Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

LS刑法Ⅰ(第09回 2015年11月09日)

2015-10-25 | 日記
 第09回 幇助(1)
(1)教唆と幇助
 正犯とは、犯罪の構成要件に該当する行為を行なった者であり、共犯とはそれ以外の行為によって犯罪の実行に関与した者である。刑法では、共犯として処罰される行為を教唆・幇助に限定している。

 教唆とは、人を教唆して犯罪を実行させることである(61)。犯罪を実行する意思のない人に働きかけて、特定の犯罪を実行する意思を生じさせて、それを実行させれば、その教唆が成立する。

 これに対して、幇助とは、すでに特定の犯罪を実行する意思を有している人に対して、有形的・物理的または無形的・心理的に援助して、その実行を容易にし、促進することである(62、63)。

 構成要件該当行為を基準にして正犯と共犯を区別する犯罪体系論からは、正犯と共犯は以上のように説明される。

(2)共同正犯と幇助の区別が争点となった事案
1共同正犯と幇助犯(1)(最決昭和567・7・16刑集36巻6号695頁)
・事案の概要
 被告人は、かつて共にタイから大麻を持ち帰ったことのあるXから、再び大麻輸入の計画を持ちかけられ、その欲求にかられたため、自らは執行猶予中の身であることを理由に、これを断ったものの、代わりの人物を紹介することを約束し、知人のYに事情を明かして協力を求めたところ、Yが承諾したので、Xに引き合わせた。被告人は、Xに資金を提供し、大麻を入手したときは、それに見合う報酬をもらい受けることを約束した。Xは、さらに知人Zを誘った。Y・Zはタイに渡航し、そこで購入した大麻を日本国内に持ち込んだが、税関係員に発見され、逮捕された。

 第1審と原審は、被告人に対して、大麻輸入罪と関税法違反の罪の共同正犯の成立を認めた。

 被告人は、自己の行為がそれ自体犯罪の実行行為ではなく、正犯Y・Zを助け、その実現を資金提供という物質的援助の方法で要因にした、いわゆる有形的幇助であるから、従犯(幇助犯)として扱われるべきであると主張して上告した。

・裁判所の判断
 被告人は、タイ国からの大麻輸入を計画したXから実行担当者になって欲しい旨頼まれるや、大麻を入手したい欲求にかられ、執行猶予中の身であることを理由にこえを断ったものの、知人のYに対して事情を明かして協力を求め、同人を自己の身代わりとしてXに引き合わせるとともに、密輸入した大麻の一部をもらい受ける約束のもとにその資金の一部をXに提供したというのであるから、これらの行為を通じて被告人が日々X及びYらと本件大麻輸入材の謀議を遂げたと認めた原判断は、正当である。

・評価
 事実関係は、以下の通りである。
1Xは、大麻輸入罪の意思があった。
2Xは、それを実行するために被告人に実行担当者になってほしいと依頼した。
3被告人は、自分の代わりに、XにYを紹介した。
4被告人は、Xに資金を提供し、大麻輸入後、それに見合う大麻をもらい受けることをXに約束させた。
5XはさらにZを誘った。そして、Y・Zをタイに行かせ、そこで大麻を入手させて、日本に輸入させた。

 裁判所は、以上の事実関係を踏まえて、被告人は、これらの行為を通じて、本件大麻輸入罪の謀議を遂げたのであって、自らが大麻輸入罪の実行行為を行なっていなくても、その共同正犯が成立すると判断した。この共同正犯は、大麻輸入罪の共謀共同正犯であると思われる。

 1・2・3の行為の後、5の行為が行なわれていたならば、被告人はXの大麻輸入罪の幇助でとどまったのかもしれない。そうでなくても、4の行為のうちの資金提供も、幇助として認定されるにとどまったかもしれない。しかし、被告人は、4の行為として、資金提供だけでなく、それに見合う大麻のもらい受けの約束なども行なった。それは、Xに対する有形的・物質的な援助にとどまらず、自らも大麻輸入によって利益を受けようとする行為である。そのように認定できる場合には、被告人はXの大麻輸入を幇助したというよりは、むしろ自らの行為として大麻輸入の計画を謀議したと認定することができる。

 被告人は、途中までは、幇助的な行為にとどまっていたが、その後、輸入の謀議を行なっているので、それ以降は共謀の段階に入っていると認定できる。共謀共同正犯を認める判例・学説の立場からは、被告人が大麻輸入罪の実行行為を行なっていなくても、客観的にその共同正犯の成立を認めることができる。その限りでいえば、被告人の行為が「幇助」にとどまるのか、それとも共同正犯として処罰される「共謀」にあたるのかは、明確に区別することができる。

 問題は、被告人に(共同)正犯の認識、すなわち共同実行の意思があったと認められるかである。被告人は、刑法理論的な意味で、自己の行為が大麻輸入罪の構成要件に該当するとか、また自己の認識が大麻輸入罪を犯す意思(刑38)にあたるといったような専門的なレベルで認識があったわけではない。しかし、Xに資金を提供し、自分もそこから恩恵にあずかるために一緒に謀議したことの認識はある。このような認識は、大麻輸入罪を犯す意思にあたると法的に評価することができるのである。これは「正犯意思」と言われるが、「自分が正犯である」という認識ではなく、「罪を犯す意思」にあたると評価しうる認識のことである。


2共同正犯と幇助犯(2)(福岡地判昭和59・8・30判時1152号182頁)
・事案の概要
 A、B、CおよびDが、Eを殺害して、その覚せい剤を強取する計画をしたが、その後、計画を変更して、Dが覚せい剤の取引のあっせんにかこつけてEをホテルの一室に呼び出し、購入希望者が別室で待機しているように装い、売買の話をまとめるためには、現物を見せる必要はあるとEに言って、覚せい剤を受け取って部屋を出た直後に、Cが同室に入ってEを拳銃で狙撃したが、Eが防弾チョッキを着用していたため、殺害の目的を遂げることはできなかった。

 D・Cについては、(財物)強盗殺人未遂罪の成立が否定され、「覚せい剤を受け取って部屋を出た」行為について窃盗罪(財物の占有の侵害)または詐欺罪(財物の交付)の成立を認めたうえで、Eに対して財物の返還請求権の行使を拒む(利益)強盗罪の成立を認め、両罪は包括一罪の関係にあると認定されている。

 被告人は、D・Cとは別に、(財物)強盗殺人未遂罪の実行共同正犯として起訴されたが、Dの指示・命令により、ホテルの部屋を2室予約するなどし、覚せい剤の欠買手と売手Eの取次を装い、覚せい剤の運搬・搬入するなどしたとして、(財物)強盗殺人未遂罪の幇助が成立するにとどまると判断された。

・裁判所の判断
 被告人は、実行行為の一部を分担した事実があるにもかかわらず、Dら他の共犯者と共同して本件強盗殺人を遂行しようとするような正犯意思、すなわち共同実行の意思は到底認めることはできないとしてm共同正犯の成立を否定して、幇助犯の成立を認めるのが相当である。

・評価
 この事案の判決は興味深く、共同正犯と教唆犯の区別基準を理解するうえで、非常に有益であると思われる。判決は、おおよそ次のようなことを述べている。

 共同正犯が成立するためには、共同実行の事実と共同実行の意思が必要である。各行為者が、実行行為の一部を分担して行なっている場合、共同実行の意思があるかないかは、ほとんど問題にはならない。というのも、実行行為の一部分担の事実があれば、その共同実行の意思があることは、極めて容易に推認できるからである。しかしながら、実行行為の一部を分担して実行している事実があるからといって、共同実行の意思があると判断できるのかというと、必ずしもそうではない。実行行為の一部分担・実行の事実は、その行為者に共同実行の意思があることを判断するための1材料でしかないからである。そうすると、実行行為を一部分担・実行しているという事実だけでなく、そのような行為を行なうに至った事情や、その行為が犯罪の全体に占める意義などをも踏まえてなければ、共同実行の意思の有無を判断することはできない。たとえ、行為者が外形的に見て(財物)強盗殺人未遂罪の実行行為の一部(にあたる行為)を行なっていても、その共同実行の意思はなかったとして、強盗殺人未遂罪の共同正犯ではなく、その幇助犯の成立を認めるのが相当である。

 判例百選の「事実の概要」からは、被告人がどのような行為を行なったのかが明らかにされていない。書かれているのは、被告人が「Dの指示・命令により、ホテルの部屋を2室予約するなどし、覚せい剤の欠買手と売手Eの取次を装い、覚せい剤の運搬・搬入するなどし」、それが(財物)強盗殺人未遂罪の幇助にとどまると評価されたということだけである。「解説」として記述されているのは、専門的な問題であるので、それはそれとして読むに値するが、本件の事案と判断に正面から向き合うのが判例批評である。そのために我々が検討すべき点は、以下の通りである。

1 D(とC)は、Eから覚せい剤を窃取したのか、それともEは欺かれてそれをDに交付したのか。前者であれば窃盗罪、後者であれば(財物)詐欺罪が成立する。

2 Eは、窃盗罪または詐欺罪の被害者である。被害者は、奪われた物を取り返す権利がある。しかし、それは所持することが法的に禁止されている覚せい剤である。Eには、その覚せい剤を取り戻す法的権利があるのか。これは、不法原因給付物と財産犯の問題である。


3 その問題はひとまず置いておくが、Eに取り戻す権利があるとの前提に立てば、それは「財産上の利益」であり、刑法でによって護される。その権利を「殺人未遂」という方法で侵害した場合には、(利益)強盗殺人未遂罪が成立することになる。

4 被告人(アルファベット記号なし)は、D・Cとは別の裁判にかけられている。D・Cは、覚せい剤を奪うためにEを殺そうとした(「財物)強盗殺人未遂罪で起訴されていたようである。そのため、被告人もその共同正犯として起訴されたのである。

5 被告人の行為態様は、それ自体として見れば、強盗殺人未遂の共同正犯にあたるが、被告人がそのような行為に及んだ5情や犯罪全体における被告人の行為の意義などを考慮すると、はたして正犯としての意思(正犯意思)があったといえるか。

6 結論は本判決。