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論文)ジベレリンとアブシジン酸の拮抗作用の制御機構

2015-09-18 21:25:20 | 読んだ論文備忘録

The SnRK2-APC/CTE regulatory module mediates the antagonistic action of gibberellic acid and abscisic acid pathways
Lin et al.  Nature Communication (2015) 6:7981.

DOI: 10.1038/ncomms8981

イネAPC/C E3ユビキチンリガーゼ複合体のアクティベーターをコードするTiller EnhancerTE )は分けつ数を制御する主要な調節因子のMONOCULM 1(MOC1)の分解を促進することで分けつを抑制している。そのため、te 変異体は分けつ数が増加するが、その他にも、草丈が低くなる、止葉や穂がねじれるといった多面的な表現型を示す。中国農業科学院 作物科学研究所Wan らは、te 変異体種子は発芽や実生の成長が野生型よりも遅く、TE 過剰発現系統の種子はアブシジン酸(ABA)存在下でも発芽や実生の成長が野生型よりも促進されることを見出した。したがって、TEはABA応答に関与していることが示唆される。te 変異体は乾燥ストレスに耐性があり、ABA応答遺伝子のLEA3RAB16A の発現量が僅かに高くなっていた。また、TE 過剰発現系統では、内生ABA量は野生型と同等であったが、LEA3LIP9RAB16A の転写産物量が減少していた。これらのことから、TEはABAシグナル伝達の抑制因子として機能していることが示唆される。逆に、te 変異体種子は種子発芽や実生の成長過程でのジベレリン(GA)応答性が低下しており、GAによるα-アミラーゼ活性の誘導も野生型と比較すると低くなっていた。TE 過剰発現系統ではα-アミラーゼ遺伝子RAmy1A の発現がGAによって強く誘導されており、TE はGAシグナル伝達に対して促進的に作用していると考えられる。したがって、TEはABAとGAの拮抗的な作用に関与していることが示唆される。TEはターゲットタンパク質のD-boxもしくはKEN-box認識して結合することが知られている。イネやシロイヌナズナのABA受容体PYR/PYL/RCARはD-boxを含んでおり、野生型植物由来の粗抽出液において8種類のPYL/PYRの分解が観察されたが、te 変異体粗抽出液では分解が野生型よりも遅く安定性が増していた。また、TEはOsPYL/RCAR10と物理的に相互作用を示すことが確認された。OsPYL/RCAR10はte 変異体粗抽出液よりも野生型粗抽出液においてより効率よくポリユビキチン化され、te 変異体は野生型よりもOsPYL/RCAR10量が多く、TE 過剰発現系統では少なくなっていた。OsPYL/RCAR10 の発現をRNAiで抑制したte 変異体は種子発芽と実生の成長に関して回復が見られたが、分けつ数に関しては変化が見られなかった。これらのことから、APC/CTEはOsPYL/RCARをプロテアソーム系による分解の標的とすることでABAシグナル伝達を抑制していると考えられる。TEはABAシグナル伝達に関与しているSnRK2キナーゼと相互作用をし、N末端側のS77がSnRK2によってリン酸化される部位であることが推測された。TEのS77をDに置換したリン酸化模倣変異体TE(S77D)はOsPYL/RCAR10と結合しないことから、S77のリン酸化はOsPYL/RCAR10との相互作用を妨げていることが示唆される。SnRK2 過剰発現系統は発芽や実生の成長が遅延しOsPYL/RCAR10の蓄積量が増加した。また、SnRK2 過剰発現系統では内生ABA量が野生型よりも僅かに高くなった。これらの結果から、SnRK2はTEのリン酸化を介してOsPYL/RCAR受容体を安定化させることで、またABA生合成を高めることでABAシグナル伝達を正に制御していると考えられる。野生型植物において、GA処理はOsPYL/RCAR10の分解を促進したが、te 変異体では分解促進は見られなかった。一方、ABA処理は野生型植物においてOsPYL/RCAR10を安定化させた。GA処理によるOsPYL/RCAR10の分解は、ABAの添加によって、その濃度に応じて阻害された。また、ABA処理によるOsPYL/RCAR10の蓄積は、GA添加量が増加するにつれて徐々に減少していった。したがって、ABAとGAはOsPYL/RCAR10の安定化/分解に関して拮抗的に作用し、GAによるOsPYL/RCAR10の分解にはAPC/CTEが関与していることが示唆される。ABAはTEとOsPYL/RCAR10との相互作用を阻害し、GAは促進することが確認された。GA処理はSnRK2の蓄積量を減少させ、ABA処理は増加させた。SnRK2量はGA非感受性変異体gid1 やGA生合成変異体d18 では野生型よりも多くなっていた。GA生合成阻害剤パクロブトラゾール処理もSnRK2の蓄積を促進した。ABA処理はSnRK2の安定化に加えてSnRK2をコードする転写産物の蓄積も促進した。以上の結果から、GAはSnRK2活性を低下させることでTEとOsPYL/RCAR10の相互作用を促進してOsPYL/RCAR10の分解を誘導し、ABAはSnRK2活性を転写レベルおよび転写後レベルで高めることでTEとOsPYL/RCAR10の相互作用を阻害していると考えられる。以上の結果から、SnRK2とACP/CTEはジベレリンとアブシジン酸の拮抗的作用の制御の中核として機能していると考えられる。

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