リーメンシュナイダーを歩く 

ドイツ後期ゴシックの彫刻家リーメンシュナイダーたちの作品を訪ねて歩いた記録をドイツの友人との交流を交えて書いていく。

15. クレークリンゲン

2015年06月13日 | 旅行

旅日記 No.13

 クレークリンゲンのマリア祭壇

 2000年に初めてクレークリンゲンを訪ねたときには、祭壇が暗くてマリアの表情もよく見えなかったということを旅日記 No.8に書きました。そして2006年の留学中にアマチュアカメラマンのヨハネスと知り合い、ある新聞記事のコピーをいただいたのです。それは、クレークリンゲンにある「マリア祭壇」についての記事でした。タイトルは、「マリア像に射す日の光」といったような意味のものですが、ヨハネスはいつの何という新聞記事なのかわからないとのことですので、記事を書いた方には大変申し訳ないのですが、ごくかいつまんで紹介しておきたいと思います。失礼をお許しください。


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記事の概略

 ローテンブルク地方にはティルマン・リーメンシュナイダーの手になる有名な祭壇が3つあるが、その最も有名なものがクレークリンゲンの「マリア祭壇」である。
 かねてから8月15日には「マリアの昇天」祭が執り行われていた。この日の夕方、沈みゆく夕陽が(祭壇の反対側の壁にあるゴシック様式の)薔薇窓から入ってくるのだ。そしてまさに天に向かって昇ろうとするマリアの上に日の光が輝くのである。今日でも私たちはその光景を見ることができる。
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 このあと、記事は詳細な昇天祭の歴史をたどって書かれているのですが、ここでは省略して先に進ませていただきます。

 祈りを捧げるマリアの手と顔に、この薔薇窓を通って日の光が当たり、荘厳な昇天の瞬間に居合わせるようなシーン。2006年8月17日にその瞬間をヨハネスが写しとったスライド<作品写真29 『祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く』の表紙の元となった写真です>と、1枚の絵はがきを私にくれたのです。「スライドはMidoriへのプレゼントだよ。ホームページにも本にも使っていいよ。でもこの絵はがきを使ってはダメだよ。ぼくが写した写真ではないからね。」と、注意書きを添えて。今まで3回ここを訪ね、写真を撮りたくてもなかなか写せなかったマリア像。確かに肉眼でも見えるのですが、私は視力も悪いせいか、暗い奥まったところにあるマリア像の表情はあまりよく見ることができず、あきらめていたのです。次回、もしローテンブルクに来る機会があったら、それは絶対に8月15日。この決心を胸に、2007年の旅は始まったのでした。

 念願の8月15日がやってきました。気になるのはお天気です。午前中、良く晴れて雲もなく、ホッとしました。ヨハネスとは11時に聖ヤコブ教会で待ち合わせ。ここで説明を聞いてから出かける予定でした。少しこの可愛らしい街でショッピングをしたいので、朝のうちに街を回る時間を取らせてもらったのです。夫は市庁舎の上から街を見下ろし、写真にとって満足。娘は目的の人形が見つからないのが少々残念だったようでした。私は疲れて広場で二人を待ちました。
 11時少し前に教会に入ると、ヨハネスがすぐに現れました。祭壇のある部屋に上がると、ちょうどツァーの団体が入ってきて解説者が来たので、私たちはがまんして説明が終わるのを待ちました。ヨハネスもいろいろ説明したいことがあったようですが、私は去年聞いているし、夫も娘も3回目だったので最後は雰囲気を察してはしょってくれたようです。ただ、私が知りたかったのは、1年に一度、鍵でユダを取り除き、キリストの膝に寄りかかる福音史家ヨハネを見ることのできる日はいつなのかということでした。しかし、この滔々と説明をした解説者もヨハネスも、そのことはわからないそうです。最近は一切鍵を使わず、ユダを取り除くことはないという話でした。それならいつ頃までやっていたのかと聞いても二人とも首をかしげるだけ。しつこく聞いてみたのですが、「何でそんなことにこだわるのかなぁ」という感触でした。残念。どこかに文献があるといいのですが。以前やっていて、今はやらなくなった理由が知りたいのです。                                

 肝心のクレークリンゲンは夕方が見所だとのこと。「それまでは時間があるので、まずシュバインツドルフに行くよ」と言われてびっくりしました。日本語に訳せば「ブタの村」という面白い名前の村なのですが、以前ブダペストで見た聖母子像(旅日記No.7 参照)がこの村の所有だということが7月になってわかったのです。娘が写した写真で、足元に見えている解説札を精一杯大きく引き延ばし、かすれた文字から推測したところ、Schweinsdorfという地名が何とか読み取れたのでした。ところがこの村がどこに位置するのかわからないのです。Googleでも調べてみましたが最後までたどり着けず、ヨハネスにこの村について何か知っていることはないかとメールで聞いてみたのでした。
 車の中で、彼は、
「Midoriからシュバインツドルフを知らないかと聞かれたとき、ぼくは笑ってしまったんだよ。だって家のすぐ近くなんだ。ここの教会にあった聖母子像をブダペストがどうしても買いたいといったので、そのかわりにレプリカを作ってもらったんだそうだ。」
と、説明をしてくれました。知っていたのならそうと知らせてくれればいいのに、ヨハネスは私をびっくりさせたかったのでしょう。今となってはあの聖母子像をドイツで見ることができないとわかり、惜しいことだと思いました。でも気になっていた謎が7年ぶりに解けてホッとしたのも事実です。このレプリカは、残念ながらオリジナルの美しさには十分迫っていないように思いました。

 午後はヴェトリンゲンという村の聖ペーター・パウル教会にリーメンシュナイダー派の作品があるというので連れて行ってくださいました。教会にはすぐに着いたものの、鍵を持っている人がわからないのです。杖をつきながらあちらこちら尋ねて回るヨハネスの姿に胸が痛んでなりませんでした。私が一緒に回っても、何も手助けできないのです。やはりドイツ語をしっかり話せなければ、こういうときに役に立てないんだと痛感しました。小一時間かけて、ようやく鍵の持ち主を見つけ、教会を開けてもらえました。中にあったのは、なかなかよくまとまった磔刑像でした。どこかの本でこの祭壇の写真を見たことがあるように思うのですが…。探してみたらありました。『リーメンシュナイダーの世界』の93頁に写真が出ていました。ユストス・ビーアという著名なリーメンシュナイダー研究者が、この祭壇はハンス・ボイシャーというリーメンシュナイダーの高弟が彫ったものだと結論を出しているそうです。シュヴェービッシュ・ハルの出身です。

 このあと、車は美しい景色の中を一路クレークリンゲンに向かいました。ヘルゴット教会は小さい教会で、普段は静かなのですが、さすがにこの日はほぼ座席が一杯になるぐらい人が集まっていました。幸い、私たち4人は最前列に座って日の光が徐々に祭壇にかかるところからマリアの顔がくっきりと浮き上がってくるまでをたどることができました。午後は雲が多くなり、ときどき日が射すという状態でしたから、パーッと祭壇が明るくなると余計に深い感動を覚えました。何枚も写した中から、私自身が一番よく撮れたと思う写真<写真29>をここに載せておきます。ヨハネスの素晴らしい芸術作品と並べるのは気が引けますが、祭壇の全体像をご覧に入れるために。
 翌16日、私はヨハネスからDVDを受け取り、彼の素晴らしい写真をコピーすることができたのでした。ヨハネスとの出会いがなければ、私には写真集を出版する力量はありませんでした。天国のヨハネスに改めて感謝のことばを送ります。ヨハネスのおかげです。本当にありがとうございました。 


  
<作品写真29> 2006年8月17日午後6時頃のマリア像 Tilman Riemenschneider
  マリア祭壇(1505~1510年):ヘルゴット教会、クレークリンゲン
  写真:Johannes Pötzsch    

  Copyright ©Johannes Pötzsch All rights reserved.

                         

 
<作品写真30> 2007年8月15日午後6時頃のマリア像 Tilman Riemenschneider
 
 マリア祭壇(1505~1510年):ヘルゴット教会、クレークリンゲン
 
   写真:Midori FUKUDA

     
 転写・複写は固くお断りします。 

 

  ヘルゴット教会は8月15日から30日までは、特別に夕方6時半までオープンしているようです。皆さんがこの荘厳なひとときに参加できますことを祈っています。

 ※4月から10月までは6時で閉館します。それ以外の期間は午後4時までですのでご注意ください。また、2010年に赴任されたトーマス・ブルク牧師は「心の目で見て欲しい」と、撮影を禁止されていますが、写真が欲しい方にはホームページからダウンロードできるようになっています。
 http://www.herrgottskirche.de/   

 ※ このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015 Midori FUKUDA,  Johannes Pötzsch     

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