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論文)TCP13による避陰反応に類似した応答

2024-04-21 12:53:52 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis transcription factor TCP13 promotes shade avoidance syndrome-like responses by directly targeting a subset of shade-responsive gene promoters
Hur et al.  Journal of Experimental Botany (2024) 75:241–257.

doi:10.1093/jxb/erad402

TCP転写因子は、植物器官の発達だけでなく、環境シグナルに対する応答も制御している。シロイヌナズナには24のTCPファミリー遺伝子があり、大きく2つのクラスに分かれている。TCP5、TCP13、TCP17は1つのサブグループを構成しており、これらを過剰発現させた形質転換体は、通常は日陰で生育する芽生えで観察される長い胚軸と下偏生長した葉が生じる。これらの表現型から、このサブグループのTCPタンパク質は避陰反応(SAS)を活性化することが示唆される。これまでの研究で、TCP17はPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)-オーキシン経路を制御することでSASを促進すること、TCP5はPIF4を含む他のPIFタンパク質と相互作用をしてPIFの安定化と転写活性を高めることが知られている。しかしながら、TCP13がSASの制御に関与しているかは明らかではない。韓国 淑明女子大学校のCheonらは、CaMV 35Sプロモーターの制御下でTCP13 を過剰発現する形質転換体は、葉が野生型植物よりも小さく、恒常的に下偏生長を示すこと、芽生えの胚軸は高R:FR比光下でも野生型植物よりも長くなることを見出した。TCP5TCP13TCP17 の単独変異体や二重変異体に大きな表現型の変化は見られなかったが、tcp5/13/17 三重変異株は、低R:FR光下で野生型植物よりも胚軸が短かくなった。TCP5 またはTCP17 の過剰発現系統も、恒常的に胚軸が伸長することから、TCP5、TCP13、TCP17は冗長的に作用して胚軸伸長を促進しており、TCP13はSASまたはSAS様の応答を促進していることが示唆される。TCP13 の発現は日陰処理をしても変化しなかったが、TCP13タンパク質は日陰処理や暗処理によって安定性が低下した。TCP5とTCP17タンパク質も暗処理で不安定化したが、日陰処理では安定性に変化は見られなかった。PIF4は、光条件下で不安定化するが、TCP13 過剰発現系統では光条件による安定性の変化が見られなかった。これらの結果から、TCP13は過剰な光応答を緩和する非干渉性のフィード・フォワード・ループの構成要素であることが示唆される。TCP13 過剰発現系統および日陰処理植物のRNA-seq解析から、TCP13によって発現制御を受ける1370遺伝子、日陰処理により発現量が変化する2503遺伝子が見出された。TCP13によって制御される遺伝子のうち477遺伝子は、日陰処理によっても制御されており、そのほとんどはTCP13と日陰処理によって同じ方向に制御されていた。日陰処理はPIFタンパク質を安定化してオーキシン生合成を活性化し、胚軸伸長や下偏生長を促進している。遺伝子オントロジー(GO)解析を行なったところ、TCP13が制御する遺伝子と日陰処理が制御する遺伝子は、いくつかのGO用語が共通して増加したが、オーキシン関連のGO用語は、日陰処理で活性化された遺伝子でのみ増加しており、TCP13によって制御される遺伝子にはオーキシン関連のGO用語は見られなかった。また、エンリッチメント解析(GSEA)から、TCP13によって制御される遺伝子にはオーキシンが発現を制御している遺伝子が見られないが、オーキシンシグナル伝達遺伝子は日陰処理によって活性化されることが確認された。これらの結果から、TCP13は、日陰処理とは異なり、オーキシンシグナル伝達を活性化しないことが示唆される。また、TCP13が制御する遺伝子の中には、PIFによって発現が制御される遺伝子も見られなかった。これらのことから、TCP13は日陰処理のようにPIF-オーキシンシグナル伝達を活性化するのではなく、むしろSAS様の応答を促進していることが示唆される。一方で、SAUR19 を含む幾つかののSAUR 遺伝子がTCP13によって優先的に活性化され、日陰処理は多くのSAUR 遺伝子の発現を活性化していることが判った。SAUR 遺伝子は、オーキシンシグナル伝達の下流または独立に細胞伸長を促進することが知られている。TCP13によって活性化される3つのSAUR 遺伝子(SAUR19SAUR21SAUR66)のプロモーター領域には、TCP結合配列と推定される配列があり、TCP13は光条件に関係なくこれらのSAUR 遺伝子プロモーターに直接結合することが確認された。これらのSAUR 遺伝子の活性化がTCP13 過剰発現系統での胚軸伸長の唯一の原因であると結論づけることはできないが、TCP13は、日陰処理のようにPIF-オーキシンシグナル伝達経路を活性化することなく、SAS様応答を引き起こしていることが示唆さる。トランスクリプトーム解析からは、TCP13と日陰処理がフラボノイド生合成遺伝子の発現を抑制することが示されており、野生型植物では日陰処理によってアントシアニン量が減少すること、TCP13 過剰発現系統では高R:FR比光下でもアントシアニン量が低い状態にあることが確認された。フラボノイド生合成遺伝子プロモーター領域にはPIFタンパク質やTCPタンパク質の結合部位がみられ、TCP13とPIF4はこれらの配列をターゲットして遺伝子発現を抑制しいていることが判った。以上の結果から、TCP13は、PIF-オーキシンシグナル伝達経路を活性化してはおらず、日陰応答遺伝子の一部を直接標的とすることで避陰反応に類似した応答を促進していると考えられる。

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