Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

現代の人権(第13回)暴力団員の社会復帰対策(4)

2019-12-19 | 日記
 2019年度 現代の人権
 第13回 暴力団員の社会復帰対策(その4)

 北崎秀男(特定非営利活動法人福岡県就労支援事業者機構事務局長)
 福岡県就労支援事業者機構の取組について
 はじめに
 離脱者の心情「親に迷惑をかけ、世間に嫌われてきた私を雇ってくれますか」
 その決意を信じて支援する雇用協力事業主(協力雇用主)とその活動

(1)福岡県就労支援事業者機構について
 経済界の支援・協力による就労の支援、それを通じた再犯予防と自立更正
 その先にある犯罪のない安全・安心な社会の実現を目指す民間組織(平22)
 発足当初100事業者であったが、平成28年には703事業者へと拡大

(2)「親に迷惑をかけ、世間に嫌われてきた私を雇ってくれますか」
 平22刑務所収容→反省→離脱決意→仮釈放の可能性→しかし就労先が未定
 「雇ってくれますか?」(雇ってくれる人などが本当にいるんですか?)
 「私も昔やんちゃをしてたから偉そうなことは言えないが、一緒に頑張ろう」
 「……(緊張した表情で、無言)社長さん、お願いします」(と頭を下げる)

(3)実績
 平23 福岡県警暴力団社会復帰対策アドバイザーから離脱者の支援依頼
 福岡県雇用主会長・野口義弘氏 過去20年160人の離脱者の雇用実績
「暴力団員であっても排除せず、更正を支援すべき。離脱者ならなおのこと」。
 機構 平22年-23年7月 21人を引き受け、16人が就労(その後13人)。
 就労中の離脱者が同僚とケンカ→傷害(懲役・罰金)。雇用主検察庁に嘆願。
 被害者への慰謝料の立て替えと身元の引き受けの誓約→略式裁判→罰金
 雇用主の気持ちを理解。人を信じることを知る。回心するきっかけ。

(4)協力雇用主たちの声
 県警による協力雇用主の表彰(活動・取組の社会的評価・普及→機構の拡大)
 元暴力団員・離脱者→社会人→恋愛と結婚・新しい家族
 出勤時に妻が子どもを抱きながら「いってらっしゃい」(照れくさく嬉しい)
 夏の建設現場 半袖作業服 入れ墨 元請け会社の部長の誤解、丁寧な説明

(5)これから
 就労支援事業者機構(全国組織) 全国に4ヶ所 合計50の拠点がある
 警察により離脱の促進→離脱の決意→機構の就労支援 組織間の提携と連携
 なぜ暴力団に入ったのか 本人が抱える問題と社会の側の問題
 社会による離脱者の受容 更正の道を立派に歩む姿 人間性・社会性の回復

 廣末 登(特定非営利法人市民塾21特別研究員)
 暴力団離脱実態と社会復帰について
 『組長の娘』(新潮文庫・2015)
 『ヤクザになる理由』(新潮社・2016)
 『ヤクザと介護』(角川新書・2017)

 暴力団研究から暴力団への加入研究へ、さらに暴力団員の離脱研究へ

(1)暴力団離脱実態の研究
 官民協力の下、暴力団排除(組織的弱体化・解散)の必要性の認識の強さ
 構成員の社会的再統合・社会的包摂の必要性の認識の弱さ

 排除後、組織のマフィア化(強大化)と犯罪的プロティアン化(適用能力)
 排除後、団員の離脱可能性と離脱実態 方法の理論化と支援策の体系的整備

(2)誰に、どうやって調査したか 調査の手順
 2014年5月(1年間)大阪ミナミ 元暴力団員、現組員、元親分(計11人)
 面接とヒアリング 半構造化面接(構造化面接の典型は入社面接)
 情報には必要な情報と不必要な情報の2種類。必要な情報だけ聞き出す。
 しかし、必要な情報の範内容が不確定。事前に必要・不必要の区別は不可能。

(3)調査結果
 離脱理由 結婚 刑務所収容 親分等の交代(代替わり)、破門(掟破り)
 離脱の方法 「エンコ詰め」(小指などの切断)は強制ではなくなっている

 離脱後の社会関係資本の保有と拡大(他の人々との関係の拡大と深化は宝物)
 ただし、銀行口座の開設や住宅の賃貸契約の困難(暴排5年条項)
 「ちゃっかりヤクザ」(現役時代から2種類の通帳を使い分け、貯蓄する) 「いけいけヤクザ」(宵越しの金は持たない。遊興費に消える)

 離脱後、いけいけヤクザが無職状態になり、アウトロー化・半グレ化の危険
 個人と個人のネットワークは「組織」ではないので、暴対法の適用対象外
 暴力団時代の犯罪的スキル(覚せい剤の闇取引、身分証明書の偽造、恐喝等)

 無職者の半グレ化の防止の必要性と就労支援の重要性
 社会経験がない、学歴がない、職歴がない、「指」がない
 離脱後5年間は「暴力団員」(暴排条項)
 暴力団交際者条項と制裁(企業の入札排除とイメージダウン)
 企業 暴力団員・元暴力団員(離脱後5年間)お断り(5年超のお断りも)

(4)本研究における理論的視座の検討
サンプソン=ラウブ 年齢によって段階づけられたインフォーマルな社会統制
 人生の様々な段階におけるターニング・ポイント
 卒業、入学、就職、結婚、出産、失業、離婚、再婚など

 サンプソン=ラウブの社会統制理論の特徴
 フォーマルな社会統制 法律 学校規則 就業規則(ゲゼルシャフト)
 インフォーマルな社会統制 家族、仲間、サークル(ゲマインシャフト)

 成人期に形成される社会的ボンドと社会関係資本のインフォーマルな統制力
 個人に従来からある犯罪的性向の差異とは無関係に犯罪統制に作用する
 社会的ボンドと社会関係資本
 家族のきずな、仕事仲間との関係、近隣住民とのつながり、恩師との交流
 イメージとしての大阪・新世界の「じゃりン子チエ」

(5)本研究が示唆する政策的含意
 半構造化面接から聞き出したこと、またその面接から予期せず発見したこと
 家族関係、仕事先の同僚とのつきあい、同窓会・近隣社会との関係
 フォーマルな社会統制とインフォーマルな社会統制の結合
 離脱のプッシュ要因(警察の人的・財政的対策による暴力団から押し出し)
 離脱のプル要因(家族・地域社会が暴力団から団員を引っ張り出す)
 警察組織によるフォーマルな統制と家族・地域によるインフォーマルな統制
 その統制力を「官」が集約・体系化し、組織化された「民」が連携する
 社会的ボンドと社会関係資本の強化と継続化

(6)明るい社会構築のために与えられた課題
 刑務所における一般改善指導と特別改善指導
 改善・強制・社会復帰と就労支援
 保護観察所と協力雇用主団体との連携
 社会関係資本の構築と強化

(7)社会の目、社会の取組
 元暴力団・離脱者に対する差別とイジメ
 脱サラして、ラーメン屋を開業したり、移住して農業に従事している人
 それと同じ(とまではいかなくても)ように離脱者も「うどん屋」を開業
 捕まるという言葉に過剰反応を示しマジギレする元ヤクザの組長(youtube)

 →講義レジュメと講義録は、ブログ「かのようにの法哲学」(goo.ne.jp)