Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第04回② 2015年10月22日)

2015-10-18 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 第04週 練習問題

 一 基本問題
(1)強制わいせつ罪
1強制わいせつ罪の手段行為としての暴行・脅迫
強制わいせつ罪の手段行為としての「暴行」とは、他人の意思に反して、その身体髪膚に力を加えることをいい、その力の大小強弱は問われない(○×)。
 (大判大正13・10・22刑集3巻749頁)

 相手方の女性が、接吻を承諾することを予期し得る事情がないのに、相手の感情を無視し、暴行をもって強いて「接吻」することを求めることは、強制わいせつ行為にあたる(○×)。
 (東京高判昭和32・122高刑集10巻1号10頁)

2わいせつ行為の意義
わいせつ行為とは、接吻など、一般に性的自己決定に基づいて一般に行なわれている行為である。

3手段行為としての「暴行」と目的行為としての「わいせつ行為」
 女子の意思に反して、「指を陰部に挿入すること」は、それ自体暴行を用いてわいせつの行為をしたものと認められる(○×)。(大判大正7・8・20刑録24輯1203頁)
 →暴行とわいせつ行為には形態・内容に違いがあるが、それらが近接・連続して行なわれる場合

4「姦淫」の目的にもとづく「わいせつ行為」
 「わいせつ行為」には、姦淫の目的に基づいて行なわれる「わいせつ行為」は含まれない(○×)。 (大判大正3・7・10刑録20輯1541頁)

5強制わいせつ罪の主観的要素
 強制わいせつ罪が成立するには、その行為が犯人の性欲を刺激、興奮させるという性的意図の下に行われることを要し、女子を脅迫して「裸にし、その立っているところを撮影する行為」であっても、これが専らその女子に報復しまたはこれを侮辱し、虐待する目的に出たものであるときは、強制わいせつ座うは成立しない(○×)。(最判昭和45・1・29刑集24巻1号1頁)

 女性下着販売員として働かせる目的から、「女性の全裸写真を強制的に撮影しようとした場合」、同女を男性の性的興味対象として扱い性的羞恥心を与えるわいせつ行為を行なっていることの認識、すなわち自らを性的に刺激、興奮させる性的意思を有した行為を行なっていることの認識が認められる以上、強制わいせつ罪が成立する(○×)。東京高判昭和62・9・16判時1294号43頁)

6 13才未満の者に対して暴行・脅迫を用いてわいせつ行為を行なった場合
13才未満の者に対し、その反抗を著しく困難にさせる程度の脅迫を用いて、わいせつ行為をしたときは、176条前段と後段の区別なく、本条に該当する1罪が成立する(○×)。
 (最決昭和44・7・25刑集23巻8号1068頁)
 →13才未満の者に対して、「脅迫罪」と(強制)わいせつ罪の2罪が成立しない。


(2)強姦罪
1強姦罪の手段行為としての暴行・脅迫
 177条の強姦罪の暴行または脅迫は、相手方の反抗を知事るしく困難ならしめる程度のもので足りる(○×)。最判昭和24・5・10刑集3巻6号711頁)
 →強制わいせつ罪の暴行・脅迫との違いに注意

2強姦罪の既遂時期
 強姦罪の既遂は、交接作用を標準とし、生殖作用を遂げたことを要しない(○×)。
 (大判大正2・11・19刑録19輯1255頁)
 →男性性器が女性性器に没入した時点で、姦淫は遂げられた(強姦は既遂に達した)と認定される。

3夫婦間でも強姦は成立するか?
 Aは、妻Bに対して、暴行・脅迫を用いて性交に及んだ。強姦罪の成立は(肯定・否定)される。
 婚姻中夫婦が互いに性交渉を求めかつこれに応ずべき所論の関係にあることはいうまでもない。しかしながら、「婚姻中」とは実質的にも婚人が継続していることを指し、法律上は夫婦であっても、婚姻が破綻して夫婦たるの実質を失い名ばかりの夫婦に過ぎない場合には、もとより夫婦間に所論の関係はなく、夫が暴行または脅迫をもって妻を姦淫したときは強盗罪が成立し、夫と第三者が暴行を用いて共同して妻を輪姦するに及んだときは、夫についてもむろん強姦罪の共同正犯が成立する(○×)。(広島高松江部判昭和62・6・18高刑集40巻1号71頁)


(3)準強制わいせつ罪・準強姦罪
1心神喪失
 4、5才の知能程度しかない重度の精神障害の女子を姦淫することは、人の心神喪失に乗じて行なったものである(○×)。(東京高判昭和51・12・13東高刑27巻12号165頁)

2抗拒不能
 催眠術をかけて催眠状態にしたことは、抗拒不能の状態にした場合にあたる(○×)
 (東京高判昭和51・8・16東高刑27巻8号108頁

 患者の少女が医師を信頼しているのに乗じて、医師が必要な施術をするかのように誤信させ、陰部に薬を挿入すると偽り、目を閉じさせる等して姦淫したことは、抗拒不能にならしめて姦淫した場合にあたる(○×)。(大判大正15・5・25刑集5巻285頁)

 被害者が睡気その他の事情から犯人を自己の夫と誤認しているのに乗じて姦淫した以上、被害者が性交当時またはその直前に覚せいしていても、この誤認が続く限り、抗拒不能に乗じて女子を姦淫した場合にあたる(○×)。(広島高判昭和33・12・24高刑集11巻10号701頁)

 にせ産婦人科医が治療行為に仮装して治療のためには性交が必要である旨を申し向け、治療のためやむを得ないと誤信して被害者の承諾を得て姦淫したことは、抗拒不能にして姦淫した場合にあたる(○×)。(名古屋高判昭和55・7・28刑月12巻7号709頁)

 モデル等の職業紹介を業とするプロダクションの経営者が、モデル志願者としてスカウトした女性に、モデルになるための度胸試しに写真を撮るから裸になるよう要求し、同女に、全裸になって写真撮影されることもモデルになるため必要であり、拒否すればモデルとして売りに出してもらえなくなると誤信させて、やむなく全裸にさせたときは、抗拒不能の状態に陥らせたといえる(○×)。(東京高判昭和56・1・27刑月13巻1=2号150頁)


(4)集団強姦罪・集団準強姦罪
「2人以上の者」が、「強姦・準強姦の現場」において、「共同して強姦・準強姦を行なう行為」
 強姦などの共同正犯との違い→強姦などの現場でその手段行為である暴行のみを分担した者は?


(5)強制わいせつ等致死傷罪
1致死傷の原因行為
 手段行為としての暴行・脅迫→目的行為としての強制わいせつ・姦淫→致傷または致死

 強姦致傷罪は、傷害の発生が姦淫行為自体による場合だけでなく、姦淫の手段である暴行による場合にも成立する(最決昭和43・9・17刑集23巻9号862頁)。
 →致死傷は、強姦罪の構成要件該当行為(暴行・脅迫による姦淫)から発生じたことを要する。

 死傷の結果が、わいせつ姦淫罪に随伴する行為から生じたものであれば足り、強姦未遂後、逃走のために傷害を負わせたときはこれにあたる(大判明示44・6・29刑録17輯1330頁)
 →致死傷は、強姦罪の構成要件該当行為ならびにそれに随伴する行為から発生じていれば足りる。

 準強制わいせつの着手後、覚せいした被害者から衣服をつかまれたため、わいせつな行為を行なう意思を喪失した後、その場から逃走するために被害者に暴行を加え傷害を負わせた場合、その暴行は、準強制わいせつ行為に随伴するものといえる(最決平成20・1・22刑集62巻1号1頁)。

 共犯者の1人に強姦された被害者が他の共犯者による強姦の危険を感じ、援助を求めて逃走した際に、転倒し負傷した場合、強姦致傷罪が成立する(最決昭和46・9・22刑集25巻6号769頁)

2死後の姦淫
 強姦目的で女子に暴行を加え、その女子を死亡させた直後に姦淫したときは、姦淫行為が女子の死亡後であるとしても、これを包括して強姦既遂致死罪が成立する(最判昭和36・8・17刑集15巻7号244頁)。

3致傷の程度
 強姦に際し、相手方に傷害を加えた場合は、たとえその傷害が軽度でも、強姦致傷罪が成立する(最判昭和24・7・26裁判集刑12号83頁)。

4故意の殺人を手段とした姦淫
殺意を有しつつ、暴行により女子を姦淫し死亡させた場合、強姦罪と殺人罪の観念的競合が成立する(大判大正4・12・11刑録2輯1088頁)。
 →強姦致死罪が成立するならば、無期または5年以上の懲役になり、故意の殺人罪より軽くなる


(6)住居侵入罪
1住居侵入罪の保護法益
 本罪は、他人の住居権を侵害するをもって本質とし、たとえ姦通の相手方である妻から承諾を得て立ち入ったとしても、住居権者である不在の夫(家長)の承諾が推測しえない以上、当該住居に入る行為は本罪の罪を構成する(大判大正7・12・6刑録24輯1506頁)。

 他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入る行為は、「侵入」 にあたり、本条の罪が成立する(最判昭和58・4・8刑集37巻3号215頁)。

2建造物
 本条の建造物は、家屋だけでなく、その囲繞地(いにょうち)も含む(最大判昭和25・9・27刑集4巻9号1783頁)。

 当該建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が門扉等の囲障を設置することにより、建物の付属値として建物利用のために供されるものであることが明示されればよく、右囲障が通常の門扉に準じ外部との交通を阻止し得る程度の構造を有する金網柵にあたる場合は囲繞地にあたる(最判昭和51・3・4刑集30巻2号79頁)。

 警察署庁舎建物とその敷地を他から画するとともに、立入り、のぞき見等、外部からの干渉を排除する作用を話している塀は、庁舎建物の利用にために供されている工作物であって、本条にいう「建造物」の一部を構成するものとして、建造物侵入罪の客体にあたる(最決平成21・7・13刑集63巻6号590頁)。

3邸宅
 邸宅とは、人の住居の用に供される家屋に付属し、主として住居者の使用に供されるように区画された場所をいう(大判昭和7・4・21刑集11巻407頁)。

 管理者が管理する集合住宅の一階出入口から各室玄関前までの部分は本条にいう「人の看守する邸宅」にあたり、門扉等の囲障により建物利用のために供されるものであることが明示されている建物の周辺土地は「人の看守する邸宅」の囲繞地として、本条の客体となる(最判平成20・4・11刑数62巻5号1217頁)。

4侵入
 侵入とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう(最判昭和58・4・8刑集37巻3号215頁)。

5退去
 不退去罪の成否は、行為者の滞留億的、その間になされた行為、住居者の意思に反する程度、滞留時間等を考慮し、住居等の平穏がみだされたか否かにより決すべきである(東京高判昭和45・10・2高刑集23巻4号640頁)。

6居住者・管理権者の錯誤に基づく同意の効果
 強盗殺人の目的で、顧客と信じさせて被害者の店舗に入った行為は、住居侵入罪を構成する(最判昭和23・5・20刑集2巻5号489頁)。→違法阻却の効果の否定

 国体開会式を妨害する目的で、開会式場に入場券を所持し、一般観客を装って入場した場合でも、建造物侵入罪が成立する(仙台高判平成6・3・31判時1513号175頁)。


 二 判例問題
14強制わいせつ罪における主観的要素(最判昭和45・1・29刑集24巻1号1頁)
 刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪そのたの罪を構成するのは格別、強制わいせつ罪は成立しないというべきである。
 もっとも、年若い婦女……を脅迫して裸体にさせることは、性欲の刺戟、興奮等性的意図に出ることが多いと考えられるので、本件の場合においても、審理を尽くせば、報復の意図のほかに右性的意図の存在も認められるかもしれない。しかし、第1審判決は、報復の意図に出た事実だけを認定し、右性的意図の存したことは認定していないし、……本件のような行為は、その行為自体が直ちに行為者に前記性的意図の存することを示すものとはいえないのである。


15強制わいせつ致傷罪の成否(最決平成20・1・22刑集62巻1号1頁)
 上記事実関係によれば、Xは、Aが覚せいし、XのTシャツをつかむなどしたことによって、わいせつな行為を行なう意思を喪失した後に、その場から逃走するため、Aに対して暴行を加えたものであるから、Xのこのような暴行は、上記準強制わいせ行為に随伴するものといえるから、これによって生じた上記Aの傷害について強制わいせつ致傷罪が成立するというべきであり、これと同旨の原判断は正当である。


16住居侵入罪の保護法益(最判昭和58・4・8刑集37巻3号215頁)
 刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立ち入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立ち入りの目的などからみて、現に行われた立ち入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同罪の罪の成立を免れないというべきである。


17集合住宅の共用部分への立入り(最判平成21・11・30刑集63間9号1765頁)
 本件マンションの構造及び管理状況、玄関ホール内の状況、上記はり紙の記載内容、本件立入りの目的などからみて、本件立入り行為が本件管理組合の意思に反するものであることは明らかであり、被告人もこれを認識していたものと認められる。そして、本件マンションは分譲マンションであり、本件立入り行為の態様は玄関内東側ドアを開けて7階から3階までの本件マンションの廊下等に立ち入ったというものであることなどに照らすと、法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできず、他に犯罪の成立を阻却すべき事情は認められないから、本件立入り行為について刑法130条前段の罪が成立するというべきである。……確かに、表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず、本件ビラのような政党の政治的意見等を記載したビラの配布は、表現の自由の行使ということができる。しかしながら、憲法21条1項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ思想を外部に表現するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである(省略)。本件では、表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく、表現の手段すなわちブラ配布のために本件管理組合の承諾なく本件マンション内に立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ、本件で被告人が立ち入った場所は、本件万所の住人らが私的生活を営む場所である住宅の共用部分であり、その所有者によって構成される本件管理食い合いがそのような場所として管理していたもので、一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、そこに本件管理組合の意思に反して立ち入ることは、本件管理組合の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む私生活の平穏を侵害するものといわざるをえない。


18建造物侵入の意義(最決平成19・7・27刑集61巻5号379頁)
 以上の事実関係によれば、被告人らは、現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり、そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立ち入りの外患が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立するというべきである。


 三 事例問題
1Aは、女性の部下Bの日頃の勤務態度が悪いのを叱責する目的で、全裸にして写真をとった。Aには、途中から、性欲を刺激・興奮する意図が生じたが、そのまま継続した。


2Aは相手の女性が13才以上であると誤信して、暴行・脅迫を用いずにわいせつな行為を行なった。


3Aは相手の女性が13才未満であると誤信して、暴行・脅迫を用いずにわいせつな行為を行なった。


4Aは就寝中のBの下着を脱がして、わいせつな行為を行なおうとしたら、Bが覚せいしたため、犯行の継続を断念し、逃亡を始めたが、Bが追跡してきたため、振り向きざまにBの顔面を殴打し、加療4週間の傷害を負わせた。


5Aは、「日本政府は、日本が海外で戦争できる国にする危険な政策を進めている」と書いたビラを配布するために、「許可なくビラ配りするこを禁ず」と貼り紙がされた集合住宅の管理人室の前を通り、非常階段を通じて、最上階の10階から2階まで各戸の玄関ドアにビラを投入した。


6Aは銀行のATMコーナーに入り、利用者がカードを用いて現金を引き出そうとしている後ろから、携帯電話のカメラで、暗証番号を押しているのを録画した。