Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(05)練習問題(第30問A、第31問A、第32問A)

2020-10-26 | 日記
 第30問A 強盗殺人罪①
 暴力団員甲と乙は、密売人丙から覚せい剤をだまし取ろうと共謀し、ホテルの一室に丙を呼び出した。そして、甲は事前の打ち合わせどおり、「覚せい剤をほしがっている乙が隣室にいる。乙に見せるためにちょっと貸してほしい。」と言って丙から覚せい剤を借り、そのままホテルから逃走した。その後、不審に思った丙は、隣室へ赴き、逃げ遅れた乙に対し「覚せい剤を返せ。」と要求した。乙は、とっさに、丙の要求を封ずるために丙を殺害しようと考え、ひそかに隠し持っていたけん銃で丙を撃ち重傷を負わせた。甲および乙の罪責を論ぜよ。

(1)甲の行為について
1甲が乙に見せると偽って丙から禁制品である覚せい剤を借りた行為は、詐欺罪にあたるか。

2詐欺罪(刑法246条)とは、人を欺いて財物を交付させる行為である。欺くとは、虚偽の事実を真実であると誤信させ、錯誤に陥れることである。財物とは有体物である。交付とは、欺かれ錯誤に陥れられた人がその財物の占有を欺いた人に移転することである。

3甲は覚せい剤をだまし取ることを隠して、丙に対して覚せい剤を乙見せると偽って、丙から覚せい剤を受け取り、そのまま逃走した。

4覚せい剤は、化学的な構造かならる物質(有体物)であり、財物に該当する。しかし、それは法によって所持することなどが禁止されている。このような財物もまた刑法によって保護されるのか。たとえ禁制品であっても、一定の手続によらなければ押収・没収などできない。したがって、覚せい剤であっても、その限りにおいて財物として保護される。しかも、甲は丙に乙に見せると偽っているので、丙を欺いている。また、それにより錯誤に陥った丙が甲に覚せい剤を貸し、その占有が甲に移転したので、交付したと評価することができる。

5したがって、甲には詐欺罪が成立する。詐欺罪を共謀した乙にも詐欺罪が成立し、甲・乙は詐欺罪の共同正犯である(刑法60条、246条1項)。

(2)乙の罪責について
1乙が丙に対する覚せい剤の返還を免れるために、殺意をもって拳銃を発砲して重傷を負わせた行為は、利益強盗殺人未遂罪にあたるか。

2利益強盗殺人罪とは、被害者を故意に殺害する目的で暴行などを加え、財産上不法の利益を得る行為である。暴行は、被害者の反抗を抑圧するに足りるものでなければならない。財産上不法の利益を得るとは、履行すべき債務を免れたり、返還義務のある物の返還を免れることによって、財産上の利益を得ることである。利益が移転するためには、権利者が権利放棄するなどの財産的処分行為は必ずしも必要ではなく、事実上、義務を免れることによって、利益の移転を認めることができる。また、被害者を故意に殺害しようとして、殺害するに至らなかった場合、利益強盗殺人未遂罪が成立する。

3乙は、覚せい剤の返還を求める丙に対して、その要求を封ずるために丙を殺害しようとして拳銃を発砲し、重傷を負わせた。

4乙は丙から覚せい剤の返還を求められた。覚せい剤のような禁制品であっても、適正な手続によらずに取得しているので、乙にはそれを返還すべき義務がある。また、丙は覚せい剤の取引という不法な原因に基づいて甲に預けた(寄託した)だけなので、民法708条に規定されているように返還請求権が失われるわけではない。
 丙は、このような丙の覚せい剤の返還要求を封ずるために、故意に丙を殺害しようとして拳銃を発砲し、それに至らなかった。拳銃の発砲は、丙の反抗を抑圧するに足りる行為である。そして、それによって覚せい剤の返還を免れたといえる。丙は乙に対して覚せい剤の返還義務を免除するなどの意思表示(財産的処分行為)を行ったわけではないが、そのような行為は、利益の移転には影響を及ぼさない。
 また、乙が故意に丙を殺害するために発砲したが、丙は死亡するに至らなかった。刑法240条の罪(強盗致死傷罪)は未遂も処罰されるが(刑法243条)、その未遂とは、財物の強取または利益の取得の目的に基づいて、被害者を故意に殺害しようとして、殺害するに至らなかった場合に限られると解される。乙は丙に発砲し、覚せい剤の返還義務を免れたが、殺害するに至らなかったので、利益強盗殺人未遂罪が成立する。

5丙には強盗殺人未遂罪(刑法243条、240条)が成立する。甲と乙の間で丙の殺害は共謀されていなかったので、甲には同罪は成立しない。強盗殺人未遂罪は乙の単独による犯行である。

(3)結論
 以上から、甲と乙には詐欺罪の共同正犯である(刑法60条、246条1項)。また、乙には強盗殺人未遂罪(刑法243条、240条)が成立する。
 乙に成立する詐欺罪は財物詐欺罪であり、強盗殺人未遂罪は利益強盗殺人未遂であり、各々の罪の客体と法益は異なり、2罪の成立が認められるが、1人の被害者に対して場所的・時間的に近接した状況で行われてているので、2罪は包括一罪として、利益強盗殺人未遂罪1罪が成立すると解される。



 第31問A 強盗殺人罪②
 Xは甲の留守宅に侵入し、金庫の中にある現金1000万円を、持参したボストンバッグの中に詰め込んだ。Xは目的を達し、甲宅をあとにしようとしたところ、突然甲が帰宅し、玄関で鉢合わせになった。Xはとっさに甲の財布も奪おうと思いつき、上着の内ポケットに隠し持っていた小刀を甲に突きつけて「けがをしたくなければ、おとなしく財布を出せ。」と甲に迫った。甲は武道の心得もあり、剛胆な性格であったことから、恐怖を感じることはなかったが、「相手は小刀を持っているので、もみ合いになればけがをするかもしれない。ここは素直に財布を渡して、機を見て取り返そう。」と考え、財布をXに渡した。Xは財布をボストンバッグを持って玄関から逃げ出した。甲もすぐに玄関を飛び出し、Xを追いかけ、「強盗だ、だれかそいつを捕まえてくれ。」と叫んだ。たまたま付近を通りかかった乙がそれを聞いてXを追い掛けた。Xはこのままでは乙に追いつかれてしまうと考え、所持していたけん銃を懐から取り出し、死亡することになってもやむをえないとの意思で乙に発砲し、死亡させた。Xの罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。

(1)甲の留守宅に立ち入った行為
1Xは甲の留守宅に立ち入った。その行為は住居侵入罪にあたるか。
2住居侵入罪は、正当な理由がなく他人の住居に立ち入る行為である。その実質は、居住権者の住居権の侵害、つまり立ち入りの許諾を決定する意思の自由の侵害である。
3Xは留守宅の甲の住居に入った。
4Xが甲の住居に入る際に、甲は留守であり、居住者・甲の許可を得てない。また、入って現金1000万円を盗っているので、その目的は窃盗などの目的によるものであり、甲の許諾が得られないことは合理的に推定できる。
5従って、Xの行為には住居侵入罪が成立する(刑法130条前段)。

(2)Xが1000万円をボストンバッグに入れた行為
1Xは、甲の1000万円のボストンバッグに入れて、玄関から出た。この行為は窃盗罪にあたるか。
2窃盗罪とは、財物を占有する他人の意思に反して、その占有を侵害し、当該財物を自己または第三者の事実上の支配領域内に移転する行為である。
3Xは甲の留守宅にあった1000万円の現金をボストンバッグに詰め込んで、玄関を出た。
41000万円は甲が占有する現金であり、Xがその占有を自己に移転することを、甲の意思に反していることは明らかである。Xは、ボストンバッグに現金を入れたが、この時点では、まだXは甲宅内にいるため、その占有を完全に移転したとはいえないように思われ、窃盗罪は未遂の段階でしかないといえるが、甲が現金をボストンバッグに入れたことによって、その現金はXのもののような外観を呈するに至った点に鑑みると、現金の占有はXに移転したと認定することができる。
5従って、Xが現金をボストンバッグに入れた時点で窃盗罪は既遂に達したといえる(刑法235条)。

(3)Xが小刀を用いて、甲の財布を奪った行為
1Xは窃盗既遂後、玄関から逃走する際に帰宅した甲と鉢合わせになり、その財布を奪う意思を生じて、携帯する小刀を用いて財布を奪った。この行為について強盗罪が成立するか、それとも恐喝罪が成立するか。
2強盗罪とは、暴行・脅迫を用いて人の占有する財物を強取行為である。暴行・脅迫は、一般に被害者の反抗を抑圧する程度のものでなければならない。人の財物の強取については、窃盗罪と同じ要件である。
3Xは甲に小刀を突き付けたが、武道の心得のある甲はそれに恐怖を感じることなく、「ここは素直に財布を渡して、機を見て取り返そう」と判断して、財布を渡した。
4Xが小刀を用いた行為が、強盗罪の手段行為である暴行または脅迫にあたるかが問題になる。甲はXに小刀を突き付けられても、恐怖を感じなかったので、甲による反抗は抑圧されたとはいえない。しかし、強盗罪の手段行為である暴行・脅迫の程度は、一般人を基準に判断されるので、現に被害者の犯行が抑圧されることは必要ではない。小刀を突き付けられれば、一般には反抗し難くなるといえるので、Xは一般に被害者の反抗を抑圧する程度の暴行または脅迫を用いて、甲から財布を奪ったと認定することができる。
5従って、Xの行為は強盗罪(刑法236条1項)にあたる。

(4)Xが逃走中に甲の呼びかけを聞いた乙に追い掛けられ、殺意を発砲し死亡させた行為。
1Xが乙に発砲し死亡させた行為は強盗殺人罪にあたるか。
2強盗殺人罪とは、強盗が故意に人を殺害する行為である。強盗の手段行為である暴行を行う時点で殺意があり、現に被害者を殺害した場合に成立するが、さらに強盗の終了後であっても、その機会継続中に行った暴行により、あるいは強盗の行為と密接に関連する暴行によって故意に被害者を殺害した場合でも強盗殺人罪が成立すると解されている。またh、その殺人が強取した財物の確保や逮捕を免れるために行われるような場合、その対象は強盗罪の被害者本人だけでなく、財物奪還や現行犯逮捕しようとする第三者も含まれる。
3Xは甲から財布を強取した後、甲の呼び声を聞いた乙に追い掛けられ、捕まえられるのを防ぐために、殺意に基づいてけん銃を発砲し、殺害した。
4Xが乙を殺害したのは、甲に対して強盗を行った直後で、乙に捕まえられそうになった時点であり、それは時間的・場所的に見て近接性があった。従って、強盗の機会継続中であったといえる。また、乙は強盗の直接の被害者ではないが、甲から被害を聞き、Xを捕まえようとしたのであるから、乙を殺害することは逮捕を免れることにほかならず、強盗の機会継続中の殺人といえる。
5以上から、Xの行為は乙に対する強盗殺人罪(刑法240条)にあたる。刑法240条は、致死傷の結果につき故意のない結果的加重犯と解することもできるが、致死傷の結果につき故意のある場合の処断刑の不均衡を回避するために、その故意のある場合も含むと解すべきである。

(5)結論
 Xには甲に対する住居侵入罪、窃盗罪および強盗罪、そして乙に対する強盗殺人罪が成立する。住居侵入罪と窃盗罪は牽連犯(刑法54条後段)である。窃盗罪と強盗罪は、同一の被害者・甲に対する行為であり包括一罪として強盗罪として処理される。甲に対する強盗罪と乙に対する強盗殺人罪は併合罪の関係に立つ。


 第32問A 事後強盗罪
甲は、窃盗の目的でA方に侵入し、金品を物色していた際、Aの妻であるBに発見され、叫ばれたので、手元にあった仏像を盗んで、逃げ出した。しかし、帰宅してきた夫のAが、Bの「どろぼう。」との叫び声に気づいて、逃走する甲を発見・追跡してきた。そこで、甲はすぐさま物陰に隠れてAをやり過ごし、携帯電話で友人乙に事情を話して応援を求めた。10分後、乙がやってきて甲にナイフを手渡した直後、甲はAに発見された。そのため、甲はナイフで、追跡してきたAの足を刺し、乙とともに逃げ去った。その結果、Aは重傷を負った。その後、乙は、甲に仏像の換金を依頼されたので、盗んだ仏像を質屋に持っていき、自分の物だと言って、金を借り、そのうちの半分だけを甲に渡し、半分を着服した。甲・乙の罪責を論ぜよ。
 論点
(1)甲は、A宅に窃盗目的で侵入し、仏像を窃取した。
(2)仏像の窃取後、甲は、友人乙に事情を話し、やって来た乙からナイフを受け、そのナイフでAの足を刺し、重傷を負わせた。
(3)甲から事情を説明された乙は、甲にナイフを渡して、Aに対する刺突行為を援助した。
(4)甲は乙に仏像の換金を依頼し、乙がそれを質屋に持ち込み、自分のものだと欺いて金を借りた。
(5)乙は、借りた金の半分を甲に渡し、残りの半分を着服した。
(1)Aの住居に侵入後、仏像を盗んだ。
1住居侵入罪と窃盗罪が成立するか。
2住居侵入罪とは、窃盗罪とは。
3甲は、A宅に入り、仏像を盗って、逃げた。
4住居への侵入と財物の窃取の要件を満たす。
5住居侵入罪(刑130)と窃盗罪(刑235)が成立する(刑法54条1項後段の牽連犯)。
(2)甲がAの足にナイフで刺突し、重傷を負わせた。
1甲がAの足にナイフを刺して逃げた行為は、事後強盗傷害罪にあたるか。
2事後強盗罪とは。窃盗が逮捕を免れるなどの目的に基づいて被害者に暴行を加えること。暴行が窃盗の機会継続中に行われていることが必要。相手を故意に傷害した場合、事後強盗傷害罪(刑法240条)にあたる。
3甲は追跡する甲に対してナイフで足を刺している。
4甲は、追跡するAの足をナイフで刺しているので、傷を負わせる認識があったと認定でき、その目的も逮捕を免れるためであったことは明らかである。ただし、それは窃盗から10分後であるので、窃盗の機会継続中の傷害といえるか。10分後であっても、Aが追跡し、捕まえようとしている状況において行われたのであるから、窃盗の機会継続中であったといえる。
5従って、事後強盗傷害罪(刑法240条)が成立する。
(3)甲にナイフを与えた乙の行為
1乙が甲にナイフを手渡した行為は、事後強盗傷害罪の幇助か。
2事後強盗罪は、窃盗が238条所定の目的から、被害者に対して暴行・脅迫を行う行為である。その実行行為は暴行・脅迫であり、その行為を容易にした第3者には事後強盗罪の幇助が成立する。
3乙は、甲が窃盗を行い、逃走中であることを知りながら、甲に逃走用の道具としてナイフを手渡し、甲はそのナイフでAの足に刺した。。
4事後強盗罪は、窃盗が238条所定の目的から被害者に暴行・脅迫を行う身分犯である。これは窃盗という身分によって、暴行・脅迫という人身犯を強盗罪という財産犯へと構成する真正身分犯である。乙は窃盗に関与していなくても、甲が窃盗を行った事情を知りながらナイフを手渡した。甲はそのナイフでAをさして負傷させた。これは甲の事後強盗傷害罪の幇助にあたる。ただし、乙は甲にナイフを与えただけで、甲がAを負傷させることまで認識していたかは明らかではない。そうすると、甲がAから逮捕を免れるために行った暴行・脅迫を幇助する意思しかない。甲の暴行とAの死亡との間に因果関係がある以上、それを幇助した乙には強盗傷害罪の幇助が成立する。あるいは、乙にAの傷害が予見可能性があれば、乙には事後強盗致傷罪の幇助が成立する。
5乙には事後強盗致傷罪の幇助が成立する(刑240条、62条)。
(4)乙が質やで仏像を換金した行為
1乙には盗品等の有償処分のあっせん罪が成立するか。
2盗品等の有償処分のあっせん罪とは、「財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」を領得した者から依頼を受けて、それを他の者に対して有償で買い取るなどをあっせんする行為である。
3乙は質屋に行って、仏像を自分の物だといって金を借りた。
4仏像は甲が事後強盗傷害罪によって領得した財物であり、それを質屋に行き、質草として渡して、金を借りるのは有償処分のあっせんにあたる。
5乙には盗品等の有償処分のあっせん罪(刑法256条1項)にあたる。
(5)乙が借りた金の半分を着服した行為
1乙が借りた金の半分を着服した行為は横領罪にあたるか。
2横領罪とは、自己の占有する他人の財物を領得する行為である。
3乙は、甲が盗んだ仏像の換金を依頼され、質屋から金を借り、その金を着服した。
4乙が着服した金は、甲の仏像を換金した金であり、甲の金であるが、それは甲がAから強取した仏像を換金して得られた金であり、甲にその返還請求権があるとはいえない。しかし、甲の返還請求権がなくても、その金は乙から見れば「他人の物」である。そうである以上、その半分であっても着服すれば横領にあたる。
5以上から、乙には横領罪(刑法252条1項)が成立する。

(5)結論
 甲には、住居侵入罪、(事後)強盗傷害罪が成立する。両罪は牽連犯の関係に立つ。
 乙には、(事後)強盗傷害罪の幇助、盗品等有償処分のあっせん罪、横領罪が成立する。これらの罪は併合罪の関係に立つ。