Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

余罪の量刑判断の方法について(2)

2015-02-23 | 旅行
 三 裁判例における追加刑主義の適用状況
 追加刑主義には、このようないくつかの問題があることが指摘できるが、以下においては、余罪の量刑をその法定刑の範囲内で処断した結果、それと確定裁判を経た罪の刑との合計が想定された統一刑だけでなく、有期刑の上限の30年(14条②・51条②)をも超えて判断された事案を素材にしながら、その問題点についてさらに検討する。さしあたり検討対象となる事案は、以下の3つの裁判例である。以下、順に事実の概要、裁判所の判断を紹介し、その特徴と問題点を明らかにする(なお、平成16年の刑法改正の前は、有期刑の長期は15年であり、その加重の上限は20年とされていた〔旧14条〕。事後的併合罪の加重の上限〔51条②〕は、単純計算すれば22年6月となるが、その執行は20年を超えることはできなかった)。

1検討対象の裁判例
①東京高等裁判所平成6年9月16日刑事第5部判決
 先ずは、東京高等裁判所平成6年9月16日刑事第5部判決について検討する。その内容は、おおよそ以下のとおりであった7)。

 被告人Aは、C子からD殺害の実行を引き受けてくれる者を探すよう依頼を受け、被告人Bに右殺害の実行方を持ち掛けた。Bはそれを一度は断ったが、報酬2500万円、うち手付金200万円、残り2300万円は保険金から出すとの条件を提示されたので、それを承諾した。その後、BはAから右条件に従って、160万円を手付金の一部として受け取ったが、なかなかD殺害が実行されないことにいらだったC子から、厳しく実行を促された。その際、C子から、早くやらないと保険が切れる旨告げられた。Bは、Aと殺害方法について話し合っているが、事故死に見せかけることを検討しているとC子に伝えた。Bは、犯行の当日、Dに睡眠薬を飲ませて眠らせ、それを車に乗せ、車ごと海に沈めるために埠頭に向かったが、Dが動き出したため、車内で殺害した。その後、BはAに対し報酬を催促し、AはC子にその旨伝え、C子は生命保険の支払いを請求した。Bは、殺人罪および詐欺未遂罪により起訴された。
 原審新潟地方裁判所は、平成5年12月24日、以上のような事実関係を認めた上で、本件の殺人事件について有期懲役刑を選択し、これと詐欺未遂罪とを併合加重した上、被告人Bを懲役20年に処した。これに対して、弁護人は、被告人Bはすでに賭博開帳図利罪により懲役1年2月、執行猶予4年の確定裁判を受けているが、それらの罪は本件の殺人罪および詐欺未遂罪と併合罪の関係にあり、これら確定裁判を経た罪と本件の罪が同時に審理されていたならば、併合加重しても(平成16年法律第156号による改正前の)刑法14条により20年を超えて懲役刑を科すことができないにもかかわらず、これらを別々に審理して、本件の罪について併合加重し懲役20年に処するならば、これと確定裁判を経た罪の合計が懲役21年2月になってしまい、結果として同時に審理が行なわれた場合との間で不均衡が生じ、かつ刑法14条の趣旨が生かされなくなってしまうので、このような不均衡を是正し、かつ刑法14条の趣旨を生かすためには、本件の罪の刑を宣告する段階において、その刑期を調整すべきであると主張し、被告人Bを懲役20年に処した原判決の量刑は重すぎて不当であることなどを理由に控訴した。
 東京高裁は、以上のような弁護人の控訴理由を斥けて、次のように原判決を破棄自判した。
 併合罪につき数個の裁判があったときは、その執行に当たっては、併合罪の趣旨に照らし、刑法51条1項ただし書および同2項のほか、同法14条の制限に従うべきものと解するのが相当であり、従って有期の懲役または禁錮については、通じて20年を超えて刑の執行を受けることはなく、弁護人が主張するように宣告段階において量刑の調整をしなければならないものではないというべきである。
 被告人Bは、被告人Aを通じてC子から本件犯行を誘われたものであって、殺害の実行行為こそ担当したものの、終始C子が主導的で、半ば同人にけしかけられるように殺害の実行に至っており、また、保険金騙取の実行行為には一切関与しておらず、被告人Bは、保険金そのものの取得を目指したというよりは殺害の報酬をもらうことを考えていて、その出処が保険金であったということにすぎず、またD殺害の態様の残虐非道さも、ひと思いに殺せなかったBの弱さから来たものと見ることができ、被告人Bは本件を深く反省していることなど、Bのために酌むことができる諸事情を考慮すると、Bを有期刑の処断刑期の範囲内でその上限である懲役20年に処した原判決の量刑も、いささか重きにすぎ、不当であるというべきである。原判決の認定した罪となるべき事実にその掲げる法令(刑種の選択、併合罪の処理、さらに被告人Aについては、科刑上一罪の処理、再犯加重、重版の減軽を含む。)を適用し、その処断刑の範囲内で被告人B(およびA)をいずれも懲役17年に処する。
 東京高裁は、以上のように判断して、原判決を破棄し、被告人Bに懲役17年を言い渡した。その結果、賭博開帳図利罪の執行猶予が取り消され、被告人には2個の裁判で確定した刑の合計である18年2月の懲役刑が併せて執行されることになった。

 東京高裁平成6年判決の特徴として、次の点を指摘することができる。弁護人は、控訴理由において、被告人Bを懲役20年に処した原判決の量刑判断が重すぎて不当であると主張したが、その理由として挙げたのは、①確定裁判を経た賭博開帳図利罪と本件の殺人罪および詐欺未遂罪を同時審判した場合に想定される統一刑との不均衡が生ずること、②確定裁判を経た罪の刑との合計が刑法14条の20年という制限を超えること、そして③そのような不均衡を是正し、刑法14条の趣旨を生かすために、余罪の刑を宣告する段階において調整を図るべきであることの3点であった。確定裁判を経た賭博開帳図利罪と本件の殺人罪および詐欺未遂罪とを同時に審判した場合、弁護人がどの程度の量刑になると想定していたかについては判決文から明らかにすることはできない。また、原審が追加主義の立場から統一刑を想定しながら余罪の量刑を判断したことを判決文から伺うこともできない。かりに想定される統一刑につき、14条が定める有期懲役の上限と同じ20年であると判断していたならば、余罪の刑として懲役18年10月を追加的に科せばよかったのであるが、余罪に懲役20年を科し、合計して21年2月の懲役刑になることを認めたことは、原審が余罪の量刑を追加主義の方法に基づいて判断していないことを示唆する。
 確かに、刑法51条2項は、併合罪につき数個の裁判があったときは、その刑の執行は、その最も重い罪について定めた刑の長期に2分の1を加えたもの、すなわち22年6月を超えることはできないと定め、その上限は刑法14条によって制限され、合計して20年を超える懲役刑を執行することはできないが、想定される統一刑を超えて、最長で懲役20年まで執行することを許しているわけではない。東京高裁は、原判決の量刑を破棄して、懲役17年に改めることによって、結果的に懲役20年を下回る18年2月に抑えたので、それが想定される統一刑と同じものであると理解することもでき、一見すると追加刑主義の方法に従っているかのようにも見受けられるのであるが、懲役18年2月が想定された統一刑であることは明言されていない。東京高裁が刑法51条2項にいう上限の20年を超えないよう「宣告段階」ではなく、「執行段階」で調整することを意味していると解釈していることからすると、むしろ余罪の刑を宣告する段階において、想定される統一刑を超えないよう調整することについて問題意識がないように思われるのである。余罪の刑の宣告段階において追加刑主義を徹底し、統一刑との不均衡を是正することが可能かどうか、またそれがどのようなものであるのかという問題について、東京高裁平成6年判決は明らかにしたとはいえない。

②東京地方裁判所平成22年4月22日刑事第20部判決
 次に、東京地方裁判所平成22年4月22日刑事第20部判決を検討する。その内容は、おおよそ以下のとおりであった8)。

 被告人Aは、平成16年8月31日午前1時20分ころ、東京都内の某所において、被害者の女性Bに対して、「下手なまねをしたら殺すぞ」などと言って脅迫するなどして、その反抗を抑圧して同人と性交し、また平成18年4月16日午後10時40分ころ、東京都内の某所において、被害者の女性Cに対して、ナイフを突き付けて、「声出すと殺す。静かにしろ」と言うなどして暴行・脅迫を加え、さらに同人を近隣の会社の敷地内に連行した上、その顔面をげん骨で殴るなどの暴行を加えて、「殺す」などと言って脅迫し、その反抗を抑圧して同人と性交し、その際、加療2週間を要する顔面打撲、左眼球打撲、眼瞼皮下出血および結膜下出血の傷害を負わせた。被告人Aは、Bに対する行為について強姦罪、Cに対する行為について強姦致傷罪で起訴された。なお、被告人は本件の強姦致傷罪、強姦罪の起訴に先立って、強盗殺人未遂等の罪につき、裁判員制度が施行される前の平成21年5月1日、さいたま地方裁判所に起訴され、同年12月4日、懲役25年の判決が宣告され、その判決はすでに確定していた。この強盗殺人未遂罪等の罪と本件の強姦致傷罪、強姦罪は併合罪の関係にあり、また併合審理が可能であったが、強盗殺人未遂罪等のみが裁判員制度の施行前に起訴された。その理由は、強盗殺人未遂罪が裁判員裁判の対象事件ではなく、しかも殺意の有無に争いがあったことから、これを裁判員裁判の対象事件である本件の強姦致傷罪、強姦罪と併せて審理するとした場合の裁判員の負担などを考慮したという点にあった。ただし、被告人は、さいたま地裁に対して、すべての事件を併合して審理することを求める書簡を提出していた。
 東京地裁は、以上の事実関係を認めて、次のように判断した。
 本件の強姦致傷罪、強姦罪と併合罪の関係にある強盗殺人未遂罪等を併合しなかった点について、それは強盗殺人未遂罪が裁判員裁判の対象事件ではなかったこと、殺意の有無につき争いがあったこと、これを本件の強姦致傷罪等と併せて審理した場合に裁判員の負担が過度に重くなることなどを考慮したためであり、それに一応の合理的な理由があったことが認められるが、この理由が被告人には関わりのないものであることは、弁護人が指摘するとおりである。
 そして、強盗殺人罪未遂等の事件について、すでに懲役25年の判決が確定しているところ、それと本件の強姦致傷、強姦事件を併合審理した場合の有期懲役刑の上限は、刑法51条2項によれば30年となるので、弁護人は、上記経過を踏まえて、本件において懲役5年を超える刑を宣告することはできないと主張したが、かりに本件について懲役5年を超える刑を宣告しても、刑の執行段階での調整が行なわれて、上記懲役25年の刑と合算して執行が30年を超えることはないので、被告人に対して、実質的にみるべき不利益は生じない。また、本件の罪は、前記のとおり悪質で重大な事案であり、被告人の責任に応じた刑を宣告すべき要請も強いと思われる。そうすると、本件において、懲役5年を超える刑を宣告することはできないとする弁護人の主張は採用できず、また本件では前期のとおり検察官の求刑が決して重いとはいえないが、強盗殺人未遂等の事件が本件とは併合審理されずに、すでに25年の懲役刑が言い渡されて確定している事情をも十分に考慮して量刑を決すべきであると判断した結果、7年の懲役に処した。

 東京地裁平成22年判決の特徴として、次の点を指摘することができる。弁護人は、刑法51条2項によれば、併合加重した場合の有期懲役刑の上限は30年であり、本件の強姦致傷罪、強姦罪の刑としては、確定裁判を経た強盗殺人未遂罪等に言い渡された懲役25年に追加して合計30年になる5年の懲役刑までしか宣告できないと主張した。ただし、これらの罪が同時審判された場合に想定される統一刑との不均衡が生ずる可能性があること、そしてそれとの調整を図るべきことを指摘していたかどうかは、判決文からは窺うことはできない。これに対して、東京地裁は、東京高裁平成6年判決と同様の論理に基づいて、本件の強姦致傷罪、強姦罪に懲役5年以上の刑を宣告しても、懲役30年という制限を超えて刑を執行することはできないので、被告人には実質的な不利益はないと述べたが、執行される懲役30年の刑が、確定裁判を経た罪と本件の罪を同時審判した場合の統一刑と実質的に同じものであるとは判断されていない。つまり、東京地裁は、追加刑主義に基づいて想定された統一刑から確定裁判を経た罪の25年の刑を控除して、本件の罪に懲役7年の量刑を判断したわけではない。むしろ、本件の強姦致傷罪と強姦罪は、同時的併合罪の関係に立つが、重い方の罪である強姦致傷罪の法定刑は無期または5年以上の懲役刑であり、その罪状の重大性に鑑みて、強姦罪を併合加重すると、本件にはその下限の5年の懲役ではなく、7年の懲役が妥当であると判断したようである。また、それは「被告人の責任に応じた刑を宣告すべき要請」でもあるというのである。ここには、確定裁判を経た強盗殺人未遂罪等と本件の強姦致傷罪等との併合関係が相対的に希薄になり、本件のみが独立した量刑判断の対象として位置づけられ、それによって追加刑主義が軽視されつつあることが窺われる。

③東京高等裁判所平成24年5月14日刑事第5部判決
 最後に、東京高等裁判所平成24年5月14日刑事第5部判決を検討する。その内容は、おおよそ以下のとおりであった9)。

 被告人は、平成13年1月某日、強盗強姦を行なったが、それと前後して平成12年から14年にかけて住居侵入を伴う強盗強姦を3件、強姦を2件行なうなどした。平成17年2月2日、東京地方裁判所八王子支部によって、3件の強盗強姦および2件の強姦について起訴され、懲役16年に処せられ、同年3月9日から服役した。ところが、未解決のまま公訴時効を迎えようとしていた本件の強盗強姦について再度捜査が行なわれ、新たにDNA鑑定が実施されたことなどから、平成23年1月7日、強盗強姦罪で起訴された。平成23年11月22日、第1審東京地方裁判所は、検察官の求刑どおり懲役8年に処した。
 弁護人は、控訴審において、本件の公訴提起の無効を主張し、さらに本件は確定裁判を経た強盗強姦3件、強姦2件と併合罪の関係にあり、本件の強盗強姦を刑法50条により更に処断する場合には、確定裁判を経た罪と同時に審判した場合と同じ結果、つまり量刑として相当と思われる懲役17年ないし18年の懲役刑と同じようになるように考慮すべきであり、かつ(平成16年法律第156号による改正前の)刑法14条によれば有期懲役刑の最長は20年であり、通じて20年以内で処断されるべきであるにもかかわらず、本件につき8年の懲役に処した原判決は、合計すると24年の懲役になり、刑法50条の適用を誤った違法があると主張した。また、かりに違法があると認められないとしても、原判決は、強盗強姦、強姦の罪で懲役16年に処せられ、真面目に服役していた被告人が、本件の強盗強姦で起訴されたために、仮釈放の希望が失われ、長期服役の可能性が生じたこと、犯行に至る経緯や犯行時の精神状態について被告人に酌むべき事情があること、被告人が服役を通じて更生するための努力を続けていることなどを考慮しておらず、懲役8年の量刑は重過ぎて不当であると主張した。
 東京高裁は、このような弁護人の主張を斥けて、併合罪について2個以上の裁判があった場合には、刑法51条による執行段階での調整が予定されている上、有期懲役を加重する場合の14条の20年という制限を受けると解されることからすると、刑法50条の解釈としては、更に処断するに当たり、確定裁判を経た罪の刑と合計して20年以内になるように余罪の量刑を宣告段階で調整するというような弁護人が主張する制限を受けないと解するのが相当であると判断した。
 さらに、原判決の懲役8年の量刑について、弁護人が指摘していることについては、原審における被告人質問の結果や、原審において取り調べられた別件判決書の記載内容から窺うことができ、本件が別件と併合罪の関係にあり、当時発覚していれば併せて処断されていた可能性が高いことや、被告人が別件の刑について真面目に服役していることなどを考慮しても、法定刑の最下限(懲役7年)で処断すべき事案ではないとして、被告人を懲役8年に処しており、弁護人が主張する事情を踏まえた量刑判断をしていることが明らかであると、原判決の量刑を維持した。

 東京高裁平成24年判決の特徴として、次の点を挙げることができる。弁護人は、本件の強盗強姦罪の量刑を判断するにあたっては、それと併合罪の関係にある3件の強盗強姦と2件の強姦の刑と同時に審判された場合に想定される統一刑と同じになるよう配慮すべきである述べて、その統一刑を懲役17年ないし18年と想定して、追加刑主義の立場から、確定裁判を経た罪の刑の16年との合計が統一刑と同じになるよう、本件の強盗強姦の刑を懲役1年ないし2年にすべきであると主張した。ただし、強盗強姦罪の法定刑の下限は懲役7年であるので、それを酌量減軽したとしても、下限は3年6月までしか引き下げることができないため、本件に懲役1年ないし2年を言い渡すことは実際には困難である。また、酌量減軽をするための具体的な根拠についても、判決文から窺うことはできない。弁護人は、刑法14条の規定による有期懲役の上限は20年までであることを理由に、確定裁判を経た罪の懲役16年に余罪の刑を追加した合計がそれ以内になるよう量刑を調整することを求めたが、強盗強姦罪を酌量減軽するなどして、宣告段階において量刑を調整するための酌量減軽の根拠が示されていないため、それもまた困難である。すでに3件の強盗強姦と2件の強姦について懲役16年の裁判が確定し、服役している事実を刑法66条に基づく酌量減軽の理由とすることも可能であるが、その点について主張したか否かは、判決文からは明らかではない。
 このように弁護人は、刑法50条の解釈としては、確定裁判を経た罪と併合罪の関係に立つ余罪を処断するにあたっては、追加刑主義の立場から、同時審判した場合に想定される統一刑と同じになるよう、また刑法14条に基づく有期懲役刑の20年の上限を超えることがないよう、宣告段階において調整することを主張したのであるが、この主張に対して、東京高裁は、東京高裁平成6年判決および東京地裁平成22年判決と同様に、同時審判した場合に想定される統一刑に言及することなく、ただ刑法51条2項による執行段階での調整を示し、原判決の量刑を維持するだけであった。本判決もまた、東京地裁平成22年判決と同様に、刑法51条2項による執行段階における調整のみを論じ、追加刑主義の意義については、ほとんど顧慮されていないといわざるを得ない。

2若干の検討
 以上の3つの裁判例は、平成16年の刑法の一部改正の前の事案や裁判員裁判の施行前の事案が含まれ、また併合審理されなかった理由も異なるものの10)、刑法50条の「更に処断する」の意義が争点であった点では共通している。それは、余罪の量刑判断にあたって、確定裁判を経た罪と同時審判した場合に想定される統一刑と同じになるように、またはそれに近づくようにするためにはどのようにすればよいか、確定裁判の罪の刑に余罪の刑を追加する量刑方法とは、はたしてどのようなものであるかという問題であった。そこでは、確定裁判を経た罪の事実関係と量刑事由を踏まえながら、その罪状を可能な限り正確に認識し、それと余罪の統一刑を具体的に算定するという個別的・具体的な量刑判断のあり方が問われていた。しかし、3つの裁判例のいずれもが、この問題の解決を刑法51条2項および14条2項(平成16年改正前は14条)の制度の一般的な運用の問題に解消するような判断を示した。
 併合加重した場合の有期刑の上限を30年(平成16年改正前は20年)とする一般的な制度と併合罪を構成する余罪の個別的な処断方法のあり方とは、本来的には次元の異なる問題である。前者は、犯罪人の社会復帰という特別予防的観点から、併合罪の有期刑の上限を制限的に加重するものであり、現行刑法51条2項および14条2項は、それを(同時的)併合罪の有期刑の外延ないし枠組として設定している。これに対して、余罪の処断方法は、同時審判した場合において、その外延の枠内において想定された統一刑との不均衡を是正するための具体的な対処方法の問題であり、それは刑法50条に明文で規定されていないものの、解釈によって導き出すことができる(事後的)併合罪の余罪の量刑判断の問題である。このように併合罪の有期刑の一般的な外延の問題とその枠内における量刑の具体的な妥当性の問題とは明らかに異なる次元の問題であるにもかかわらず、3つの裁判例はこれを同列視している。
 では、このような同列視した理由は、どこにあったのだろうか。その理由としては、2つ考えることができる。追加刑主義によれば、余罪を審理する裁判所は、確定裁判を経た罪の事実関係や量刑事由の内容を一般的に認識し、それと余罪とを同時審判したと仮定した場合に想定される統一刑を想定して、余罪の量刑を判断するが、統一刑は有期刑だけでなく、無期刑、さらには死刑もあり得るため、そこから確定裁判を経た罪の有期刑を控除して、余罪の刑期を割り出すことができない。これが第1の理由である。それは、少なくとも東京地裁平成22年判決と東京高裁平成24年判決の内容から推し量ることができる。東京地裁平成22年判決の事案は強盗殺人未遂罪と強姦致傷罪および強姦罪の事後的併合罪であり、東京高裁平成24年判決の事案は3件の強盗強姦罪および2件の強姦罪と1件の強盗強姦罪の事後的併合罪であり、いずれも被害者に対して重大な被害をもたらす犯罪であった。しかも、東京地裁平成22年判決の事案の強盗殺人未遂罪については、処断刑として無期懲役が選択された上で、未遂減軽がなされて有期懲役の科刑がなされた。この事実から推論するならば、強姦致傷罪および強姦罪と同時審判したと仮定して、無期懲役が宣告されていた可能性は否定できないように思われる11)。また、東京高裁平成24年判決の事案の場合も、4件の強盗強姦罪と2件の強姦罪を同時審判したならば、弁護人が主張した懲役17年ないし18年に収まったとは必ずしもいえず、無期懲役という選択肢もありえたのではないかと思われる。しかし、確定裁判を経た罪について、すでに有期懲役刑が執行中であるなかで、余罪に対して無期懲役を言い渡すならば、それは確定裁判を経た罪について二重に処罰することになり、統一刑主義によるならばともかく、追加刑主義からは認めることはできない。かりに、このような事情があったというのであれば、確定裁判を経た罪の刑との合計が、想定された統一刑の無期懲役刑と同じものにならなくても、それに最も近い30年(平成16年改正前は20年)になるように、余罪の刑を追加すべきであり、そのように追加すればよかったはずである。しかし、東京地裁平成22年判決と東京高裁平成24年判決は、そのような事情があることに言及しなかった。それは何故か。それが第2の理由である。
 刑法51条は、「併合罪について2個以上の裁判があったときは、その刑を併せて執行する」(1項)と定めているが、その執行は、「その最も重い罪について定めた刑の長期に2分の1を加えたものを超えることができない」(2項)と、刑の執行段階における調整を定めているだけであり、それを下回る刑、例えば同時審判した場合に想定される統一刑による限界づけを直接的に要請してはいない。規定がこのような形式になっていることをもって、立法者は最も重い罪について定めた刑の長期に2分の1を加えたものを超えない場合には、たとえ想定される統一刑を超えていようとも、事後的な調整を要請してはいないと解し、事後的併合罪の余罪の量刑にあたって、追加刑主義を徹底することを事実上否定することも許されるかのような議論もなされている。例えば、「いわゆる余罪の量刑にあたっては、確定裁判を受けた罪に関する量刑の内容をも勘案して、これと余罪とが同時審判を受けた場合と均衡を失しないように考慮することが望ましい」という追加刑主義の一般的な原則は、妥当であり、「異論の少ないもの」であると評価しながらも、「それを厳密な形で実践することは、事実上困難であ」り、確定裁判を経た罪に関する量刑を考慮に入れるか否かによって、余罪の量刑が常に影響を受けるとは必ずしも言いがたく、確定裁判を経た罪および余罪の法定刑および事案の内容、確定裁判を経た罪に関する宣告刑の軽重などによって、余罪の量刑自体にも違いが生ずることがあり、それを「量刑の多様性」という観念によって肯定するものもある12)。
 ある犯罪には、それに相応しい種類と量の刑罰が対応する関係に立つという一般的な原則からは、本来的には同時的併合罪に対してであれ、事後的併合罪に対してであれ、同じ種類と量の刑罰が科されるべきことが要請され、そのような意味の「量刑の一様性」を刑法50条から導き出すことができる。そうであるにもかかわらず、実際には量刑の判断は、同時的併合罪と事後的併合罪の場合とで異なった形で現れてこざるを得ないというのである。それが「量刑の多様性」である。そのような多様な量刑の判断がなされる背景には、余罪の法定刑の下限を下回る量刑を判断することができないという事情もあるが、余罪の具体的な内容や事情としては、例えばA罪がすでに確定裁判を受けて、その執行中に、その余罪であるB罪、C罪、D罪などが審理され、その量刑を判断する場合、B罪、C罪、D罪の規模と内容の大きさに比べるならば、A罪が確定裁判を経ていることは、それらの罪の全体的な評価に大きな影響を与えるものではなく、むしろA罪の確定裁判によって揺るがされることがないほど一定の量刑が安定的に成立しうるという認識があるからであろう13)。このような「量刑の多様性」という実情が、確定裁判を経た罪と余罪の併合関係を相対的に希薄なものにし、余罪のみを独立した量刑判断の対象として位置づける傾向を作り出しているのではないかと思われる。それは追加刑主義の例外ではなく、その放棄を意味する。

 四 結語 ―― 残された課題
 以上において、有期刑の裁判が確定した罪と併合罪の関係に立つ余罪が事後に審理された場合の有期刑の量刑判断の方法について若干の考察を試みた。余罪を「更に処断する」と定めた刑法50条の意義は、追加刑主義の立場から理解され、学説の大勢は、おおむねそれに好意的な姿勢を示しているが、その運用の実態は、その原則が徹底されていると評価できるようなものではない。その問題は、上記の裁判例において、確定裁判を経た罪と同時審判した場合に想定される統一刑について全く言及されていないことに現れている。それは追加刑主義の軽視というよりも、その放棄であるといってよいであろう。確かに、刑法51条2項は、確定裁判を経た罪の刑と余罪の刑の合計を統一刑ではなく、重い罪の長期に2分の1を加えたものによって制限しているだけである。しかし、統一刑は余罪の処断を認める刑法50条から論理的に導き出される基準であり、事後的併合罪の処断の妥当性を判断する原則であるので、たとえ確定裁判を経た罪の刑と余罪の刑の合計が重い罪の長期に2分の1を加えたものの範囲内で収まっていようとも、それだけで処断の妥当性を認めることはできない。統一刑がその妥当性の重要な基準であることに変わりはないことを強調しておきたい。
 裁判員裁判の対象犯罪とそれにあたらない犯罪が併合罪の関係にあったり、また重大な刑法犯と併せて薬物事犯など捜査権の管轄が異なる犯罪が問題になるなどして、同時的併合罪として審判することが見送られ、小論が問題にした「量刑の多様性」を理由にした量刑判断の方法が再び問題となることが今後とも予想される。そのような場合、弁護人は、最終弁論において、追加刑主義の立場から、確定裁判を経た罪と余罪を同時に審判した場合の統一刑を過去の同種の事案の量刑を基準にして示し、確定裁判を経た罪の刑との合計がそれと同じか、またはそれに近いものになるように、余罪の刑を具体的に量定して追加すべきことを検察官に求めるべきである。また検察官の求刑に対して、そのような量刑判断に至った具体的根拠を示すよう要請すべきであろう。そのような実践を積み重ねることによって、余罪の量刑判断の方法、さらには量刑判断の一般的な方法のあり方を明らかにすることができると思われる。更に考察を続けていきたい。

7)東京高判平6・9・16判時1527号154頁(破棄自判・確定)。
8)東京高判平22・4・22判タ1344号249頁(有罪・確定)。その評釈として、植村立郎・刑事法ジャーナル30号(2011年)130頁以下参照。
9)東京高判平24・5・14判タ1385号308頁、東高時報63巻85頁(控訴棄却・上告〔後上告棄却〕)。その評釈として、拙稿「有期刑が確定した罪と併合罪関係にある余罪への有期刑の上限の調整方法」法セミ712号(2014年)133頁参照。
10)東京地裁平成22年判決の事案は、すでに述べたように、被告人からすべての事件を併合して審理することを求める書簡がさいたま地裁に提出されていたにもかかわらず、確定裁判を経た罪の強盗殺人未遂罪等の事件が裁判員裁判の対象犯罪ではなかったこと、この故意につき争いがあったこと、これを本件の余罪である強姦致傷罪などと併せて審理するとした場合の裁判員の負担が加重になることなどを考慮して、あえて併合せずに審理された。東京高裁平成24年判決の事案は、本件の余罪である強盗強姦罪について、捜査機関は確定裁判を経た住居侵入罪、強盗強姦罪、窃盗罪、強姦罪と同時期に捜査することが容易に可能で、被告人もそれを希望していたのに、長期間放置した挙げ句、公訴時効間近に捜査を実施したために併合されなかった。いずれも被告人の責めに帰されない事情によって併合審理されなかった。ただし、東京高裁平成6年判決の事案は、これらの事案のように、すべての事件があらかじめ捜査機関によって確認されていた事案ではなく、証拠不十分または被疑者不明ゆえに併合審理されなかった。これを「被告人が余罪を自らの意思で隠していた」ので、「併合されなかった理由について被告人に帰責性が認められる」として、「併合の利益を自ら放棄した」と評価することができるか否かについては、議論の余地がある。この「被告人の帰責性」とは、余罪について自ら認めなかった、反省しなかったがゆえに、非難可能性が強く、より重い刑罰に値するという評価であると考えられるが、それは余罪が捜査機関に発覚していない段階における被告人の反省状況の評価であって、余罪が発覚して審判に付され、それに対する量刑が判断される段階における被告人の反省状況の評価ではない。量刑判断にあたって重視すべき事情は、裁判において明らかにされた反省状況であると考えるならば、「被告人が余罪を自らの意思で隠していた」ことを理由に、「併合の利益を自ら放棄した」と評価してはならない。そうでなければ、併合の利益と引き換えに、自白・自省を強いることになる。この点について、鹿野・前掲(3)573頁以下参照。
11)植村・前掲(8)136頁は、「強盗殺人未遂罪も強姦致傷罪も、各法定刑に無期懲役が含まれているから、確定裁判の罪に本件が併合された場合、必ず有期懲役刑が選択されるとの保証はない。現に、確定裁判では、強盗殺人未遂罪について無期懲役刑が選択されている(ただし、未遂減軽がされて有期懲役刑の科刑となった)。しかも、被告人は、平成16年、平成18年、平成21年と、それぞれに犯情の重い犯罪行為を重ねていることになるからである。また、確定裁判の刑と本件の刑を単純に合計すると、懲役32年になって、有期懲役刑の上限である懲役30年を超える上、本判決の説示振りからしても、確定裁判の刑を考慮しない場合の本件の量刑は懲役7年よりも重かった可能性のあることがうかがわれるから、そういった犯情の事件では、無期懲役が選択されることがおよそあり得ないともいえない、換言すれば、本件では、併合の結果、刑が重くなる可能性がおよそあり得ないとはいえない、と思われる」と述べて、同時審判した場合に統一刑として無期懲役刑が想定されていた可能性があることを指摘する。
12)植村・前掲(8)135頁は、追加刑主義による統一刑の想定は望ましく、異論の少ないものであると述べながら、同時にその「厳密な形で実践すること」は困難であると、その限界を指摘するが、「厳密な形」、すなわち統一刑との同一性の固執せずに、その近似値で対応することで足りるならば、懲役30年を統一刑として想定し、それと同じになるよう確定裁判を経た罪の刑に余罪の刑を追加するだけでよいであろう。
13)植村・前掲(8)135頁以下は、このような余罪の量刑判断の方法を、東京高判平4・2・18判タ7979号268頁から援用する。その判決は、「いわゆる余罪の量刑にあたっては、確定裁判を受けた罪に関する量刑の内容をも勘案し、これと余罪とが同時審判を受けた場合と均衡を失しないよう考慮するのが望ましい」と追加刑主義の意義を原則的に肯定しながら、確定裁判を経た罪の量刑「の考慮の有無によって余罪の量刑が常に異なってくるとは必ずしも言い難く、確定裁判のあった罪および余罪の法定刑及び事案の内容、確定裁判を受けた罪に関する宣告刑の軽重等によって自ずから差異があると認められる」と述べて、同時審判を受けた場合と均衡を失する場合が例外的に生じうることを認めている。このような余罪の量刑判断の方法が認められるとしても、それは、まず①同時審判を受けた場合の統一刑を想定し、②余罪の量刑を判断し、③確定裁判を受けた罪の刑を勘案して、これに余罪の刑の合計が統一刑と均衡しないように考慮するという段階的な判断を経なければならないが、余罪の量刑判断で重要であると思われるのは第3の段階である。
 援用された判決の事案では、余罪の量刑判断にあたって未遂減軽だけでなく、さらに酌量減軽をも施して減軽した原判決の判断の妥当性が問題になっていたが、「原審が懲役1年を科している確定裁判の存在を念頭においたとしても、被告人に対して2回の減軽をほどこしてまで異なる内容の宣告刑をもって臨むような特段の事情があったとは認められない」と判断された。ただし、この「特段の事情」が余罪の事実関係や犯情のなかになかったからか、それとも確定裁判を受けた罪を勘案したものの、そのなかになかったからか、そのいずれであるのかは明白ではない。判決が示した余罪の量刑判断の方法によれば、本来的には余罪を酌量減軽すべき「特段の事情」の有無は、確定裁判を受けた罪を勘案することによって判断されるべきものである。つまり、余罪の情状は、確定裁判を受けた罪のなかにもあるのである。その事情が余罪の量刑の理由として勘案されるのは、確定裁判を経た罪と余罪が併合罪の関係にあるからである。この関係が希薄になり、余罪が独立した別個の犯罪として評価されるようになるならば、追加刑主義の意義は相対化され、放棄されざるをえない。

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 私が大学院に入学した1980年代の後半、吉田美喜夫先生は、産業社会学部に所属されていました。お昼休みになると、大きな弁当箱を持って、修学館1階西側の院生談話室に来られ、法学研究科の院生と話をしながら、弁当を食べておられたのをよく拝見しました。先生は、弁当を食べながら、産業社会学部の教学改革などの話題について、「うちの場合はねぇ」と、学部のこと、また大学全体に関わることについて様々な話をされていました。教員と大学院生の関係は学部学生のそれより緊密であり、院生協議会やクラス会の役員をしている院生との間では、ときおり暗号めいた言葉で複雑な事情を話される方もいましたが、吉田先生は、そのような話を一切なさらず、学部の課題、大学の将来、研究・教育のあり方を熱く語っておられました。直線コースを力強く走るマラソン走者のような真っ直ぐな印象は、今も変わっていません。
本稿は、もともとは吉田美喜夫先生が2015年3月に立命館大学を定年退職されることを記念するために準備されたものでしたが、先生は2015年1月から立命館総長に就任されました。謹んで本稿を吉田先生に捧げます。