Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(01)応用編(練習問題第3問・第4問)

2020-05-04 | 日記
 第03問B 因果関係①
 A、Bは、過失による人身事故であるかのように装いBに軽度の傷害を負わせて保険金を詐取することを計画した。その際、手頃な自動車がなかったため、Cに事情を話し、C所有の自動車をAが運転し、Bに衝突させることにした。ところが、CはもともとBを疎ましく思っていたので、この際Bを殺してしまおうと考え、密かにブレーキに細工をしてAに自動車を引き渡した。Aはそのことを知らずにこの自動車を運転し、当初の計画どおりBに車を軽く接触させようとしたが、ブレーキが効かなかったため激しく衝突し、その結果Bは死亡した。AおよびCの罪責を論ぜよ。

 答案作成の一般的順序
1事実関係と問題の所在 問題文から事実関係を抽出し、「〇〇罪にあたるか」と問題を設定する。
2犯罪成立の前提要件  〇〇罪にあたるためには、〇、△、□の要件が必要であると解説する。
3要件のあてはめ    要件の充足を論証し、〇〇罪が成立する仮設を立てる。
4論点・争点の解説   学説の対立や争点になる論点を指摘し、仮設を検証する。
5結論         成立する罪名(条文番号)を書いて、結論を示す。

 論点 1因果関係  2被害者の承諾  3間接正犯の成立要件

(1)Aの罪責
1AはBに自動車を衝突させて死亡させた。この行為は傷害致死罪にあたるか。

2傷害致死罪は、故意に傷害を行い、そこから死亡結果を発生させた場合に成立する。

3AがBに自動車を衝突させる行為は傷害であり、そこから死亡結果が発生している。Aが自動車を衝突させなかったなら、Bは死亡することはなかった。両者には条件関係があり、傷害致死罪が成立するようにも思われる。しかし、ブレーキが効かないよう細工されていたことは、A自身にも、また一般人にも認識しうることではない。その点を考慮に入れると、Aの自動車運転とBの死亡との因果関係を認めることはできない。

4確かに、本人にも、一般人に、ブレーキが壊されていたことを認識しえなかったのであるから、この事情を踏まえると因果関係を否定すべきようにも思われる。しかし、Aは通常の自動車運転をしていたのではなく、保険金詐取の目的でBに自動車衝突させたのである。このような行為は、死亡結果を発生させる危険性の高い行為であり、そのような行為から死亡結果が発生することは経験的に通常ありうることでもある。ブレーキの破損という事情はAには認識しえないものであったが、Aの傷害行為とBの死亡結果は社会通念に照らして、因果関係があるとと認めるのが相当である。
 また、Bは負傷することを承諾していたので、傷害の違法性が阻却されると判断することも可能であるが、自動車を衝突させるという傷害の方法、保険金を詐取するという目的に鑑みると、たとえBに負傷することの承諾があっても、その違法性は阻却されないと判断すべきである。

5従って、Aには傷害致死罪(刑205条)が成立する。

(2)Cの罪責
1Cはブレーキの壊れた自動車をAに運転させて、Bを死亡させた。この行為は殺人罪にあたるか。

2殺人罪は、故意に人の生命を侵害しうる行為を行い、それによって人を死亡させた場合に成立する。

3Cはブレーキの壊れた自動車をAに運転させて、Aの危険な運転行為を介してBを死亡させたのであるが、自動車のブレーキを壊す行為は、その自動車を運転する者や他の交通関与者にとって危険であるが、それ自体としてBの生命を直接的に侵害しうる行為とはいえない。従って、殺人罪は成立しないと考えられる。

4しかしながら、CはAの保険金詐取目的による交通事故の偽装計画を知っており、またその関係者が疎ましく思っていたBであることも知っていた。またCにはAの自動車運転を利用して、Bを殺害する意図もあった。このような場合、自動車のブレーキを壊し、それをAに貸して運転させる行為は、間接的にではあるが、Bの生命を侵害する具体的な危険性の高い行為であるといえる。Cがそのような行為を行い、Bの生命を侵害している以上、殺人罪が成立する。

5従って、Cには殺人罪(刑法199条)が成立する。

(3)結論
 以上から、Aには傷害致死罪(刑205条)が、Cには殺人罪(刑法199条)が成立する。

*以上が答案構成の一例である。
 Bが死亡している以上、誰かがその責任を負わなければならないと思う。CにはBを殺害する故意があったので、Cに殺人罪の成立を認めてよいであろう。そうすると、Aにそれを認めなくてもよいようにも思われる。つまり、Aの自動車運転行為は危険な行為であったが、ブレーキが壊されていることを認識しえなかったので、Bの死亡結果には因果関係が及ばず、傷害致死罪は成立しない。傷害罪にとどまる。このように主張することもできる。



 第04問A 因果関係②
 Xは、ある日の午後10時ころ、Yを痛めつけてやろうと思って公園に呼び出し、殴る蹴るの暴行を加え、脳出血を発生させて意識不明の重傷を負わせて、放置して立ち去った。Yは翌日未明に脳出血により死亡するにいたったが、放置された後でその場を偶然通りかかったZが殺意をもって頭部を数回殴打しており、その暴行によりすでに発生していた脳出血が拡大され、死期が幾分早まっていたことがわかっている。
 XおよびZの罪責を論じなさい。

 答案構成(答案作成の一般的順序)
1事実関係と問題の所在 問題文から事実関係を抽出し、「〇〇罪にあたるか」と問題を設定する。
2犯罪成立の前提要件  〇〇罪にあたるためには、〇、△、□の要件が必要である。
3要件のあてはめ    要件が満たされているので、〇〇罪が成立するように思われる。
4論点・争点の解説   しかし、〇ないし△の要件が満たされているといえるか、と問題を提起。
5結論         成立する罪名(条文番号)を書いて、結論を示す。

 論点 1因果関係(行為後に特殊事情がある場合)  2条件関係の有無

(1)Xの罪責
1XはYに殴る蹴るの暴行を加え、脳出血を発生させて意識不明の重傷を負わせて、放置して立ち去ったところ、Yは翌日未明に脳出血により死亡するにいたった。Xに傷害致死罪が成立するか。

2傷害致死罪は、故意に傷害を行い、そこから死亡結果を発生させた場合に成立する。

3XはYに殴る蹴るの暴行を加え、脳出血を発生させて意識不明の重傷を負わせたのは傷害にあたる。そして、Yは翌日未明に脳出血により死亡するにいたったので、傷害致死罪が成立ように思われる。しかしながら、XがYを放置して立ち去った後、Zが殺意をもってY頭部を数回殴打しているので、Yの死亡結果はZの行為によるものであると捉えることもできる。そうすると、Yの死亡と因果関係があるのはZの行為であって、Xの行為ではない。Xの殴打行為がなかったならば、Yが死亡することはなかったとして、その条件関係を認めることができても、Xの行為の因果関係は否定され、傷害罪が成立するにとどまるとも言える。

4このように行為者Xの行為後、第三者Zの行為が介在して、結果は発生したような場合、Zの行為の介入は、Xにも、また一般人にも予見可能であったとはいえない。そうすると、Yの死亡はXの行為によって生じたものとは疑わしいように思われる。しかしながら、Yの死亡原因は、Xの行為によって形成された脳内出血であって、Zの殴打はそれを拡大し、Yの死亡の発生時期を幾分早めただけである。かりにZの殴打がなかったならば、Yはもう少し遅く死亡していたと判断されるが、ZがY死亡の新たな原因を作りだしたとはではいえない。そうすると、Yの死亡はXの行為によるものと判断される。
 また、Xが殴る蹴るの暴行を加え、脳出血を発生させて意識不明の重傷を負わせたのは非常に重大な行為であり、それから死亡結果が発生することは、経験的に通常あり得るので、社会通念に照らして鑑みれば、Xの行為とYの死亡との因果関係を認めることができる。XにはYを「痛めつける」ことの認識はあったものの、死亡させる認識はなかった。従って、殺人の故意があったとはいえない。

5従って、Xには傷害致死罪(刑法205条)が成立する。

(2)Zの罪責
1Zは脳出血により意識不明の重傷を負ったYに対して、殺意をもって頭部を数回殴打した。Zに殺人罪(殺人既遂罪)が成立するか。

2殺人罪とは、人の生命を侵害しうる危険な行為を行い、その生命を侵害した場合に成立する。

3Zは脳出血により意識不明の重傷を負ったYに殺意をもって頭部を殴打したが、これは生命侵害が発生する具体的危険性のある行為である。そこからYの死亡結果が発生したといえるならば、殺人罪が成立する。

4しかし、Zの暴行により、Xの行為によってすでに発生していた脳出血が拡大され、Yの死期が幾分早まっていたことがわかっている。この事実によって、Zの暴行とYの死亡との因果関係が否定されると考えることもできる。しかし、Zの暴行がなければ、Yの死亡が幾分早まって発生することはなかったのであり、また意識不明の重傷を負った人の頭部を数回殴打する行為から、死亡結果が発生することは経験的に通常あり得るので、社会通念に照らして鑑みれば、Zの行為とYの死亡との因果関係を認めることができる。

5従って、Zには殺人罪罪(刑法199条)が成立する。

(3)結論
 以上から、Xには傷害致死罪(刑法205条)が、Zには殺人罪罪(刑法199条)が成立する。

*Xの行為だけでなく、Zの行為もまたYの死亡と因果関係があるという結論は、やや奇異な印象を受ける。Xの行為と因果関係があるというなら、Zの行為との因果関係は否定してもよいのでは。また、Zの行為と因果関係があるというなら、Xの行為との因果関係を否定するというのが妥当な結論であろう。
 本件と類似の事案に「大阪南港事件」があるが、その事案ではXの行為後に第三者の暴行が介入したことは明らかであったが、それが「Z」というように特定できず、逮捕もされなかった。そのようなこともあって、Xの行為の因果関係が認められた。本件でも同じ論理によって、しかもZの行為にも因果関係を認めることができるかは疑問である。