(ウォール・ストリート・ジャーナル)世界の主要中央銀行にとって、バランスシートは危機にまみれた世界経
済に対応するうえで無くてはならない手段になっており、2012年もこの武器を使い続けるようだ。
08年の危機以前は、大半の中央銀行は短期金利を小幅に上下させることで、信用やインフレ、経済成長を管理し
ていた。最近では、米国、英国および日本の短期金利がゼロ近辺で推移し、ユーロ圏の政策金利もゼロからそう
遠くない水準にあるなか、世界の主要中銀は非伝統的な融資を導入し、有価証券の保有残高を増やしてきた。エ
コノミストはこうした措置を、中銀資産の増加につながることからバランスシートの拡大と呼んでいる。
この政策は、家計および企業向け融資を増やし、消費と投資を促進するとともに、金融市場が08年のような機能
不全に陥らないようにすることを目指している。
その戦術はさまざまだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は長期国債と住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れに焦
点を当ててきた。欧州中央銀行(ECB)は銀行に長期融資を直接提供している。日本銀行は株式市場と社債市場に
まで足を踏み込んでいる。
先進国の経済成長が低迷するなか、欧州で新たな金融不安の脅威が増しているほか、インフレは世界的に低下の
兆しをみせている。このため、アナリストらは、中銀のバランスシートは今後数カ月にわたり拡大の一途をたど
るとの確信を深めつつある。
「一部のバランスシートは急拡大するだろう」と、FRBの元国際調査部長で現在はシティグループの国際エコノ
ミストを務めるネイサン・シーツ氏は言う。
FRBが新たなMBS買入措置を導入する一方、英中銀イングランド銀行は国債買入枠を拡大し、ECBも銀行融資と債
券買入の両方を強化するだろうと、シーツ氏は予想している。日銀の措置はこれまで小出しになりがちなうえ、
不動産投資信託(REIT)の買い入れなど珍しい市場に政策対象を広げているが、こうした政策は今後も続く見通
しだという。
バーナンキFRB議長は25日の記者会見で、FRBは債券の追加買入も検討していることを強く示唆した。景気回復が
加速しない場合や、インフレが大幅鈍化の兆しを見せた場合は、FRBが追加措置を講じる「可能性が極めて高い」
と議長は指摘した。
資産買入は、その効果や悪影響の可能性について議論を呼んでいる。反対派は政策が景気浮揚につながっていな
い点を指摘しているが、賛成派は、買い入れを行っていなければ景気は今よりも悪化していただろうと主張して
いる。
反対派はまた、資産買入がインフレに拍車をかけると非難している。中央銀行はMBS買入や銀行への長期資金供
給を行う際、積み上がりつつある資産と引き換えに、投資家や銀行の口座に現金を振り込むことで、金融システ
ムに大量な資金を注入する。中銀が生み出す新たな現金は、その国の通貨を弱めるか、インフレを引き起こす可
能性がある。10年と11年初めに原油や小麦などの商品相場が世界的に高騰し、多くの消費者に被害が及んだ原因
は、量的緩和(QE)として知られる資産買入にあると指摘する向きもある。
バーナンキ議長は25日、過去数年間耳にしたインフレへの警告は実証されていないと論じた。たとえば、商品価
格は11年下半期に軟化した。
「インフレは今後数年間かなり低い水準で推移すると予想させるだけの要因が、数多くある」と議長は述べ、「
11年はじめに消費者物価を押し上げた商品価格の上昇が、反転あるいは少なくとも横ばいに転じているのは間違
いない」と指摘した。
ECBは昨年末、ドラギ新総裁の下で危機対応を強化させた。2カ月連続の利下げを通じて、主要政策金利を1.00%
まで引き下げ、昨年の春と夏の利上げを解消した。
エコノミストの間では、ECBのバランスシート拡大政策が市場の安定化に最も奏功したとの指摘もある。しかも
、ECBにはさらに拡大余地がある。ドイツ銀行のチーフエコノミスト、トマス・マイヤー氏は、「(ECBのバラン
スシートは)かなり大きくできる可能性がある。上限はない」と語った。
ECBは欧州の銀行に新たに3年物資金を5000億ユーロ(6550億ドル)近く供給したほか、国債と銀行が発行したカ
バード債の買い入れを続けた結果、バランスシートは先週時点で2兆7000億ユーロへと膨れあがった。
(続く)
ECBの資産は現在、ユーロ圏の域内総生産(GDP)の30%近くに相当する。この割合は、米GDPの19%程度に相当す
るFRBの資産をはるかにしのぐ。ただし、FRBの資産規模は、2兆9000億ドルある。その一方、FRBのバランスシー
トはECBよりも急速に拡大している。2007年以降、FRBの資産規模は3倍余りに拡大したのに対し、ECBは2倍超にと
どまっている。
ECBの規則は、加盟各国政府の資金繰りをまかなうことを禁じており、限定的な国債買入でさえも欧州内で物議
を醸している。対照的に、ECBの銀行向け貸出残高は8000億ユーロを超えており、他の中央銀行の貸出残高を大幅
に上回っている。
ECBは3年物資金供給を来月さらに行うが、ECB関係者は高い需要をまた集めると予想している。さらに、貸し出
しの担保として受け入れる資産もECBは拡大している。ECBのバランスシートは、年末までに3兆ユーロを優に超え
るだろうとアナリストらはみている。シティグループのシーツ氏は、FRBが資産をさらに5000億ドルないし6000億
ドル増やし、総額を3兆ドル以上に押し上げると予想していると語った。
これらのバランスシートの構成が、大きな問題となる。FRBとイングランド銀行は、おおむね安全な国債を買い
入れてきた。しかし、ECBは投げ売り状態のポルトガル国債やギリシャ国債、リスクの高いイタリア国債やスペイ
ン国債を買い入れ、南欧やアイルランドのぜい弱な金融機関に数千億ユーロを貸し出してきた。
ECB関係者らは、リスクをヘッジするために、担保に掛け目をつけていると指摘し、ECBのバランスシートは安全
だと主張している。しかし、金融機関への貸し出しは、ECBが被るであろう避けられない損失を先送りしているだ
けとの批判がある。
ドイツのシンクタンク、Ifo経済研究所のハンスベルナー・ジン所長は、「誰かが債務を返済できず、リスクを
先送りするだけのためにさらに資金を貸せば、リスクはさらに大きくなる」と指摘した。
中銀のバランスシート拡大に関しては、イングランド銀行が最も積極的だ。イングランド銀行は、08年~09年の金融危機以降、バランスシートの規模を3倍以上に拡大した。ほとんどが金利を押し下げるための2750億英ポンド(4310億ドル)の国債買入措置によるもので、この措置により英国の景気下ぶれの衝撃が和らいでいるとエコノミストらは評価している。
イングランド銀行の資産規模は3000億英ポンド程度で、英国のGDPの5分の1に相当する。昨年10-12月期にGDPが
減少し、インフレが減速したことで、早ければ来月にも資産買入を500億英ポンド追加し、今年終盤にさらに500
億英ポンド増やすことになる、とロイヤル・バンクオブ・スコットランドのエコノミスト、リチャード・バーウ
ェル氏はみている。
シティグループのシーツ氏は、さらに大規模な拡大になる可能性さえあると言う。「イングランド銀行は、QEの
王者だ」と指摘した。
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