年末のクッキー作りはもう、義母のDNAに刻み込まれた本能のようなものだと諦めてはいるのだが、毎年毎年奴隷状態で彼女の手伝いをするのは辛いものだ。
何をどのくらい焼くかとか、材料を集めたりとか、こねたりする面白い部分は彼女の独占で、私がやることといえば形になった生地を天板に並べるとか、焼きあがったクッキーに砂糖をまぶしたり缶に入れたりするという脳みそを使わない退屈な作業だ。
ここに来てからこの立場は一向に変わらない。
「もっと自主的に自分がやりたいと主張しろ」とコメントをいただきそうだが、本音を書かせてもらえばクリスマス前にあんなに膨大な量の菓子を焼くのは狂気の沙汰としか思えない、つまり、やりたくないのだ。
パラサイト嫁としてはせめて、家賃相当分くらいは彼女のために働かなくてはならない、と半ば労働のつもりで参加している。実際、これはいい動機だ。
が、もう、次々と毎日毎日呪われたように焼いている義母傍らにいると、家賃以上に働いた気分になっていく。
先日の夕方、まだオーブンの中に焼き上げ中のクッキーがあったが、限界を感じた。
急に思い立って「これからクリスマスマーケットに行ってきます」と義母に恐る恐る尋ねると、許可が下りたぞ。さては私の全身から漲る「やりたくないオーラ」を感じたか?
すでに外は真っ暗。夜の一人の外出を許されるようになったのは盛大な進歩だな、うほほ。
ウチからバスで10分ほどのこの集落の中心で3日間だけ開催されたクリスマスマーケットだ。
規模は小さいけど、たくさん人が集まっていた。ああ、家にこもりっぱなしは本当に精神衛生によくないな。
一時間ほどうろうろとしただけで、機嫌はすっかり良くなった。
さあ、残り数日のクッキー作り、奴隷を演じきることにしようぞ!