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論文)葉が生産するアブシジン酸による根の成長制御

2016-05-24 05:25:09 | 読んだ論文備忘録

Shoot-derived abscisic acid promotes root growth
McAdam et al. Plant, Cell & Environment (2016) 39:652-659.

doi: 10.1111/pce.12669

アブシジン酸(ABA)は根の成長制御において重要な役割を果たしている。ABAは根でも葉でも生産され、シロイヌナズナでの実験からABAは師部を介して葉から根へと輸送されうることが知られている。オーストラリア タスマニア大学McAdam らは、葉で生産されたABAが根へ輸送させれて根の成長を制御しているかを調査した。トウモロコシ、ヒマワリ、ソラマメの葉に重水素標識したABAを与えたところ、何れの植物においても、通常の生育条件下において、ABAが葉から根へ輸送された。エンドウのABA生合成変異体wilty およびトマトのABA生合成変異体sitiens を用いて、地上部もしくは地下部を野生型と相互に接いで作成した植物体のABA量を調査したところ、ABA生合成変異体のつぎ穂を接いだ台木は、それが野生型でも変異体でも、野生型の接ぎ穂を接いだ場合よりABA含量が低下する、接ぎ穂のABA含量はそれ自身がABA生合成変異体であれば 台木の遺伝子型に関係なくABA含量が有意に低下する、野生型の接ぎ穂をABA生合成変異体の台木に接いでも植物体のABA含量に大きな減少は見られないことが判った。したがって、非ストレス下の根のABAはシュートから供給されており、根とシュートのABA量はシュートにおけるABA合成能によって決定されることが示唆される。ABA生合成変異体の接ぎ穂を接いだ台木は遺伝子型に関係なく根のバイオマスが減少し、側根や不定根の数が増加していた。一方、シュートのバイオマスはABA生合成変異体の台木を接いでも影響を受けなかった。接木によってABA含量と成長量が低下し、側根もしくは不定根が増加した根は、インドール酢酸(IAA)含量が高くなっていた。以上の結果から、十分に潅水された条件下において、葉で生産されたABAは根へ輸送され、これは根のABA含量に大きく影響していることが明らかとなった。葉から供給されたABAは根の成長に影響を及ぼし、この機構には根の成長を阻害するIAAが関与していると考えられる。葉由来のABAによる根の成長と構造の制御は、根とシュートのバイオマスの比率を調節する重要な機構であると思われる。

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