Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第4週 刑法Ⅰ(総論)(2014.04.28.-04.30.)

2014-04-25 | 日記
 第04週 違法性と違法性阻却 (2014.04.28-30)
(1)違法性
・犯罪は構成要件に該当する違法で有責な行為である
 違法(ないし違法性)とは、ある行為が犯罪として認定されるための(第2の)要件

(2)客観的違法論か、それとも主観的違法論か
・法規範の機能
 社会契約による国家の創設 + 議会制民主主義による国家権力の最高機関の設置
 →国家は、国民の法益保護のために、一定の行為を禁止・命令することができる
  禁止・命令を国民に明示する媒体としての「法(刑法)」
  刑法とは、国家による禁止規範(~~するな)・命令規範(~~せよ)の総体

・法規範(刑法規範)=意思決定規範(命令規範)→主観的違法論
 刑法規範=命令規範 → 刑法規範は、その意味を理解する者のみに向けられる
 従って、刑法規範の名宛人は責任能力者であり、刑法の意思決定規範に反して行われた
 責任能力者の故意・過失行為が適法・違法の判断対象ということになる

・刑法規範=評価規範と意思決定規範(命令規範)の二元的構造→客観的違法論
 評価規範 「~~の行為は法に反する」(行為が客観的な法秩序に反するか否か)
 意思決定規範 「~~の行為を行うな」(故意・過失により意思決定がなされたか否か)
  評価規範に対する違反=違法
  意思決定規範に対する違反=責任(故意・過失)

・いずれの違法論が妥当か?
 刑罰権の濫用と恣意的な行使を制限できるのは、どちらの違法論か?

 刑法の論理的で妥当な適用を可能にするのは、どちらの違法論か?
  責任無能力者の(故意・過失による)殺人に殺人罪を適用できるか?
  その殺人に対して正当防衛ができるか? →主観的違法論からは、正当防衛は不可

(3)形式的違法論と実質的違法論(形式を踏まえた上で、実質的に把握することの意義)
・形式的違法論の意義――違法性の概念を形式的に捉えることは罪刑法定主義の要請
 違法とは、ある行為(作為・不作為)が「法に反する」ことをいう
 「法に反する」とは、刑法の「犯罪構成要件に該当すること」をいう
 刑法(宗教や道徳ではない)の規定を基準にして違法を把握→罪刑法定主義の要請

・実質的違法論の意義――悪しき法実証主義(法は法なり。悪法もまた法なり)の克服
○形式的違法が備えている量と質を見た場合、刑罰を科すに値しないと判断される場合
 →可罰的違法の観念を支える理論としての実質的違法論
  違法の統一性 違法は法に対する違反。犯罪の違法も、不法行為の違法も同じ
  違法の相対性 刑罰によって対応される違法と損害賠償によって対応される違法

  違法を量と質の面から捉えることの必要性
  問 他人の家の庭に咲いている一輪の花を摘み取った→窃盗罪?
    A子は妻子のある男性Bと結婚した→重婚罪?

○形式的違法はあるが、法秩序の見地から、違法と判断できない(すべきでない)場合
 →違法阻却の一般的原理を支える理論としての実質的違法論
  犯罪の構成要件に該当する行為が行われた→行為の違法性の推定
  法益の不存在
  問 Aは駅前の放置自転車を乗って帰った。所有者はそれをすでに廃棄していた。

  小さな法益を侵害したが、それによって大きな法益が保全された
  問 Aは暴漢Xから逃れるために、Bの自転車を無断で利用した。
 XはBを強姦ようとした。Aは背後からXの頭部を背後から鉄棒で殴打した。

  法秩序全体から見て、Aの行為を違法と判断できるか?

(4)違法の本質と内実――実質的違法論の様相
・刑法の任務と目的
 刑法の目的 法益の維持・保護か、それとも社会倫理規範の維持・強化か?

・法益侵害説と規範違反説の対立
 法益侵害説
 法益の維持・保護→法益侵害または危殆化が違法の本質・内実(結果無価値論)

 規範違反説
 社会倫理の維持・強化→反倫理行為による法益侵害が違法の本質・内実(行為無価値論)

・違法概念の構成要素
 法益侵害性のみ? それとも法益侵害性に規範違反性を加味するか?

 違法概念を構成する要素を法益侵害と規範違反の二つとした場合、
 規範違反説・行為無価値論の方が、違法を限定できるように見える

 しかし、その論理は違法阻却のところで反転する
 つまり、法益侵害性があっても、規範違反性がなければ違法ではないという論理は
 法益侵害性がなくても、規範違反性がある以上、違法である(違法阻却は認められない)
 という結論を招くのではないか

 →そうすると、規範違反説が主張する刑法の目的論は、反倫理行為による法益侵害を
  規制するといいながら、実のところ法益侵害の伴わない反倫理行為を規制するという
  結果を招くのではないか

(5)違法と違法阻却
・違法行為類型としての構成要件
 構成要件該当性→違法の推定

・違法阻却の一般原理
 行為の構成要件該当性によって推定される違法を否定する実質的根拠――違法阻却事由

○法益侵害説(結果無価値論)
 法益衡量説(結果無価値論)
 法益侵害の有無、または侵害された法益と保全された法益の優劣という客観的な事実関
 係に基づいて違法性阻却を判断する(そのために二つの原理がある)
  法益不存在の原理――保護される法益が放棄され、また欠如していた
  優越的利益の原理――構成要件該当行為によって、一方でX法益が侵害されているが、
           その行為によってY法益が保全された
  法益衡量説は、この二つの原理に基づいて違法の阻却を判断する

○規範違反説(行為無価値論)
 社会的相当性説
 違法か否か、違法性が阻却されるか否か、法益侵害の有無、侵害された法益と保全され
た法益の優劣といった客観的な事実関係だけで判断されるものではない。行為者が法益侵
を侵害する行為を行なった場合、その方法・態様がどのようなものであったか、、行為者
がその行為を行うにあたって何を目的としていたか、その際に行為者にはどのような義務
が課せられていたのかといった行為者の事情(これは客観的な事実関係には解消されない)
を踏まえて、行為者が行った法益侵害の結果を総合的に評価・判断することによって、そ
の行為の違法性が阻却されるかどうかが決まる。その行為によって一定の法益が侵害され、
犯罪の構成要件に該当しても、行為の方法・態様、行為の目的などが歴史的に形成された
社会的倫理規範から見て、「社会観念上是認される」場合には、違法性が阻却される。違
法化否かは、法益侵害だけで決定されるものではない。

・何が違うのか
 問 Aは駅前の放置自転車を乗って帰った。所有者はそれをすでに廃棄していた。
 問 Aは暴漢Xから逃れるために、Bの自転車を無断で利用した。
 XはBを強姦ようとした。Aは背後からXの頭部を背後から鉄棒で殴打した。

・違法阻却事由
 法定された違法阻却事由と法定されていない違法阻却事由(超法規的違法阻却事由)

 法定の違法阻却事由
 法令行為・正当業務行為(35)――正当行為
 正当防衛(36)・緊急避難(37)――緊急行為

 超法規的違法阻却事由
 被害者の同意・自救行為

(6)法令行為・正当業務行為
・刑法35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

・法令による行為
 構成要件に該当する行為を行うことが、法令により命じられている
 例:警察官・私人による現行犯逮捕(刑訴213)

 逮捕行為は、逮捕罪(220)の構成要件に該当するが、法令に基づいているがゆえに、
違法が阻却される(または、不法な逮捕のみが構成要件的に該当。法令による場合は不法
ではないので、法令による逮捕は逮捕罪の構成要件に該当しないと論ずることも可能)。
 その多くは、一定の強制力を行使する公務員の職務執行の場合
 その執行方法や対象が法律に規定されている。
 法律に規定された方法に基づいている限り、法令行為であり、構成要件該当性が否定さ
れたり(法令に基づいていることは構成要件不該当事由)または違法性が阻却される。

 法令による行為の違法性阻却の根拠
 Aの逮捕によってXが被害を受けるにもかかわらず、なぜそれが違法でなくなるのか?
 そのように法令に規定しているから(形式的違法論の裏返し→形式的違法阻却)

 その実質的根拠を明らかにするための実質的違法論
 法益侵害説→優越的利益の原理(逮捕によって大なる法益が保全される)
 社会的相当性説→法令に基づいているがゆえに、社会観念上是認されることは明らか

 麻薬捜査官Aは、麻薬の売人Xに対して、逮捕状を提示せずに、逮捕行為を行なった
 執行方法に問題がある場合(刑訴201)、その行為の違法は阻却されるか?
 もし、違法が阻却されないなら、その逮捕は違法。Xはそれに対して正当防衛できる

・正当業務行為
 医療行為
 患者の同意(治療による健康の増進の可能性とそれによって被る不利益・リスク)
 医学的適応性(医療行為が患者の生命・健康の維持・増進に必要であること)
 医術的正当性(医療行為が医学上承認された医療技術に従って行われていること)
 患者の同意なしで、手術を行い、成功した(医学的適応性と医術的正当性あり)
 法益侵害説→
 社会的相当性説→

 弁護活動
 刑事弁護人が被疑者・被告人の基本的人権を擁護するための弁護活動は正当な業務行為
 丸正事件(まるしょう) 弁護人が被告人の利益のために、法廷で被告人が真犯人であ
ると証言した証人を偽証罪で告発し、また真犯人と思われる人物の名前を実名を挙げた

 法令上の根拠、弁護目的との関連性、被告人自身が行ったときに違法性が阻却されるか
という諸点を考慮して、法秩序全体の見地から許容されるか否か(最決昭和51・2・2
3刑集30巻2号229頁)、

 取材活動
 国民の知る権利に奉仕する報道機関の取材活動は正当な業務行為
 真に報道の目的から行われたもので、その手段・方法が法秩序全体に照らしてみたとき
に、社会観念上是認されるものであるときに、実質的に違法性が阻却される(最決昭和5
3・5・31刑集32巻3号457頁)

 宗教活動
 憲法が保障す国民の信教の自由(憲20)に奉仕する宗教活動は正当な業務行為
 キリスト教の牧師が牧会活動として犯罪を行なった少年を隠避した(教会にかくまった)
 (神戸簡裁昭和50・2・29刑月7巻2号104頁)

 労働争議行為
 勤労者の労働争議は憲法上保障された権利(憲28)
 労働組合が行う争議行為には刑法35条が適用される(労組法1条2項)

 労働争議に際して、犯罪の構成要件に該当する行為が行われた場合
 争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有
無を判断するにあたっては、その行為が争議行為に際して行われたものであるという事実
をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の
見地から許容されるべきものであるか否かを判断しなければならない(最大判昭和48・
4・25刑集27巻3号418頁)

 第4週 練習問題
(1)違法性の実質をめぐる論争に関して、法益侵害説(結果無価値論)と規範違反説(行
為無価値論)の内容を整理しなさい。

(2)法令行為について
 警察官の逮捕は法令によって認められているが、その理由を答えなさい。

 現行の刑法・刑訴法では、死刑の言い渡しとその執行が認められているが、その理由は?

(3)正当業務行為について
1患者の同意を得て、患者の右目を手術している途中で、左目にも疾患があることが判明
したので、左目も治療した。この治療行為は何罪の構成要件に該当するか。そして、その
違法性は阻却されるか?

2刑事弁護人Aは、被告人Xに対する死刑を回避するために、記者会見を開いて、弁護活
動中に知りえた事件関係者Yの秘密を暴露して、Xに情状酌量の余地があることを訴えた。
Aの行為は何罪の構成要件に該当するか。その違法性は阻却されるか。

3新聞記者Aは外務省の極秘資料を入手するために、省の女性職員Bをそそのかして、そ
の資料を持ち出させた。AはBが断れないようにするため、Bと男女関係を結んでいた。
Aの行為は何罪の構成要件に該当するか。その違法性は阻却されるか。

4学校教師による生徒に対する体罰について、それが暴行罪の構成要件に該当する場合、
違法性が阻却されるか否かについて論じなさい。