Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

「自衛隊法『改正』案で罰則適用拡大 『戦争に行くな』は犯罪」(京都民報2015年08月02日)

2015-07-31 | 旅行
 自衛隊法「改正」案で罰則適用拡大 「戦争に行くな」は犯罪

 立命館大学法学部教授(刑法) 本田稔

 政府が衆議院で強行採決した安保関連法案は、10の法案から構成される「平和安全法制整備法」と新規法の「国際平和支援法」から成り立っています。分量も多く、専門用語で書かれているため読みづらいですが、そのなかの自衛隊法「改正」案が憲法違反であることは明白です。

 自衛隊法は、自衛隊の規律を維持し、任務を遂行するために、様々な行為を禁止しています。上官の職務命令に対して多数で共同して反抗する行為、現場の指揮官が上層部の職務命令に反して、自分の部隊を指揮する行為。まや、それらの行為を相談・計画し(共謀)、そそのかし(教唆)、あおる行為(煽動)。これらの行為は、自衛隊法で厳しく処罰されます。さらに、防衛出動命令を受けた際に、勤務条件などに関して、国家の代表機関と交渉するために団体を結成する行為、それを共謀・教唆・煽動した場合も同じです。それと同時に、職務懈怠(サボタージュ)、上官命令への反抗・不服従、その教唆・幇助も処罰されます。

 今回の改正は、これらの罰則規定を日本国内だけでなく、日本国外において行なわれた場合にも適用することを目論んでいます。これまでは、憲法9条のもとで、自衛隊の国外で武力を行使することだけでなく、戦闘地域における危険な任務を遂行することも禁止されてきました。しかし、安保関連法案は、存立危機事態において、集団的自衛権行使の名のもとに、自衛隊が米軍と共に武力行使ができるようにし、また重要影響事態において、非戦闘地域において米軍に対して食料や弾薬などを提供するなどの、後方支援ができるようにしようとしています。また、戦闘行為が収束し、停戦合意が成立した後においても、戦乱が継続する地域に自衛隊を派兵し、自衛隊員がその治安維持のために武器の使用ができるようにしています。

 自衛隊が米軍と共同して武力行使すれば、相手国の標的にされるのは明白であり、また後方支援と称して、米軍に弾薬を提供するなどすれば、米国の武力行使を補完・強化する兵站と見なされ、相手国からの攻撃対象になることは間違いありません。さらに、停戦合意のもとでの治安維持活動が長期にわたって「殺し、殺される」状況を作り出し、多くの戦死者を出す危険な行動であることは、アフガニスタンでの経験からも明らかです。少しでも躊躇すれば、上官命令の不服従として処罰するというのが、今回の自衛隊法の「改正」の狙いなのです。このまま自衛隊法が「改正」されれば、国外に派兵された自衛隊員は、任務違反を理由に処罰されることなしに、この任務から逃れることはできません。

 自衛隊員の家族や友人は、危険な任務に従事するのを引き止めようとするでしょう。しかし、それは許されません。それは職務懈怠の教唆にあたる可能性があるからです。育てた息子、愛する夫・父、恋人を声を出して引き止めることは犯罪であり、安保関連法案では許されないのです。平和運動家は、国内外で戦争の真実を知らせ、また戦闘地域の近くまで赴いて、憲法違反の戦闘行為を止めるよう、自衛隊員に呼びかけるでしょう。しかし、それは指揮官に不法な指揮をするよう煽動する行為であり、また自衛隊員の士気を弱め、上官の職務命令に従わないよう教唆する行為であり、同じく犯罪として厳罰に処せられる可能性があります。

 自衛隊の最高司令官である総理大臣は、自衛隊の内部で造反分子が現れていないか、不満分子が団体を結成しようとしていないか、サボタージュや命令違反の動きがないかを監視するでしょう。派兵された自衛隊員は、相互に監視し監視されるなかで、「殺し、殺される」この職務に従事することを余儀なくされます。

 憲法18条は、国家が、国民に対して、その意に反する苦役に従事させることを禁止しています。自衛隊法「改正」案が、意に反する苦役を強要するものであることは、誰の目からも明白です。何としても参議院において廃案に追い込まなければなりません。