Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

集団密航助長罪の解釈論上の問題について(2・完)

2014-05-30 | 旅行
         集団密航助長罪の解釈論上の問題について(2・完)
     ――東京高裁平成21年12月2日第9刑事部判決を契機にして――

 一 はじめに
 二 問題の所在
  1事案の内容
  2弁護人の主張
  3裁判所の判断(以上、前号)
 三 争点の検討
  1集団密航助長罪の実行行為とその基本的性格について
  2「偽りその他不正の手段」の有無とCらの認識について
  3支配・管理状態の判断基準と空港での出迎え行為の評価について
  4密航者の集団性の要件と入管法74条の3の趣旨について
 四 残された課題(以上、本号)

 三 争点の検討
 以上において整理したように、裁判所は本判決において弁護人の控訴趣意の4つの論点を斥け、被告人に対して営利目的集団密航助長罪の共同正犯の成立を認めた原判決の判断を是認した。以下では、これら4つの論点に即しながら、集団密航助長罪の解釈論上の問題を検討する。

 1集団密航助長罪の実行行為とその基本的性格について
(1)集団密航助長罪の実行行為
 入管法は、集団密航助長罪を「自己の支配又は管理の下にある集団密航者を……本邦に入らせ、又は上陸させた者は……」(74条1項)と定めている。本罪の実行行為の内容について、原審の検察官は、本罪の実行行為を集団密航者を管理して入国、上陸させることであると釈明し、原審も検察官の公訴事実のとおり、「(Cらを)管理下に置き」、「本邦に入らせ、更に上陸させた」と認定し、いずれも集団密航者を本邦に入らせる行為だけでなく、それに先立って行われる支配・管理行為を本罪の実行行為を構成する一部と捉えていると解される。このような理解によるならば、本罪は集団密航者を自己の支配又は管理下に置いて、日本国内に入国・上陸させる一連の行為によって成立し、その実行の着手時期は集団密航者を管理・支配状態に置いた時点において認められ、その既遂時期は集団密航者を日本国内に入国・上陸させた時点において認められることになる。
 しかしながら、集団密航助長罪の規定は、判決が指摘しているように、「自己の支配又は管理の下にある集団密航者……を本邦に入らせ、又は上陸させ」とあり、「集団密航者を自己の支配又は管理の下に置き、本邦に入らせ、又は上陸させ」とは規定していない。従って、法文の文理的な意味としては、本罪の実行行為は「集団密航者を本邦に入国または上陸させる行為」と解釈するのが適切であり、それに先行して国外において行われる集団密航者に対する支配・管理行為は、本罪の実行行為の一部を構成するものではない。もし、「入国」前の国外における支配・管理行為の開始によって本罪の実行の着手を認めるならば、集団密航者を日本に「上陸」させる行為に限定して未遂処罰の規定を設けた74条3項の規定とは別に未遂形態を認めることになり、しかも集団密航助長罪の規定の場所的適用範囲を超えて刑罰権を行使することになる。さらに、支配・管理行為が、密航船の準備の前に行われた場合には、集団密航供用船舶等準備罪よりも重い刑罰が科され、罪刑均衡の観点からも問題である。判決が述べているように、「このような法規制の全体を見れば、支配又は管理の下に置く行為を実行行為として捉え、その着手時期を外国内にまで及ぼして考えるのは相当ではない」と言わなければならない。
 なお、本判決において争点とされた本罪の実行行為の概念とその着手時期に関して、「法74条の2、3との関係において、集団密航助長罪の実行行為を、わが国に入国する前までに及ぼすべきか」と問題提起するものがある10)。それは、入国に係る集団密航助長罪の未遂処罰規定は設けられていないが、入国以前に国外において行われた行為について、入国に係る集団密航助長罪の実行の着手を肯定しうるかを理論的に検討しようという議論である。集団密航者を国外から日本国内に向けて輸送した場合、外国集団密航者輸送罪が成立し、そのまま日本の領海線を通過し、日本の領海に入った場合には、入国に係る集団密航助長罪が成立する。領海線の付近まで輸送する行為と領海線を通過し日本国内に入国する行為とが時間的に連続して行われた場合、入国に係る集団密航助長罪の実行の着手は、領海線までの輸送行為に解消され、問題にはならないが、その間になおも輸送行為に解消されない実行の着手の形態があり得るならば、その内容を明らかにする必要があろう。「入国」に係る集団密航助長罪の実行の着手をあえて論ずるのは、このような問題意識にもとづいていると思われる。「上陸」に係る集団密航助長罪について未遂処罰規定が設けられているのは、例えば航空機による不法上陸の場合、航空機が空港に着陸し、輸送が終了してから、集団密航者を上陸審査場に向かわせるまでの間に様々な行為の介在が考えられ、集団密航者を上陸場所に向けて輸送し終えても、まだ上陸に係る集団密航助長罪の実行の着手を認めることができない場合があり、それゆえ輸送行為に解消されない実行の着手の形態を考察すべき余地が残されているが、この「上陸」に係る集団密航助長罪の実行の着手の形態の問題と「入国」に係るその問題とをパラレルに考えることができるならば、「輸送罪の規定が存在することのみをもって、入国にかかる集団密航助長罪の実行行為を国外に拡張できない根拠とはならない。ここでは、(国外から日本国内に向けての)輸送罪の想定する行為態様と、(国外から日本国内への)入国にかかる集団密航助長罪の実行行為とを比較し、両者が重なり合うかを検討しなければならない」と、入国に係る集団密航助長罪の実行の着手の形態を問題にしうる余地があるというのである。この問題提起に対しては、外国の空港において集団密航者を日本行きの航空機に乗せる行為を例に挙げて、それを行った時点で「入国に至る自動性・確実性」が認められる場合には、入国に係る集団密航助長罪の実行の着手を認めることができるという仮説が与えられているが、その行為は国外集団密航者輸送罪によってカバーされる輸送行為と重なり合うため、国外における入国に係る集団密航助長罪の実行の着手を想定することには慎重なようである11)。

(2)支配・管理行為の意義
 本判決は、集団密航助長罪の実行行為の理解に関して、「実行行為である本邦に入らせ、又は上陸させる行為の時点で、集団密航者を自己の支配又は管理の下に置いている状態にあれば足りる」と判示して弁護人の主張を斥けたが、支配・管理行為が構成要件上どのような意義を有しているかについては明確に述べてはいない。法文の文理的な解釈としては、行為客体である集団密航者の範囲を限定する要件と解することができ、支配・管理行為は行為客体である集団密航者を限定する要件として不可欠である。
 判決では、原判決や弁護人が主張するように、「自己の支配又は管理の下に置くことを実行行為とすると、所論のように、理論上その行為の着手時点から管理の態様や状況等を具体的に明らかにしていかなければならなくなる。……それが明らかにならなければ処罰できないとすれば、法の趣旨に反することにもなる」と述べているが、支配・管理行為が実行行為に含まれないからといって、支配・管理の状態が本罪の成立要件として不要になるわけではなく、それは依然として行為客体である集団密航者の範囲を限定する要件として必要である。従って、支配・管理状態は、集団密航助長罪の構成要件該当性を判断するために必要であり、それは「国際犯罪組織」が絡むような事案においても同様である。「国際犯罪組織」が集団密航に関与する場合、支配・管理状態の挙証責任を否定するのは、規定の解釈としては筋が通らない。入管法は、集団密航の実態に即して、それに適正に対応するために、「支配又は管理の下に置く」という要件によって行為客体を限定しているのであるから、その要件は厳格な証明の対象であると考えるべきである。

 2「偽りその他不正の手段」の有無とCらの認識について
(1)「偽りその他不正の手段」の意義と認定方法
 集団密航助長罪における「集団密航者」とは、入管法74条1項によれば、「入国審査官から上陸の許可等を受けないで、又は偽りその他不正の手段による入国審査官から上陸の許可等を受けて本邦に上陸する目的を有する集合した外国人」と定義されている。集団密航助長罪が成立する前提条件として、日本に上陸する目的を持って集合した外国人が本条所定の目的を有していることが必要である。
 まず、「入国審査から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸する目的」(無許可上陸目的)とは、どのようなものか。それは、入管法3条1項2号に規定されている目的と同じように、入国審査官から外形的にも「上陸許可の証印又は上陸の許可」を受けずに本邦に上陸する目的をいう。具体的な例としては、集団密航者が、①密航船で日本に来て、出入国港以外の場所から上陸したり、または入国審査官の目を盗んで審査ブースをすり抜けようとするなど、入国審査官から外形的にも上陸許可を受けずに上陸することを意図している場合、②所持している旅券が偽造旅券であることを秘して入国審査官から上陸許可を受けた場合のように、入国審査官から外形的には上陸許可を受けているが、法律所定の方式に従っていないため、それが無効であることを認識している場合、そして③乗員手帳を提示して有効な乗員上陸許可を受けている外観を呈しているが、自分がその名宛人ではないことを認識している場合であり、このような意図や認識があるならば、「無許可上陸目的」を認めることができる12)。
 次に、「偽りその他不正の手段により入国審査官から上陸の許可等を受けて本邦に上陸する目的」(不正上陸目的)とは、どのようなものか。それは、集団密航者が「偽りその他不正の手段」を用いて上陸の許可を申請していることが入国審査官に判明したならば、上陸の許可を受けることができなくなることを知りながら、それを隠すなどして上陸の許可等を受けて上陸しようとする目的である。具体的な例としては、①偽造の査証を提示して上陸の許可等を受けて上陸しようとしている場合、②在留資格として記載されている活動以外の活動や不法就労を行うことを意図して上陸しようとしているにもかかわらず、在留資格の活動等を行うことを申請して、上陸の許可を受けようとしている場合、③偽造再入国許可証印を押なつした真正旅券を使用し、再入国専用の上陸の許可等を受けて上陸しようとしている場合、④特別上陸許可の要件に該当していないにもかかわらず、虚偽の申請をし、偽造又は虚偽の文書を提示することによって特別上陸の許可を受けて上陸しようとしている場合、そして⑤実質的には乗員でないにもかかわらず、乗員と偽って乗員上陸の許可を受けて上陸しようとしている場合であり、このような意図や認識があるならば、「不正上陸目的」を認めることができる13)。
 本件の事案においては、Cらは有効な在留資格認定証明書の交付を受け、在ミャンマー日本国大使館にこれを提示して、有効な査証の発行を受け、査証どおりの「人文知識・国際業務」の在留資格があることを成田空港の入国審査官に示して、上陸許可を申請しているので、Cらに「無許可上陸目的」がないことは明らかであるが、「不正上陸目的」があったか否かは明白ではなかったので、この点が裁判において争われた。原判決は、Cらは、査証を申請するにあたって、Iから通訳等の業務内容が記載された在留資格認定証明書を見せられ、Iに対してそのような能力がないことを告げたが、通訳以外の仕事があり、またできる仕事を見つけてもらえるなどと言われたため、査証を申請する手続をしたというのであるから、入国審査官に対して査証どおりの「人文知識・国際業務」の在留資格があると申請したこと自体が、入国審査官に偽りその他不正の手段を用いたといえるので、Cらの「不正上陸目的」を認定した。これに対して、弁護人は、Cらが有効な在留資格認定証明書と有効な査証を受けて、入国審査官に対して査証どおりの在留資格があることを申請して、上陸許可を受けているのであるから、「不正上陸目的」はないと主張した。本判決は、原判決の事実認定を踏まえて、IはCらが通訳業務を担いうるだけの日本語能力がないことを知りながら、そのような能力があることを示す虚偽の資料を用いて在留資格認定証明書の交付を受け、Cらに書面上は通訳業務の在留資格であることを示しつつ、実際にはそれ以外の仕事に従事できることを伝え、Cらはこの内容を覚えて査証を受け取る手続をしているのであるから、Cらに「不正上陸目的」があったことは明らかであると認定した。
 弁護人がCらに「不正上陸目的」がなかったと主張したのは、その目的がCらが在留資格認定証明書と査証に記載された在留資格とは異なる内容を上陸許可申請書の在留資格の欄に記載した場合にしか認められないと理解したからであると思われる。日本における就労を希望する外国人は、自己を受け入れる勤務先又は所属機関の代表者に在留資格認定証明書を発行してもらい、それに基づいて査証を受ける必要がある(入管法7条の2)。在留資格は、教育・研究、芸術、報道、国際業務、興行など一定の職業に限定されており、在留資格証明書と査証には、この在留資格が記載されなければならない。それゆえ、権限のある機関が在留資格認定証明書を発行し、在外日本大使館がそれに基づいて査証を発行し、査証に記載されたとおりの在留資格で上陸許可申請書がなされた場合には、法的な形式的要件は満たされている。弁護人は、このような形式主義的な立場から「不正上陸目的」を否定したと思われる。これに対して、本判決が「不正上陸目的」を認めたのは、在留資格認定証明書や査証というものは、その在留資格に相応しい資格、能力、技能を備えた者だけに交付されるものであって、そのような資格や技能を持たないCらが、在留資格認定証明書や査証を受け、それを入国審査官に提示して上陸許可を申請すること自体が、そのような資格や技能を偽装した不正な手段であると認定したからであろう。つまり、上陸許可の申請がたとえ法的な形式的要件を満たしていても、上陸許可の申請者の資格と技能の水準が在留資格認定証明書と査証に記載されているそれとの間に実質的な齟齬がある場合には、「不正上陸目的」を肯定できると考えているからである。
 外国人の受入機関は、一般に日本に上陸を希望する外国人が一定の職種・業務を行いうる資格や能力、技能を備えていることを確認した上で、在留資格認定証明書を発行するので、在留資格認定書の在留資格と本人の資格や技能との間に齟齬は生じないはずである。しかし、当該外国人が免許証や技能認定書などを偽造して、一定の資格や技能を偽って在留資格認定証明書の交付を受ける場合がないとは言い切れない。判決は、このような手段が在留証明資認定格や査証を受ける段階において用いられ、それゆえ入国審査官がそのような手段が用いられたことを知り得ない場合があることを想定して、実質主義的な見地から「不正上陸目的」の意義を捉えたものと思われる。つまり、在留資格認定証明書および査証が権限ある機関によって交付された真正なものであり、それに記載された在留資格と上陸許可申請書に記載されたそれが形式的に一致していても、上陸申請者の資格や技能が、実質的に見て当該在留資格と合致しない場合には、そのような在留資格認定証明書や査証を提示して、上陸許可を申請すること自体が「偽りその他不正の手段」にあたると認定しているのである。

(2)Cらに対する上陸許可の有効性と被告人による集団密航助長の違法性
 集団密航者が入国審査官から上陸の許可を受けずに日本に上陸した場合、不法上陸罪(の共同正犯)が成立する。これに対して、集団密航者が偽りその他不正な方法により入国審査官から上陸の許可を受けて上陸した場合、それ自体としては不法上陸罪にはあたらない。なぜならば、集団密航者による上陸申請の手続は法的に有効なものであり、それに基づいて出された上陸許可もまた法的に有効であるため、集団密航者の日本への上陸を違法とすることはできないからである14)。本判決もまた、「偽りその他不正の手段により入国審査官から上陸の許可等を受けて入国した外国人は、その上陸の許可が取り消されない限り、不法入国等したとは認めることはできないし、在留資格証明書も査証も、発行権限がある者が発行したもので、無効であるとはいえない」と述べているように、上陸許可を申請する際に提示された在留資格認定証明書や査証が有効なものであり、それに基づいて入国審査官から上陸の許可を受けている以上、それが取り消されない限り、不法上陸にはあたらないのである。
 このように集団密航助長罪における集団密航者の上陸には、入管法上の不法上陸罪に該当するもの(不法上陸)と入管法上処罰されないもの(不正上陸)が含まれているが、前者の不法上陸の助長行為は、不法上陸と同等か、その保護法益の捉え方いかんによっては、それ以上の違法性があるということもできるが、後者の不正上陸の場合、集団密航者による上陸は許可が取り消されるまでは有効であるため、不正上陸の助長に不法上陸の助長と同等の違法性を認めることはできないし、それゆえ不法上陸者と不正上陸者を一括りにして「集団密航者」と呼ぶのは適切ではない。さしあたり不正上陸者を「集団密航者」と呼ぶとしても、その不正の実質的な意味は、偽りその他不正の手段によって上陸許可を得たことが上陸後に発覚し、それを理由に在留許可が取り消されたにもかかわらず、日本国内に不法に残留しているという点、すなわち不法残留という点にあり、その限りにおいて不正上陸に係る集団密航助長罪は、後に不法残留へと発展していくおそれのある上陸の助長行為を事前に規制できるよう規定したものであると解することができる。
 このような事前予防的な規制方法が集団密航の実態に即しているとしても、いくつかの解釈論上の問題がある。集団密航者が不法上陸後に日本国内に滞在し続けても、あらためて不法残留罪(70条5号)は成立しない。不法残留とは、入国審査官から上陸の許可を受けて、一定の滞在期間を経過したにもかかわらず、滞在期間の更新や変更の手続をとることなく日本に残留する行為であるから15)、不法上陸を行った者については不法残留は問題にはならない。それゆえ、集団密航者を不法に上陸させ、集団密航助長罪が成立した後に、住居を貸し与えるなどして滞在を手助けしても、(それが犯人蔵匿罪や不法入国者等蔵匿罪[74条の8]に該当することはあっても)不法残留罪の幇助を構成するものではない。これに対して、集団密航者が不正上陸後に、偽りその他不正の手段を用いていたことが発覚して、在留許可を取り消されたにもかかわらず、残留し続けた場合、不法残留罪が成立し、集団密航の助長行為者がそれに住居を貸し与えるなどした場合には、集団密航助長罪とは別に不法残留罪の幇助が成立することになる。
 このように集団密航助長罪を行った後、集団密航者の滞在に協力しても、不法上陸の場合は不法残留の幇助にはあたらないが、不正上陸の場合は不法残留の幇助にあたる。後者の集団密航助長罪と不法残留罪の幇助が併合罪の関係に立つと解されるならば、違法ではない不正上陸を助長した場合の処断刑の方が重くなり、量刑上の不均衡が発生する。このような問題を解決するためには、包括一罪として集団密航助長罪一罪のみの成立を認めるか、あるいは入管法を改正して、不正上陸に係る集団密航助長については不処罰とするかのいずれかしかないと思われる。

 3支配・管理状態の判断基準と空港での出迎え行為の評価について
(1)集団密航者に対する支配・管理状態の有無とその判断基準
 集団密航助長罪は、自己の支配又は管理の下にある集団密航者を日本に入国または上陸させることによって成立するので、その成立要件として、集団密航者が行為者の支配・管理状態にあったことが必要である。支配・管理状態が及んでいない場合には、彼らの入国・上陸を助長しても、不法入国罪または不法上陸罪の幇助でしかない。では、この集団密航者に対する支配・管理状態とは、どのようなものか。それはどのようにして判断されるのか。
 集団密航者に対する支配状態とは、集団密航者に対して一定の作為・不作為を指示し、集団密航者がその指示に従って行動する関係をいい、集団密航者に対する管理状態とは、そのような指示・従属関係にいたらない人的関係のもとで、集団密航者の意思・行動に影響を及ぼすことができる状態をいう16)。いずれも集団密航者に不法上陸または不正上陸を行う意思があり、その上陸を助長するような人的関係であるといえる。
 支配状態は、支配する行為者とそれに従属する集団密航者の間の上下ないし主従関係であり、管理状態はそのような支配関係にいたらない水平的ないし委託・受託関係であると捉えられている。その判断にあたっては、例えば①集団密航者に本邦への渡航歴があるかどうか、②集団密航者が偽造旅券や航空券を準備しているかどうか、③集団密航者に本邦内での稼働先や居住先が知らされているかどうか、④引率者が集団密航者の稼働先や住居先を紹介または案内する約束になっているかどうか、⑤集団密航者が本邦内の目的地に行くためには、引率が必要かどうか、⑥引率者が航空機内で集団密航者に随行し、集団密航者の言動に対して具体的な指示を与えているかどうか、⑦引率者が集団密航者に対して上陸審査の際の対応方法について具体的な指示を与えているかどうかといった諸事情を総合して判断すべきであると解されている17)。
 本件の事案において、弁護人は、集団密航者を支配又は管理の下に置く行為が集団密航助長罪の実行行為の一部を構成するという理解に基づいて、(1)Cらは、ミャンマー連邦内でIと対等な関係にあり、しかもCらは各自の家で生活しており、Iの管理の下には置かれていない、(2)かりにCらがミャンマー連邦内でIの管理下にあったとしても、Iは航空機に同乗しておらず、引率していないので、Cらが航空機に搭乗した時点において管理状態は消滅している、また(3)被告人らが成田国際空港でCらを出迎えたのは、彼らが入国審査官から上陸の許可を得て上陸した後であり、かりに管理状態が継続していたとしても、Iによる集団密航助長罪が既遂に達している以上、被告人がCらを出迎えたことをもって、被告人のCらに対する管理状態を認めることはできないと主張した。弁護人は、CらがIの管理下において生活していたかどうか、Iに引率されて上陸申請を行ったかどうかという居住関係や引率関係の物理的・直接的な関係を重視して、集団密航者に対する支配・関係状態の有無を判断していると思われる。
 これに対して、本判決は、集団密航者に対する支配・管理行為は集団密航助長罪の実行行為を構成しないという前提のうえで、ミャンマー連邦国内でのCらの居住関係やIによるCらに対する引率関係は「入国・上陸時の管理状態を裏付ける一事情にすぎない。そして、集団密航者が自己の支配又は管理の下にあることが必要なのは、実行行為時である、本邦に入らせ、又は本邦に上陸させる時である。この点からすれば、所論は前提を欠くことになる」と弁護人の主張を一蹴したが、CらがIの管理下にあったか否かを判断するためには、居住関係や引率関係は重要な事情であり、「一事情」として斥けることはできない18)。かりに居住関係や引率関係がなくても、Cらに対する支配・管理状態を認定できるというのであるならば、それを裏づける具体的な事実を示す必要があろう19)。例えば、Cらに対して、航空機内での振る舞いの仕方を事前に教え、また上陸申請の際の対応方法のマニュアルを手渡すなどして、Iが航空機に同乗して引率しなくても、Cらが単独で上陸許可を得て本邦内に上陸できるような心理的・間接的な関係があったことを示す必要がある。そのような関係があるならば、CらがIから離れた所で居住していようとも、またIが航空機に同乗せず、直接的に引率していなくても、Iによる管理状態を認定することができると思われる。本判決は、集団密航者を日本に入国・上陸させる時点において集団密航者を支配・管理していることが必要であると論じているのであるから、少なくともそれを裏づける心理的・間接的な事実関係を示して、IによるCらに対する管理状態を根拠づける必要があったと思われる。

(2)被告人による出迎え行為の評価
 Iによる管理状態を認めることができるとしても、被告人が成田国際空港でCらを出迎えたのは、彼らが入国審査官から上陸の許可を得て上陸した後、すなわちIの集団密航助長罪が既遂に達した後であるから、被告人がCらを出迎えただけでは、それ以前から被告人がIと共同してCらを管理していたと認定する根拠とはならない。本判決では、Iが被告人に成田国際空港でCらを出迎えるよう依頼し、被告人らがそれを了承したことをCらに伝えたので、出迎え自体は上陸後の行為であっても、「これらの行為がCらの意思や行動に影響を与えたことは明らかであり、その管理状態を判断する事情として十分に考慮することができる事情といえ」、「Cらに対するIらの管理を認めた原判決に事実誤認はない」として、「Iら」、すなわちIおよび被告人が共同してCらを管理していたと認定して、集団密航助長罪の共同正犯の成立を認めている。
 判決が指摘しているように、Cらは被告人らが空港に出迎えが来ることを事前に告げられ、またそれを期待して上陸し、被告人はそのようなCらを出迎えたのであるから、それはたんなる出迎えにとどまらない意味を有していると評価することもできる。例えば、Cらが本邦への上陸後に単独では移動手段や居住場所を確保することが困難であると思っていたが、被告人が空港で出迎えに来る予定になっていたため、被告人の協力が得られると期待し、それによって集団密航する意思が強固になったと認定することもできる。また、IがCらに対して及ぼした影響だけでは管理状態を形成することはできなかったが、被告人が空港に出迎えに来ることを了承したことによって、Cらに対する心理的な影響が強化され、それによって管理状態が補強されたと考えることもできる。しかし、被告人らが空港に迎えに来ることによって、Cらの集団密航の意思が強固になり、それを心理的に手助けしたと評価することができても、それが「管理状態を判断する事情として十分に考慮することができ」、「Cらに対するIらの管理を認めた原判決に事実誤認はない」として、Iと被告人が共同してCらを管理したと認定できるかは疑問である。被告人が出迎えを了承したことが、なぜIと被告人による共同の管理状態を根拠づけ、集団密航助長罪の共同正犯の成立を肯定することができるのかという点については、明確な説明がなされているとはいえない。そのような事実は、共同の管理状態を認定するために必要な事情であるが、それだけで十分であるとはいえない。その点が十分に説明されていない限り、被告人が出迎えを了承し、実際にも出迎えた行為は、Iの集団密航助長罪を幇助したとしか評価できないように思われる。ただし、集団密航助長罪の規定は国外でそれを行ったIには適用されないため、被告人をその幇助犯として処罰することはできない。かりに、Iの行為を航空機を用いた集団密航者の送り出しと評価し直し、それを集団密航者輸送罪として構成し、被告人が空港に出迎えに来ることを了承したことによって、輸送が容易になった、あるいは輸送する意思が強固になったと解しうるならば、被告人に集団密航者輸送罪の幇助の成立を認めることができる20)。
 すでに述べたように、入管法74条から74条の5までの集団密航助長罪の関連規定は、立法の経緯としては、船舶を用いた本邦への不法な入国または上陸が急増したことを背景にして制定されたものである。その事案には、集団密航の助長行為の実行者が船舶に同乗し、領海線や上陸場所まで引率するものが多く、立法者の認識としては、船舶への同乗と引率が前提とされていたのではないかと思われる21)。また、出入国管理令の時代から「船舶および航空機(船舶等)」を用いた不法な入国および上陸に対処してきたことからも明らかなように、輸送手段には航空機も含まれると解され、航空機を使用した集団密航助長の場合も、実行者による同乗と引率が前提とされていたように思われる。集団密航助長罪の前段階における国外からの集団密航者輸送罪と集団密航供用船舶等準備罪および同知情提供罪には国外犯の処罰規定が適用され、その後の国内における上陸場所に向けた集団密航者輸送罪と集団密航助長罪は国内犯のみが処罰の対象とされているのは、領海線を超えて日本国内に入国し、さらに上陸審査場を通過して日本国内に上陸した集団密航者とその助長者を捕らえることができれば、彼らを領海線まで輸送した者やその船舶を準備・提供した者、また航空券を手配して搭乗させ、輸送した者を「芋づる式」に突き止めることができると考えていたからであろう。そうであるならば、国外において行いうるのは、国外で行われる集団密航供用船舶準備罪や同知情提供罪と国外からの集団密航者輸送罪だけであり、集団密航助長罪もまた国外において行われ得るというのは、論理的に矛盾していると言わざるを得ない。
 集団密航助長罪の成立には、船舶または航空機を利用して集団密航者の入国・上陸を助長する者が彼らを引率していることが必要であり、その限りにおいて、国内における共謀者にそれとの共同正犯の成立が認められる。本件の事案では、IはCらを引率していないので、集団密航助長罪は成立せず、それゆえ被告人にその共同正犯は成立しない22)。

 4密航者の集団性の要件と入管法74条の3の趣旨について
 弁護人は、①実行の着手から既遂に至るまで、「密航者の集団性」が維持されることが必要であるが、Cらはミャンマー連邦内では各々の家で生活しており、お互い知らない者がいたので、「密航者の集団性」は否定され、また②不正の方法によって在留資格の交付を申請する行為を集団密航助長罪の実行の着手と捉えると、入管法74条1項の予備行為を独立の処罰対象とした同74条の3の法の趣旨に完全に反すると主張した。これに対して、判決は、「支配又は管理の下に置く行為を実行の着手時期と捉えるべきではないことは、上記のとおりであり、これらの所論は前提を欠くことになる」と述べて、弁護人の主張を斥けた。

(1)密航者の集団性か、それとも集合状態か?
 集団密航助長罪における「集団密航者」とは、無許可上陸又は不正上陸の目的を有する集合した外国人のことであるが、この「集合した外国人」とは、特定の場所に集まった状態にある2人以上の外国人をいい、彼らが自発的に集まったのか、他の者が集めたのかは問題ではなく、また密航者が「組織化」されていることも必要ではないと解されている23)。ただし、集合するに至った経緯は様々であっても、無許可上陸等の目的を有した複数の外国人が一定の場所に単に集合していればよいというのではなく、彼らが当該目的を有する集合した外国人であること、つまり共通の目的を有する外国人の集団(目的集団)であることが必要であると思われる。そのように解さなければ、例えば密航船が出航するとの噂が出ている港に偶然居合わせた複数の密航希望者を支配・管理状態に置いて、日本に不法に入国・上陸させた場合の不法上陸罪の幇助と本罪とを区別することができなくなる。従って、「集団密航者」の「集団性」は、単なる集合状態ではなく、共通する目的よって形成された集団性という意味において理解すべきであろう。
 このように考えると、Cらが日本に上陸する前の時点において、ミャンマー連邦国内で集団を形成したという点についても明らかにしなければ、Cらが集団密航助長罪における「集合した外国人」に該当するとは判断できない。弁護人は、Cらはミャンマー連邦内では各々の家で生活しており、お互い知らない者がいたので、その密航者の集団性は否定されると主張したが、それは一つの住居において共同生活していなければ集団性が認められないというのではなく、少なくともCらが相互に面識があり、不正上陸目的を共有していることの認識が必要であるという意味であろう。判決は、「支配又は管理の下に置く行為を実行の着手時期と捉えるべきでないこと」を理由に、弁護人の主張は前提を欠くとして斥けているが、集団密航助長罪の実行行為に支配・管理行為が含まれないことと、「集団密航者」の要件として単なる集合状態で足りると解することとは異なる次元の問題である。それについて十分な理由を示すことなく、Cらを「集団密航者」として認定した判決には問題があると言わなければならない。

(2)入管法74条の3の趣旨
 弁護人は、集団密航助長罪の実行行為に集団密航者を支配・管理する行為も含まれると解した上で、不正の方法によって在留資格の交付を申請する行為を実行の着手と捉えると、入管法74条1項の準備行為を独立の処罰対象とした同74条の3の法の趣旨に反すると主張した。
 弁護人の実行行為の理解を前提にするならば、本件の事案においては、「人文知識・国際業務」の在留資格認定証明書と査証の交付を受けるために、虚偽の日本語学習証明書等を準備するなどしただけで、集団密航助長罪の未遂が成立することになってしまう。しかしながら、集団密航助長罪の未遂は、集団密航者を本邦に上陸させる行為の未遂に限定されており、本邦に入国させる行為の未遂はそれ自体として不可罰であるので、国外において虚偽の日本語学習証明書を準備しただけでも、集団密航助長罪の未遂にあたるというのは、未遂の処罰範囲を不当に拡大させるものである。しかも、集団密航助長罪の予備行為として処罰されるのは、集団密航の用に供する船舶等を準備した行為だけであり、虚偽の日本語学習証明書の準備は集団密航船舶等準備罪にさえあたらないが、それにもかかわらず、それよりも重い集団密航助長罪の未遂の成立を認めるならば、刑の逆転現象が生じ、問題である。本罪の未遂は集団密航者を上陸させる行為の未遂であることが明文で規定されているので、未遂の成立時期の問題は、すでに立法によって解決されている。従って、判決が述べているように、「支配又は管理の下に置く行為を実行の着手時期と捉えるべきではないことは、上記のとおりであり、これらの所論は前提を欠くことになる」と述べて、弁護人の主張を斥けたのは理論的に妥当である。

 四 残された課題
 外国人に対する管理・保護政策は、洋の東西を問わず、敵視・賤外・排除から相互・平等の方向で発展してきたと言われる。その前提には、主権国家間の相互関係の発展と近代的な国際関係の深化がある。ただし、それは一路、国際平和と相互共存へと向かうわけではないし、また現実にもそうであった。政府間において友好関係があれば、その国民の関係も友好的になり、経済的交流だけでなく、文化的交流も促進され、それが個々の国家・社会の経済的・文化的な発展の原動力になるが、逆に対立関係があれば、それは相手方の国家と国民に対する差別と排除を正当化する論理へと転化する。国際的な経済市場において競争関係が激しくなればなるほど、また対外的な軍事・防衛事情において国際関係が複雑になればなるほど、出入国管理政策を含む外国人政策は、友好・尊重から敵対・管理へと向かうおそれがある。しかし、それは法の理念に反する。法の理念は、諸民族の友好と平等と平和を希求し、その上に国家間の関係を構築する。従って、外国人政策の基本は友好と平等を基礎に据えるべきである。出入国管理法の立法と解釈、とりわけ集団密航助長罪の関連規定の解釈の妥当性は、諸民族間の友好と平等を基準にして判断されるべきである。
 本稿は、東京高裁平成21年12月2日の判決を素材にしながら、集団密航助長罪の関連規定のいくつかの解釈論上の問題を検討した。ただし、それは集団密航助長罪の規定の個別的な成立要件やそれと他の規定の関連性などに限定されたものであり、出入国管理制度やその政策の現状、国際的な諸関係の推移とその政策への影響などの要因を踏まえた総合的な考察には至っていない。それらの検討は、今後の課題としたい。

10)仲道・122頁では、上陸に係る集団密航助長罪の未遂形態と国内集団密航者輸送罪の実行行為の形態との間において「重なり合い」がないことの理由として、「航空機による不法上陸の場合」において、輸送を終え、乗客が上陸審査場に到着するまでに様々な段階があり、その間において上陸に係る集団密航助長罪の実行の着手を観念しうることが想定されているようである。例えば、集団密航のブローカー組織の中で、航空機の着陸までの勧誘・移送担当者とその後の上陸手続の受入担当者が区別されているような場合がそれにあたるであろう。このような場合、上陸に係る集団密航助長罪の実行の着手時期は、航空機による輸送=引率とは異なる行為によって画されなければならない。
11)仲道・122頁以下では、「輸送罪の規定が存在することのみをもって、入国にかかる集団密航助長罪の実行行為を国外に拡張できない根拠とはならない」と述べて、国外集団密航者輸送罪の実行行為と入国に係る集団密航助長罪の実行行為とが重なり合わない場合があり、その限りで入国に係る集団密航助長罪の実行の着手を国外において認めることができる場合があることを問題にしている。その検証事例として挙げられているのは、陸揚げ(=上陸)を既遂時期とする拳銃密輸入罪の事例や航空機による不法上陸の事例である。しかし、問題として考察しているのは、国外からの集団密航者輸送罪の実行行為と「入国」に係る集団密航助長罪の実行行為の「重なり合い」の有無であるので、検討すべきは、不法上陸の事例ではなく、不法入国の事例でなければならない。例えば、Aが密航船で日本の領海線の付近まで集団密航者を輸送し(国外集団密航者輸送罪)、そこから密航者がAのゴムボートを使って領海線の方向に向かい領海線を超え、そこで待機していたBの密航船に乗り換えたような場合が考えられる。このような場合、Aの行為態様が国外集団密航者輸送罪にとどまらず、入国に係る集団密航助長罪の実行の着手にあたるかを検討し、それが認められるならば、Aの行為が国外で行われていようとも、入国という結果が日本の領海内で発生している以上、Aに入国に係る集団密航助長罪の成立を認めることができ、「輸送罪の規定が存在することのみもって、入国にかかる集団密航助長罪の実行行為を国外に拡張できない根拠にはならない」と主張することができよう。
12)藤永幸治編(藤本冶彦)『シリーズ捜査実務全書⑮国際・外国人犯罪』(2007年)377頁以下参照。
13)藤永(藤本)・378頁以下参照。
14)「入国審査官から外形的に上陸の許可等を受ける場合には、……許可に瑕疵があってもその許可が取り消されるまでは有効である」(坂中・斎藤・869頁)、「いったん受けてしまえばその『上陸の許可等』は有効である……」(本田・29頁)、「いったん受ければその上陸の許可等は有効である」(岩橋・96頁)と述べられているように、不正上陸目的にもとづく上陸は外形的には上陸許可に基づいているため、それが取り消されるまでは有効である。しかし、このように有効な上陸を集団的に行った者が「集団密航」を行った者とみなされる理由は必ずしも明らかではない。藤永(藤本)・378頁以下は、「これらの場合、密航者本人は第3条1項にいう不法入国者には必ずしも該当しないので、擬律にあたっては注意が必要である」と述べ、また岩橋・前掲97頁もまた、「入管法3条1項による不法入国者に当たらない者も、集団密航者に含まれることに注意する必要があります」と述べている。入国・上陸した者が「集団密航者」でなければ、それを助長した行為が集団密航助長罪の構成要件に該当するとはいえないので、その該当性を判断するに当たっては、入国・上陸者を入国・上陸させたこと、彼らが助長行為者の支配・管理下にあることだけでなく、彼らが「集団密航者」であることも必要であり、この「注意」は、集団密航助長罪の構成要件該当性判断に際しても同じ様に求められる。
15)藤永幸治編(河村博)『シリーズ捜査実務全書⑮国際・外国人犯罪』(2007年)292頁以下参照。
16)出入国管理法令研究会編『注解・判例 出入国管理実務六法』(2013年)、161頁、坂中・斎藤・867頁、藤永(藤本)・379頁以下、尾崎・52頁、武田・9頁以下、本田・30頁、三浦・47頁、田辺・82頁、岩橋・95頁参照。
17)藤永(藤本)・380頁以下参照。
18)集団密航助長罪の関連規定は、集団密航者を集合させ、日本に向かって輸送し、入国・上陸させ、潜伏するに至るまでの間にブローカー等が関与する行為を段階的に独立の犯罪として類型化したものであるが、立法者の意思としては、輸送から入国・上陸に至る過程において、集団密航の助長行為者が集団密航者を引率することを前提としていたのではないかと思われる。例えば、坂中・斎藤・866頁では、集団密航者助長罪の関連規定が処罰の対象としている行為は、「集団密航者を船舶に乗せて本邦の領海内まで運ぶ行為、領海内に入った船舶から集団密航者を本邦の岸壁まで運んで降ろす行為、集団密航者を貨物船の船倉若しくはコンテナの中にかくまって本邦に入らせ又は上陸させる行為、集団密航者を引率し航空機で本邦に到着し、これらの集団密航者にあらかじめ手渡しておいた偽造の在留許可認定書を提示させる等して、入国審査官から旅券に在留許可の証印を受けさせて上陸させる行為等」と捉えられ、武田・9頁以下では、集団密航助長罪の行為の一例として、「集団密航者を引率し、これに偽造旅券又は偽造の再入国許可証印を受けてある旅券を渡して入国審査官に提示させ上陸許可の証印を受けさせる行為」と説明されている。
19)藤永(藤本)・379頁は、「近年密航の手段・方法が多様化しており、実務上、密航を助長する犯罪組織関係者が、密航希望者に対してあらかじめ偽造又は不正に入手した旅券や査証等を手渡した上、これらの者を引率し、航空機により本邦に入国・上陸させる事例がしばしば見られるようになり、かような事案に本条の罪の適用があるかが問題となっている。確かに本条の罪は、船舶密航の激増を背景に新設されたものであるが、その一事をもって航空機による引率密航についてその成立を否定することは相当ではなく、この種事案についても、密航者の集団性及びこれらが犯人の支配又は管理下にあったことが認められるかぎり、成立を認めるべきである」と述べ、岩橋・95頁もまた、「船舶に集団密航者を乗せて運んでくる場合は、この要件(管理・支配状態を指す――引用者)が問題になる事例は少ないと思いますが、航空機に集団密航者を搭乗させ、これを引率して(多くの場合、引率者は日本人であると思われます。)本邦に入国・上陸させた場合に、『自己の支配又は管理の下にある』といえるかが問題となる場合があります」と述べて、航空機を用いた集団密航の場合の支配・管理状態の判断は、助長行為者が航空機へ同乗し、集団密航者を引率していることが前提とされている。
20)拙稿・135頁等参照。もちろん、その場合、ミャンマー政府がIの引き渡しに応じ、Iの正犯の事案と被告人の幇助犯の事案が日本の裁判所において並行して審理されることが必要である。
21)田辺・80頁以下では、「集団密航事犯に対する改正入管法の適用をめぐる問題を整理」するために、具体的な事例問題を想定して、集団密航への関与者の罪責について論じている。その事例は次のようなものであえる。密航斡旋組織のメンバーA(X国籍)は、暴力団幹部B(日本国籍)に対して、密航者の話を持ちかけ、協力することとなった。Aの側では、Bに対して出迎船(瀬取船)、東京までの密航者の輸送手段、密航者をかくまう場所の確保などを依頼して、Bの承諾を取り付け、またCに対してX国から日本に向けて密航者を輸送することを依頼して、Cの承諾を取り付けた。Bの側では、Dに対して出迎船を出すことを、Eに対して密航者を東京まで運ぶこと、そしてFに対して密航者をかくまう場所を手配することを依頼し、それぞれ承諾を取り付けた。そして、その計画どおり集団密航を組織し援助したが、かくまうために用意された倉庫には行き着かなかったという事案である。成立する罪責としては、Cには(国外から日本に向けての)集団密航者輸送罪および入国に係る集団密航助長罪と本人自身の不法上陸罪が、Dには(国内において上陸場所に向けての)集団密航者輸送罪および上陸に係る集団密航助長罪が、Eには集団密航者収受罪が、Fには集団密航者収受予備罪がそれぞれ成立するとした上で、AおよびBには、C、D、Eとの間に共謀が認められる場合には、それらの犯罪の共謀共同正犯が成立すると論じている(Fとの共謀については言及なし)。この事案においても、CがX国から集団密航者を領海線まで輸送して引率し、Dが彼らを上陸場所まで輸送して引率していることが前提とされ、実行犯C・Dが集団密航者を引率して支配・管理している場合に、それと共謀関係にあるA・Bの共同正犯の成立を認めている。
22)本判決が、Iと被告人がCらを共同して管理していたと認定し、被告人に集団密航助長罪の共同正犯の成立を認めたのは、Iを集団密航者輸送罪の正犯とし、被告人らをその幇助犯としたならば、刑事手続において正犯不在のまま幇助犯のみを審理することになり、理論的にも実務的にも問題を抱え込むことになる可能性があったからではないだろうか。このような問題を回避するために、被告人が国外にいるIと集団密航助長罪の共同正犯の関係に立ち、Iの存在なしでも審理できるように理論的に構成せざるをえなかったのではないかと推測される。
23)出入国管理法令研究会編・161頁、尾崎・52頁、武田・9頁、本田・29頁、三浦・47頁、田辺・83頁、岩橋・97頁参照。坂中・斎藤・869頁以下は、「客観的に2人以上の者が一定の場所に集まっていれば、集まっている者が相互に集まっていることを認識していなくても、ここにいう『集合』に当たる。例えば、同じ船舶に本邦に密航する目的を有する外国人AとBが集まった場合、Aが甲船室、Bが乙船室にいて、AとBが相互に相手の存在を認識していなくても、『集合』といえる」と述べているが、その理論的根拠は示されていない。

本稿は、浪花健三先生退職記念論文集・立命館法学第352号(2014年)321頁以下に掲載されたものである。