Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第15週 刑法Ⅰ(2014.07.21.)

2014-07-20 | 日記
 第15週 罪数論と量刑論 (2014年07月21日)
(1)罪数論・総論
 行為者が罪を犯した罪が1個の罪なのか、それとも数個なのかを判断するための基準を明らかにするのが罪数論の課題である。それに対して科す刑の適正な種類と量を判断する基準を提供するのが量刑論の課題である。

1犯罪の個数
 何が犯罪の個数を決定する基準として相応しいか。行為者の意思決定の回数か。行為者が行なった行為の回数か。行為者が惹起した法益侵害の数か。それとも行為に対して構成要件該当性判断が成立する回数か。様々な基準が考えられる。構成要件論を基礎に据えた刑法の罪数論としては、行為に対して行なわれる構成要件該当性判断の数が犯罪の個数を算定する基準として重要な意味を持っている。
 例えば、XがAに向けて発砲したが、弾丸はBに命中した。Xは行為を1回行なったが、法益侵害としては2つの事実が生じ、それはAに対する殺人未遂罪の構成要件とBに対する殺人既遂罪の構成要件に該当する事実である。これら2つの罪は観念的競合の関係に立つ(刑54条)。犯罪の個数は、行為者の意思決定の回数や行なわれた行為の回数ではなく、あくまでも構成要件該当性の判断が成立する個数を基準にして判断すべきである。

2罪数の形態
 犯罪の個数の形態には、刑法上次のものがある。
・単純一罪 「1個の行為」が行なわれ、「1個の構成要件該当事実」が認定され、それが「1個の罪」として算定される場合である。それは、犯罪の数的形態の最も基礎的な単数形態である。
・包括一罪 「数個の行為」が行なわれ、「数個の構成要件該当事実」が認定されるが、「1個の構成要件該当事実」にまとめられ、「1個の犯罪」として算定される場合である。数個の行為と数個の構成要件該当事実が認定されているにもかかわらず、それがなぜ1個の構成要件該当事実・1個の罪にまとめられるのか。その根拠が重要である。
・科刑上一罪 「数個の行為」が行なわれ、「数個の構成要件該当事実」が認定され、「数個の罪」が成立するにもかかわらず、そのうちの最も重い罪の「1個の刑」によって処断される場合である。最も重い刑とは、法定刑の上限と下限について重い方によるという意味である。
・併合罪 「数個の行為」が行なわれ、「数個の構成要件該当事実」が認定され、「数個の罪」が算定されるが、それらを別々の裁判ではなく、1つの裁判で同時に審判することができる場合には、法定刑を比較して、最も重い罪の刑を加重して、その処断刑の範囲内で「1個の刑」を言い渡す場合場合である(主文は1個)。ただし、死刑や無期刑を科す場合は別途方法がある。また、諸般の事情から、各々別の裁判で審理された場合には科刑の方法が変更される。
・単純数罪
 「数個の行為」が行われ、「数個の構成要件該当事実」が認定され、「数個の罪」として算定され、「数個の罰」が言い渡される場合である(主文は数個)。これは、犯罪の数的形態の最も基礎的な形態(単純一罪)の複数形態である。

(2)犯罪の一罪性
1単純一罪――法条競合
 「1個の行為」が行なわれ、それによって「1個の法益侵害」が惹起され、「1個の構成要件該当事実」が認定された場合、成立するのは「1個の罪」である。しかし、その「1個の行為」に対して、条文の構成や意味内容などから、「複数の条文」が適用でき、「数個の罪」が成立しうるように見えることがある。これを法条競合という。
 法条競合の背景には、「法律のインフレーション」と呼ばれる現象がある。利益侵害が社会問題化し、それを処罰し、予防するために、国は国会で法律を制定して、犯罪として規制するが、それとは別に自治体は条例を制定して、法令違反行為として規制を行なうこともある(屋外広告物条例や迷惑行為防止条例など)。このように1個の行為に対して、法律と条例によって二重に規制ができる場合がある。しかし、そのような場合でも、1個の行為には1個の条文を適用して、1回しか処罰できない。複数の条文を適用して、複数回処罰するのは憲法39条に違反するからである。このような場合、どの条文を適用するのかは明らかではないが、その条文の規定形式、その相互の関係から「1つの条文」を選んで適用することになる。それには以下の関係がある。

・特別関係
 2つの罰条が「一般規定」と「特別規定」の関係にある場合である。例えば、単純遺棄罪と保護責任者遺棄罪、単純横領罪と業務上横領罪のように基本類型と加重類型の関係、または殺人罪と同意殺意罪のように基本類型と減軽類型の関係にある場合である。この場合、「特別法は一般法に優先する」の考えから、特別規定が優先的に適用される。
・補充関係
 一方の罰条が他方の罰条を「補充」する関係にある場合である。例えば、108条は現住建造物等放火罪を、109条は非現住建造物等放火罪を定め、110条は「前2条に規定する物以外の物」の放火罪として「現住建造物等以外放火罪」を定め、建造物等以外放火罪は、現住建造物放火罪・非現住建造物放火罪が適用されない領域を補充している。この場合、現住建造物・非現住建造物の放火には110条の摘要の可能性はなく、また建造物等以外の物に対する放火には108条・109条の適用の可能性はないので、二重規制の問題は生じない。この場合、「基本法は補充法に優先する」の考えが適用され、まず焼損された客体が現住建造物・非現住建造物か否かを判断して、それにあたらない場合に建造物等以外の物への放火が認定される。また、刑法の強制わいせつ罪と迷惑行為防止条例の迷惑行為の関係が「補充関係」である。
・択一関係
 一方の罰条と他方の罰条とが「択一的」な関係にある場合である。例えば、未成年者を営利目的で誘拐した場合、未成年者誘拐罪と営利目的誘拐罪のいずれも適用が可能であるが、この場合でも1個の条文しか適用できないが、法定刑の重い方が選択される。軽犯罪法の貼り札の罪と屋外広告物条例の関係もまた「択一的関係」である。

2包括一罪
「 数個の行為」が行なわれ、「数個の法益侵害」が惹起され、「数個の構成要件該当事実」が認定できるにもかかわらず、それらを包括的に評価して、1つの罰条が適用される場合である。数個の行為が行なわれ、数個の構成要件該当事実が認定されるので「単純一罪」ではなく、「数罪」であるが、刑を科す上で1罪として扱われる。その意味では「科刑上一罪」の性質に近い。
 数個の罪を包括して1罪として扱う理由はどこにあるのか。それは(ここが科刑上一罪と異なるところなのであるが)、「侵害法益の一体性」と「行為の一体性」にある。複数の法益侵害に一体性が認められるがゆえに、その違法性が実質的に減少し、数個の行為に一体性が認められるがゆえに、その有責性が減少すると解される。その一体性が包括一罪の一罪性の根拠であるが、その一体性には、数個の法益侵害行為を「包括」して一罪とする「狭義の包括一罪」と、複数の法益侵害行為のうちの重い法益侵害行為が軽い法益侵害行為を吸収する「吸収一罪」がある。

・狭義の包括一罪
 1個の行為によって、複数の同じ法益侵害を惹起した場合である。拳銃を発砲して、被害者の身体に複数の傷を負わせた場合、複数の傷害罪は包括して一罪となる。被害者の複数の器物を損壊した場合も包括して一罪の器物損壊罪となる。
 狭義の包括一罪は、数個の「接続」した行為の場合にも成立しうる。これを接続犯という。例えば、数個の「接続」した行為によって、単一の法益主体に対して、数個の法益侵害を惹起した場合である。同一の被害者を立て続けに数回殴り、数個の傷害を負わせた場合、行為の時間的・場所的な接着性と法益主体の単一性を理由に、包括して1罪の傷害罪として扱われる。例えば、倉庫から短時間のうちに荷物を数回に分けて運び出した場合、犯行の場所が同じで、犯行の時間帯も近接していたこと、被害を受けた法益主体が同一の人物であったことから、窃盗罪の包括一罪になる(最判昭和24・7・23刑集3巻8号1373頁)。
 では、行為の場所と時間帯が異なり、法益主体も異なれば、もはや包括一罪は認められないのか。犯罪には、同じ行為が複数回繰り返して行なわれることが想定されているものがある。しかも、時間と場所も特定されていない。例えば、常習犯や営業犯がその典型である。常習犯の典型には常習賭博罪や常習窃盗罪(盗犯等防止法)などがある。それらは、異なる時間帯に異なる場所で数回行なわれても、常習性の現れである限り、包括して一罪の常習犯として扱われる(常習賭博罪について、最判昭和26・4・10刑集5巻5号825頁)。わいせつ図画販売罪についても、販売が「営業」の形態において、繰り返し行なわれるために、わいせつ図画を複数回にわたって異なる相手に販売しても、わいせつ物販売罪の包括一罪が成立すると解されている(大判昭和10・11・11刑集14巻1165頁)。
 常習賭博罪における「常習性」は、ギャンブル依存性という行為者の性格的な特性である。常習賭博罪が行為者の「1個」の特性の発露として行なわれ、それによって侵害される法益も社会の健全な労働規範という「1個」の法益である。従って、常習者が1回しか賭博行為を行なっていなくても、常習賭博罪が成立し、それを複数回にわたって行なった場合、常習賭博罪の包括一罪が成立する。わいせつ図画の販売の場合、それによって侵害されるのは健全な性道徳という「1個」の社会的法益である。この法益は、わいせつ図画が営業の形態において繰り返し販売されることによって侵害される。このような法益主体とその法益内容の単一性、販売行為の営業性(反復継続性)を考慮に入れると、複数回にわたってわいせつ図画を販売しても、わいせつ図画販売罪の包括一罪が成立するだけである(そのように解すると、1回限りの販売行為ではその法益は侵害されない)。以上のように、包括一罪の包括性の根拠は、一般的に「侵害法益の一体性」と「行為の一体性」にあり、狭義の包括一罪の場合は、行為者の常習性や行為の営業性、法益主体と法益内容の単一性にある。
 銀行などの金融機関しかできない融資を無許可の金融業者が行なった場合、出資法違反の行為にあたる。その行為にも営業性が認められ、行為の一体性が認められる。しかし、被害を受ける法益主体は個々人であり、その法益侵害は契約者毎に算定されるので、一体性・単一性は認められない。出資法違反は包括一罪にはならない(最判昭和53・7・7刑集32巻5号1011頁)。

・吸収一罪
 1個の行為によって複数の法益が侵害されたが、その法益侵害の中に内容的な格差があり、主たる重い法益侵害が従たる軽い法益侵害を「吸収」する場合である。例えば、人を殺害する場合、被害者を負傷させたり、その衣服を損壊するなどの行為が伴って行なわれることは稀ではない。随伴する傷害罪や器物損壊罪が、殺人罪とは別に処罰されるかというと、そのようなことはない。それは、殺人罪の法定刑を定める際に、そのような行為が随伴して行なわれることが考慮に入れられているために、あらためて処罰されないのである。傷害罪や器物損壊罪は、殺人罪に吸収されて、その量刑に反映されることによって、実質的に処罰されると解される。その例として、共罰的事前行為と共罰的事後行為を見ておきたい。
 同一の客体・法益に向けられた複数の行為が、手段・目的の関係、原因・結果の関係に立つ場合である。事前に手段として行なわれる犯罪が、事後に目的として目指される犯罪の刑に吸収される場合を「共罰的事前行為」という(事後行為と共に罰せられる事前行為)。事後に目的として目指される犯罪が、事前に手段として行なわれる犯罪の刑に吸収される場合を「共罰的事後行為」という(事前行為と共に罰せられる事後行為)。
 共罰的事前行為の例としては、既遂罪・未遂罪に対する予備罪である。殺人予備を行ない、実行に着手すれば、少なくとも殺人未遂として処罰される。事前行為としての殺人予備罪は、殺人の実行に着手する前にすでに成立しているので、それを単独で処罰することも可能であるが、予備行為が向けられた客体と法益は、その後に展開される殺人罪の客体と法益と同じであり、事前に行なわれた予備罪の法益侵害性・危険性は、事後に行なわれた殺人既遂・殺人未遂の法益侵害性・危険性として実現しているので、殺人予備は殺人既遂・未遂の刑に吸収されることによって、それと共に処罰される。また、収賄罪における賄賂の収受に対する要求・約束である。公務員側から行なわれる収賄罪は、まず賄賂の要求から始まって、相手側との間で合意を形成し(約束)、そして実際に賄賂を収受することで完成するが、事前行為としての要求罪は約束罪の刑に吸収されることによって、また約束罪は収受罪の刑に吸収されることによって、それと共に処罰される。
 共罰的事後行為の例としては、窃盗後に対する器物損壊罪である。器物損壊罪は、窃盗罪の刑に吸収される。例えば、自転車の窃盗を行ない、欲しい部品だけを取り出し、残りは解体して、鉄くずにして処分するような行為である。その行為は器物損壊罪にあたる。窃盗罪によって惹起される法益侵害は、所有権侵害または占有侵害である。他人の財物を窃取する行為は、そのような法益を侵害するが、窃盗後に財物を毀損することによって、形式的には器物損壊罪が成立し、実質的に法益侵害が生じているが、それはすでに窃盗罪の法益侵害に吸収されて評価される。

3科刑上一罪
 「数個の行為」が行なわれ、「数個の構成要件該当事実」が認定され、「数個の犯罪」が成立するが、そのうちの最も重い罪の(加重されない)「1個の刑」によって処断される場合である。数個の犯罪が成立しているのに、なぜ「1個の刑」によって処断されるのか。包括一罪のように法益侵害や行為の一体性がないにもかかわらず、科刑上一罪は一罪として扱われるのは何故か。
 科刑上一罪は、刑法54条に規定されている。「1個の行為が2個以上の罪名に触れる」場合、「犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪明に触れる」場合には、「その最も重い刑により処断する」とされている。前者を観念的競合、後者を牽連犯という。また、「最も重い刑」とは、成立する犯罪の法定刑の上限と下限について、最も重い刑のことである。
 狭義の包括一罪における接続犯や吸収一罪の場合、数個の法益侵害が行なわれたにもかかわらず、包括して一罪として扱われるのは、侵害を受ける行為客体や法益侵害が単一であり、また行為の単一性があるからである。科刑上一罪の場合、侵害を受ける行為客体や法益侵害は必ずしも単一ではない。それにもかかわらず、一罪として扱われるのはなぜか。それを惹き起こした行為が1回の意思決定(あるいはそれに準ずる意思決定)に基づいて行われいるからである。複数の法益侵害が惹起されているという意味では違法性は重大であるが、それが1回の意思決定に基づいて行われただけであるという点に着目すると、その有責性の程度はさほど大きくはない。それゆえに、数個の法益侵害の犯罪のうち、最も重い罪の刑で処断されるだけである。併合罪に課される刑のように、最も重い罪の刑を基準にして刑が加重されることはない。

・観念的競合
 観念的競合とは、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合である。「1個の行為」が「2個以上の罪名に触れる」というのは、行為者が行為を行なう意思決定を行なって行動し、それが刑法的に見て2個以上の罪に該当する、構成要件に該当するという意味である。
 例えば、XがAを殺害する意思で行為を行なったところ、AのみならずBをも殺害した「具体的事実の錯誤における方法の錯誤」の事案では、法定的符合説からはA・Bの両方に対して故意の殺人罪が成立し、具体的符合説からはAに対する故意の殺人罪とBに対する過失致死罪が成立する。いずれも1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合である。ただし、酒酔い運転を行ない、その運転中に自動車事故を起こした場合、故意に行なった酒酔い運転と自動車運転上の過失によって行なった自動車運転過失致死罪は、異なる意思決定によるものであるため、観念的競合ではない(最大判昭和49・5・29刑集28巻4号114頁)。

・牽連犯
 牽連犯とは、犯罪の手段もしくは結果である行為が他の罪名に触れる場合である。この場合、「2個以上の行為」が行なわれ、「2個以上の罪名」に触れているが、それが手段・目的、原因・結果の関係にあるため、1個の意思決定に準じて扱われている。吸収一罪についても、手段・目的、原因・結果の関係にあるため、重い罪が軽い罪を吸収するとされているが、それらの行為が同一の客体・法益に対して向けられた場合である。それに対して、牽連犯は、異なる客体・法益に向けられる場合なので、数罪であることは明確である。しかし、意思決定の1回性を理由に最も重い刑で処断されるのである。
 2個以上の行為が手段・目的関係、原因・結果の関係にあるためには、行為者の主観的な認識を基準にするのではなく、それらの行為の間に罪質上、そのような関係があることが必要である(最大判昭和24・12・21刑集3巻12号2048頁)。例えば、住居侵入罪と窃盗罪・強盗罪、住居侵入罪と殺人罪、公文書偽造罪と同行使罪、私文書偽造罪と詐欺罪などが牽連犯にあたる。殺人罪と死体遺棄罪では、牽連性は否定される。

・かすがい現象
 A罪とB罪は併合罪の関係にあるが、X罪とA罪が牽連犯の関係にあり、またX罪とB罪もまた牽連犯の関係にある場合、それら全体の罪数はどのように扱われるか。例えば、行為者が住居侵入罪(X罪)を行ない、A殺人を行い(A罪)、さらにB殺人を行なった(B罪)場合、住居侵入罪とA殺人罪の関係、住居侵入罪とB殺人罪の関係は牽連犯の関係にあるので、「最も重い刑」であるA殺人罪およびB殺人罪の刑により処断されるが、A殺人罪とB殺人罪の関係は、どのように扱われるか。通常は、A殺人罪とB殺人罪は併合罪の関係に立つが、X罪が両罪をつなぐ「かすがい」の機能を果たすことによって、A罪-X罪-B罪の3罪が科刑上一罪となる。これを「かすがい現象」という。

(3)犯罪の数罪性
 法条競合、包括一罪、科刑上一罪は、いずれも1罪として扱われ、科刑も法条競合の場合は該当する犯罪の法定刑に基づいて処断され、包括一罪・科刑上一罪の場合は、その最も重い罪の法定刑に基づいて処断される。これに対して、併合罪の場合は一罪ではないため、そのような科刑は行なわれず、加重処罰される。

1併合罪
 併合罪とは、確定裁判を経ていない2個以上の罪のことをいう(45条)。例えば、Xが4月に大阪でAに対して占有離脱物横領を行ない(A罪)、6月にBに対して京都で窃盗を行ない(
罪)、7月に逮捕された場合、京都でB罪につき裁判にかけられるが、その場合に大阪のA罪も同時に審判され、A罪とB罪は併合罪(同時的併合罪)として扱われ、その全体を考慮して処断刑が決定される(判決の主文は1個)。
 また、Xが4月に大阪でAに占有離脱物横領を行ない、6月に京都でBに窃盗を行ない、7月に大阪でA罪で起訴され、裁判で有罪が確定した後、8月にB罪で逮捕・起訴された場合、B罪と刑が確定したA罪は併合罪(事後的併合罪)罪として扱われる。2個以上の罪が併合罪の関係にある場合には、どのように処断されるか。制限加重主義(47条)、吸収主義(46条1項・2項)、併科主義(46条1項但書・2項但書)が併用されている。

・併合罪を構成する2個以上の罪の法定刑が有期刑の場合
 A占有離脱物横領(254条:1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料)とB窃盗(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が併合罪の関係にある場合、それらの法定刑を比較して、最も重い罪の法定刑の長期(窃盗の10年)に2分の1を加えたもの(15年。ただし、14条②:最長で30年まで可能)を長期とし、各刑の長期の合計(1+10=11年)を超えないよう制限されている(47条)。併合罪の処断刑は加重されるが、それは制限されたものである。なお、同時的併合罪の場合、この加重主義の方法は実行可能であるが、事後的併合罪の場合、A罪の刑がすでに確定しているので、同じ様な判断方法は採られない。A罪の刑が確定した後にB罪だけを処断する場合、A罪とB罪が併合加重された場合の刑を想定しながら、A罪の刑にB罪の刑を追加して、併合加重された刑の合計に同じになるように処断する方法が採用されている(追加刑主義)。現行刑法では、諸外国で見られるような単純加重主義は採用されていない。つまり、A罪の量刑とB罪の量刑を単純合算して、処断刑を算定する方法は、被告人にとって過酷であり、更生・社会復帰を阻害すると考えられているようである。
・併合罪を構成する2個以上の罪の法定刑のなかに死刑・無期刑がある場合
 かりに京都のB罪が強盗殺人(死刑又は無期懲役)の場合、A罪・B罪の7併合罪の処断刑は、B罪の法定刑を加重したものになるが、死刑・無期懲役の長期に2分の1を加えることはできないので、B罪について死刑か無期懲役のいずれかが成立する場合、他の罪の刑はこれに吸収され、別途処罰されない(46条)。
・併合罪の2個以上の罪の法定刑のなかに罰金・科料(主刑)と没収(付加刑)がある場合
 併合審理によって死刑が科される場合、罰金・科料は科されない。無期刑が科される場合、罰金・科料は科される。さらに、没収については、犯罪によって得られた収益は一般に没収の対象になるので、科される刑が死刑・無期懲役のいずれであっても、没収は併せて科される(併科刑)。

2単純数罪
 Xが4月に大阪でA占有離脱物横領を行ない、5月にC神戸で恐喝を行ない、6月に京都でB窃盗を行ない、7月にA罪・B罪で逮捕・起訴されて執行猶予付きの有罪が確定し、その途中の8月に奈良でD住居侵入・窃盗未遂を行ない、9月にC罪とD罪で逮捕・起訴された場合、C罪はA罪・B罪と併合罪の関係(事後的併合罪)にあるが、D罪は確定裁判を経た後の犯罪なので、A罪・B罪とは併合罪の関係にはない。従って、C罪とD罪とも併合罪の関係にはない。裁判では、同時に審判されるが、C罪の量刑を判断し、それについて主文が書かれ、またD罪の量刑を判断し、それについても主文が書かれる(主文は2個)。そして、それぞれの処断刑が合算され、併せて執行される。執行が猶予されていたA罪・B罪の刑については、執行猶予が取り消されるので(26条以下)、それも併せて執行される。
 単純数罪の処断刑は、併合罪の場合の加重主義に基づいていないので、最長で30年という制限(14条②)は適用されない。従って、単純数罪の処断刑については、アメリカやイタリアなどの単純加重主義が採用されているといえる。