Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(12)論述

2021-06-28 | 日記
 第18問A 承継的共同正犯
 暴力団員甲はAから金員を喝取しようと、Aに近づいて「金を出せ。」と脅した。これによって畏怖したAが、「銀行から金員をおろしてくる」と言ったので、甲は、ちょうどそこを通りかかった組の子分である乙に「分け前をやる」と言って、Aと一緒に銀行まで行くように言った。そこで乙はAと銀行に向かった。しかし、Aはその途中で逃げだし、乙はAを見失った。乙は、そのことが原因で甲から半殺しの目にあわされ、Aを恨んでいた乙は、ある日街を歩いていると、偶然Aを見かけ、Aを殺すことを決意し、持っていた拳銃をAに向けて発射した。だが、弾はAの腕をかすめただけで命中しなかった。そこでさらに2発目を撃とうとしたとき、乙は突然、今日は先代の命日であったことを思い出し、結局2発目は撃たず、の場を去った。もっとも後で確かめたところ、その拳銃には、その1発しか弾は入っていなかった。乙の罪責を論ぜよ。
1恐喝罪の手段行為を行った後、財物の交付を受ける行為に関与した場合の恐喝罪の承継的共同正犯
2殺人罪の実行の着手と実行行為の終了時期、中止未遂における中止の任意性と中止行為
 答案構成
(1)甲がAを脅迫した行為について
1甲はAから金員を喝取するために、脅迫した。その後、Aは銀行に向かったが、逃げた。この行為は恐喝未遂罪にあたるか。
2恐喝罪とは、人を脅迫して、金員を交付させる行為である。一般に人を畏怖させる言動を行い、その自由な意思を制約して(瑕疵ある意思に基づいて)、不本意に金員を交付させる行為である。財物の交付によって恐喝罪は既遂に達する。金員を交付させるにいたらなければ未遂である。
3甲はAに「金を出せ」と言った。暴力団員の甲によるこのような言動は、一般に人を畏怖させる行為であり、脅迫にあたる。甲には恐喝罪の実行の着手を認めることができる。
4ただし、Aは銀行に向かう途中で逃げたので、金員を交付させるに至らなかった。
5よって、甲には恐喝未遂罪が成立する。


(2)乙が畏怖するAと銀行に向かった行為について
1乙はAが甲から脅迫されたことを知りながら、「分け前」を受けるために、いっしょに銀行まで向かった。しかし、Aに逃げられた。乙には恐喝未遂罪の承継的共同正犯が成立するか。


2承継的共同正犯とは、先行の行為者が犯罪の実行に着手した後、その結果が発生するまでに、後行の行為者が関与した場合において、後行の行為者に先行行為者が行った関与前の行為についても共同正犯が成立する場合をいう。先行行為者の行為を後行行為者が承継するといえるには、後行行為者が先行行為者の行為やその結果を認識し、それを後行行為者が自分の犯罪の遂行手段として積極的に利用したと認められることが必要である。


3本件では、乙は甲がAを脅迫し、銀行に向かわせた事実を知り、畏怖するAと一緒に行けば「分け前」をもらえることを認識していた。つまり、乙はAから脅し取ったお金の一部を自分のものにすることを目的としていた。従って、乙は甲が行った脅迫を承継すると認定できる。


4ただし、乙はAに逃げられたため、金員を交付させるには至らなかった。
5よって、乙には恐喝未遂罪が成立する。甲と乙には恐喝未遂罪の共同正犯が成立する。


(3)乙がAに拳銃を発砲し、腕をかすめた行為について
1乙がAを殺すために、拳銃の弾丸を1発発射したが、弾丸は腕をかすめたが、先代の命日であることを思い出し、2発目を発射するのをやめた。この行為は殺人未遂にあたるか。そして、中止未遂の規定を適用できるか。


2乙はAを殺害するために、拳銃の発砲したが、Aは死亡するに至らなかった。この行為は殺人未遂罪にあたる。


3ただし、乙は2発目を発射しようとしたとき、その日が先代の命日であることを思い出し、止めてその場を立ち去った。これに中止未遂の規定を適用できるか。そのためには、自己の意思で止める決意をしたこと(中止の任意性)と犯罪を中止したこと(中止行為)の2つの要件を満たしていなければならない。


4乙は、その日が先代の命日であることを思い出して中止した。先代の命日は、乙にとって重要な日であることは理解できるが、その日であることがが、乙の殺人の継続の意思に抑制的に作用して、抑制するような影響を与えるとは必ずしもいえない。従って、乙は自己の意思で犯罪を中止することを決意したといえる。
 では、殺人を中止行為が行われたといえるか。乙は弾丸を1発発射して、Aを負傷させ、生命侵害の危険を発生させている。これによって殺人罪の実行行為は終了しているというなら、乙はAに対して病院に搬送するなどして処置をほどこすなどの作為に出ていなければ、中止行為が行われたとはいえない。これに対して、弾はAの腕をかすめただけで、死亡結果が発生する危険世はまだ発生しているとはいえないなら、殺人の実行行為は終了していないと思われる。すると、2発目を撃たない不作為によって、中止行為が行われたということができる。
 乙は銃を発砲するという危険な行為を行っている以上、弾がAの腕をかすめたとはいえ、生命侵害の危険性は発生し、殺人罪の実行行為は終了しているといえる。その後、救護するなどせず立ち去っただけなので、中止行為が行われたとはいえない。
5よって、乙には殺人未遂罪が成立する。それに中止未遂の規定を適用することはできない。
(*異なる論証:乙は銃を発砲するという危険な行為を行っているが、弾はAの腕をかすめただけであり、まだ生命侵害の危険性は発生しているとはいえず、殺人罪の実行行為はまだ終了していない。その後、2発目を撃たなかったので、犯罪を中止したといえる。)
(4)結論
 甲と乙には恐喝未遂罪の共同正犯が成立する(刑法60、250、249①)。乙には殺人未遂罪が成立する(刑法203、199)。(異なる論証:それに中止未遂の規定が適用される〔刑43ただし書き〕)。
 乙の恐喝未遂罪と殺人未遂罪は、時間的・場所的にも全く別に行われているので、2罪は併合罪(刑法45前段)の関係に立つ。
 第20問A 共犯からの離脱①
 X、Y、Zは、A殺害を共謀して、各々が凶器を持って、Aが通る道を待ち伏せしていたが、その途中で怖じ気づいたXは、Y、Zに対して「俺はやっぱりやめたい。」と言ったところ、Y、Zから「そんな奴は足手まといだから帰れ。」と言われたため、立ち去った。その後、Aが現われたので、Yは持っていた包丁でAを刺殺しようとしたところ、Zは急にAがかわいそうになり、Yに対して「やっぱり殺すのはやめようぜ。」と言って、Yの包丁を取り上げようとしたが、Yに右腕を切り付けられ、傷害を負った。Yは、ZがひるんだすきにAを刺殺した。X、YおよびZの罪責を論ぜよ。


 論点1共犯からの離脱(着手前の離脱) 2共犯関係からの離脱(着手後の離脱) 3予備の中止
 共犯からの離脱や共犯関係の解消が問題になる事案では、離脱や解消が認められれば、着手前であれば予備罪が成立するだけである。着手後であっても、未遂が成立するだけである。最後まで実行した者には既遂が成立する。まずは既遂罪を行った者の罪責を論じ、その後、離脱・解消した者の罪責を論ずることになる。


(1)Yの罪責について
 Yは包丁でZの腕を切り付け、傷害を負わせた。これは傷害罪にあたる。さらに、YはAを包丁で刺し殺した。これは殺人罪にあたる。


(2)Xの罪責(殺人罪の着手前のXから論じていく)
1XはY・ZとAの殺害を共謀して、各々が凶器を持ってAを待ち伏せた。この行為は殺人予備罪にあたる。


2その後、Xは怖じ気づき、Y・Zに対して、「俺はやっぱりやめたい」と申し出て、Y・Zから「そんな奴は足手まといだから帰れ」と言われたので、その場を立ち去った。これによって、Xは殺人罪の共犯からの離脱が認められるか。


3共犯からの離脱が認められるためには、本件のXのように殺人罪の実行に着手する前の場合、離脱を希望する者が他の共犯者に離脱の意思を表明し、それが承認された場合に離脱が認められる。本件では、Xは「やめたい」と訴え、Y・Zから「帰れ」と言われているので、殺人罪の共犯からの離脱を認めうる。従って、Xには殺人予備罪が成立するだけである。


4ただし、Xが殺人罪の実行に着手しなかったのは、「怖じ気づいた」からである。これに後悔・反省の念が込められているなら、Xが自己の意思によって殺人罪の実行に着手することを中止したということもできる。この場合、Xの殺人予備罪に中止未遂の規定を適用することができるか。そもそも、中止未遂の規定は、犯罪の実行に着手した後に適用することが前提であるため、着手前の予備行為に適用することはできない。従って、Xの殺人予備罪には中止未遂の規定を適用できない。しかし、自己の意思で殺人の実行に着手することを中止したことを「情状」として評価し、その刑を免除することもできる。
(本件が強盗罪の事案であれば、強盗予備罪には情状による刑の任的免除はないので、中止未遂の「準用」について言及することが必要である。)


5以上から、Xには殺人予備罪が成立する。


(3)Zの罪責について
1YがAを刺殺しようとしたところ、ZはAがかわいそうになり、「やっぱり殺すのはやめようぜ」と言い、Yから包丁を取り上げようとした。Yは殺人罪の実行に着手しているが、Zの離脱を認めることができるか。


2殺人の実行の着手後の離脱が認められるためには、離脱を希望する者が他の共犯者に離脱の意思を表示し、その了承を得るだけでは足りず、他の共犯者の殺人罪の実行行為の遂行を阻止しなければならない


3Zは、「殺すのはやめよう」と殺人罪の実行行為の継続を中止する旨申し出て、Yから包丁を取り上げようとしたが、Yはそれを了承していない。また、負傷したZはYの犯行の継続を阻止していない。従って、Zは殺人罪の共犯から離脱したとはいえないので、ZはYとの間で殺人既遂罪の共同正犯が成立するようにも思われる。


4しかし、ZはYによって包丁で切り付けられて負傷したため、Yの犯行の継続を阻止することができない状況にある。また、YはZがひるんだ後、犯行を継続している。このような事実関係に鑑みると、YはZの協力なしに、単独で殺人罪を継続することを決意したと評価することもできるのではないか。そうすると、YはZの離脱を暗黙の裡に了承し、Aの殺害を単独で行うことを改めて決意して実行したといえる。だとすると、YとZの間の殺人罪の共謀は解消され、YとZとの間に殺人未遂罪が成立し終え、その後の犯行はYが単独で行った殺人既遂罪と認定することもできるように思われる。そうであるならば、Zの離脱は認められ、Zには殺人未遂罪が成立するということもできる。しかも、ZはAがかわいそうになったので、離脱したので、中止の任意性と中止行為に対して、中止未遂の規定を適用することもできる。


5Zには殺人未遂罪が成立する。そして、中止未遂の規定を適用することができる。


(4)結論
 Xには殺人予備罪(刑201)が成立する。
 Zには殺人未遂罪(刑203、199)が成立する。この殺人未遂罪には中止未遂の規定(刑43但書)が適用される。
 Yには、Zとの間で殺人予備罪の共同正犯、Zとの間で殺人未遂罪の共同正犯、そして殺人既遂罪の単独正犯が成立する。Yの殺人予備罪、殺人未遂罪はその後の殺人既遂罪に吸収され、殺人既遂罪1罪が成立する。


 第21問A 共犯からの離脱②
 暴力団組員甲は、同じ組の仲間である乙から「知り合いのAを殺したい。俺1人でやるが、心細いので協力してくれ。」と依頼された。甲は、最初は断っていたが、乙の執ような説得に根負けし、「手伝うだけならいい。」と述べ、これを承諾した。甲は、犯罪行為時の物音が外が漏れないように、乙が犯行現場として計画していた乙の自宅地下室の出入り口である戸の周囲に「目張り」をしたうえで、同地下室で待機していた。乙は、Aを自宅の地下室に招きいれると、地下室が汚れるので、それが嫌になり、その計画を変更して、訪ねてきたAを野外に連れ出して殺害した。
 後日、乙は、「知り合いのBを殺害したい。今度 は俺1人 では無理そうだから、一緒にやってほしい。」と甲に申し向けた。甲は、Bに恨みを持っていたので、乗り気になり、これを承諾した。甲および乙は、Bを巧みに誘い出し、乙の自家用車にBを乗せ、山林にたどりついた。乙は、甲に対して、Bを羽交い絞めするよう指示し、Bを金属バットで殴打し始めた。甲はBが激しく殴打されているのを見て、そのせい惨な様子に驚き、にわかに恐怖心をもよおし、「それ以上はやめろ。」と乙に申し向け、Bに向かって「大丈夫か。」などと問いかけた。乙は、その態度に腹を立て、甲と口論となり、格闘の末、甲を殴打し、失神せしめた。その後、乙は、甲を放置したまま、Bをさらに殴打し、ぐったりしたのを見届けて、現場を立ち去った。Bは、一連の暴行が原因で死亡したが、死因となった傷害が、甲の失神の前後のいずれの暴行によるものかは不明であった。
 甲および乙の罪責を論ぜよ。


 論点 1殺人の正犯と幇助犯、幇助の因果性 2殺人の実行の着手後の共犯からの離脱
(1)乙の罪責について
 乙はAを殺害した。この行為は、殺人罪にあたる。また、乙はBを殺害した。この行為も殺人罪にあたる。
 また、乙が甲と格闘の末、殴打して失神させた。この行為は傷害罪にあたる。
 これら3つの犯罪は、併合罪の関係に立つ。


(2)甲の罪責について
1甲は乙がAを殺害することに協力することを承諾し、乙が犯行に使用することを計画していた乙の自宅地下室から殺害行為時の音が漏れないようにするために、目張りしてそこで待機した。乙はその後計画を変更を、Aを屋外で殺害した。甲は乙の殺人を手伝うために、地下室に目張りをしたが、これは乙の殺人の幇助にあたるか。


2幇助とは、正犯に協力し、その実行を容易にする行為である。正犯の犯罪の意思を心理的に強化し、またはその実行を物理的に援助・促進するなどすれば、幇助にあたる。


3乙は当初の計画を変更し、Aを野外で殺害したので、甲が乙の自宅地下室から音が漏れないよう目張りした行為は、乙の殺人行為を促進する効果は持っていない。したがって、甲の行為は乙の殺人行為を物理的に幇助したということはできない。しかし、甲は乙から「心細いので、協力してくれ」と説得され、「手伝うだけならいい」と返事している。これによって、乙は甲から心理的な援助を受けて、殺人を実行する決意を強化したということができる。そうすると、甲は乙の殺人罪を心理的に援助したということができる。


4また、甲は乙がBを金属バットで殴打したのを見て、恐怖心をもよおし、「それ以上はやめろ」と申し向け、その後、失神させられた。これによって甲・乙の殺人罪の共犯関係が解消され、甲の共犯からの離脱が認められるならば、死因が甲の失神の前後いずれの暴行によるかは明らかでない以上、甲は乙と殺人未遂の共同正犯が成立するにとどまる。甲が乙との共犯から離脱した後、乙はBをさらに殴打し、Bを死亡させたので、乙には殺人既遂罪の単独正犯が成立する。
 では、甲は乙との共同正犯から離脱したと認めうるか。甲がBを羽交い絞めにし、乙が金属バットでBを殴打した時点で、殺人罪の実行の着手が認められる。実行の着手後に共犯からの離脱が認められるのは、他の共犯者に離脱の意思を表示し、その了承を得るだけでなく、他の共犯者が犯行を継続するおそれがある場合には、それを防止しなければならない。甲はBを殺害することを承諾し、羽交い絞めにするなどして物理的に殺人に関与したので、乙との間に殺人を継続する物理的・心理的な効果を形成した。甲が「それ以上やめろ」と申し向けたことで、離脱の申し入れがあったと認定でき、乙はそれに腹を立てたので、その態度をもって離脱の承諾を認めることができる。ただし、甲は乙の犯行の継続を阻止していないので、離脱を認めることができないと解される。(異なる論証→しかし、甲は乙に殴打され失神したので、甲が乙の犯行を阻止したくても、阻止できない状態にある。このような事情を踏まえるならば、乙は甲の失神後に、甲とは無関係にBを殺害する行為を行ったといえるので、甲の離脱を認めることもできる。しかも、甲はBに憐憫の情を感じ、反省の念から離脱したので、甲の殺人未遂罪には中止未遂の規定を適用することができる)。


5以上により、甲には乙との間にBに対する殺人既遂罪の共同正犯が成立する。
(異なる論証→以上により、甲には乙との間にBに対する殺人未遂罪の共同正犯が成立する。それに中止未遂の規定を適用することができる)。


(3)結論
 甲にはAに対する殺人罪の幇助犯が成立し(刑62①、199)、乙との間でBに対する殺人既遂罪の共同正犯が成立する(刑60、199)。これらの罪は併合罪の関係に立つ(刑45①前)。(異なる論証→乙との間でBに対する殺人未遂罪の共同正犯が成立する(刑60、203)。これらの罪は併合罪の関係に立つ(刑45①前)。
 乙には、Aに対する殺人罪(199)が成立し、甲との間でBに対する殺人既遂罪の共同正犯が成立する(刑60、199)。これらの罪は併合罪の関係に立つ(刑45①前)。(異なる論証→甲との間でBに対する殺人未遂罪の共同正犯が成立する(刑60、203)。さらにBに対して殺人既遂罪の単独正犯(刑199)が成立する。Bに対する殺人未遂罪と殺人既遂罪は、包括一罪の関係に立ち、殺人既遂罪が成立する。Aに対する殺人罪とBに対する殺人既遂は、併合罪の関係に立つ(刑45①前)。