Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第01回② 2015年10月01日)

2015-10-01 | 日記
4傷害現場助勢罪
  刑法206条 傷害罪または傷害致死罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害していなくても、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

4-1傷害現場助勢罪・傷害致死現場助勢罪の性格
本罪は傷害または傷害致死が行われている場所で、その勢いを助けた者を処罰する規定です。傷害を行っている特定の者を物理的ないし心理的に援助した場合には、傷害罪ないし傷害致死罪の幇助が成立しますが(大判昭2・3・28刑集6・118)、「幇助」に至らない程度の助長行為については、本罪が成立します。

4-2助勢行為
「勢いを助ける」とは、傷害が行われている現場で、または行われようとしている場合に、行為者の気勢を高めたり、行為者を刺激する言動をいいます。傷害が行なわれる以前の段階において、人の気勢を高めても、助勢行為にはあたりません。

5同時傷害の特例
刑法207条 2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。

5-1本罪の性格
 2人以上の者が、他人に対して、それぞれ独立して暴行を加え、傷害を負わせた場合、暴行を行った者は、自分の行為から生じた結果について責任を負えばよく、他人の行為から生じた結果にまで責任を負う必要はありません。暴行から傷害が生じたことが明らかであっても、誰の暴行が重い傷害の原因となったのかが分からない場合は、軽い傷害との因果関係が認められるだけであり、そもそも傷害が誰の暴行から生じたのかが分からない場合には、軽い傷害との因果関係を認めることもできません。しかし、本条は、そのような場合に傷害罪の共同正犯として扱うとしています。それは、被告人が暴行と傷害との間に因果関係がないことを証明しない限り、傷害罪で処罰されることを意味します。それは挙証責任を検察官から被告人へと転換することであり、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判制度の大原則を修正するものであり、大きな問題があります。

5-2適用範囲の問題
 2人以上の者が被害者に暴行を加えた場所と時間が異なり、どの傷害が誰の暴行によって生じたのかを特定することができる場合には本条を適用する必要はありません。しかし、時間と場所が異なっても、傷害の原因を特定できない場合には本条が適用されます(大判昭11・6・25刑集15・823)。下級審では、AとBが独立して加えた暴行の間に40分の時間的な隔たりがあった事案について、本条の適用範囲は、2人以上の者による暴行が自然的・社会的に観察して、同一の機会に行われた一連の暴行であると認められ、しかも共同正犯でない2人以上の者に対して傷害の責任を負わせても不合理とはいえない場合に限定されるべきであるとして、本条の適用を否定したものがあります(札幌高判昭45・7・14高刑集23・3・479)。傷害の原因が特定できないからといって、同時傷害の特例を無条件に認めるのではなく、暴行の機会の同一性と傷害罪としての当罰性によって限定する必要があります。
 問題になるのは、死亡結果が生じた場合にも「同時傷害の特例」が適用されるのかという問題です。判例は、同時に行われた暴行から傷害が生じ、死亡に至った事案について、いずれの暴行から傷害が発生したのかを知ることができないときは、暴行を加えた者全員に傷害致死罪が成立すると判断しています(最判昭25・9・20刑集5・10・1937)。しかし、本条の適用は、「暴行を加えて人を傷害した場合」に限られるべきであって、「傷害致死罪」には適用できないと解することもできます。同時「傷害」の特例を「傷害致死罪」に適用することは類推適用にあたるとの批判は免れません。
 それぞれ別個に強盗または強姦を行ない、被害者を死亡させた場合には、「同時傷害の特例」を類推適用して、強盗致死罪と強姦致死罪の成立を認めることは許されません。
 ただし被害者を負傷させた場合、強盗罪は暴行と窃盗の結合犯であり、強姦は暴行と姦淫の結合犯類似の罪であるので、この暴行に同時傷害の特例を適用して、強盗致傷罪と強姦致傷罪の成立を認めることができると解する余地はあります。

6暴行罪
  刑法208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

6-1暴行の意義
 暴行とは、一般に「人の身体に対する不法な有形力の行使」と定義されています。判例では、衣服をつかんで引っ張る(大判昭8・4・15刑集12・427)、毛髪を剃り落とす(大判明45・6・20刑録18・896)、瞬時の身体拘束(大判昭7・2・29刑集11・141)、驚かせる目的で人の手前を狙って投石する(東京高判昭25・6・10高刑集3・2・222)、かわらの破片を投げ、脅かしながら追跡する(最判昭25・11・9刑集4・11・2239)、人の身辺で大太鼓・鉦(かね)等を打ち鳴らす(最判昭29・8・20刑集8・8・1277)、狭い部屋で脅かす目的で日本刀の抜き身を振り回す(最決昭39・1・28刑集18・1・31)、他人の頭や顔に「お清め」と称して食塩をかける(福岡高判昭46・10・11刑月3・10・1311)などの行為が広く暴行として認定されています。
 暴行が「人の身体に対する不法な有形力の行使」と定義できるとはいっても、日常生活における身体的な接触のすべてを「暴行」として扱うのは問題があります。「有形力の行使」という暴行の外形的な側面だけでなく、その不法性の内容的な側面である「身体的な苦痛」に着目する必要があります。

6-2暴行の故意
暴行罪が成立するためには、人の身体に対して不法な有形力を行使している認識が必要です。身体に接触しているだけでなく、それが相手に「身体的苦痛」を与えるという認識が必要でしょう。

6-3犯罪の手段行為としての暴行(または脅迫)
 暴行(これを「狭義の暴行」とします)は暴行罪として処罰されるだけでなく、他の犯罪の手段行為として行なわれた場合にも処罰されます。騒乱罪(106条)では、暴行は騒乱の手段行為として位置付けられ、それには物に対する暴行(対物暴行)も含まれます(最広義の暴行)。公務執行妨害罪では、暴行は公務員の職務の執行を妨害する行為ですが、それには公務員に対する間接的な暴行(間接暴行)も含まれます(広義の暴行)。強盗罪(236条)では、暴行は財物奪取の手段行為として位置付けられ、それは被害者の反抗またはその意思を抑圧する程度のものでなければなりません(最狭義の暴行)。

7危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法2条〔刑法旧208条の2〕)
次に掲げる行為を行ない、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する
 1号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
 2号 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
 3号 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
 4号 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転する行為
 5号 赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
 6号 通行禁止道路を……通行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

7-1本罪の特徴
 本罪の規定は、飲酒運転などの道交法上の犯罪から生じた死傷を道交法上の犯罪と刑法上の犯罪にわけて扱うのではなく、「危険運転致死傷罪」という独立した犯罪として扱うところに特徴があります。飲酒運転などの基本犯を故意に行ない、そこから死傷結果を発生させた場合に本罪が成立します。結果的加重犯に類似した構造であることも、本罪の特徴です。

7-2行為類型
 本罪の行為態様は、以下のように四つに分類されます。
 酩酊運転致死傷(2条1号)
アルコールや薬物の影響により、「正常な運転が困難な状態」で自動車を運転し、それによって人を死傷させた場合です。道交法上の酒酔い運転の程度を超えて、前方注視が困難になるほどの運転であることが必要であり、また酒によっているという状態にとどまらず、現実にハンドル、ブレーキなどの運転操作が困難な心身の状態にあることが必要とされています。
 高速度運転致死傷(2条2号)
「進行を制御することが困難な高速度で」自動車を運転し、それによって人を死傷させた場合です。。信仰を制御することが困難な高速度とは、天候や道路状況によって変わってきますので、時速○○キロメートル以上と一律に確定することはできません。
 未熟運転致死傷(2条3号)
 「進行を制御する技能を有しないで」自動車を運転し、それによって人を死傷させた場合です。無免許でも、免停中のように運転技能があれば、これにはあたりませんが、無免許運転は道路交通法によって処罰される犯罪です。未熟運転は文字通り「進行を制御する技能を有しない」運転であると解釈すべきです。2013年(平成25年)の改正によって、無免許で危険運転致死傷罪、準危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪を犯したときは、重く処罰する加重類型を設けられました(6条)。しかし、無免許で危険運転致死傷罪などの犯罪を犯した場合は、両罪を併合罪として扱い、危険運転致死傷罪の刑を加重できるので(刑47条)、運転技能に関係のない無免許運転を理由に危険運転致死傷罪などの加重類型を設ける必要はないように思われます。
 妨害運転致死傷(2条4号)
人または自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車に著しく接近し、かつ重大な交通事故を生じさせる速度で運転し、それによって人を死傷させた場合です。いわゆる「割り込み」、「幅寄せ」、「あおり」などの行為がこれにあたります。通行を妨害する意図だけでなく、交通事故を生じさせる危険な速度で運転している認識が必要です。
 信号無視致死傷(2条5号)
 赤信号などをことさらに無視し、かつ重大な交通事故を生じさせる速度で運転し、それによって人を死傷させた場合です。赤信号を見落としたとか、それに従わなかったというのではなく、「殊更に無視し」た場合に限られます。
 通行禁止道路運転致死傷罪(2条6号)
 自動車の通行が禁止されている道路を進行したり、一方通行を学想したりするなどし、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転して、人を死傷させた場合です。通行禁止道路は、政令で定められています。信号無視致死傷罪の場合のように「殊更に」という要件がないため、通行禁止道路であることの認識があれば足ります。うっかりと高速道路に逆方向から進入したような場合は、過失であるので、本罪の適用は否定されるべきでしょう。

7-3危険運転の故意――「進行制御の困難性」の認識の要否
 本罪は、傷害致死罪のような「結果的加重犯」の一種と解されているため、基本犯に相当する「酩酊運転」や「高速度運転」の認識がなければ本罪の故意は認められません。例えば、高速度運転の故意には、「進行を制御することが困難な高速度」で車を運転していることの認識が必要です。ただし、この要件は規範的構成要件要素(総論・違法性の錯誤)であると解されています(函館地判平14・9・17判時1818・176)。

7-4共犯と罪数
 危険運転致死傷罪などは、結果的加重犯の一種なので、それに対する教唆・幇助の成否が問題になります。判例では、運転者が酩酊していることを認識しながら、運転を黙認した同乗者に幇助の成立を認めたものがあります(最決平25・4・15刑集)。危険運転致死傷罪が結果的加重犯の一種であることから、基本犯である危険運転と死傷結果トの間に因果関係があり、基本犯について故意があれば足りるという理解が、判例の基本にあると思われます。しかし、正犯である危険運転致死傷罪はそれでもよいですが、幇助者は死傷結果を惹起することまで認識していたわけではないので、それへの幇助を認めることは疑問です。酩酊運転の幇助にとどまると解するべきでしょう。
 危険運転致死傷罪は、酒酔い運転などの道交法上の犯罪で、その重大な場合を「危険運転」として類型化したものです。死傷結果が発生することによって本罪が成立する場合には、酒酔い運転の罪などの道交法違反の犯罪は、あらためて成立しません(総論・罪数論・法条競合)。

8準危険運転致死傷罪(自動車運転致死行為処罰法3条)
 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する(1項)。 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする(2項)。

 本罪は、危険運転致死傷罪における酩酊運転致死傷罪に準ずる行為として2013年(平成25年)に設けられたものです。危険運転致死傷罪の成立には、「正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる」ことと、その認識が必要ですが、本罪では「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転」することと、その認識があれば足ります。結果的に「そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた」場合に成立します(結果的加重犯の一種)。「正常な運転に支障が生じるおそれがあえる状態」は、道交法上の酒酔い運転の程度であってもあてはまります。本罪の「薬物」には、覚せい剤はもちろん、危険ドラッグなど意識障害の作用をもたらす薬物も含まれます。副作用として眠気を誘う風邪薬であっても、「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ」があれば、「薬物」にあたります。
 「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」とは、道交法などで運転免許の欠格事由とされている病気のうち、本罪の適用の対象となりうるものです。「てんかん発作」を惹き起こす病気がそれにあたります。

9過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車運転致死行為処罰法4条)
 アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、12年以下の懲役に処する。

 飲酒運転等の状態で死傷事故を起こした運転者が、アルコールなどの影響により正常な運転に支障が生じるおそれがあったことが発覚することを免れるために、追い飲みをして運転時のアルコール値を分からなくしたり、水を飲んだりしてそれを引き下げたりするなどした場合に本罪が成立します。事故現場からを離れて、アルコールの濃度を減少させた場合には、本罪とは別に、道交法上の救護義務違反の罪も成立します。
 本罪では、運転者に飲酒運転に関する証拠保全義務を課すことが前提とされていますが、証拠隠滅罪(104条)は、他人の刑事事件の証拠の隠滅を処罰するだけで、自己の刑事事件の証拠については(証拠隠滅行為に出ないことを期待することができないので)客体から除外していることとの関係から、自己の飲酒運転に関する証拠の隠滅を処罰するのは問題があります。また、「運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」がなければ処罰されることはありませんが、その目的の有無以前に、負傷者を医療機関に運ぶために、「その場から離れ」たためにアルコールの濃度が下がった場合にも、「身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」を行なったといえるのかという問題があります。さらに、本罪の行為主体が刑法65条の「身分」にあたるのかという問題もあります(総論・身分犯と共犯)。

10過失運転致死傷罪(自動車運転致死行為処罰法5条)
 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 2007年(平成19年)、自動車運転により死傷事故の実態を踏まえて、自動車運転上の必要な注意を怠り、人を死傷させた行為を自動車運転過失致死傷罪(刑211条2項)が設けられ、本罪はそれが本法5条に移された規定です。一般の業務上過失致死傷罪(5年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金)に比べて自動車運転の過失の場合が重く処罰される理由は明らかではありませんが、自動車運転が一般の業務行為よりも危険性の高い行為であること、それゆえ責任が重大であると解されます。
 過失運転によって生じた傷害の程度が軽い場合は、情状により刑が免除されます。刑の免除とは、有罪であるが、刑が科されないことです。

11凶器準備集合罪
刑法208条の2 2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対して共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する(1項)。
 前項の場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って人を集合させた者は、3年以下の懲役に処する(2項)。

11-1凶器準備集合・凶器準備結集
凶器準備集合罪は、2人以上の者が他人の生命、身体または財産に対して共同して害を加える目的に基づいて集合した場合において、凶器を準備し、またはそれが準備されていることを知って集合した行為です(1項)。凶器準備結集罪は、その場合に人を集合させる行為です。凶器準備集合罪よりも同結集罪の法定刑の方が重いのが特徴です。「集合させた」といえるためには、たんに集合するよう呼びかけた(教唆)だけでなく、集合体を結成するにあたって主導的な役割を果たしたといえなければなりません。

11-2本罪の保護法益
 本罪は、暴行罪(208条)と過失致傷罪(209条)の間に位置することからも分かるように、個人的法益に対する犯罪であり、個人的法益である生命、身体、財産に対する侵害の準備行為という性格を持っています。しかし、そのような準備行為の一部は、殺人予備や強盗予備として処罰され、その他の犯罪の予備については処罰規定は設けられていません。それにもかかわらず、本罪が定められているのは、2人以上の者が凶器を準備して集合するという行為よって、不特定または多数の人々の「社会生活の平穏」をおびやかすことにあると考えられているからである。従って、本罪は生命、身体といった個人的法益だけでなく、「社会生活の平穏」といった社会的法益を保護する規定でもあると理解されています(最判昭58・6・23集37・5・555)。
 本罪の適用にあたって、個人的法益の保護を重視すれば、個人的法益に対して具体的な危険が生ずることが必要ですが、社会的法益の保護を重視すれば、個人的法益に対する具体的危険が発生していなくても、社会生活の平穏に対する抽象的な危険が発生していることを理由に、その成立が肯定される余地があります。判例は、本罪は抽象的危険犯であると解しています(最判昭58・6・23)。

11-3凶器の意義
「凶器」とは、人の殺傷、物の損壊のために用いられる器具です。拳銃や刀など人の殺傷や物の損壊を本来の用途として作製された器具がそれにあたることは明らかです。そのような凶器を「性質上の凶器」といいます。これに対して、鎌や金属バットのように、その使い方いかんによっては人を殺傷したり、物を損壊する器具としても用いることができるもの「用法上の凶器」といいます。用法上の凶器については限定が困難であるといわなければなりません。
 判例には、用法上の凶器というためには、社会通念上、用法によっては人の生命、身体または財産に害を加えるに足りるという危惧を人に抱かせるものでなければならないとして、長さ1メートル前後の角棒もまた凶器にあたるとの判断を示したものがあります(最決昭45・12・3刑集24・13・1707)。下級審には、プラカードは、それで殴りかかった段階で、闘争の際に使用される意図が外部的に知覚され、社会通念に照らし人の視聴覚上直ちに危険性を感じさせる状態になるので、凶器にあたると判断したものがあります(飯田橋事件の一審判決。東京地判昭46・3・19刑月3・3・444)。ここではプラカードが一般的に「用法上の凶器」にあたると述べているわけではありません。その外観、特にそれで殴りかかった段階における外観を基準にして、そのようなプラカードが用法上の凶器にあたる場合があると判断されているだけです。最高裁でも、他人を殺傷する用具として利用する意図で準備されたダンプカーでも、他人を殺傷する用具として利用される外観を呈しておらず、社会通念に照らし直ちに他人に危険感を抱かせるに足りないとして、当該ダンプカーは凶器にあたらないと判断されています(最判昭47・3・14刑集26・2・187)。

11-4共同加害目的
 共同加害目的とは、他人の生命、身体または財産に対して、他の者と共同して害を加えようという目的です。生命、身体または財産に対する加害行為は、凶器を用いて行われる破壊的な行為に限定されるので、そのような道具を用いないで行なわれる窃盗や詐欺を共同して行う目的は、本罪でいう「共同加害目的」にはあたりません。ただし、玄関のカギを開けて侵入し、窃盗を行なう目的があった場合は、玄関のカギという財産に対する加害目的があると認められます。
 集合している者の全員またはその大多数が、その集団の意思として共同加害目的を持っていることを要するかどうかについては争いがあります。社会的法益に対する犯罪としての側面を強調すれば、凶器を準備して集合していることの認識があれば足り、集合している者の全員または大多数が共同加害目的を持っている必要はありません。しかし、個人的法益に対する犯罪の側面を強調すれば、共同加害目的は全員または大多数に必要です。判例は、共同加害目的は集合者の全員または大多数の者の集団意思としては不要であるとしながらも、集合者がその行動を相互に目撃しうる場所に近接した場合、少なくとも暴行に及びまたは及ぼうとした者らには、漸次波及的に共同加害目的を認めうるとしている(最判昭52・5・6刑集31・3・544)。

11-5集合罪の終了時期
共同加害目的に基づいて凶器を準備して集合したならば、その時点で凶器準備集合罪は既遂に達し、集合状態が続いている限り、本罪は継続します(最決昭45・12・3刑集24・13・1707)。本罪は集合犯です。では、集合した後、目的としていた他人の生命に対する加害行為などが開始された場合、集合罪は終了するのでしょうか、それとも継続するのでしょうか。判例は、殺人罪などの加害行為の途中から、集合体に加わった者にも、凶器準備集合罪が成立すると判断しています(最決昭45・12・3)。つまり、殺人罪などの行為を開始した後でも、凶器準備集合罪は継続し、凶器準備集合罪と殺人罪は併合罪の関係に立つと解されています(総論・併合罪)。
 凶器準備集合罪が、個人的法益に対する罪であるならば、殺人罪などが行なわれた時点において、凶器準備集合の目的が実現されていますので、凶器準備集合罪は終了する解されますが、判例本罪を社会的法益に対する犯罪としての側面を重視して、それと殺人罪などの個人的法益に対する犯罪とは、それぞれ別に成立すると解しているようです。しかし、本罪が生命、身体、財産に対する予備行為としての性格を持っていることは明らかなので、殺人罪が開始された時点で、その予備行為としての凶器準備集合罪は終了し、殺人罪の実行行為が開始された後、集合体に加わった者には、凶器準備集合罪は成立しないと考えるべきです。