Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第10回講義「刑法Ⅱ(各論)」(2013.12.03.)

2013-11-30 | 日記
 刑法Ⅱ(各論)第10回(12月03日) 社会的法益に対する罪――公共危険犯
(1)公共的危険犯 (2)騒乱罪・多衆不解散罪 (3)放火罪・失火罪
(4)出水罪    (5)往来妨害罪      (6)公衆の健康に対する罪
(1)公共的危険犯
 公共危険犯の意義――不特定または多数の人の生命、身体または財産に対する危険の惹起
・騒乱罪・多衆不解散罪=群集心理に動かされた集団が上記の危険を惹起する罪
・放火罪・失火罪=火力による危険惹起      ・出水罪=水力による危険惹起
・往来危険罪=公共交通機関の侵害による危険惹起 ・公衆の健康に対する罪=公衆の健康への危険惹起

(2)騒乱罪・多衆不解散罪
1騒乱罪(106) 集合した多衆による暴行・脅迫(集団犯)→公共の静謐・平穏への危険の惹起
 役割に応じた刑の法定 首謀者(1号)、指揮者・統率助勢者(2号)、不和随行者(3号)

2成立要件
多衆   :一地方における公共の平和・静謐を害するに足りる暴行・脅迫を行なう適当な多人数
       それに満たない場合→集団暴行罪・集団脅迫罪(暴力行為等取締法1条)
 集合   :集団の意味。組織化は不要。
 暴行・脅迫:共同意思にもとづいた集団による暴行・脅迫(集団のうちの一部の者では足りない)

騒乱罪への共犯規定(教唆・幇助)の適用の問題
 騒乱罪=必要的共犯としての集団犯(集団の内部で関与形態に応じて法定刑が決まっている)
 集団の構成員ではない外部の者による集団への教唆・幇助に共犯規定は適用できうるか?

3多衆不解散罪(107)
 暴行・脅迫するために集合した多衆が、権限ある公務員から解散命令を3回受けたにもかかわらず、
 解散しない不作為(真正不作為犯)  *騒乱罪の予備罪的性格

(3)放火罪・失火罪
1基本的性格 不特定または多数の人の生命・身体・財産に対する火力による「公共の危険」

2現住建造物等放火罪(108)
現に人が住居に使用しまたは現に人がいる建造物・汽車・電車・艦船または鉱坑を放火し焼損
 「公共の危険」の発生は「現住建造物の焼損」によって擬制される(抽象的危険犯)

客体 現住建造物・現在建造物・汽車・電車・艦船・鉱坑
    人が寝泊まりしている劇場のトイレ(積極:最判昭24・2・22刑集3巻2号198頁)
    回廊で接続された本殿・拝殿・社務所(積極:物理的・機能的一体性の肯定:最決平1・7・14刑集43巻7号641頁)
    耐火性・不燃性のマンション1階の外科医院(消極:仙台地判昭58・3・28刑月15巻3号279頁)

行為 目的物である建造物などに点火し(着手)→焼損(既遂)
    焼損=目的物の独立燃焼(独立燃焼説:通説)(最判昭23・11・2刑集2巻12号1443頁)
    建造物の焼損=公共の危険が擬制+αあり(建造物の内部にいる人に対する危険)

3非現住建造物等放火罪(109)
非現住・非現在建造物などに放火→焼損(公共の危険が擬制+αなし:現住建造物の場合より刑が軽い)

客体 非現住建造物・艦船・鉱坑
 1項:「他人所有の非現住建造物」 焼損(他者法益の侵害)によって「公共の危険」が擬制(抽象的危険犯)
 2項:「自己所有の非現住建造物」 焼損(自己法益の処分)+「公共の危険」の発生を要する(具体的危険犯)

 例:AはBと共同してBが所有する非現住建造物に放火し焼損した
   →Aは1項、Bは2項の放火罪
    65条①②の適用の問題か。109条①②の放火罪は身分犯か?→参考:横領罪における委託物

 公共の危険 現住建造物・他人所有の非現住建造物への延焼の危険?
        不特定・多数人の生命・身体・財産の危険?(最決平成15・4・14刑集57巻4号445頁)

故意 他人所有の非現住建造物の場合 その焼損の認識(そこに公共の危険の認識が含まれる)
    自己所有の非現住建造物の場合 その焼損の認識+「公共の危険」の発生の認識が必要か?
    判例:認識不要説(判例:最判昭60・3・28刑集39巻2号75頁〔110条〕)

*自己所有の非現住建造物を放火するときに、公共の危険の認識がある場合には、現住建造物または
他人所有の非現住建造物の放火罪の故意が認められ、それゆえ同罪の未遂が成立するので、自己所有
の非現住建造物放火は公共の危険の認識がない場合に成立すると解すべきである(判例の見解)。
しかし、公共の危険の認識と現住建造物放火の故意を同一視することはできない。また、自己所有の
非現住建造物の放火それ自体は不可罰であり、同罪の故意の実質は公共の危険の認識にあるので、そ
れなしに処罰するのは責任主義に反する。従って、認識必要説が妥当である。

4建造物等以外放火罪(110)
108条・109条に規定された物以外の物の焼損→「公共の危険」の発生が必要(具体的危険犯)

客体 現住建造物・汽車・電車・艦船(108)・非現住建造物・艦船・鉱坑(109)以外の物
    非建造物が他人所有の場合(1項)、自己所有の物の場合(2項)

故意 「非建造物」の焼損の認識+「公共の危険」の発生の認識が必要? 判例:認識不要説

5延焼罪(111)
 109②の罪または110②の罪を犯し、よって108・109①に規定する物に延焼させた場合
 110②の罪を犯し、よって110①に規定する物に延焼させた場合
 公共の危険の発生を要件とする自己所有物の放火罪の結果的加重犯

6消火妨害罪(114)
 火災の際に、消火用の物を隠蔽し、もしくは損壊し、またはその他の方法により消火を妨害する
 消火活動が妨害されることは要件として不要。公共の危険の発生・促進の抽象的危険

7失火罪(116)
 失火により、108、109①に規定する物を焼損し、109②、110条に規定する物を焼損し、
 よって公共の危険を生じさせた場合
 業務上過失・重過失(117の2)

8激発物破裂罪(117)
 故意に火薬、ボイラーその他の激発すべき物を破裂させて、108条、109①、109②、110条に
規定する物を損壊し、よって公共の危険を発生させた(故意犯としての激発物破裂罪:117①)
 過失激発物破裂罪(117②)、業務上激発物破裂罪(117の2)、重過失激発物破裂罪(117の2)

9ガス漏出罪・同致死傷罪(118)
 ガス、伝記または常軌を漏出させ、流出させ、または遮断し、よって人の生命、身体または
財産に危険を生じさせた場合

(4)出水罪(119以下)
 出水罪(119以下) 水利妨害罪(123)

(5)往来妨害罪
1基本的性格
 交通の安全を害することによって、不特定または多数の人の生命・身体に危険を及ぼす
2往来妨害罪(124①)・同致死傷罪(124②)

3往来危険罪(125)

4汽車転覆罪(126①)・船舶転覆等罪(126②)・同致死罪(126③)

5往来危険による記者転覆等罪(127)

6過失往来危険罪(129)

(6)公衆の健康に対する罪
 あへん煙に関する罪(136)
 飲料水に関する罪(142)

 第10回講義 練習問題

(1)騒乱罪・他衆不解散罪について

1騒乱罪と凶器準備集合罪の成立要件を比較し、両罪の関係について述べなさい。


2騒乱罪の「共同暴行の意思」の意義について判例の立場を説明しなさい。


(2)放火罪について
1放火罪の保護法益
 放火罪の保護法益について論じなさい。


2焼損の意義(放火罪の既遂時期)
 放火罪の既遂時期に関して判例はどのような立場に立っているか。
 また、それを批判する学説を論じなさい。


3放火罪の諸類型
 放火罪は、その行為客体が現住建造物、非現住建造物、非建造物である場合に応じて、
 法定刑が軽くされている理由を述べなさい。
 また、自己所有の非現住建造物や非建造物の放火の法定刑が軽い理由を論じなさい。


4複合建造物の構造的一体性
 Aは住人がいる集合住宅の空き部屋に放火し、焼損した。Aの罪責を論じなさい。
 Bは学生寮のトイレに放火し、焼損した。Bの罪責を論じなさい。
 Cは宿直室のある校舎の入口に放火し、焼損した。Cの罪責を論じなさい。


5現住建造物と非現住建造物が回廊・渡り廊下で接続されている場合の構造的・機能的一体性
 Aは平安神宮の神宮社殿に放火し、焼損した。神宮社殿と宿直室のある社務所は木造の回廊で接続
 されていた。Aの罪責を論じなさい。


6不燃性・難燃性の素材の建造物の場合の問題
 Aは、12階建マンションのエレベータ内の床上に、ガソリンをしみ込ませた新聞紙を置いて、
ライターでこれに点火し、エレベータの側壁の表面を約0・3平米を燃やした。しかし、この側壁は
準不燃性の素材で作られた展燃性のない化粧シートを表面に貼った鋼板で作られていた。
 マンションの各戸は現住建造物であるが、エレベータも現住建造物にあたるか。
 また、準不燃性の素材で作られた展燃性のない鋼板を燃やした場合でも「焼損」にあたるか。
 Aの罪責を論じなさい。

 Bは、耐火性・不燃性のマンションの一階にある外科病院に放火し、焼損した。この外科病院は、
マンションの住居部分から構造上も効用上も独立性が強く認められていた。Bの罪責を論じなさい。

7公共の危険の意義
 Aは、Xの住宅を焼損する目的で、その住宅に隣接したY所有の倉庫に火を付け、立ち去った。
 その直後にYが発見し、火が燃え上がったところで消し止めた。倉庫の火には、その燃焼作用が
 継続し、隣接するXの住宅に延焼し、それを焼損する現実的な危険性はなかった。
 Aの罪責を論じなさい。

 Bは、自己所有の倉庫の解体費用がなかったために、火を付けて焼損したところ、その火の勢いが
激しかったため、通行人が消防署に通報した。しかし、その火力は実際には隣接するXの住宅とY所
有の倉庫には延焼するほどではなかった。

8 放火と共犯
 Aと友人Bは共同して、A所有の倉庫を放火し、公共の危険を発生させた。
 Aは友人Bをそそのかして、A所有の倉庫を放火させ、公共の危険を発生させた。
 Aは友人Bをそそのかして、B所有の倉庫を放火させた、公共の危険を発生させた。

9 AはBをあの家は空き家だと偽って、Xの住居を放火させた、AとBの罪責を論じなさい。