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論文)根毛伸長制御の分子機構

2024-04-30 11:21:23 | 読んだ論文備忘録

An LRH-RSL4 feedback regulatory loop controls the determinate growth of root hairs in Arabidopsis
Cui et al.  Current Biology (2024) 34:313-326.

doi:10.1016/j.cub.2023.12.004

中国 浙江大学Dingらは、シロイヌナズナT-DNA挿入変異体ライブラリーから、野生型植物よりも根毛がかなり長い2つの変異体(SALK_034517C、SALK_060808C)を単離した。この変異体は、根毛の発生も早く、一次根の成長がわずかに抑制されていた。しかしながら、T-DNAが挿入されているとされている遺伝子(AT5G45240AT5G16000)は、どちらも根毛伸長に関与していないことが判った。そこで、long root hair-1lrh-1)、lrh-2 と命名した未知の原因遺伝子を同定するために両変異体の全ゲノムシーケンスを行なったところ、どちらも同じ遺伝子(AT5G42950)にT-DNAが挿入されていることが判った。この遺伝子は、GYF-ドメインを含んだタンパク質をコードしており、ESSENTIAL FOR POTEXVIRUS ACCUMULATION 1(EXA1)という名前で病原体応答に関与していることが知られている。そこで、exa1 機能喪失変異体の表現型を観察したところ、lrh 変異体と同じような根毛伸長を示した。これらの結果から、LRH 遺伝子はEXA1 であり、根毛伸長抑制因子をコードしていることが示唆される。根毛伸長を制御している転写因子遺伝子[GLABRA2GL2)、ROOT HAIR DEFECTIVE6RHD6)、RHD6-LIKE1RSL1)、RSL2RSL4]は、野生型植物とlrh-1 変異体で類似した発現パターンを示し、RSL4 転写産物量は両者で同等であった。しかしながら、RSL4による制御または影響を受けているいくつかの根毛伸長関連遺伝子(AtEXP7MRH3RHS7PERK13LRL1LRL2)の発現は、lrh-1 変異の影響を受けていた。したがって、LRHは、タンパク質レベルでRSL4の存在量または活性に影響を与えている可能性がある。lrh-1 変異体の根毛形成細胞は、野生型植物の細胞よりも、より早く、より長い期間、より多くのRSL4タンパク質を蓄積し、タンパク質生合成阻害剤シクロヘキシミド処理はlrh-1 変異体の根毛伸長促進とRSL4タンパク質蓄積増加を完全に抑制した。したがって、LRHはRSL4タンパク質生合成を制御している可能性が示唆される。lrh-1/rsl4 二重変異体は rsl4 変異体とほぼ同等の根毛成長抑制を示し、lrh-1/rsl2/rsl4 三重変異体はrsl2/rsl4 二重変異体と同様に無毛となった。このことから、RSL4 は、RSL2 とともに根毛制御においてLRH よりも上位にあることが示唆される。さらに、トランスクリプトーム解析から、lrh-1 変異体で発現量が変化する遺伝子の約40 %がrsl2/rsl4 二重変異体でも影響を受けており、根毛関連遺伝子は2つの変異体で明らかに正反対の発現パターンを示した。また、rsl2/rsl4 二重変異体では、表皮細胞の長さと一次根の長さが増加し、根毛発生の遅延が観察され、lrh-1 変異体で示された早い根毛発生と根の成長減少は、RSL2/4 の機能喪失によって部分的に抑制された。これらの結果から、LRHはRSL4タンパク質の生合成を抑制することで根毛の成長を阻害していることが示唆される。LRHRSL4 は、共に根毛形成細胞で共発現していたが、LRH は他の細胞でも発現していた。LRH mRNAは、根の分裂領域ではすべての表皮細胞に蓄積し、伸長領域では主に根毛形成細胞で蓄積し、徐々に減少していった。よって、LRHRSL4 は根の伸長領域の根毛形成細胞で共発現しており、LRHはおそらく細胞自律的な機構でRSL4の翻訳を制御していることが示唆される。さらに、シロイヌナズナの根のプロトプラストとベンサミアナタバコの葉を用いてLRH-GFP融合タンパク質の細胞内局在を調査したところ、GFP蛍光は主に細胞質において斑点状にみられることが判った。40Sリボソームサブユニットと結合することが知られている真核生物型開始因子のeIF3Aは、LRH-GFPと重複してこれらの斑点に局在していたことから、これらの斑点はリボソームであり、LRHは翻訳制御に関与している可能性がある。LRHタンパク質はelF4E結合モチーフを有しており、elF4Eと相互作用することが推測される。また、elF4EはRSL4の翻訳と根毛伸長に関与していることが知られている。解析の結果、LRHはelF4E1およびelF(iso)4Eと相互作用するが、elF4GとelF4E1の相互作用には影響しないこと、mRNA 5’capと結合しないことが判った。しかし、LRHはelF4E1のmRNA capとの結合を阻害し、生体内においてLRHがelF4E1とRSL4 mRNAとの相互作用を阻害していることが確認された。よって、LRHはRLS4の翻訳を阻害していることが示唆される。eIF4E1eIF(iso)4E の機能喪失は、lrh-1 変異体の根毛伸長を部分的に抑制し、3つのeIF4EeIF4E1eIF(iso)4EeIF4E1C)の機能喪失はこの抑制を増強した。さらに、トランスクリプトーム解析から、RSL4によって制御され、lrh-1 変異の影響を受けている根毛関連遺伝子の発現は、eif4e1/eif(iso)4e 二重変異によって顕著に回復することが判った。これらの結果から、LRHは、eIF4EとRSL4 mRNAの結合を阻害してRSL4の翻訳を抑制することで根毛の成長を抑制していると考えられる。根毛の成長は、養分(リンなど)欠乏や植物ホルモン(オーキシン、エチレン、サイトカイニンなど)などの様々な外部および内部の要因によって制御されている。そこで、様々な根毛伸長促進条件下で、野生型植物とlrh-1 変異体の表現型を解析したところ、それぞれの処理によって根毛の伸長が同程度に促進されることが判った。したがって、LRHは根毛伸長を制御する特定のシグナルを媒介するのではなく、根毛伸長の一般的な抑制因子であると思われる。一方で、根の伸長領域におけるLRH の発現は、根毛伸長促進条件下で顕著に誘導された。RSL4は、植物ホルモンやリン欠乏によって誘導される根毛伸長に必要であることが知られており、根毛伸長促進処理によってRSL4タンパク質が予想通り顕著に誘導され、LRH と類似したパターンを示した。さらに興味深いことに、LRH 遺伝子プロモーター領域には3つの典型的なRSL4結合部位(RHE)が見られた。解析の結果、RLS4はLRH プロモーター領域の3つのRHEに結合することが確認された。これらの観察結果と一致するように、LRH mRNA量はrsl2/rsl4 変異体では野生型植物よりも僅かに減少していた。これは、LRH は根においてRSL2/4 よりもはるかに広い範囲で発現しており、RSL2/4 を発現していない根の細胞ではLRH の転写が影響を受ける可能性が低いことから、妥当な結果であるといえる。予想通り、根伸長領域の根毛形成細胞におけるLRHタンパク質の蓄積は、rsl2/rsl4 変異体では大幅に減少し、LRHの勾配が破壊されていることが判った。さらに、LRH プロモーターのRSL4結合部位を欠失させると、根毛形成細胞でのLRH 発現が低下した。また、RSL4 を過剰発現させると、lrh-1 変異体の根毛伸長が著しく促進された。これらの結果から、RSL4はLRH の発現を直接活性化し、根毛の成長を微調整するフィードバック制御ループを形成していると考えられる。以上の結果から、LRHはeIF4EとRSL4 mRNA 5'capとの結合を阻害し、RSL4の翻訳と根毛伸長を抑制していると考えられる。さらに、RSL4は根毛形成細胞におけるLRH の発現を直接活性化するフィードバック制御ループを形成し、根毛形成を微調整していると考えられる。

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