刑法Ⅱ(各論) 第03週 練習問題
一 基本問題
(1)脅迫罪
1保護法益と行為客体
脅迫罪は、人の( )の自由を保護法益とするから、人=自然人に対してのみ成立し、法人に対しては成立しない( ○ × )。従って、株式会社に対して業務の遂行を妨害する旨告知する行為は、脅迫罪にはあたらない( ○ × )。ただし、会社の法益にたいする加害の告知が、ひいては告知を受けた者の生命、身体などの法益に対する加害の告知にあたると評価される場合には、脅迫罪の成立が認められる。 大阪高判昭和61・12・16高刑集39巻4号592頁
2侵害犯か、それとも危険犯か?
脅迫とは、( )、( )、( )、( )または( )に害を加える旨を告知することによって成立し、被通告者が( )を起こしたことを必要としない( ○ × )。
大判明治43・11・15刑録16輯1937頁
3害悪の告知にあたるか、それとも嫌がらせ、いたずらか?
Aは、町村合併に関する住民投票について、対立する反対派との抗争が激しくなり、感情が悪化して、言論戦と文書戦が繰り広げられていた際、反対派の中心人物宛に、「出火お見舞い申し上げます。火の元にご用心。8月16日」と記載した葉書を送った。脅迫罪にあたる( ○ × )。
最判昭和35・3・18刑集14巻4号416頁
4「村八分」や「共同絶交」の宣言は、害悪の告知にあたるか?
Aら村人は集会を開き、Bを「村八分」(共同絶交)を決議し、それをBに通告した。( ○ × )。 大判昭和9・3・5刑集13巻213頁、大阪高判昭和32・9・13高刑集10巻7号602頁
5告知者によって実現できない害悪の告知
吉凶禍福を告知しても、「害悪の告知」にあたる( ○ × )。
6告知者だけでなく、その者が左右しうる第三者を通じて実現される害悪の告知
「悪政を続ける政治よ。よく聞け。革命政府が樹立した後の人民裁判において、お前達は断頭台において処刑されることになろう」と告知した。脅迫罪にあたる( ○ × )
広島高松江支部昭和52・・7・3高刑集3巻2号247頁
名古屋高判昭和45・10・28判時628号93頁
7告訴の意思なく告訴(利益回復や利益救済のための権利の行使)を告知した場合
虚偽の告訴の被害を受けた者が、虚偽告訴罪の告訴の意思がないにもかかわらず、相手方に告訴することを告知した。脅迫にあたる( ○ × ) 大判大正3・12・1刑録20輯2303頁
(2)強要罪
1保護法益
強要罪の保護法益は、( に基づく の自由)であるので、その手段行為である「暴行」は、被害者の身体に対する有形力の行使にとどまらず、その自由な( )を拘束して、( )の自由を制約するに足りる程度のものでなければならない。背広の襟をつかんで引っ張り、怒鳴りながら身体を前後に数回揺さぶるのは、いまだその程度に達したとはいえない(○×)。
大阪地判昭和36・10・17下刑集3巻9=10号945頁
2義務のないことを行なわせる
約束を破ったので、謝罪文を書かせた(○×)。大判大正15・3・24
ルール違反を理由に水入りバケツを持たせ立たせた(○×)。大判大正2・4・24刑録19輯526頁
告訴権を有する者に対して告訴を中止させた(○×)。大判昭和7・7・20
(告訴の意思がない者が告訴を告知すると脅迫。その告訴=脅迫を中止させても強要ではない)
3権利の行使を妨害した
新聞記者が、料理店の営業者に対して、自分の意思に逆らうと、料理店に関して不利益な記事を新聞に掲載するぞと告げて、告訴を中止させた(○×)。大判昭和7・7・20刑集11巻1104頁
動物の品質・技能を競う競技大会に動物操縦者として参加出場するのをとり止めさせた(○×)。
岡山地判昭和43・4・30下刑集10巻4号416頁(「~~する権利」に限られない)
4未遂の処罰
義務のないことを行なわせるために脅迫した場合、脅迫罪ではなく、強要未遂罪が成立する(○×)。
大判昭和7・3・17刑集11巻437頁
(3)逮捕罪・監禁罪
1逮捕罪・監禁罪の保護法益
逮捕罪・監禁罪は、いずれも人の( )の自由、( )の自由を保護法益としている。
2逮捕罪の行為態様
逮捕とは、直接的に人の身体を拘束して、行動の自由・場所的な移動の自由を侵害することであり、ロープなどで人の胸部や足部などを縛りつけることは、監禁ではなく、逮捕にあたる( ○ × )。
大阪高判昭和26・10・26高刑集4巻9号1192頁
直接的な身体拘束が、逮捕にあたるといえるためには、一定の時間、継続して行動自由・場所的な移動の自由の制限することを要するので、わら縄で両足を「5分間」縛って「引きずり回す」ような行為もまた、逮捕にあたる( ○ × )。 大判昭和7・2・29刑集11巻142頁
3監禁罪の行為態様
監禁とは、被害者を一定の場所から脱出を不可能にし、継続して人の移動の自由を侵害することによって成立するが、それには多少の時間を要するものの、時間の長短は問われない。暴行・脅迫によって「8畳の間」に、「約30分」閉じこめた行為であっても、監禁にあたる( ○ × )。
大判昭和7・2・12刑集11巻75頁。
監禁は、有形的・物理的な方法であると、無形的・心理的な方法であるとを問わず、「一定の場所」からの「移動」を妨げることにより成立する( ○ × )。例えば、深夜、強姦の恐怖におびえる女子を、脱出するには泳ぐほかない海上沖合の停泊中の漁船内に閉じこめた場合、脱出が著しく困難であったので、、監禁にあたる( ○ × )。最判昭和24・12・20刑集3巻12号2036頁
姦淫する目的で、女性を自己の運転するオートバイの荷台に乗車させ、1000メートルほど疾走する行為は、女性がそこから降車するのが著しく困難であったので、監禁にあたる( ○ × )。
最決昭和38・4・18刑集17巻3号248頁
自己の居室で、被害者の女性の髪を切り、果物ナイフを突き付けて脅し、後で何をされるか分からないと思わせて、部屋から脱出できなくした場合、部屋が外側から施錠されていなくても、監禁罪が成立する( ○ × )。 東京高判昭和40・6・25高刑集18巻3号238頁 →心理的方法
4逮捕罪・監禁罪の行為客体
逮捕罪・監禁罪の客体は自然人であり、是非是悪の識別能力、それに基づく行動の制御能力がなくても、事実的意味において任意に行動しうる者であれば足り、幼児のように意思能力がなくても、本罪の客体になりうる(○×)。従って、被害者が行動・移動の自由が制限されていることの被害意識がなくても、本罪は成立しうる(○×)。京都地判昭和45・10・12刑月2巻10号1104頁
→自分に法的に行動・移動の自由があることを認識していなくても、行為客体になりうる。
5被害者が行動・移動の自由の制限を受けていることの認識は不要?
Aは、逃亡したBを連れ戻すため、Bの母親が合いたがっていると虚偽の事実を告げて、自動車の乗せて疾走し、そこから容易に脱出することができなくした。Bは錯誤していたため、移動の自由を制限されていることについて認識していなかったが、監禁罪は成立する( ○ × )。
最決昭和33・3・19刑集12巻4号636頁、広島高判昭和51・9・21形月8巻9=10号380頁
→偽計・錯誤のために、行動・移動の自由制限を認識していなくても、監禁罪は成立する
真実を告げられたなら、それを認識できたはず→自由制限の認識の可能性で足る(可能的自由説)
6生活設備が完備されている部屋の場合
女工の逃走を防ぐために、健康保全・慰安娯楽の設備のある宿舎の出入口を施錠した。監禁(○×)。大判大正4・11・5刑集21巻1891頁
Aは、Bが犯罪を行なったと虚偽の事実を警察に通報し、警察官をしてBを留置場に収容させた。監禁罪の間接正犯が成立する( ○ × )。大判昭和14・11・4刑集18巻497頁
7継続犯としての逮捕罪・監禁罪
逮捕罪・監禁罪は、その構成要件該当行為が行なわれることによって既遂に達し、法益侵害が継続する。従って、途中から関与した者にも共同正犯や幇助が成立し、逮捕・監禁から解放されることで逮捕罪・監禁罪は終了し、公訴時効は終了の時点から起算される。
8逮捕致死傷罪・監禁致死傷罪(結果的加重犯)
逮捕致死傷罪・監禁致死傷罪は、基本犯の逮捕行為・監禁行為やその手段行為から、加重結果である被害者の死傷が生じた場合に成立する。基本犯と致死傷との間に因果関係が必要である。監禁中の被害者が窓から飛び降りて骨折した場合、監禁致傷罪にあたる。ただし、監禁中の被害者に暴行を加えて死亡させた場合、死亡結果は監禁から生じていないので、監禁致死罪にはあたらない。この場合、監禁罪と傷害致死罪の併合罪となる。名古屋高判昭和31・5・31高刑裁特3巻14号685頁
AはBを自動車に乗せ監禁して疾走し、脱出を困難にしたが、自動車のドアが故障していたため、運転中に開き、そこからBが転落して、死亡した( ○ × )。監禁行為と死亡との因果関係は?
名古屋高判昭和35・11・21下刑集2巻11=12号1338頁
タクシー運転手Aは客Bを自動車に乗せ走行していたところ、自動車のドアが故障していたため、運転中に開き、そこからBが転落して、死亡した。→過失運転致死罪
(4)略取罪・誘拐罪・人身売買罪
1略取罪・誘拐罪の諸類型 客体 行為 目的
未成年者略取・誘拐 未成年者 略取・誘拐
営利目的等略取・誘拐 未成年・成年 略取・誘拐 営利・わいせつ・結婚・生命加害など
身の代目的略取・誘拐 未成年・成年 略取・誘拐 身の代金を交付させる目的
所在国外移送目的略取・誘拐 未成年・成年 略取・誘拐 所在国外に移送する目的
刑法1条(国内において行なった者への適用)、刑法3条11号(国外で行なった国民への適用)、
刑法3条の2第5号(国外で国民に対して行なった国民以外の者への適用)
2未成年者略取・誘拐罪の保護法益(刑224条)
本罪の保護法益は、被誘拐者たる未成年者の自由のみならず、両親・後見人等の監護者又はこれに変わり未成年者に対して事実上の監護権を有する監督者などの監護権でもある(福岡高判昭和31・4・14高刑裁特3巻8号409頁)
別居中で離婚係争中の妻Bが養育する2才の子どもを、夫Aが有形力を用いて連れ去った。この行為は( )に該当するが、行為者が親権者の1人であることは、その( )判断において考慮される(最決平成17・12・6刑集59巻10号190頁)。
3略取と誘拐
略取とは、(暴行)または(脅迫)を手段として、被害者の意思に反して、その生活圏から離脱させ、略取者または第3者の事実上の支配のもとに置くことである。
広島高岡山支部判昭和30・6・16高刑裁特2巻12号610頁
誘拐とは、(詐欺=虚偽の事実の告知)まやは(★誘惑=真実の告知も含む)を手段として、被害者の意思に反して、その生活圏から離脱させ、略取者または第3者の事実上の支配のもとに置くこと。
大判大正12・12・3刑集2巻915頁、★大判大正7・10・16刑集24巻1268頁
成年に対して「誘惑」し、その生活圏から離脱させ、自己の事実上の支配に置く場合、誘われ、惑わされて、正確な判断が困難になっているが、本人が任意に生活圏から離脱している限り、それ自体として犯罪性はないが、誘拐者の事実上の支配の内容などが食い違っていた場合、誘拐にあたる。
4営利・わいせつ・結婚・生命身体加害の目的(刑225条)
営利目的 利益を得る目的であり、継続して利益を得ることであることを要しない。
わいせつ目的 被略取者等に「わいせつ行為」を行なう目的である。
結婚目的 通常の夫婦の生活実態を備えた関係を作る目的であり、法律婚・事実婚を問わない。
生命等加害目的 臓器などを摘出するなどして、生命・身体に害を加える目的である。
営利等目的略取・誘拐罪は「目的犯」であるが、この目的は刑法65条の身分ではない(○×)。
大判大正14・1・28刑集4巻14頁 正犯に目的があることを知って幇助した→本罪の幇助罪
★麻薬輸入罪の営利目的は刑法65条1項の身分である(最判昭和42・3・7刑集21巻2号417頁)
正犯に営利目的があることを知って幇助。しかし幇助者には目的がない→単純麻薬輸入の幇助
5身の代金目的略取・誘拐罪(刑225条の2)
近親者とは、直系血族(父母・祖父母)・配偶者(夫・妻)・兄弟姉妹を含む「親族」より幅広い
安否を憂慮する者とは、被略取・被誘拐者と特別な人間関係があるため、その生命、身体、自由への危険を近親者と同程度に親身になって心配する者(大阪地判昭和51・10・25刑月8・9=10・435)
6所在国外移送目的略取・誘拐罪(刑226条)
外国人の夫が、別居中の日本人の妻が監護養育する2才4カ月の子を母国に連れて帰った。
最決平成15・3・18刑集57巻3号371頁
7人身売買罪の諸類型(刑226条の2、226条の3)
①人の買い受け、②未成年者の買い受け、③営利等の目的による人の買い受け、④人の売渡し、⑤所在国外移送の目的による人の買い受けと売り渡し(226条の2)。その国外移送(226条の3)
8被略取者・被誘拐者・売り渡された者の国外移送(刑227)
①224条、225条、226条、226条の2、226条の3を行なった者を幇助する目的で、
被略取者などを引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させる行為
②225条の2を行なった者を幇助する目的で、被略取者の引き渡し、収受、輸送、蔵匿、隠避
③営利などの目的で略取などされた者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させる行為
④身の代金目的で略取などされた者の収受。収受した者が近親者などの身の代金を要求などした場合
9解放による刑の減軽
225条の2または227条2項もしくは4項→被略取者を安全な場所に解放→刑の必要的減軽
二 判例問題
10監禁罪の保護法益(京都地判昭和45・10・12刑月2巻10号1104頁)
監禁罪がその保護法益とされている行動の自由は、自然人における任意に行動しうる者のみについて存在するものと解すべきであるから、全然任意的な行動をなしえない者、例えば、生後間もない嬰児の如きは監禁罪の客体となりえないことは多く異論のないところであろう。しかしながら、それが自然的、事実的意味において任意に行動しうる者である以上、その者が、たとえ法的に責任能力や行動能力はもちろん、幼児のような意思能力を欠如しているものである場合も、なお、監禁罪の保護に値すべき客体となりうるものと解することが、立法の趣旨に適し合理的というべきである。
11脅迫罪の罪質(最判昭和35・3・18刑集14巻4号416頁)
所論は要するに刑法222条の脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによって成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件2枚のはがきの各文面は、これを以下に解釈しても出火見舞いにすぎず、一般人が右葉書を受取っても放火される危険があるとの畏怖の念を生ずることはないであろうから、仮に右葉書が被告人によって差出されたものであるとしても被告人に脅迫罪の成立はない旨主張するけれど、本件におけるが如く、2つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに「出火見舞申上げます、火の元ご用心」、「出火見舞申上げます、火の要人に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかといふするのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。
12親権者による未成年者略取(最決平成17・12・6刑集59巻10号1901頁)
本件において、被告人は、離婚係争中の他方親権者であるAの下からBを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって、そのような行動に出ることにつき、Bの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから、その行為は、親権者によるものであるとしても、正当なものということはできない。また、本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、Bが自分の生活環境について判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば、本件行為につき、違法性が阻却されるべき事情は認められない。
13安否を憂慮する者の意義(最決昭和62・3・24刑集41巻2号197頁)
刑法225条の2にいう近親者その他被拐取者の安否を憂慮する者には、「単なる同情から被拐取者の安否を気づかうにすぎないとみられる第3者は含まれないが、被拐取者の近親でなくとも、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが、社会通念上当然とみられる特別な関係にある者はこれに含まれる」。「相互銀行の代表取締役社長が拐取された場合における同銀行幹部らは、被拐取者の安否を臣民になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にある者にあたる」。
三 事例問題
(1)脅迫罪・強要罪
Aは、市町村合併の住民投票をめぐって、反対派のBと対立していたところ、Bに「最近、お嬢さんがケガをされたそうですが、早く回復されることをお祈りいたします」と書いた葉書を送った。Bは、身うちのことを案じて、反対運動から身を引いた。
(2)逮捕罪・監禁罪
Aは、スピード狂のB子を誘って、後部座席に乗せて、バイクを疾走した。速度が時速100キロを超えたとき、B子は「止めて」と叫んだが、Aは停車しなかった。B子は怖くなり、後部座席から飛び降り、加療4週間のケガをした。AはB子を誘ったときに、姦淫目的があったことを秘していた。
(3)略取罪・誘拐罪・人身売買罪
1Aは、わいせつ目的を秘して、未成年者Xを誘い、Bが運転する自動車に乗せて、山中の別荘に連れて行った。BはAの目的を知っていたが、自分にはわいせつ目的はなかった。
2A子はオランダ人Bと結婚し、子どもCを産んだが、その2年後、Bと不和になったので、別居し、離婚調停しながら、Cを養育していた。Bは、Cが通う保育園にいる、事情を知らない保育士からCを受け取り、そのままオランダに帰国した。
3Aは、巨大銀行の総裁を務め、日本の経済界の中心人物であるBを「会食の会場が変更されましたので、お連れいたします」と欺いて、自動車に乗せ、某工場跡地の倉庫に連れて行った。Aは、記者会見でBの安否の心配を表明した銀行の副総裁に対して、自己に対する債権を放棄するよう要求した。
一 基本問題
(1)脅迫罪
1保護法益と行為客体
脅迫罪は、人の( )の自由を保護法益とするから、人=自然人に対してのみ成立し、法人に対しては成立しない( ○ × )。従って、株式会社に対して業務の遂行を妨害する旨告知する行為は、脅迫罪にはあたらない( ○ × )。ただし、会社の法益にたいする加害の告知が、ひいては告知を受けた者の生命、身体などの法益に対する加害の告知にあたると評価される場合には、脅迫罪の成立が認められる。 大阪高判昭和61・12・16高刑集39巻4号592頁
2侵害犯か、それとも危険犯か?
脅迫とは、( )、( )、( )、( )または( )に害を加える旨を告知することによって成立し、被通告者が( )を起こしたことを必要としない( ○ × )。
大判明治43・11・15刑録16輯1937頁
3害悪の告知にあたるか、それとも嫌がらせ、いたずらか?
Aは、町村合併に関する住民投票について、対立する反対派との抗争が激しくなり、感情が悪化して、言論戦と文書戦が繰り広げられていた際、反対派の中心人物宛に、「出火お見舞い申し上げます。火の元にご用心。8月16日」と記載した葉書を送った。脅迫罪にあたる( ○ × )。
最判昭和35・3・18刑集14巻4号416頁
4「村八分」や「共同絶交」の宣言は、害悪の告知にあたるか?
Aら村人は集会を開き、Bを「村八分」(共同絶交)を決議し、それをBに通告した。( ○ × )。 大判昭和9・3・5刑集13巻213頁、大阪高判昭和32・9・13高刑集10巻7号602頁
5告知者によって実現できない害悪の告知
吉凶禍福を告知しても、「害悪の告知」にあたる( ○ × )。
6告知者だけでなく、その者が左右しうる第三者を通じて実現される害悪の告知
「悪政を続ける政治よ。よく聞け。革命政府が樹立した後の人民裁判において、お前達は断頭台において処刑されることになろう」と告知した。脅迫罪にあたる( ○ × )
広島高松江支部昭和52・・7・3高刑集3巻2号247頁
名古屋高判昭和45・10・28判時628号93頁
7告訴の意思なく告訴(利益回復や利益救済のための権利の行使)を告知した場合
虚偽の告訴の被害を受けた者が、虚偽告訴罪の告訴の意思がないにもかかわらず、相手方に告訴することを告知した。脅迫にあたる( ○ × ) 大判大正3・12・1刑録20輯2303頁
(2)強要罪
1保護法益
強要罪の保護法益は、( に基づく の自由)であるので、その手段行為である「暴行」は、被害者の身体に対する有形力の行使にとどまらず、その自由な( )を拘束して、( )の自由を制約するに足りる程度のものでなければならない。背広の襟をつかんで引っ張り、怒鳴りながら身体を前後に数回揺さぶるのは、いまだその程度に達したとはいえない(○×)。
大阪地判昭和36・10・17下刑集3巻9=10号945頁
2義務のないことを行なわせる
約束を破ったので、謝罪文を書かせた(○×)。大判大正15・3・24
ルール違反を理由に水入りバケツを持たせ立たせた(○×)。大判大正2・4・24刑録19輯526頁
告訴権を有する者に対して告訴を中止させた(○×)。大判昭和7・7・20
(告訴の意思がない者が告訴を告知すると脅迫。その告訴=脅迫を中止させても強要ではない)
3権利の行使を妨害した
新聞記者が、料理店の営業者に対して、自分の意思に逆らうと、料理店に関して不利益な記事を新聞に掲載するぞと告げて、告訴を中止させた(○×)。大判昭和7・7・20刑集11巻1104頁
動物の品質・技能を競う競技大会に動物操縦者として参加出場するのをとり止めさせた(○×)。
岡山地判昭和43・4・30下刑集10巻4号416頁(「~~する権利」に限られない)
4未遂の処罰
義務のないことを行なわせるために脅迫した場合、脅迫罪ではなく、強要未遂罪が成立する(○×)。
大判昭和7・3・17刑集11巻437頁
(3)逮捕罪・監禁罪
1逮捕罪・監禁罪の保護法益
逮捕罪・監禁罪は、いずれも人の( )の自由、( )の自由を保護法益としている。
2逮捕罪の行為態様
逮捕とは、直接的に人の身体を拘束して、行動の自由・場所的な移動の自由を侵害することであり、ロープなどで人の胸部や足部などを縛りつけることは、監禁ではなく、逮捕にあたる( ○ × )。
大阪高判昭和26・10・26高刑集4巻9号1192頁
直接的な身体拘束が、逮捕にあたるといえるためには、一定の時間、継続して行動自由・場所的な移動の自由の制限することを要するので、わら縄で両足を「5分間」縛って「引きずり回す」ような行為もまた、逮捕にあたる( ○ × )。 大判昭和7・2・29刑集11巻142頁
3監禁罪の行為態様
監禁とは、被害者を一定の場所から脱出を不可能にし、継続して人の移動の自由を侵害することによって成立するが、それには多少の時間を要するものの、時間の長短は問われない。暴行・脅迫によって「8畳の間」に、「約30分」閉じこめた行為であっても、監禁にあたる( ○ × )。
大判昭和7・2・12刑集11巻75頁。
監禁は、有形的・物理的な方法であると、無形的・心理的な方法であるとを問わず、「一定の場所」からの「移動」を妨げることにより成立する( ○ × )。例えば、深夜、強姦の恐怖におびえる女子を、脱出するには泳ぐほかない海上沖合の停泊中の漁船内に閉じこめた場合、脱出が著しく困難であったので、、監禁にあたる( ○ × )。最判昭和24・12・20刑集3巻12号2036頁
姦淫する目的で、女性を自己の運転するオートバイの荷台に乗車させ、1000メートルほど疾走する行為は、女性がそこから降車するのが著しく困難であったので、監禁にあたる( ○ × )。
最決昭和38・4・18刑集17巻3号248頁
自己の居室で、被害者の女性の髪を切り、果物ナイフを突き付けて脅し、後で何をされるか分からないと思わせて、部屋から脱出できなくした場合、部屋が外側から施錠されていなくても、監禁罪が成立する( ○ × )。 東京高判昭和40・6・25高刑集18巻3号238頁 →心理的方法
4逮捕罪・監禁罪の行為客体
逮捕罪・監禁罪の客体は自然人であり、是非是悪の識別能力、それに基づく行動の制御能力がなくても、事実的意味において任意に行動しうる者であれば足り、幼児のように意思能力がなくても、本罪の客体になりうる(○×)。従って、被害者が行動・移動の自由が制限されていることの被害意識がなくても、本罪は成立しうる(○×)。京都地判昭和45・10・12刑月2巻10号1104頁
→自分に法的に行動・移動の自由があることを認識していなくても、行為客体になりうる。
5被害者が行動・移動の自由の制限を受けていることの認識は不要?
Aは、逃亡したBを連れ戻すため、Bの母親が合いたがっていると虚偽の事実を告げて、自動車の乗せて疾走し、そこから容易に脱出することができなくした。Bは錯誤していたため、移動の自由を制限されていることについて認識していなかったが、監禁罪は成立する( ○ × )。
最決昭和33・3・19刑集12巻4号636頁、広島高判昭和51・9・21形月8巻9=10号380頁
→偽計・錯誤のために、行動・移動の自由制限を認識していなくても、監禁罪は成立する
真実を告げられたなら、それを認識できたはず→自由制限の認識の可能性で足る(可能的自由説)
6生活設備が完備されている部屋の場合
女工の逃走を防ぐために、健康保全・慰安娯楽の設備のある宿舎の出入口を施錠した。監禁(○×)。大判大正4・11・5刑集21巻1891頁
Aは、Bが犯罪を行なったと虚偽の事実を警察に通報し、警察官をしてBを留置場に収容させた。監禁罪の間接正犯が成立する( ○ × )。大判昭和14・11・4刑集18巻497頁
7継続犯としての逮捕罪・監禁罪
逮捕罪・監禁罪は、その構成要件該当行為が行なわれることによって既遂に達し、法益侵害が継続する。従って、途中から関与した者にも共同正犯や幇助が成立し、逮捕・監禁から解放されることで逮捕罪・監禁罪は終了し、公訴時効は終了の時点から起算される。
8逮捕致死傷罪・監禁致死傷罪(結果的加重犯)
逮捕致死傷罪・監禁致死傷罪は、基本犯の逮捕行為・監禁行為やその手段行為から、加重結果である被害者の死傷が生じた場合に成立する。基本犯と致死傷との間に因果関係が必要である。監禁中の被害者が窓から飛び降りて骨折した場合、監禁致傷罪にあたる。ただし、監禁中の被害者に暴行を加えて死亡させた場合、死亡結果は監禁から生じていないので、監禁致死罪にはあたらない。この場合、監禁罪と傷害致死罪の併合罪となる。名古屋高判昭和31・5・31高刑裁特3巻14号685頁
AはBを自動車に乗せ監禁して疾走し、脱出を困難にしたが、自動車のドアが故障していたため、運転中に開き、そこからBが転落して、死亡した( ○ × )。監禁行為と死亡との因果関係は?
名古屋高判昭和35・11・21下刑集2巻11=12号1338頁
タクシー運転手Aは客Bを自動車に乗せ走行していたところ、自動車のドアが故障していたため、運転中に開き、そこからBが転落して、死亡した。→過失運転致死罪
(4)略取罪・誘拐罪・人身売買罪
1略取罪・誘拐罪の諸類型 客体 行為 目的
未成年者略取・誘拐 未成年者 略取・誘拐
営利目的等略取・誘拐 未成年・成年 略取・誘拐 営利・わいせつ・結婚・生命加害など
身の代目的略取・誘拐 未成年・成年 略取・誘拐 身の代金を交付させる目的
所在国外移送目的略取・誘拐 未成年・成年 略取・誘拐 所在国外に移送する目的
刑法1条(国内において行なった者への適用)、刑法3条11号(国外で行なった国民への適用)、
刑法3条の2第5号(国外で国民に対して行なった国民以外の者への適用)
2未成年者略取・誘拐罪の保護法益(刑224条)
本罪の保護法益は、被誘拐者たる未成年者の自由のみならず、両親・後見人等の監護者又はこれに変わり未成年者に対して事実上の監護権を有する監督者などの監護権でもある(福岡高判昭和31・4・14高刑裁特3巻8号409頁)
別居中で離婚係争中の妻Bが養育する2才の子どもを、夫Aが有形力を用いて連れ去った。この行為は( )に該当するが、行為者が親権者の1人であることは、その( )判断において考慮される(最決平成17・12・6刑集59巻10号190頁)。
3略取と誘拐
略取とは、(暴行)または(脅迫)を手段として、被害者の意思に反して、その生活圏から離脱させ、略取者または第3者の事実上の支配のもとに置くことである。
広島高岡山支部判昭和30・6・16高刑裁特2巻12号610頁
誘拐とは、(詐欺=虚偽の事実の告知)まやは(★誘惑=真実の告知も含む)を手段として、被害者の意思に反して、その生活圏から離脱させ、略取者または第3者の事実上の支配のもとに置くこと。
大判大正12・12・3刑集2巻915頁、★大判大正7・10・16刑集24巻1268頁
成年に対して「誘惑」し、その生活圏から離脱させ、自己の事実上の支配に置く場合、誘われ、惑わされて、正確な判断が困難になっているが、本人が任意に生活圏から離脱している限り、それ自体として犯罪性はないが、誘拐者の事実上の支配の内容などが食い違っていた場合、誘拐にあたる。
4営利・わいせつ・結婚・生命身体加害の目的(刑225条)
営利目的 利益を得る目的であり、継続して利益を得ることであることを要しない。
わいせつ目的 被略取者等に「わいせつ行為」を行なう目的である。
結婚目的 通常の夫婦の生活実態を備えた関係を作る目的であり、法律婚・事実婚を問わない。
生命等加害目的 臓器などを摘出するなどして、生命・身体に害を加える目的である。
営利等目的略取・誘拐罪は「目的犯」であるが、この目的は刑法65条の身分ではない(○×)。
大判大正14・1・28刑集4巻14頁 正犯に目的があることを知って幇助した→本罪の幇助罪
★麻薬輸入罪の営利目的は刑法65条1項の身分である(最判昭和42・3・7刑集21巻2号417頁)
正犯に営利目的があることを知って幇助。しかし幇助者には目的がない→単純麻薬輸入の幇助
5身の代金目的略取・誘拐罪(刑225条の2)
近親者とは、直系血族(父母・祖父母)・配偶者(夫・妻)・兄弟姉妹を含む「親族」より幅広い
安否を憂慮する者とは、被略取・被誘拐者と特別な人間関係があるため、その生命、身体、自由への危険を近親者と同程度に親身になって心配する者(大阪地判昭和51・10・25刑月8・9=10・435)
6所在国外移送目的略取・誘拐罪(刑226条)
外国人の夫が、別居中の日本人の妻が監護養育する2才4カ月の子を母国に連れて帰った。
最決平成15・3・18刑集57巻3号371頁
7人身売買罪の諸類型(刑226条の2、226条の3)
①人の買い受け、②未成年者の買い受け、③営利等の目的による人の買い受け、④人の売渡し、⑤所在国外移送の目的による人の買い受けと売り渡し(226条の2)。その国外移送(226条の3)
8被略取者・被誘拐者・売り渡された者の国外移送(刑227)
①224条、225条、226条、226条の2、226条の3を行なった者を幇助する目的で、
被略取者などを引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させる行為
②225条の2を行なった者を幇助する目的で、被略取者の引き渡し、収受、輸送、蔵匿、隠避
③営利などの目的で略取などされた者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させる行為
④身の代金目的で略取などされた者の収受。収受した者が近親者などの身の代金を要求などした場合
9解放による刑の減軽
225条の2または227条2項もしくは4項→被略取者を安全な場所に解放→刑の必要的減軽
二 判例問題
10監禁罪の保護法益(京都地判昭和45・10・12刑月2巻10号1104頁)
監禁罪がその保護法益とされている行動の自由は、自然人における任意に行動しうる者のみについて存在するものと解すべきであるから、全然任意的な行動をなしえない者、例えば、生後間もない嬰児の如きは監禁罪の客体となりえないことは多く異論のないところであろう。しかしながら、それが自然的、事実的意味において任意に行動しうる者である以上、その者が、たとえ法的に責任能力や行動能力はもちろん、幼児のような意思能力を欠如しているものである場合も、なお、監禁罪の保護に値すべき客体となりうるものと解することが、立法の趣旨に適し合理的というべきである。
11脅迫罪の罪質(最判昭和35・3・18刑集14巻4号416頁)
所論は要するに刑法222条の脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによって成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件2枚のはがきの各文面は、これを以下に解釈しても出火見舞いにすぎず、一般人が右葉書を受取っても放火される危険があるとの畏怖の念を生ずることはないであろうから、仮に右葉書が被告人によって差出されたものであるとしても被告人に脅迫罪の成立はない旨主張するけれど、本件におけるが如く、2つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに「出火見舞申上げます、火の元ご用心」、「出火見舞申上げます、火の要人に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかといふするのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。
12親権者による未成年者略取(最決平成17・12・6刑集59巻10号1901頁)
本件において、被告人は、離婚係争中の他方親権者であるAの下からBを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって、そのような行動に出ることにつき、Bの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから、その行為は、親権者によるものであるとしても、正当なものということはできない。また、本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、Bが自分の生活環境について判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば、本件行為につき、違法性が阻却されるべき事情は認められない。
13安否を憂慮する者の意義(最決昭和62・3・24刑集41巻2号197頁)
刑法225条の2にいう近親者その他被拐取者の安否を憂慮する者には、「単なる同情から被拐取者の安否を気づかうにすぎないとみられる第3者は含まれないが、被拐取者の近親でなくとも、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが、社会通念上当然とみられる特別な関係にある者はこれに含まれる」。「相互銀行の代表取締役社長が拐取された場合における同銀行幹部らは、被拐取者の安否を臣民になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にある者にあたる」。
三 事例問題
(1)脅迫罪・強要罪
Aは、市町村合併の住民投票をめぐって、反対派のBと対立していたところ、Bに「最近、お嬢さんがケガをされたそうですが、早く回復されることをお祈りいたします」と書いた葉書を送った。Bは、身うちのことを案じて、反対運動から身を引いた。
(2)逮捕罪・監禁罪
Aは、スピード狂のB子を誘って、後部座席に乗せて、バイクを疾走した。速度が時速100キロを超えたとき、B子は「止めて」と叫んだが、Aは停車しなかった。B子は怖くなり、後部座席から飛び降り、加療4週間のケガをした。AはB子を誘ったときに、姦淫目的があったことを秘していた。
(3)略取罪・誘拐罪・人身売買罪
1Aは、わいせつ目的を秘して、未成年者Xを誘い、Bが運転する自動車に乗せて、山中の別荘に連れて行った。BはAの目的を知っていたが、自分にはわいせつ目的はなかった。
2A子はオランダ人Bと結婚し、子どもCを産んだが、その2年後、Bと不和になったので、別居し、離婚調停しながら、Cを養育していた。Bは、Cが通う保育園にいる、事情を知らない保育士からCを受け取り、そのままオランダに帰国した。
3Aは、巨大銀行の総裁を務め、日本の経済界の中心人物であるBを「会食の会場が変更されましたので、お連れいたします」と欺いて、自動車に乗せ、某工場跡地の倉庫に連れて行った。Aは、記者会見でBの安否の心配を表明した銀行の副総裁に対して、自己に対する債権を放棄するよう要求した。