は競合に対する「自信」と経営に対する「信頼」を取り戻しはじめた。これが、改革の第一歩であった。
(田舎コンビニ~ダイバーシティと分権)当時最強のコンビニチェーンは、セブン・イレブンであり、越えがたい壁であった。ローソンは、セブンにはなれない。店舗網ひとつとっても。それが現実だった。全店売上高、店舗数、平均日販、などの指標で戦力を単純比較すれば。「勝てない」
新浪は戦力を集中投下して勝てる局地戦に勝つ、勝てないならイノベーションをして戦いのルールを変える。「勝てない」という先入観と諦念を打ち壊してゆく。こ考え方で、セブンに挑んだ。
均質なサービスがうけられるという、これまでのコンビニの概念を変え、多様性という考え方を導入した。たとえば、女性向け自然派食品を揃えた「ナチュナルローソン」、生鮮食品も扱う「ローソンストア100」、処方箋薬局の「クオール」、高齢者が来て、雑談に花を咲かせる「ハッピー・ローソン」などなど。外国人社員も積極的に登用して、モノカルチャーからは生まれない発想を取り入れた。
セブンの徹底した中央集権と違い、正反対の「地方分権」で、徹底的に現場 への権限移譲を図った。その一例が、東方発のイノベーションで生まれた手作りおにぎり(店舗で炊飯する)であった。
(オーナーの地位を上げるーミステリーショッパーの導入)オーナーの質の低さに愕然とした新浪は加盟店オーナーに三つのことの徹底を要求した。
①マチのお客様に喜んでいただけるお店・売場づくり
②お店とマチをきれいにする
③心のこもった接客
言い換えれば、品揃え・接客・清潔さの三点である
これを徹底するため、覆面調査員(ミステリーショッパー)制度を導入した。年2回、全店舗を抜き打ち検査する。これに、毎年およそ30億円のコストをかけた。この三つの基礎ができない加盟店は契約を解除した。この導入にともない、2005年58点だった平均スコアは、2012年78点と大きく改善した。
注)この三つのようなことは当たり前に見えるかもしれない。しかし、できていなかったのだ。
(加盟店オーナ-にも「分権」)2010年にマネージメント・オーナー制を導入した。加盟店に対しMSという顧客視点の基準を用意し、サービスの向上をもとめた。それを高い水準で超えたオーに対しては、本部の権限さえあたえた。日本型フランチャイズチェーン経営の根幹を否定するような前代未聞の仕組みだ。
(「個」に解きほぐされた消費をつかむ)ーCRMへの挑戦
POSのパラダイムを超えた顧客関係管理CRMを目指している。ポイントカード導入により、従来のPOSシステムのパラダイムを乗り越え。またビッグ・データをナマのまま保存、解析し、店舗の商品発注制度をあげた。
もうひとつは、ソーシャルメディアの徹底活用である。LINE、フェイスブック、ツイッターの会員数はローソンが遥かに先行している。これは、新規顧客獲得につながってゆくことが期待されている。
(強さのために組み替える)2010年前後から新浪はローソンの主力事業を三本の柱で考えるようになっていった。
①国内コンビニ事業
②海外コンビニ事業
③EC(電子商取引)やエンターテインメントに関する事業
そして2011年3月、ローソンの組織を大きく変えた。上記の三つを
事業ユニット化し、それぞれにCEOを建てて、三つを等しく主力事業に育てるというものだ。これら新分野のために経営リソースを捻出すべく、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を行い、間接部門を中国大連の企業にアウトソーシングを行った。この中で、海外事業グループのCEOは新浪が兼ねている。海外進出は、セブン、ファミリーマートの後塵を拝しているが、今後上海などで発展が期待される。
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以上で新浪の改革の歩みをみてきた。この本は、これで終わる。だが、その結果ローソンはどうなったのであろうか、(その2)では、ローソンの経営実態を数字でみてみる事にする。また新浪のローソン外での活躍にもふれて見たい。
現ローソン社長の新浪剛史は2002年5月、三菱商事からローソンに出向した。当時ローソンは、ダイエー傘下にあり、その経営は極度の不振を極めていた。現在のローソンの状況からは、想像もできないほどであった。社長に就任して2ヶ月後、新浪は三菱商事から籍を抜き、その退路を絶った。それ以来の奮闘ぶりを、ライター池田信太郎は、『個を動かす』という著書で見事に描きあげた。かなり思い入れもある本ではあるが、人間新浪剛史の生き方を詳述した好著である。その内容をを紹介しながら、ローソン経営の実態に追って見たいと思う。
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読書/経営 ローソンの経営と新浪剛史~『個を動かす』(池田信太郎著)を中心として
企業経営については、長い間深い関心を持ってきた。一つには、自分自身が関わっていた研究開発が経営全体の中でいかにあるべきかを考えつづけてきたからであり、また最近は投資対象として企業をみる時に、その経営の実態を注視しなければならないからである。
さて投資対象として企業を見るときに、二つの視点から見るようにしている。一つは業績や財務の状況など経営を定量的に、つまり株価収益率(PER)や自己資本利益率(ROE)、売上高や利益の伸び、あるいはキャッシュ・フローの状況などなどの数字を見る。
もうひとつの視点は企業の経営哲学とか経営者の理念や考えかたなど数字では読み取れないものである。中長期的なレンジでの成長の可能性など将来の伸びを見るときには、この見方はかかせない。アメリカの超優良企業の条件を探った『エクセレント・カンパニー』(T・J・ピーターズ&R・H・ウオータ-マン)は、原著が1982年刊という古いものであるが、今でもその優れた企業の条件を語って、まれにみる優れた著書である。その中で上げられた企業の一例ををならべれば、ベクテル、キャタピラー、デルタ航空、フルオア、IBM、ジョンソン&ジョンソン、P&G、スリーMなどである。これらの企業は、今日でもNY市場のダウ30種に入っており、今でも着実な成長をしめしている。この著書で、革新的な超優良企業をよく特長づける八つの基本的特質は、以下のようなものである。
注)このうち3Mについては、私自身、その事業経営の多角化が他社に先んじて優れたものであることに着目し、1970年に同社本社(セントポール。ミネソタ)を訪れて事業の多角化、研究開発のありかたについ意見交換したことがある。まだ30歳そこその時である。よくそんな若造を快く受け入れてくれたものだと今でも感謝の念が消えない。
①行動の重視・・・・・やってみよ!だめなら直せ! 試してみよ!
②顧客に密着する
③自主性と企業家精神・・・社員が創意にあふれている
④ひとを通じての生産性向上・・・個人の尊重
⑤価値観にもとずく実践(フィロソフィー)・・組織体の持つべき基本的な考え方
⑥基軸から離れない・・・自分でどうやったら良いかわからない業種は買収しない
⑦簡素な組織・小さな本社
⑧きびしさと緩やかさを同時にたもつ
ローソンの新浪社長は、三菱商事の出身であり、1991年にアメリカ留学をし、MBAを取得している。この『エクセレント。カンパニー』(In Search for Excellence)を読んでいたかどうかは分からない。しかし、これからご紹介するところの新浪のローソンでの苦闘の歴史を振り返ってゆくと、上記に挙げられた超優良企業の八つの基本的特質をかなり含んでいるように見受けられる。
では、新浪はどのようにローソンを変革して行ったのだろうか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(2002年5月)新浪(当時42歳)はローソン社長に就任した。株価は、ダイエー中内からの懇請をうけ、三菱商事がダイエー傘下のローソン株を20%引き受けた時から、大きく下落しており三菱商事は不良債権を抱えていた。その株式を買いまし、28%を持ち株比率となった。経営陣の大幅刷新もおこなったが、効を奏せず、5月にダイエーは完全に手を引くことになった。当時ダイエーから送り込まれた余剰人員、組織のモラール低下、コンビニ経営の生命線であるITや物流網は非効率で運用コストも高かった。加盟店の資質も悪かった。満身創痍の中で、社長に就任して2ヶ月後、新浪は三菱商事から籍を抜くことで退路を断った。
(一番おいしいおにぎりを作ろう)就任早々、おにぎりに異物が混入するというアクシデントが起きた。新浪は、事実をすべて公表し、事態に正面から向き合った。新浪は社員を激励し、商品開発部に素人を送り込み、加盟店を支援する運営部にやらせた。新潟産コシヒカリの使用、鮭のはらの使用、、コスト削減などに取り組み、168円の高級おにぎりを発売、発売後2ヶ月で、1億個を売る切る大成功になった。組織は競合に対する「自信」と経営に対する「信頼」を取り戻しはじめた。これが、改革の第一歩であった。
(田舎コンビニ~ダイバーシティと分権)当時最強のコンビニチェーンは、セブン・イレブンであり、越えがたい壁であった。ローソンは、セブンにはなれない。店舗網ひとつとっても。それが現実だった。全店売上高、店舗数、平均日販、などの指標で戦力を単純比較すれば。「勝てない」
新浪は戦力を集中投下して勝てる局地戦に勝つ、勝てないならイノベーションをして戦いのルールを変える。「勝てない」という先入観と諦念を打ち壊してゆく。こ考え方で、セブンに挑んだ。
均質なサービスがうけられるという、これまでのコンビニの概念を変え、多様性という考え方を導入した。たとえば、女性向け自然派食品を揃えた「ナチュナルローソン」、生鮮食品も扱う「ローソンストア100」、処方箋薬局の「クオール」、高齢者が来て、雑談に花を咲かせる「ハッピー・ローソン」などなど。外国人社員も積極的に登用して、モノカルチャーからは生まれない発想を取り入れた。
セブンの徹底した中央集権と違い、正反対の「地方分権」で、徹底的に現場 への権限移譲を図った。その一例が、東方発のイノベーションで生まれた手作りおにぎり(店舗で炊飯する)であった。
(オーナーの地位を上げるーミステリーショッパーの導入)オーナーの質の低さに愕然とした新浪は加盟店オーナーに三つのことの徹底を要求した。
①マチのお客様に喜んでいただけるお店・売場づくり
②お店とマチをきれいにする
③心のこもった接客
言い換えれば、品揃え・接客・清潔さの三点である
これを徹底するため、覆面調査員(ミステリーショッパー)制度を導入した。年2回、全店舗を抜き打ち検査する。これに、毎年およそ30億円のコストをかけた。この三つの基礎ができない加盟店は契約を解除した。この導入にともない、2005年58点だった平均スコアは、2012年78点と大きく改善した。
注)この三つのようなことは当たり前に見えるかもしれない。しかし、できていなかったのだ。
(加盟店オーナ-にも「分権」)2010年にマネージメント・オーナー制を導入した。加盟店に対しMSという顧客視点の基準を用意し、サービスの向上をもとめた。それを高い水準で超えたオーに対しては、本部の権限さえあたえた。日本型フランチャイズチェーン経営の根幹を否定するような前代未聞の仕組みだ。
(「個」に解きほぐされた消費をつかむ)ーCRMへの挑戦
POSのパラダイムを超えた顧客関係管理CRMを目指している。ポイントカード導入により、従来のPOSシステムのパラダイムを乗り越え。またビッグ・データをナマのまま保存、解析し、店舗の商品発注制度をあげた。
もうひとつは、ソーシャルメディアの徹底活用である。LINE、フェイスブック、ツイッターの会員数はローソンが遥かに先行している。これは、新規顧客獲得につながってゆくことが期待されている。
(強さのために組み替える)2010年前後から新浪はローソンの主力事業を三本の柱で考えるようになっていった。
①国内コンビニ事業
②海外コンビニ事業
③EC(電子商取引)やエンターテインメントに関する事業
そして2011年3月、ローソンの組織を大きく変えた。上記の三つを
事業ユニット化し、それぞれにCEOを建てて、三つを等しく主力事業に育てるというものだ。これら新分野のために経営リソースを捻出すべく、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を行い、間接部門を中国大連の企業にアウトソーシングを行った。この中で、海外事業グループのCEOは新浪が兼ねている。海外進出は、セブン、ファミリーマートの後塵を拝しているが、今後上海などで発展が期待される。
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以上で新浪の改革の歩みをみてきた。この本は、これで終わる。だが、その結果ローソンはどうなったのであろうか、(その2)では、ローソンの経営実態を数字でみてみる事にする。また新浪のローソン外での活躍にもふれて見たい。