Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2014年度後期刑法Ⅱ(各論)第15回 まとめ(2)

2015-01-15 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) まとめ(2)
 第15週 疑問と難問

3事後強盗罪について
 刑法238条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。未遂も罰する(243条)。

 AはBからハンドバッグをひったくった。Bは、「ドロボー」と叫びながら、追跡した。それを見たXはAを追いかけたが、Aに顔面を殴打された。

 AはBからハンドバッグをひったくった。Bは、「ドロボー」と叫びながら、追跡した。それを見ていたYは、なんとかしなければならないと思いながらも、Aが怖かったので、何もしなかった。AはYの顔面を殴打して逃走した。


 AはBからハンドバッグをひったくった。Bは、「ドロボー」と叫びながら、追跡した。Aは逃走中に向こうから歩いてくるZと遭遇し、「じゃまだ、どけ」と叫びながら、顔面を殴打した。Zは、Bが窃盗の被害に遭ったことを知らなかった。

①事後強盗罪の実行行為の特徴
 窃盗がその被害者に対する暴行・脅迫を加えた
 →単純な暴行罪・脅迫罪の構成要件ではなく、(事後)強盗罪の構成要件に該当する行為


 単純な暴行・脅迫との違い
 →財物の奪還を阻止しうる・逮捕を免脱しうる・罪跡を隠滅しうる客観的可能性のある暴行・脅迫
  または、(事後)強盗罪の暴行・脅迫は単純な暴行・脅迫と同じ。しかし、主観的な目的が違う。


・目的を達成しうる客観的な可能性のある暴行・脅迫
 財物奪還を試みている被害者、または少なくともその意図がある被害者に対する暴行・脅迫
 現行犯逮捕を試みている被害者、または少なくともその意図がある被害者に対する暴行・脅迫
 罪跡を有していることを認識している被害者への暴行・脅迫


 では、目的を達成しうる客観的な可能性がない場合は?
 財物を奪還する意図がない被害者に対する暴行・脅迫
 現行犯逮捕する意図がない被害者に対する暴行・脅迫
 罪跡を有していることを認識していない被害者への暴行・脅迫


 さらには、そもそも窃盗の被害に遭ったことを認識していない被害者に対する暴行・脅迫


 いわゆる「追及可能性」の有無の判断基準の問題
 (事後)強盗罪の実行行為 追及可能性のある被害者や関係者への暴行・脅迫
 X
 Y
 Z

②事後強盗罪 身分犯か、それとも結合犯か?
 身分犯 収賄罪(刑197)→構成的身分犯

     保護責任者遺棄罪(刑218)→加重的身分犯

     特別公務員暴行罪(刑195)→加重的身分犯?

 結合犯 強盗罪(刑236) 犯罪+犯罪=犯罪

強姦罪(刑177) 犯罪+犯罪?=犯罪

 規定の形式 「窃盗が……」

・事後強盗罪の暴行・脅迫に第三者が関与した場合
 身分犯の場合

 結合犯の場合


4放火罪について
 (以前のレジュメを転載します。)
3非現住建造物等放火罪
 刑法109条 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の懲役に処する(1項)。未遂も処罰する(112条)。
 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない(2項)。

客体
 1項の行為客体は、他人が現に住居に使用せず、かつ現にいない建造物、艦船、鉱坑です(他人所有の非現住建造物)。客体の内部に人が存在していないため、その焼損に包含されている「公共の危険」が小さく、違法性の程度が低いため、108条の現住建造物等放火罪よりも法定刑が軽くされています。本罪は、未遂も処罰されます。つまり、現住建造物に火を放ったが、焼損するに至らなかった(つまり、焼損に包含されている「公共の危険」が発生しなかった)場合でも、未遂として処罰されます。
 2項の行為客体は、自己所有の非現住建造物です。自己所有の非現住建造物を焼損した部分については、自己の所有物の処分であり、その限りでは自損行為であり、その部分は違法ではないので、他人所有の非現住建造物放火よりも刑が軽くされ、成立要件として「公共の危険」の発生が必要です。ただし、それが「差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、または保険に付したもの」の場合、他人所有の非現住建造物と見なされます(115条)。なお、本罪の未遂は処罰されません。つまり、公共の危険が発生しない場合は処罰されないということです。というのは、自己所有の非現住建造物に火を放ち、焼損するだけでは、自己の所有物の処分行為であり、違法ではないからです。

公共の危険
行為客体が現住建造物(108条)や他人所有の非現住建造物(109条①)の場合、それらを焼損する行為のなかに「公共の危険」が包含されていますが、自己所有の非現住建造物の焼損には、それは包含されていません。従って、自己所有の非現住建造物の場合、それを焼損するだけでなく、公共の危険の発生が必要です。では、公共の危険の発生は、何を基準にして認定されるのでしょうか。
 判例は、「自己所有の非現住建造物」を焼損し、その火の勢いが「現住建造物」や「他人所有の非現住建造物」へと延焼する危険が生じたときに、「公共の危険」の発生を確認できると解していました(大判明44・4・24刑録17・655)。すなわち、自己所有の非現住建造物放火罪の成立要件としての「公共の危険」は、「現住建造物や他人所有の非現住建造物への延焼の危険」であるということです。ただし、延焼の危険によって認定される「公共の危険」(109条②)は、現住建造物や他人所有の非現住建造物の焼損に包含されている「公共の危険」とは同じものではなく、それよりも危険性や違法性の程度の軽いものです。だから、その分だけ自己所有の非現住建造物放火罪の法定刑は軽くされているわけです。
 しかし、最近では110条の「建造物以外の物の放火罪」における「公共の危険」に関して、「現住建造物などへの延焼の危険」というように一定の客体を基準に形式的に認定することができるだけなく、不特定または多数の人の生命、身体または建造物等以外の財産に対する危険をも含まれるというように客体を基準とせずに実質的に認定する傾向が現れています(最決平15・4・14刑集47・4・445)。建造物以外の物に放火して、それが隣にある現住建造物や他人所有の非現住建造物に延焼する危険が発生すれば、そこに他人が住んでいたり、また現住していなくても事務所として利用する人がいたりすれば、「不特定または多数の人の生命、身体、財産に対する危険」が発生し、それをもって「公共の危険」(109条②・110条)の発生を認定することができると思いますが、そのような客体に延焼するおそれがなくても、そのような危険の発生が認定できるというのです。そのような場合というのは、どのようなものが念頭に置かれているのでしょうか。例えば、建造物以外の物に放った火の勢いによって、不特定・多数の人がやけどなどを負う危険性でしょうか。また、一酸化炭素中毒にかかる危険性でしょうか。そのような危険が発生すれば、「公共の危険」の発生を認定できるでしょう。しかし、それは現住建造物や他人所有の火現住建造物という客体への延焼の危険によって認定できるものであって、延焼する客体なしに認定できるものではないように思います。このような実質的な判断をすると、公共の危険が延焼する客体によって限定されず、無限定に拡散していくおそれがあるように思います。例えば、駐車場に停車してある自動車やオートバイ(建造物以外の物)に放火し、ものすごい勢いで火柱がのぼったため、例えば「風向きいかんによっては」、その火の勢いが、少しな離れた場所にある現住建造物などに延焼する「おそれ」が、無いいとは言い切れない」というふうに印象的・情緒的な判断に流されてしまう可能性があるように思います。

公共の危険の認識
 自己所有の非現住建造物等放火罪の成立要件としては、客観的に「公共の危険」が必要なので、主観的要件としては、その認識が必要です。下級審においても、認識必要説に立った判断を示したものがあります(名古屋高判昭和39・4・27高刑集17・3・262裁)。しかし、判例は、自己所有の非現住建造物を焼損することの認識があれば足り、公共の危険の発生まで認識している必要はないと判断しています(最判昭60・3・28刑集39・2・75)。学説にも認識不要説を支持するものがあります。
 公共の危険は、自己所有の非現住建造物放火罪の成立要件であり、その構成要件要素(構成要件的結果)であると解すると、その認識がなければ、故意の成立を認めることはできません。109条2項の規定が、「ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない」と定めているのは、本罪は公共の危険の発生によって既遂となるが、それが発生しなかった場合には「罰しない」(つまり、未遂を処罰しない)ことを意味しています(108条と109条1項の罪は112条によって未遂も処罰されます)。従って、109条2項の「ただし書き」は、112条によって未遂が処罰されるのは108条と109条1項の罪だけであることを明示的に示しています。
 これに対して、この「ただし書き」は未遂不処罰の明示的な規定ではなく、「客観的処罰条件」として捉える見解もあります。「客観的処罰条件」とは、一般に犯罪の成立要件である構成要件該当性、違法性、有責性が認定されても、それを処罰するために客観的に必要とされる条件のことをいいます。そのような条件を「客観的処罰条件」といい、認識の対象である構成要件から除外されます(事前収賄罪[197条②]は、その成立要件が満たされた後、行為者が「公務員になった場合」にのみ処罰されます)。このように解するならば、その認識は不要となります。
 この点に関して、判例が「公共の危険」を客観的処罰条件とは捉えていないようです。判例の論理は、事務所(自己所有の非現住建造物)の隣に他人の住居(現住建造物)がある場合、事務所に放った火が他人の現住建造物に延焼する危険(公共の危険)を認識していた場合には、それは現住建造物放火の故意であると認定します。従って、隣にある現住建造物へ延焼する危険を認識しながら、事務所に火を放ち、火が延焼して現住建造物を焼損したときには、「現住建造物等放火罪」の既遂であり火が延焼しなかったときには、「現住建造物等放火罪」の未遂です。従って、自己所有の非現住建造物放火の故意の成立に公共の危険の認識が必要であるとすると、現住建造物放火罪・他人所有の非現住建造物放火罪との区別がつかなくなり、自己所有の非現住建造物放火罪の存在意義がなくなってしまうというのが判例の論理だろうと思います。
 判例の見解はもっともなように見えますが、現住建造物等放火の故意というのは、火を放つ対象が現住建造物である場合であって、自己所有の非現住建造物に火を放つ場合ではありません。条文は、「放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物……を焼損した者は」と規定しているため、焼損の対象は現住建造物であるが、火を放つ対象がそれに限定されていないように読めますが、そのように解釈すべきではないでしょう。

4建造物以外の物の放火罪
 刑法110条 放火して、前2条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の懲役に処する(1項)。前項の物が自己の所有に係るときは、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する(2項)。

客体
 108条(現住建造物)、109条(他人所有の非現住建造物、自己所有の非現住建造物)に規定する物以外の物である。自動車、航空機、建造物の一部にあたらない門や塀などが、建造物以外の物にあたります。それが自己所有の物である場合(2項)、法定刑がさらに軽くされています。ただし、それが「差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、または保険に付したもの」の場合、他人所有の建造物以外の物と見なされます(115条)。

公共の危険とその認識
本罪の成立には、公共の危険の発生が必要です。それは、判例によれば、「現住建造物などへの延焼の危険」だけでなく、不特定または多数の人の生命、身体または建造物等以外の財産に対する危険も含まれます(最決平15・4・14刑集57・4・445)。
 公共の危険の認識については、判例は、本条1項の成立要件として、「公共の危険」の認識は不要であると解しています(最判昭60・3・28刑集39・2・75)。学説としては、必要説を主張するものもあります。先に説明した自己所有の非現住建造物放火罪の場合、それは構成要件の客観的要素であり、認識必要説はそれを根拠にしていましたが、建造物以外の物の放火罪の「公共の危険」は、それとは異なる形式で定められています。つまり、結果的加重犯の形式で定められています。そうすると、「公共の危険」については、認識は不要はありません。ただし、111条は、そのような「結果的加重犯」から「加重結果」が発生した場合を規定しているので、二重の結果的加重犯を認めないとすると、基本犯である本罪については、結果的加重犯の形式で定められているが、公共の危険については認識が必要であると解すべきでしょう。

5延焼罪
 刑法111 第109条第2項又は前条第2項の罪を犯し、よって第108条又は第109条1項に規定する物に延焼させたときは、3月以上10年以下の懲役に処する(1項)。前条第2項の罪を犯し、よって同条第1項に規定する物に延焼させたときは、3年以下の懲役に処する(2項)。

 1項は、自己所有の非現住建造物(109条②)または自己所有の建造物以外の物(110条②)を故意に焼損して、公共の危険を発生させ、現住建造物(108条)または他人所有の非現住建造物(109条①)に延焼させた場合に成立します。
 2項は、自己所有の建造物以外の物(110条②)を故意に焼損して、公共の危険を発生させ、他人所有の建造物以外の物(110条①)に延焼させた場合に成立します。
 本罪は結果的加重犯です。それは、客観的には基本犯と加重結果から成り立ちます。自己所有の非現住建造物を焼損して、公共の危険を発生させ(基本犯)、そこから現住建造物、他人所有の非現住建造物へと延焼させたこと(加重結果)が必要です(1項)。また、自己所有の建造物以外の物を焼損して、公共の危険を発生させ(基本犯)、そこから他人所有の建造物以外の物へと延焼させたこと(加重結果)が必要です(2項)。主観的要件としては、基本犯の部分については故意が必要ですが、加重結果の部分については故意は不要です。かりに、加重結果(108条・109条①に規定する建造物への延焼の危険)を認識していれば、それは109条②・110条の故意があることになります。従って、本罪においては、加重結果について認識がない場合に成立します。
 なお、判例は、基本犯を構成する「公共の危険」についても、認識は不要であると解しています。つまり、109条②・110条の「公共の危険」だけでなく、111条の「108条・109条①に規定する建造物への延焼の危険」(=公共の危険)の認識も不要であるということです。二重に結果的加重犯を認めることになるので、本罪の基本犯を構成する「公共の危険」については、認識の対象に含めるべきでしょう。


5業務妨害罪と公務執行妨害罪の関係について
 偽計を用いて、銀行の警備に従事している警備保障会社の従業員の業務を妨害した
 →

 偽計を用いて、政府の要人の警備に従事している警視庁の警察官の職務を妨害した
 →

・業務妨害罪の「業務」と公務執行妨害罪の「公務員の職務(公務)」
 条文配列
 保護法益


 何から保護するのか?


 保護の必要性の程度に差があるのは何故か


 保護のすきま(処罰のすきま)への対処
  警察官の職務
   強制力を行使する権力的公務
   強制力の行使を伴わない非権力的公務

  強制力を行使する権力的公務を「偽計」から保護する必要性と不必要性

 いたずらと犯罪