Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第13回講義「刑法Ⅱ(各論)」(2013.12.24.)

2013-12-21 | 日記
 刑法Ⅱ(各論)第13回(12月24日)国家的法益に対する罪――国家の存立・国交・国家の作用に対する罪
(1)内乱罪 (2)外患罪 (3)外国国章損壊等罪 (4)私戦予備罪 (5)中立命令違反罪
(6)公務の執行を妨害する罪 (7)逃走罪

(1)内乱罪
1基本的性格 国家の存立を内部から侵害する行為(既遂→未遂→予備→陰謀)法定刑として禁錮刑

2内乱罪(77)
 国家の統治機構を破壊し、またはその領土から国権を排除して権力を行使し、
 その他憲法の定める等地の基本秩序を壊乱する目的にもとづいて行う暴動

 目的犯
 暴動の意義 多数人による集団的な暴行・脅迫(一地方の平穏を害する程度) 未遂(77②)
       暴動→殺人・放火 内乱と殺人等は併合関係(大判昭10・10・24刑集14巻1267頁)
 集団犯 首謀者、謀議参与者、群衆指揮者、諸般の職務従事者、不和随行者・単純暴動参加者

3内乱予備罪・同陰謀罪(78)
 内乱罪の実行のために、それを準備または計画する行為――予備と陰謀
 予備――内乱罪を実行する目的で行う準備行為(武器・弾薬や食糧の調達、参加者の勧誘など)
 陰謀――2人以上の者が内乱罪の実行を具体的に計画して合意すること
 自首による刑の免除(80) 正犯が暴動に至る前に自首すれば内乱予備・陰謀の刑を必要的に免除

4内乱等幇助罪(79)
 内乱、内乱未遂、内乱予備、内乱陰謀を幇助する行為
幇助行為――兵器・資金もしくは食糧の供給またはその他の行為
 独立幇助犯――正犯が内乱等の実行に着手することを要しない
 自首による刑の免除(80) 正犯が暴動に至る前に自首すれば内乱等幇助の刑を必要的に免除

(2)外患罪
1基本的性格 国家の存立を外部から侵害する行為  法定刑として死刑・懲役刑

2外患誘致罪(81)
 外国と通謀して日本国に対して武力を行使させる行為  法定刑として死刑
 外国――外国政府、外国軍、外交使節などの国家機関(私人・私的団体は含まれない)
 武力の行使――日本に対する軍事力の行使       未遂(87)、予備・陰謀(88)

3外患援助罪
 日本国に対する外国から武力の行使があったとき、これに加担して、その軍務に服し、
 その他これに軍事上の利益を与える行為   未遂(87)、予備・陰謀(88)(武力行使以前?)

(3)外国国章損壊等罪(92)
 外国に対する侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊、除去または汚損する行為
 公訴提起  外国政府の請求が条件
 外国 未承認・外交関係が不存在の国も含まれる
 国章 国の権威を象徴する物件 国旗、軍旗、大使館の徽章

(4)私戦予備罪・同陰謀罪(93)
 外国に対して私的に戦闘する目的で、その予備・陰謀を行う行為  
 自首による刑の必要的免除   私戦――国家の意思によらない武力行使

(5)中立命令違反罪
 外国が交戦しているときに日本が国民に向けて出している局外中立命令に違反する行為
 白地刑罰法規 違反行為の内容は、その都度の中立命令によって定まる(局外中立に関する命令)

(6)公務の執行を妨害する罪
1基本的性格 国家の立法・司法・行政の作用の保護

2公務執行妨害罪(95①)
公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行・脅迫を加える行為(抽象的危険犯)
 実行行為――暴行・脅迫
 公務員の職務――公務に従事する者が行う「強制力を行使する権力的公務」
 職務の執行に「あたり」――公務中。公務中でなくても、公務と一体的・継続的な範囲
 職務の適法性――抽象的権限の範囲+具体的職務権限の具備+重要な方式
         方式違反→適法性の喪失? 方式違反の程度と「要保護性」(適法性の相対化)
 適法性の判断基準――客観的な判断基準  事前判断(客観説)? 事後判断(純客観説)?

 故意と違法性の錯誤 適法な職務に従事している公務員への暴行・脅迫の認識(故意)
  適法な職務であるにもかかわらず、違法であると認識→違法性の意識なし
   違法性の意識は故意の要素→違法な行為を行っている事実の錯誤=故意阻却(事実の錯誤説)
   違法性の意識は故意とは別の責任の要素→違法性の錯誤=錯誤が相当=責任阻却(違法性の錯誤説)
 
3職務強要罪(95②)
 公務員にある処分をさせ、若しくはさせないために、または職をじさせるために行う暴行・脅迫

4封印等破棄罪(96)
 公務員が施した封印・差し押さえの表示を損壊し、または封印などの命令・処分を無効にする行為

5強制執行妨害目的財産損壊等罪(96の2)
 強制執行を妨害する目的で、強制執行を受ける財産などを隠匿、損壊、譲渡の仮装する等の行為

6強制執行行為妨害等罪(96の3)
 偽計・威力を用いて、立ち入り、占有者の確認その他の強制執行を妨害する行為

7強制執行関係売却妨害罪(96の4)
 偽計・威力を用いて、強制執行における売却の公正さを害する行為

8加重封印等破棄等罪(96の5)
 報酬を得、または得させる目的で行われる96条から96条の4までの行為

9公契約関係競売等妨害罪(96の6①)
 偽計・威力を用いて、公の競売・入札における契約の締結の公正さを害する行為

10談合罪(96の6②)
 公の競売・入札における契約の締結の公正な価格を害し、または不正な利益を得る目的で行う談合

(7)逃走罪
1基本的性格 国家の刑事手続における拘禁作用

2逃走罪(97)
 裁判の執行により拘禁された既決または未決の者による逃走する行為    未遂(102)

3加重逃走罪(98)
 裁判の執行により拘禁された既決または未決の者または勾引状の執行を受けた者が拘禁・拘束の
 ための器具を損壊し、暴行・脅迫を加え、または2人以上通謀して逃走する行為

4被拘禁者奪取罪(99)
 法令により拘禁された者を奪取する行為

5逃走援助罪(100)
 法令により拘禁された者を逃走させる目的で、
 器具の提供、その他逃走を容易にすべき行為を行い(①)、または暴行・脅迫を行った場合(②)

6看取等による逃走援助罪(101)
 法令により拘禁された者を看取・護送する者が、拘禁された者を逃走させる行為

 第13回講義 練習問題

(1)内乱罪・外患罪について
・内乱罪の法定刑は禁錮刑であり、それは「名誉刑」であると言われている。その理由を述べなさい。


・外患罪の法定刑は懲役刑であるが、なぜ禁錮刑ではなく、懲役刑である理由を述べなさい。


(2)公務執行妨害罪について
1公務員の職務の意義
・公務執行妨害罪は、職務についている公務員に対して暴行・脅迫を加える行為であるが、
 それが成立するには、職務が現に妨害されたことが要件として必要か。

・Aは国立病院の会計担当の職員Xに対して暴行・脅迫を行った。Aの罪責を論じなさい。

・Aはパトロール中の警察官Xに対して威力(暴行に至らない程度の有形力の行使)を加えた。
 Aの罪責を論じなさい。

・Aは国立病院の会計担当の職員Xを誘惑して、その職務の遂行を滞らせた。Aの罪責を論じなさい。

・Aは警察に対して虚偽の犯行予告を行った。警察署長Xは、警察官Yがパトロール中であったが、
 パトロールを中断して、緊急出動するよう命令した。Aの罪責を論じなさい。


2職務の適法性の判断基準
・公務執行妨害罪の保護法益である公務員の職務は、適法なものでなければならない。そのためには
 当該公務員に
 「抽象的な職務権限」があること、
 「具体的な職務権限」があること、
 「職務の執行が重要な方式にもとづいていること」
 という3要件を満たしていなければならない。

 覚せい剤の密売グループのリーダーAは、国外逃亡するために関西空港の国際線出発ロビーにいた。
 薬物事犯担当の警察官Xは、覚せい剤販売罪等の嫌疑でXをロビーで逮捕した。
 その際、XはAに対して嫌疑内容を口頭で伝えただけで、逮捕令状を示さなかった。
 Aは無令状の逮捕は逮捕の重大な方式に違反し、適法ではないと思い、Xに対して暴行を加えた。
 XとAの罪責を論じなさい。


 収税官吏Yは、Bの所得税の検査を行い、書類等を確保した。しかし、Yは検査の際に携帯する
 必要がある検査章を持っていなかった。この検査の「適法性」について論じなさい。
 Bは検査章を携帯せずに行われた検査は適法ではないと思い、Yに対して暴行を加えた。
 YとBの罪責を論じなさい。


・Aは警察官Xの適法な職務を違法だと誤信して、Xに暴行を加えた。
 Aには公務執行妨害罪に該当する行為を行っている認識(違法性の認識)はなかった。

 違法性の認識と故意の関係を整理したうえで、違法性の認識が故意の要素であると解した場合、
 違法性の認識がないこと場合、それが故意の成立に対してどのような影響を及ぼすかを論じなさい。

 違法性の認識が故意とは別の独立した責任要素であると解した場合、
 違法性の認識がない場合、それが責任の成立に対してどのような影響を及ぼすかを論じなさい。