Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2017年度刑法Ⅱ(第06回)練習問題

2017-10-28 | 日記
 刑法Ⅱ(第06回)練習問題

 第34問A 誤振込み、権利行使と恐喝
 Yは、仕向銀行Aに対して(銀行Bにある)「甲の口座」に振り込むべき75万円を、手違いにより被仕向銀行Bの「Xの口座」に振り込むよう依頼してしまった。Xはこれを奇貨として、B銀行の口座において、入金分を含む88万円の払い戻しを受けた。(論点1)

 その後甲に確認して手違いを知ったYは、Xに返金を迫ったが、Xが返金しようとしないため、X宅に赴き、「このまま返さんと、どうなっても知らんぞ。俺にはやくざもんの知り合いもぎょうさんおるし。」と言った。(論点4)

 困ったXは、「高利貸し丙」との間で、Xを借主とする消費貸借契約を締結する際、知人で資産家の乙の信用を利用しようと考え、「乙代理人X」名義の契約書を作成した。そして、Xはこれを丙に見せて、丙から75万円を借り、(銀行Aにある)Yの口座に振り込んだ。しかし、乙はその3ヵ月前にすでに死亡していた。(論点2・3)

 しかし、このまま75万円取られるのがくやしくなったXは、Yに脅された旨を警察に通報した。そのため、警察が銀行Aに連絡し、Yの口座から現金を引き出せないよう指示し、Yは結局75万円を引き出すことができなかった。(論点4)

 XおよびYの罪責を論ぜよ。(上記の問題文は問題集では1文で書かれていますが、論点が多いので、論点毎に分けてみました)

 論点
(1)Xは甲が自分に75万円の誤振込みしたことを知りながら、銀行で88万円を払い戻した。


(2)Xは乙の代理人でないにもかかわらず、「乙代理人X」の名義の契約書を作成した。


(3)Xは「乙代理人X」の名義の契約書を用いて、丙から75万円を借りた。


(4)Yが誤振込みした金銭の返還を請求するためにXを脅迫したが、金銭を引き出せなかった。


 解答例
(1)Xは甲が自分に75万円の誤振込みしたことを知りながら、銀行で88万円を払い戻した。
1Xが誤振込み分を含む88万円を払い戻した行為は詐欺罪にあたるか。


2詐欺罪とは、人を欺いて錯誤に陥らせて、それが占有する財物を自己または第三者に交付させる行為である。


3XはYから自己の口座に75万円の誤振込みがあったことを知りながら、銀行Bから88万円の払い戻しを受けた。


4Xは88万円のうち75万円については権利がないことを秘して、それに権利があるかのように装って銀行の担当者を錯誤に陥らせたので、それは詐欺罪の欺く行為にあたる。そして、それによって銀行の担当者から現金で88万円の払い戻しを受けている。Xは自己の口座に少なくとも13万円の債権を有しているので、払い戻した現金88万円のうち75万円については受け取る権利はない。その75万の現金の占有は銀行Bにあり、Xは欺いてそれを交付させ、取得した。


☞誤振込みにより口座に入金された預金について、正当な債権はあるか?

 その預金を占有しているのは誰か?


5従って、XにはB銀行に対する財物詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。


(2)Xは乙の代理人でないにもかかわらず、「乙代理人X」の名義の契約書を作成した。
→公文書・私文書の文書偽造罪の個所で詳説する。
1Xが「乙代理人X」の名義で契約書を作成した行為は「有印私文書偽造罪」にあたるか。


2私文書偽造罪とは、私文書を偽造する行為である。文書とは権利・義務の存在を証明するための文書である。偽造とはその文書を作成する権利のない者がそれを作成する行為であり、文書の名義人と作成者との同一性を偽る行為である。


3Xは乙の代理人でないにもかかわらず、「乙代理人X」の名義で契約書を作成した。


4Xが作成した契約書は、丙との金銭貸借契約書であり債権・債務の存在を証明する文書である。そしてXは乙の代理人でないにもかかわらず、「乙代理人X」の名義で文書を作成しているので、作成者と名義人の同一性を偽っており、それは偽造にあたる。ただし、乙はその時点で死亡していたので、存在しない乙との人格的な同一性を偽ることはありえないと思われる。

 しかし、本罪の保護法益は文書に対する社会的信用であり、文書の名義人が死亡していても、実在すると一般に誤信させるおそれがあれば足りる。死者の名義であっても実在していると思われるので、作成者と名義人の人格的同一性を偽った文書にあたる。Xはそれを用いて、丙から75万円を借りたので、偽造有印私文書を行使したと判断できる。


☞Xが乙の代理人であれば、乙の代理で乙名義の文書を作成する権限がある。文書を作成したのはXであるが、それは乙の代理で作成しただけで、その作成者と名義は乙である。「これは誰の名義で作成された文書であるか」という点において、作成者(乙)と名義人(乙)の人格的な同一性は一致し、社会的に信用のある文書として流通しうる。


☞しかし、乙の代理人はQであるにもかかわらず、Xが「乙代理人Q」の名で文書を作成するならば、Xが乙の名義を冒用して、勝手に文書を作成していることになる。「乙代理人Q」の文書は、作成者と名義人の人格的な同一性が偽られた文書ということになり、正当に作成された「乙代理人Q」の文書もまた人格的同一性が偽られた文書である疑いがかかり、その文書の社会的信用性はなくなる。


☞また、乙には代理人がいないにもかかわらず、Xが「乙代理人X」の文書を作成した場合、一般の人々は「乙代理人X」という人物が実在すると誤信するおそれが十分にあるので、ここでも作成者と名義人の人格的な同一性が偽られた文書ということになる。


☞さらに、乙という人物が存在しないにもかかわらず、Xが「乙代理人X」の名義で文書を作成した場合でも、乙という人物が実在すると誤信するおそれが十分にあるので、ここでも作成者と名義人の人格的な同一性が偽られた文書ということになる。

5従って、Xには丙に対して偽造有印私文書行使罪(刑法161条1項)が成立する。


(3)Xは「乙代理人X」の名義の契約書を用いて、丙から75万円を借りた。
1Xが偽造有印私文書を用いて丙から金銭を借りた行為は財物詐欺罪にあたるか。


2詐欺罪については、(1)2と同じ。


3Xは「乙代理人X」の名義で作成された契約書を交わして丙から金銭を借りた。


4Xはその契約書を用いて、Xが乙の代理人であると丙を錯誤に陥らせたので、欺く行為にあたる。丙はそれによってXに75万円を交付しているので、財物の交付にあたる。


5従って、Xには丙に対して財物詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。


(4)Yが誤振込みした金銭75万円の返還を請求するためにXを脅迫し、Xに自己の口座に振り込ませたが、金銭を引き出せなかった。
1Yが誤振込みした金銭を取り返すためにXを脅迫したが、金銭を引き出せなかった行為は恐喝未遂罪にあたるか。


2恐喝罪とは、人を脅迫して、財物を交付させる行為である。生命・身体などに害を加える旨告知するなどして、畏怖した被害者に財物を交付させる行為である。財物を交付させるに至らなかった場合には、恐喝未遂にとどまる。


3Yは「やくざもん…」の発言によって、Xを畏怖させたが、警察に通報して、Yの口座から金銭を引き出せないようにした。


4YはXにやくざの関係者がいることを告知し、返還に応じなければ、やくざを仕向けると思わせ、畏怖させ、Xに誤振込みした金銭の75万円を口座に振り込ませた。ただし、Xが警察に通報し、口座からの引き落としができないようにしたため、Yはそれを取得するに至らなかった。

 この75万円はYが誤振込みした金銭であって、それは本来的にYのものであり、正当な権利がおよぶと解することもできる。そうすると、それは自己の物であり、恐喝未遂罪罪は成立しないと思われる。成立するのは、せいぜい脅迫罪と思われる。もっとも、正当な権利があり、それを取り返す目的が正当であるとしても、それが認めらるためには、その方法・手段が社会的に相当なものでなければならない。

 「やくざもん……」の発言は、それ自体「脅迫罪」にあたり、たとえ75万円に権利が及んでいても、そのような方法で取り戻すことは社会通念上認めることはできない。


☞YはXに誤振込みした金銭をXから返還を求める権利がある。その権利を行使することに問題はない。しかし、権利の行使には一定の方法がある。債権には債権に相応しい方法がある。その方法として、「やくざもん」の関係者がいることをちらつかせ、相手に恐怖心を抱かせて、債権を実現するのは、相応しい相当な方法といえるか。相当な方法とはいえない。


☞その方法が脅迫にあたる場合、成立するのは脅迫罪ではなく、恐喝罪である。誤振込みした金銭が返還されたように見えるがが、それは誤振込みした金銭とは別個の金銭であるので、恐喝罪が成立する。


5従って、Yには恐喝未遂罪(刑法250条、249条1項)が成立する。

(5)結論
 以上から、
 Xには銀行Bに対する詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。
 丙との関連では、有印私文書偽造罪、同行使罪(刑法159条1項)、丙に対する詐欺罪(刑法246条1項が成立する。有印私文書偽造罪、同行使罪と詐欺罪は牽連犯(刑法54条後段)の関係にある。それとB対する詐欺罪は併合罪(刑法45条)である。

 YにはXに対する恐喝未遂罪(刑法250条、249条1項)が成立する。





 応用問題

(1)Yは、Aに対して75万円を渡し、「これを甲に預けるように」と依頼した。その金は、経済統制法規によって取引が禁止されている錦糸の売り上げ代金であった。Aは依頼されたとおり、その金を渡したが、その相手は甲ではなく、Xであった。Xは、その金銭が違法な収益であることを知らずに、「ご苦労さん」などと言いながら、甲のふりをして受け取った。Xは、その金を借金の返済に充てた。

1Xが金銭を受け取った行為は詐欺罪にあたるか。
2詐欺罪とは
3Xの行為
4詐欺罪の要件の当てはめ
5結論

1Xが金銭を消費した行為は横領罪にあたるか。
2横領罪罪とは
3Xの行為
4横領罪の要件の当てはめ
5結論


(2)その後、甲に確認して手違いを知ったYは、Xに電話し、返金を迫ったが、Xが返金しようとしなかったので、「お前のことを調べさせてもらった。窃盗を数件繰り返しているそうだな。それを警察に通報してもいいんだぞ。」と言った。困ったXは、「高利貸し丙」から金を借りて、Yの口座に振り込んだ。
 しかし、このまま金を取られるのがくやしくなったXは、Yの経済統制法規違反を警察に通報した。警察は銀行に連絡し、Yの口座から現金を引き出せないよう指示した。Yは金を引き出すことができなかった。

1Yの行為は恐喝未遂にあたるか。
2恐喝罪とは
3Yの行為
4脅迫愛の要件の当てはめ
5結論


(3)Xは丙との間で、Xを借主とする消費貸借契約を締結する際、テレビなどに出演して有名な弁護士Xと同姓同名であることを利用して金を借りようと考え、弁護士資格がないにもかかわらず、、「弁護士X」の名義の契約書を作成した。そして、Xはこれを丙に見せて、金を借りた。Yの口座に振り込んだのは、この金であった。

1Xが「弁護士」X」の名義の契約書を作成した。そして、Xはこれを丙に見せた行為は、有印私文書偽造、同行使罪にあたるか
2有印私文書偽造罪とは。同行使罪とは。
3Xが行った行為
4要件の当てはめ
5結論

1Xが丙から金を借りた行為は詐欺罪にあたるか
2詐欺罪とは
3Xの行為
4要件の当てはめ
5結論