Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第01回③ 2015年10月01日)

2015-10-01 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 第01週 練習問題

 一 練習問題
(1)殺人罪
1Aは、両親にBとの結婚を反対され、そのことを苦にして自殺することを決意し、それをBに話したところ、Bは自殺に同意した。AとBは、Aが準備した睡眠薬を飲んで自殺を図った。Bは間もなく死亡したが、Aは早期に発見され一命をとりとめた。この場合、Aには(    罪)が成立する。


2Aは自分の子どもBが精神薄弱であることを悲しみ、Bを殺そうと考え、Bに「一度死んでも、再び生き返る」と教えて、電車に飛び込ませ、死亡させた。Aには(        罪)が成立する。


3看護師Aは、看護する患者Bが毎夜激痛に苦しみ、医師からも余命数日と宣告されていたため、死なせた方がBのためだと思い、モルヒネを注射して死亡させた。Aには(     罪)が成立する。


4Aは恋人Bと別れるために、後追い自殺する意思がないのに、「一緒に死んで、あの世で暮らそう」と迫った。BはAが追死するものだと思い、毒薬を飲んで死んだ。Aには(    罪)が成立する。


5( )に文章を入れなさい。
A殺人罪と自殺関与罪のいずれが成立するかの判断は、被害者に同意能力があるかないかが基準になるよね。「死」というものを正確に理解できていないならば、それは「自殺」とはいえないからね。
Bそうだね。(①  )、自殺関与罪ではなく、殺人罪が認められるべきだと思う。例えば、被害者を脅して、車ごと海中に飛び込ませて死亡させた場合は、(②   罪)として処罰すべきだね。
A争いがあるのは、「偽装心中」の事例だ。(③   )、殺人罪を認めるのはちゅうちょするよ。しかも、心中の場合、被害者は死ぬことを望んでいたり、決意しているからね。
B死を望んでいる以上、(     罪)にするほうが良いかもしれない。しかし、相手に追死する意思があると誤信して死んだ場合、それが真意に基づく自殺といえるかは、争いがあるよね。

ア被害者が死ぬことを認識していても、その意思決定過程に重大な瑕疵があるならば、
イ被害者の意思決定過程に瑕疵があるとはいえ、死ぬことについて十分な認識があるならば、
ウ殺人罪  エ自殺関与罪


(2)暴行罪・傷害罪
1暴行罪(208条)における「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいい、同罪が傷害の罪の章に規定されていることから見て、物に対する暴行は含まれない。( ○ × )。
 また、有形力の行使は、人の身体に直接接触するものでなければならない。( ○ × )


2AはBがノイローゼにでもなれば面白いと思い、いたずらメールを繰り返し送信し、ノイローゼにさせた。Aは、暴行を行なっていないので、傷害罪は成立しない。( ○ × )


3AとBが相互に意思の連絡なしに、相前後して同じ場所でCに暴行を加えて傷害させたが、それがいずれの暴行によるのかは不明であった。AとBには(    条)が適用され、(    罪)が成立し、Aが死亡した場合、判例では(      罪)が成立する。AとBにCへの暴行について意思の連絡がある場合、(   条)が適用され、(   罪)や(   罪)の(    )になる。


4正しいものを選びなさい。
ア公務執行妨害罪における「暴行」は、最広義の暴行である。
イ暴行の故意で傷害の結果を発生させた場合、通説によれば、過失致傷罪が成立すると解されている。
ウ207条は、暴行と傷害の因果関係を推定するため、通説は違憲であると主張している。
エ精神障害の結果もまた、刑法204条の「傷害」にあたる。


5AとBがけんかをし、顔や体にケガを負っている場で、Cが「どちらも負けるな」と大声で、けんかをあおった。A・B・Cには何罪が成立するか。


6AはCと口論になり、かっとなって顔面を殴打して、気絶させた。Aがその場から立ち去った後、事情を知らないBが来て、「じゃまだ、どけ」と言って、Cの顔面を蹴って、去っていった。Cは顔面に加療4週間の傷害を負ったが(また、それが原因で内因性の出血のため死亡したが)、傷害の原因となったのが、A・Bいずれの暴行であったかは不明であった。A・Bの罪責を論じなさい。


(3)自動車運転致死傷行為処罰法
1自動車運転から致死傷結果が発生した場合の犯罪について紹介しなさい。


2酩酊のために正常な運転が困難な状態にあるAに同乗することを誘われたBが、「そうしようか」などと言って自動車に同乗し、運転者が人身事故を惹き起こした場合、A・Bには何罪が成立するか。


(4)凶器準備集合罪
1凶器準備集合罪における「凶器」の意義を説明しなさい。


2性質上の凶器と用法上の凶器を具体例を挙げて説明しなさい。


3凶器準備集合罪は継続犯か、それとも状態犯か。述べなさい。


4Aらは、凶器を準備して集合し、対立する相手に対して暴行を加えることを開始した。その後、Xが暴行に関与した。Xに凶器準備集合罪は成立するか。


 二 理論問題
(1)殺人罪
1胎児と人を区別することは、なぜ必要であるのか。通説の区別基準は、どのようなものか。


2人の死の判断基準に関する「脳死説」の内容を述べ、その法的な効果を説明しなさい。


3自殺は処罰されないが、それへの関与(教唆・幇助)が処罰される理由を述べなさい。


4偽装心中の事例に関して主張されている「法益関係的錯誤説」の内容を述べなさい。


(2)暴行罪・傷害罪
1相手に向かって石を投げたが、当たらなかった。この場合、暴行罪が成立するが、その理由は?


2傷害罪には、身体への接触型と非接触型の二種類があるが、具体例を挙げて説明しなさい。


3胎児の段階で受けた暴行が、出生後に傷害となって現れた場合の罪責を論じなさい。


4刑法には、他人を教唆・幇助して自殺させる行為を処罰する規定はあるが、自傷させる行為を処罰する規定はない理由を述べなさい。


5けんかが行なわれている現場で、その勢いを助長した行為が、傷害現場助成にあたる場合と特定のけんかの当事者への幇助にあたる場合を区別する基準を論じなさい。


6同時傷害の特例の規定が適用される領域を限定するための解釈論を主張しなさい。


(3)自動車運転致死傷処罰法
1いわゆる危険運転致死傷罪が特別の犯罪類型として設けられ、従来まで適用されてきた業務上過失致死傷罪よりも重く処罰されるようになった経緯を簡単に説明しなさい。


2自動車運転行為に起因する人身事故が、刑法から除かれ、他の処罰法にまとめられた経緯を説明しなさい。


3Aはビールを飲んで自動車を運転した。Bはウオッカを飲んで自動車を運転した。Cは危険ドラッグを使用して自動車を運転した。A・B・Cの罪責を論じなさい(薬物使用の点は除く)。


4Bは、正常な運転が困難になるほど酩酊している運転者Aに対して、乗せて帰るよう依頼して、その自動車に同乗した。幸いにも、Aは事故を起こさず帰宅できた。A・Bの罪責を論じなさい。


5Bは、正常な運転が困難になるほど酩酊している運転者Aに対して、乗せて帰るよう依頼して、その自動車に同乗した。Aは歩行者を死傷させた。A・Bの罪責を論じなさい。


6Bは、正常な運転が困難になるほど酩酊している運転者Aから同乗することを誘われ、それを承諾して同乗した。幸いにも、Aは事故を起こさなかった。A・Bの罪責を論じなさい。


7Bは、正常な運転が困難になるほど酩酊している運転者Aから同乗することを誘われ、それを承諾して同乗した。Aは歩行者を死傷させた。A・Bの罪責を論じなさい。


8危険運転致死傷罪は、結果的加重犯の一種であるといわれているが、その根拠を説明しなさい。


9結果的加重犯は、基本犯を故意に行ない、それから加重結果が発生した場合に成立する。判例は、基本犯と加重結果に因果関係があれば成立を認めるが、学説の多くは、加重結果が発生することにつき、行為者に予見可能性(過失)がなければならないと主張する。では、行為者が正常な運転が困難であることの認識がなかった場合、基本犯の故意は認められるか。


(4)凶器準備集合罪
1凶器準備集合罪の保護法益を論じなさい。


2状態犯と継続犯の例を挙げて、その性格上の違いを述べなさい。


3凶器準備集合の後、殺人や傷害などの行為を開始した集団に参加したり、凶器を貸し与えた場合の罪責を論じなさい。


 三 判例問題(番号は刑法判例百選Ⅱ各論第7版に対応)
1偽装心中と殺人(最判昭和33・11・21刑集12巻15号3519頁)
 本件被害者は被告人の欺罔の結果被告人の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に添わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかである。そしてこのように被告人に追死の意思がないにも拘らず被害者を欺罔し被告人の追死を誤信させて自殺させた被告人の所為は通常の殺人罪に該当するものというげく、原判示は正当であって所論は理由がない。


2自殺関与罪と殺人罪の限界(福岡高宮崎支部判平成元・3・24高刑集42巻2号103頁)
 出資法違反の犯人として厳しい追及を受ける旨の被告人の作出した虚構の事実に基づく欺罔威迫の結果、被害者A女は、警察に負われているとの錯誤に陥り、更に、被告人によって諸所を連れ回られて長時間の逃避行をしたあげく、その間に被告人から執拗な自殺慫慂(しょうよう)を受けるなどして、更に状況認識について錯誤をお重ねたすえ、もはやどこにも逃れる場所はなく、現状から逃れるためには自殺する以外途はないと誤信して、死を決意したものであり、同女が自己の客観的状況について但し認識を持つことができたならば、およそ自殺の決意をする事情にあったもの(と)は認められないのであるから、その自殺の決意は真意に添わない重大な瑕疵のある意思であるというべきであって、それが同女の自由な意思に音づくものとは到底いえない。したがって、被害者をみぎのように誤信させて自殺させた被告人の本件行為は、単なる自殺教唆行為に過ぎないものということは到底できないのであって、被害者の行為を利用した殺人行為に該当するものである。


3胎児傷害→次回


4暴行の意義(最決昭和39・1・28刑集18巻1号31頁)
 原判決が、判示のような事情のもとに、狭い4畳半の室内で被害者を脅かすために日本刀の抜き身を数回振り回すが如きは、とりもなおさず同人に対する暴行というべきである旨判断したことは正当である。


5傷害の意義(最決平成24・1・30刑集66巻1号36頁)
 被告人は、病院で勤務中ないし研究中であった被害者に対し、睡眠薬等を摂取させたことによって、約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒御症状を生じさせ、もって、被害者の健康状態を不良に変更し、その生活機能の障害を惹起したものであるから、いずれの事件についても傷害罪が成立すると解するのが相当である。


6暴行によらない障害(最決平成17・3・29刑集59巻2号54頁)
 被告人は、自宅の中で隣家に最も近い位置にある台所の隣家に面した窓の一部を開け、窓際及びその付近にラジオ及び複数の目覚まし時計を置き、約1年半の間にわたり、隣家の被害者らに向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日朝から深夜ないし翌未明まで、上記ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、同人に精神的ストレスを与え、よって、同人に全治不詳の慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り章の傷害を負わせたというのである。以上のような事実関係のもとにおいて、被告人の行為が傷害罪の実行行為にあたるとして、同罪の成立を認めた原判断は正当である。


7危険運転致死傷罪(最決平成18・3・14刑集60巻3号363頁)
 所論は、被告人が自車を対向車線上に進出させたことこそが同車線条で交差点を左折してきた被害車両と衝突した原因であり、赤色信号を殊更に無視したことと被害者らの傷害との間には因果関係が認められない旨主張する。しかし、被告人が対面信号機の赤色表示に構わず、対向車線に進出して本件交差点に進入しようとしたことが、それ自体赤色信号を殊更に無視した危険運転行為にほかならないのであり、このような危険運転行為により被害者らの傷害の結果が発生したものである以上、他の交通法規違反又は注意義務違反があっても、因果関係が否定されるといわれはないというべきである。


8凶器準備集合罪の罪質(最決昭和45・12・3刑集24巻13号1707頁)
 長さ1メートル前後の角棒は、その本来の性質上人を殺傷するために作られたものではないが、用法によっては人の生命、身体または財産に害を加えるに足りる器物であり、かつ、2人以上の者が他人の生命、身体または財産に害を加える目的をもってこれを準備して集合するにおいては、社会通念上人をして危機感を抱かせるに足りるものであるから、刑法208条の2にいう「凶器」に該当する。
 刑法208条の2にいう「集合」とは、通常は、2人以上の者が他人の生命、身体または財産に対し共同して害を加える目的をもって凶器を準備し、またはその準備のあることを知って一定の場所に集まることをいうが、すでに、一定の場所に集まっている2人以上の者がその場で凶器を準備し、またはその準備のあることを知ったうえ、他人の生命、身体または財産に対し共同して害を加える目的を有するに至った場合も、「集合」にあたある。
 凶器準備集合罪は、個人の生命、身体または財産ばかりでなく、公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものと解すべきであるから、右「集合」の状態が継続するかぎり、同罪は継続してい成立している。


 四 事例問題
1Aは、スナックのホステスBと同棲するようになり、将来は結婚する約束をしていたが、その後、資産家の娘Cと交際を始めたため、Bの存在が邪魔になった。そこで、Bに別れ話を切り出したところ、Bから「それなら心中しよう」と言われて、やむなくこれに同意した。しかし、数日後には、Bだけが死ねば好都合であると考えて、事前に用意した青酸カリをBに渡し、Aも一緒に飲んで自殺するかのように装った。Bは、上記の毒薬を飲み、中毒死した。Aの罪責を論じなさい。


2Aは、隣人のBに嫌がらせをするために、約1年半にわたり、毎日、早朝から深夜にかけて、最も隣家に近い窓際に置いたラジオや目覚まし時計を、大音量で鳴らし続けるなどした結果、Bを慢性頭痛症にさせた。しかも、この様子をビデオカメラで撮影して警察に届け出た近所のCに報復する目的で、数か月にわたり、毎晩C宅に無言電話をかけ続けたため、Cが加療3週間を要する精神衰弱症になった。Aの罪責を論じなさい。