Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

卒業研究(04)

2020-05-25 | 日記
 練習答案の作成
 論点と論述の順序
(1)甲はVを欺いてA名義の預金口座に50万円を振り込ませた行為は詐欺罪にあたるか。財物詐欺罪か、それとも利益詐欺罪か。

(2)乙は甲に振り込め詐欺の手法を指南し、犯行を繰り返していたが、本件V被害者の詐欺について共謀共同正犯または幇助犯が成立するか。

(3)丙はAの預金口座から50万円を引き出そうとしたが、取引が停止されていたため、引き出すことができなかった。これは窃盗未遂罪にあたるか。

(4)丙の窃盗未遂罪につき、甲に共謀共同正犯が成立するか。

(5)乙にも丙の窃盗未遂罪につき共謀共同正犯が成立するか。

 練習答案の例
( 1 )甲はVに現金50万円をA名義の預金口座に振り込ませた
(1)甲の罪責について
1)甲はVの息子でないにもかかわらず、息子を装って、交通事故の示談金50万円が必要であると欺いて、VにA名義の預金口座に50万円を振り込ませた。この行為は、詐欺罪(刑246条)にあたるか。

2)詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させること(財物詐欺罪:246条1項)、または財産上不法の利益を得、または第3者に得させることである(利益詐欺罪:246条2項)。欺くとは、人に虚偽の事実を告知するなどして真実と誤信させることをいう。財物の交付とは、その錯誤に基づいて財物を引き渡して、欺罔行為者の支配領域に移転させることをいう。財産上不法の利益を得るとは、債権の取得または債務の免除など財物以外の利益を処分させて、それを得ることをいう。欺く行為は、たんなる虚偽の事実の告知では足りず、財物の交付または利益の処分を引き起こす性質を有するものでなければならない。欺く行為が開始された時点で詐欺罪の実行の着手が認められる。相手方が錯誤に陥れられることを要しない。財物や利益が詐欺の行為者の事実上の支配領域内に移転し、自由に処分することが可能になった時点で既遂に達する。

3)甲はVに息子であるかのように装って、交通事故の示談金が必要であるという虚偽の事実を告げ錯誤に陥れた。これは欺く行為が開始されたといえる。しかも、この錯誤は母親であるVに息子を助けたいという気持ちを抱かせ、そのために現金50万円を振り込むことを決意させる意味を有しているといえる。Vはそのように錯誤に陥れられて、A名義の預金口座に50万円を振り込んだ。これによって詐欺罪が既遂に達するか。詐欺罪が成立する場合、それは財物詐欺罪か、それとも利益詐欺罪か。

4)Vは甲に欺かれて息子の交通事故の示談金としてAの口座に50万円を振り込んだ。Vが甲に50万円を直接手渡すなどの行為をしていれば、それは財物の交付にあたり、財物詐欺罪が成立する。しかし、Vは甲が指定したA名義の預金口座に50万円振り込んだだけであったので、甲に財物詐欺罪は成立しない。しかも、Vが50万円を振り込んだのは、甲の預金口座ではなく、Aの預金口座であったので、甲が50万円の預金債権という利益を得たということもできず、利益詐欺罪も成立しないように思われる。

 また、Aは預金通帳とキャッシュカードを甲に違法に売却し、口座に振り込まれた50万円の預金債権を適法に行使することができないので、甲がAに利益を得させということもできず、甲には第三者Aのための利益詐欺罪も成立しない。

 しかし、甲はAから違法に預金通帳、キャッシュカード、暗証番号を購入している。甲は、Aの預金口座に振り込まれた50万円の現金を自由に引き出すことができる状態にある。つまり、A名義の預金口座から自由に現金を引き出すことができる甲が、Vを欺いてA名義の預金口座に50万円を振り込ませせたということができる。この状態を踏まえるならば、甲がVを欺いてAの預金口座に50万円を振り込ませたことは、甲に50万円の現金を手渡し、甲の支配領域内に移転させたことと同視することができ。ゆえに、Vは、甲に欺かれて錯誤に陥れられ、甲に財物を交付したと評価することができる。

5)以上から、甲には財物詐欺罪が成立する。

(2)乙の罪責について
1)乙に甲の財物詐欺罪の共同正犯(刑60)が成立するか。

2)2人以上の者が共同して犯罪を実行した場合、その全員に犯罪の正犯が成立する。共同して実行する意思(共同実行の意思)に基づいて、犯罪にあたる行為を共同して実行(共同実行の事実)したことが認められる場合、その全員に犯罪の共同正犯が成立する。共同実行の事実は、犯罪の構成要件的行為の全部を共同している場合はもちろん、その一部を分担実行している場合でも認められ、共同実行者の全員は惹起された結果の全部に対して責任を負わなければならない。

3)犯罪が共同実行される前段階において、その共謀にだけ関与し、他の関与者が共謀にかかる犯罪を実行した場合、共謀にのみ関与した者にも共同正犯が成立するか。このような共同正犯を共謀共同正犯という。刑法60条は、「2人以上の者が共同して犯罪を実行した」と定め、犯罪の実行共同正犯を規定している。犯罪の共謀は犯罪の共同実行以前の行為であって、それを犯罪の共同実行と同視することはできないので、刑法60条には共謀共同正犯のような共同正犯の形態は含まれない。従って、共謀にのみ関与した者に刑法60条を適用して共同正犯の成立を認めることは、罪刑法定主義に反する。学説にはこのような批判がある。

 しかし、判例と学説の多くは共謀共同正犯を認める。ただし、共謀共同正犯の形態を認めるとはいっても、共謀の事実だけを理由に共謀共同正犯の成立を認めるわけではない。2人以上の者が共謀して犯罪の実行を相談・計画し、そのうちの実行者が共謀した通りに犯罪を実行した場合、共謀に関与した者が実行に関与していなくても、共謀の物理的・心理的な作用と犯罪の実行との間に因果的な関連がある限り、共謀にのみ関与した者にも共同正犯の成立を認めている。従って、実行者が共謀を超える犯罪を実した場合、共謀者にその共同正犯の成立を認めることはできない。

4)甲は乙に誘われて本件の方法に基づく詐欺罪を繰り返し行っていた。被害者から騙取した現金の7割は乙が取得し、甲は3割しか取得していなかった。甲はこれに不満を抱き、乙に無断で自分で他人の預金口座、キャッシュカード、暗証番号を入手して、本件犯行に及んだ。ただし、本件の犯行場所は乙が準備した部屋であり、使用した携帯電話も乙が準備したものであった。このようにして甲によって実行された詐欺罪につき乙の共謀を認めることができるか。

 甲が本件犯行を行った場所は、乙が準備した部屋であり、用いた携帯電話、電話帳も乙が準備したものであった。しかも、犯行の方法は乙から指示された通りのものである。このような点に鑑みると、本件の詐欺罪は、乙との共謀により物理的・心理的な因果作用の結果、行われたものということができる。たとえ、甲が乙に無断で本件の詐欺行為を行っていたとしても、また乙が甲のVに対する詐欺の犯行を認識していなくても、乙は甲と詐欺罪の実行を共謀して、実際にも甲が詐欺罪を実行している以上、それは乙との共謀の結果、実行されたものということができる。

 しかし、甲が準備した他人名義の預金通帳、キャッシュカード、暗証番号は、乙が準備したものとは異なる。また、詐欺によって取得された現金について、甲は乙に分け前を渡すつもりはなかった。この点に鑑みれば、本件犯行は乙との共謀において計画された詐欺とは異なるので、乙には詐欺罪の共謀共同正犯が成立しない。また、乙は甲の詐欺罪の実行を容易にしているが、甲が無断で詐欺を行うことを認識していないので、その幇助も成立しない。

5)以上から、乙には甲の詐欺罪の共謀共同正犯も、またその幇助犯も成立しない。

( 2 )丙はD銀行E支店ATMコーナーにおいて、現金自動払戻機から現金50万円を引き出そうとした

 甲は丙に50万円を引き出すことを依頼し、そのうち5万円を報酬として与えることを約束した。丙はD銀行E支店ATMコーナーにおいて、現金自動払戻機から現金50万円を引き出そうとした。

(1)丙の罪責について
1)丙はD銀行E支店(F支店長)のATMに立ち入り、キャッシュカードを入れ、暗証番号を押して、A名義の預金口座から50万円引き出そうとしたが、取引停止措置がとられていたため、引き出すことができなかった。丙に窃盗未遂罪が成立するか。

2)窃盗罪とは、他人の財物を窃取する行為である。他人が占有する財物を、その意思に反して自己の支配領域に移転する行為である。窃取にあたる行為を開始した時点で窃盗罪の実行の着手が認められ、財物が行為者の支配領域に移転した時点で既遂に達する。

3)銀行のATM内に蔵置された現金は、D銀行E支店のF支店長が管理しているものであって、窃盗罪の行為客体である他人の財物に該当する。キャッシュカードを入れて、暗証番号を押せば、通常は現金を引き出すことができるので、丙の行為は窃盗罪の実行行為である窃取を開始したといえそうである。しかし、銀行は警察の通報を受けて、A名義の預金口座の取引を停止する措置をとったため、丙が口座から現金を引き出すことができない状態にあった。このような場合においても、丙の行為は窃取にあたる行為を開始したといえるか。

4)犯罪の実行の着手は、法益侵害の現実的な危険性を有する行為が開始された時点において認めることができるが、その危険性の有無は、行為の時点において行為者の認識していた事情と一般人であれば認識しえた事情を基礎にしながら判断される。D銀行にはA名義の預金口座があり、そのキャッシュカードを入れて、暗証番号を押せば、現金を引き出すことができる。しかし、銀行によって取引が停止されていた。行為当時、丙は取引停止措置がとられていたことを認識していなかったし、一般人を基準にした場合もそのような措置がとられていたことを認識することはできないと思われる。そうであるならば、丙がキャッシュカードを入れて暗証番号を押す行為を行った時点で、銀行支店長の意思に反して、現金を自己の支配領域に移転させる現実的な危険性を認めることができるであろう。

5)以上から、丙には窃盗未遂罪(刑243条、235条)が成立するといえる。なお、丙が現金を引き出すためにATMに立ち入った行為については、建造物侵入罪(刑130条前段)が成立する。それと窃盗未遂罪とは牽連犯(刑54後段)になる。

(2)甲の罪責について
1)甲は丙にAの預金口座から50万円を引き出すことを依頼して、実行させた。甲に丙の窃盗未遂罪の教唆犯が成立するか。それとも、その共謀共同正犯が成立するか。

2)教唆とは、他人を教唆して犯罪を実行させることをいう。被教唆者である他人が犯罪の正犯であって、教唆者は他人に犯罪を実行させるだけである。その犯罪は、被教唆者である他人の犯罪であって、教唆者自身の犯罪ではない。

3)これに対して共謀共同正犯は、犯罪を共謀した者のうちの一部の者がそれを実行するのであるが、その犯罪は実行者のみならず共謀者の犯罪でもある。

4)丙はATMのA名義の預金口座から現金を引き出そうとして、それをできなかった。それは丙自身が5万円の報酬を受けるためであった。甲はそのうち9割の45万円を取得しようとしていたのであるから、丙が実行した窃盗未遂罪については、甲に共謀共同正犯が成立するといえる。

5)以上から、甲には窃盗未遂罪の共同正犯が成立する(刑243、235、60)。また、丙の建造物侵入罪についても、甲には共同正犯が成立する。

(3)乙の罪責について
1)甲・丙の窃盗未遂罪について、乙にも共謀共同正犯が成立するか。

2)甲は預金の引き出しを丙に依頼した。それは乙が指示した犯行の方法と同じであるが、乙はそれについて関知していないので、乙が共謀した犯行とは内容が異なるものである。

3)甲が計画した詐欺罪は乙との共謀によるものであったが、丙の関与についてまで共謀があったとはえいない。

4)従って、甲と丙の窃盗未遂罪についてまで、乙の共謀が物理的・心理的に及んでいるとはいえない。

5)以上から、乙には窃盗未遂罪の共同正犯は成立しない。

( 3 )結論
 甲には財物詐欺罪(刑246①)が成立する。また、丙との間で建造物侵入罪(刑130前)と窃盗未遂罪(刑243、235)の共同正犯が成立する。建造物侵入罪と窃盗未遂罪は牽連犯になる(刑54後)。財物詐欺罪と窃盗未遂罪は併合罪(刑45前)となる。

 丙には甲との間で建造物侵入罪と窃盗未遂罪の共同正犯が成立する。