Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2015年度前期刑法Ⅰ(総論) 第12週 練習問題

2015-06-27 | 日記
 第12週 練習問題

(1)基本問題1
1故意のない他人を教唆して、殺人を決意させるに至ったときは、その人が殺人罪の実行に着手していなくても、教唆者には殺人罪の教唆が成立する。(    )
 *共犯は、正犯の「      」と「      」に従属する(制限従属性説)。


2AはBにXの殺害を依頼したが、Bはそれを決意しなかった。Aには殺人罪の教唆が成立する(    )。


3過失犯と未遂犯は、それぞれ法律に特別の明文規定がある場合にしか処罰されませんが、教唆と幇助は、あらゆる犯罪について成立します。(    )
 刑法64条は、「      」を法定刑とした犯罪を教唆・幇助しても、共犯にはならない。


4医師が看護師を指示して、患者に毒薬を投与させて殺害した場合、看護師はそれが毒薬であることを知らなくても、医師には殺人罪の教唆が成立する(     )。
 間接正犯:責任無能力者や犯罪の故意のない者を道具として利用し、犯罪を実行すること


5コンビニ定員Aが、客として来店したBが窃盗を行なおうとするのを見て、事務所から店長Xが来ないかどうかを見張りをしたところ、Xが事務所から店内に向かって歩いてきたので、店舗内の電灯を消して、真っ暗にした。そのすきにBは逃走した。BにAに見張られていたことを知らなかった。Bには窃盗未遂罪が成立するが、Aには窃盗未遂罪の幇助は成立しない(    )。


6罪刑法定主義の考えを徹底すると、幇助の幇助(間接幇助)は不可罰である(    )。


(2)基本問題2
1教唆や幇助は、なぜ「正犯」ではなく、「共犯」と言われるのか。説明しなさい。

 正犯とは…


 教唆・幇助は…


 従って、教唆・幇助は正犯ではなく、共犯といわれる。




2医師Aは、看護師Bが誤って患者Xに毒物を投与するであろうことを予期しながら、Bに投与すべき薬を特定せず、Xを処置するよう命じた。Bは、Xの身体に有害な薬品を誤って投与し、Xを死亡させた。Bに過失がない場合のAの罪責を論じなさい。

 B…(業務上過失なし) 業務上過失致死罪の構成要件該当性なし


 A…故意・過失のないBを道具として利用し、Xを殺害した(        )



2「未遂犯の教唆」と「教唆の未遂」とは、それぞれどのような場合をいうのか。
 未遂犯の教唆



 教唆の未遂




3Aは最初から覚せい剤の譲り渡しの未遂に終わらせるつもりで、Bを教唆し、実行に着手したところを逮捕した。Aに覚せい剤譲り渡しの未遂の教唆の成否についてまとめなさい。

 教唆行為とは


 教唆にも刑法38条1項が適用される。教唆の故意のある場合に限定。


 正犯に既遂結果を発生させる場合
 最初から正犯を未遂に終わらせる認識の場合  教唆の故意は?


 教唆の故意とは
 a正犯に既遂結果を発生させることの認識・予見
 b未遂を含む可罰行為を行なわせることの認識・予見


 見解
 教唆の故意 正犯に犯罪(法益侵害・既遂)を実行させる認識

       正犯に犯罪(法益侵害の危険・未遂)を実行させる認識

 最初から正犯を未遂に終わらせる認識しかなかった場合、正犯の行為は、法益侵害に至る手前で阻止されることなっているので、法益侵害の具体的危険性はあったとはいえないのではないか。



2教唆犯と間接正犯
 直接正犯と間接正犯の違いと共通点を述べ、具体例を挙げなさい。

 直接性と間接性の形式の違い


 正犯として同じように処罰される実質的理由


 道具理論 責任無能力者や故意のない行為者の「道具」として利用
      道具性 人間関係や上下関係に基づく支配・操縦の可能性


 例えば、A(   )がB(    )に対して、「    罪」を行なわせた。
 犯罪の構成要件該当行為を直接行なったのはB
 その認識(故意)もあった


 しかし、(      )または(      )が欠如していた


 AはBの(      )または(      )が欠如していことを知りながら、

 Bに対する(      )関係を背景にして、Bを「道具」のように利用して、

 犯罪を遂行させたといえる。このような場合、Aには「  罪」の間接正犯が成立する。



3幇助
 教唆犯と幇助犯の共通点と違いを述べなさい。

 共通点 犯罪として処罰される正犯の領域を拡張する

 違い 教唆
    幇助

    科される刑
(3)共犯の処罰根拠
1共犯の処罰根拠をめぐる対立には、堕落説(不法共犯論・責任共犯論)と惹起説の間で対立があるが、両者の決定的な違いを一言で述べなさい。

 堕落説は 正犯の処罰根拠は法益侵害にある
      共犯の処罰根拠は違法行為者または違法・有責行為者を創出したことにある
     (共犯は正犯を創出した。共犯は、その限りにおいて正犯を被害者とする犯罪)


 惹起説は 正犯は法益侵害を直接惹起
      共犯は法益侵害を間接的に惹起(正犯を介して惹起)


2Aは、ヤクザ組織からの離脱を希望しているBに対して、「指を詰めなければ、離脱は認められない」と、Bに指詰めを命じた。Bは自分の左手の小指を切断した。

 Bの行為 自傷 該当する犯罪構成要件なし→違法性なし→不可罰
 Aの行為 自傷の教唆(不可罰)?傷害罪の教唆?


 純粋惹起説(違法の相対性)
 Aは


 修正惹起説(違法の連帯性)
 Aは


 混合惹起説(違法の相対性+正犯が適法な場合は共犯も適法)
 Aは



3Cは、Dに対して「オレを殺してくれ」と依頼した。Dはそれに応えて、Dの殺害を試みたが、未遂に終わった。

 Dの行為 嘱託殺人未遂

 Cの行為 嘱託殺人未遂の教唆?

 純粋惹起説(違法の相対性)
 Cは


 修正惹起説(違法の連帯性)
 Cは


 混合惹起説(違法の相対性+正犯が適法な場合は共犯も適法)
 Cは



(4)間接正犯
1Aは、3才の子どもBを教唆して、窃盗を行なわせた。Bには窃盗の故意はなく、また自分の行為の意味を理解していなかった。

・事実関係と問題の所在
 直接実行者Bの罪責 責任能力なし、故意なし。窃盗罪は無罪
 背後者Aの罪責 窃盗罪の教唆?

・前提的議論
 共犯の成立要件(とくに従属性)
 通説・判例 制限従属性説

 構成要件的故意なし→窃盗罪の構成要件該当性なし
 背後者Aに教唆犯不成立→処罰のすきま

 責任能力なし・責任故意なし→規範的障害なし
 背後者Aに教唆犯成立
 しかし、規範的障害のない者を利用しているのに、教唆は不可解。

・展開
 背後者Aの罪責
 間接正犯論 責任能力または故意のない者は「道具」


・結論


2Aは、巡礼中に、12才の養女Bを教唆して、窃盗を行なわせた。Aは、日常的にBに対して、タバコの火を押し付けるなどして、自己の意のままにしてきた。

・事実関係と問題の所在
 直接実行者Bの罪責 窃盗罪?
 背後者Aの罪責 窃盗罪の教唆?

・前提的議論
 共犯の成立要件(とくに従属性)
 通説・判例 制限従属性説

 責任能力あり・構成要件的故意または責任故意あり
 直接実行者B 窃盗罪の正犯?
 背後者A   窃盗罪の教唆?
 →妥当な結論か?

 Aは、人的支配関と日常的暴力によって、自由な意思決定と行動ができない者、つまり規範的障害のない者を利用している。にもかかわらず、教唆は不可解。


・展開
 間接正犯論 責任能力や故意があっても、規範的障害のない者は「道具」
 A 窃盗罪の間接正犯
 B その幇助。ただし、適法行為の期待可能性なし。


・結論




3医師Aは、患者Xを殺害するために、事情を知らない看護師Bに「ビタミン剤」と称して、毒物を手渡して、Xに飲ませるよう指示した。Bは指示どおりXに飲ませ、死亡させた。

・事実関係と問題の所在
 B 構成要件的過失なし→該当する構成要件なし→無罪
   殺人罪の構成要件該当性・違法性あり→業務上過失なし→無罪

 Aの罪責

・前提的議論
 共犯の従属性(制限従属性説)

 正犯Bに故意犯の構成要件該当性なし→Aの教唆不成立→妥当な結論ではない
 正犯Bの殺人罪の構成要件該当性・違法性あり(故意なし)→Aの殺人罪の教唆→妥当?

・展開
 A 間接正犯論
  Bには責任能力はあるが、BはAの指示命令に従って仕事をする立場
  任意に判断して、自由に行動する余地はない→Bに規範的障害なし。ゆえに道具。

  Bを利用した殺人罪の間接正犯

3医師Aは、患者Xを殺害するために、看護師Bに毒物を手渡して、Xに飲ませるよう指示した。Bは注意すれば、それが毒物であり、それをXに飲ませれば、死亡することが予見可能であった。それにもかかわらず、Bは注意することなく、Xに飲ませ、死亡させた。

・事実関係と問題の所在
 B 責任能力はあり、注意しながら仕事をする立場
   注意義務を果たさずに、薬を投与
   業務上の過失アリ 業務上過失致死罪(正犯)

 A 正犯に構成要件的故意なし→殺人罪の教唆不成立→妥当?
   正犯に殺人罪の構成要件該当性・違法性あり右や殺人罪の教唆犯成立→妥当?


・前提的議論
 共犯の従属性(制限従属性説)


・展開
 Bは医師の指示のもとで行動する存在。医師の指示の前では規範的障害なし。道具性あり
 Bを利用した殺人罪の間接正犯(間接正犯説)


 結果に対して、過失正犯と故意正犯が存在するか?
 正犯の背後に存在するのは共犯だけである→殺人罪の教唆(教唆犯説)


・結論
 業務上過失致死罪と殺人罪の間接正犯


4Aは、屏風の背後にXがいることを知りながら、それを知らないBに拳銃で屏風を撃つことを命じた。Bは屏風を撃った。屏風は破壊され、Xは死亡した。

・事実関係と問題の所在
 B 故意の器物損壊罪
   過失致死罪(過失がある場合)

 A 器物損壊罪の教唆
   殺人罪の教唆?


・前提的議論
 共犯の従属性(制限従属性説)

 A 殺人罪の教唆

・展開
 BはAの指示のもとで行動。規範的障害なし。道具性あり
 AとBに上下関係や支配従属関係がなくても、指示に一応従う関係があれば、Bには規範的障害はないので、Bを道具と見なしうる。


 Bを利用した殺人罪の間接正犯(間接正犯説)

・結論


(5)身分なき故意ある幇助的道具
 公務員Aは、非公務員の妻Bに、事情を明かして、企業からのワイロを受け取らせた。
1事実関係と問題の所在
 B 収賄罪の構成要件該当性・違法性なし→不処罰
 A 収賄罪の教唆?

2前提的議論
 制限従属性説→Aに教唆不成立→不処罰

 B・Aともに不処罰? 処罰のすきま

 収賄罪の間接正犯?

3展開
 間接正犯論
 責任無能力者、非故意行為者、規範的障害のない者を「道具」として利用

 しかし、Aは責任能力あり、収賄の故意はないが、事情を知り規範的障害あり

 間接正犯論の適用不可能?→修正惹起説(一般違法従属性論) Aは収賄罪の教唆?

 あるいはAが収賄の直接正犯であり、Bはその幇助または共同正犯

4結論
 間接正犯論の再構成→責任能力、故意、規範的障害があっても、Bは道具
 →Aは収賄罪の間接正犯 Bはその幇助

 または、受け取ったのがBであっても、Bを介してAに渡るのであるから、Aが受け取ったも同然。→Aが収賄の直接正犯。Bがその幇助


(6)正犯意思(故意)ある幇助的道具
 暴力団組織の覚せい剤輸入担当者Aが、失業中のBに対して、「多額の報酬を払うから、外国に行き、旅行のみやげと称して、ぬいぐるみに覚せい剤を隠して、日本に持ち込め。」と命じた。失業中のBは、報酬欲しさのあまり、暴力団に協力するのは嫌だったが、引き受けた。Bは、旅行を装って外国に行き、ぬいぐるみに覚せい剤を隠して日本に持ち込んだ。

・事実関係と問題の所在
 B 覚せい剤輸入罪の正犯

 A その教唆



・前提的議論
 制限従属性説

 Bは覚せい剤輸入罪の正犯 Aはその教唆


 「正犯意思のある幇助的道具」の可能性

・展開
 間接正犯論の再構成→Bに責任能力、故意、規範的障害があっても、Bは道具

 「正犯意思のある幇助的道具」の意義


 組織的に行なわれる犯罪の全体構造において、その中心的・支配的な約割を担い、全体を統括している者を、たとえ実行行為を行っていなくても、規範「正犯」として責任を追及する。