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論文)エチレンとジベレリンによるフック形成の制御

2012-05-30 20:47:02 | 読んだ論文備忘録

Coordinated regulation of apical hook development by gibberellins and ethylene in etiolated Arabidopsis seedlings
An et al.  Cell Research (2012) 22:915-927.
doi:10.1038/cr.2012.29

芽生えが地中から発芽成長する際、芽生えの上部にフックと呼ばれる鉤状の屈曲構造が形成され、子葉や茎頂を物理的障害から保護する。フック形成には各種植物ホルモンが関与している。オーキシンは不均等分布することで細胞成長の差異をもたらし、フック形成に関与している。シロイヌナズナの変異体の観察から、エチレンとジベレリン(GA)もフック形成に関与することが知られており、両者は協調的に作用してフック形成を制御しているが、詳細な分子機構は明らかではない。中国 北京大学Guo らは、シロイヌナズナ黄化芽生えのフック形成におけるエチレンとGAの分子機構の解析を行なった。これまでの知見から、GA生合成阻害剤のパクロブトラゾール(PAC)がフック形成を抑制することが知られている。エチレンの前駆体であるACC処理、エチレンシグナル伝達経路に関与しているEIN3 の過剰発現個体(EIN3ox )はフックの屈曲が強まるが、ここにPAC処理をすると屈曲が弱まった。しかし、EIN3ox にPACとGAを同時に処理するとフック形成が回復し、屈曲がさらに強まった。また、EIN3ox においてGAの分解に関与するGA2ox8 を過剰発現させることでもフックの屈曲が弱まった。したがって、EIN3によって誘導されるフック形成はGA添加によって強められ、GA除去によって弱められることが示唆される。野生型植物黄化芽生えをPAC処理するとフックはほぼ直線になってしまうが、EIN3ox や恒常的にエチレン応答を示すctr1 変異体ではフックの屈曲は弱まるものの依然として見られることから、エチレンシグナルが活性化されている芽生えではPACの効果は不十分となる。GA応答の抑制因子であるDELLAタンパク質の五重変異体della の黄化芽生えではフックの屈曲が強調され、ここにACC処理をすると屈曲がさらに強まった。しかし、安定型DELLAタンパク質を過剰発現させた黄化芽生えでは殆どフック形成が見られず、ACC処理に対しても応答が見られなかった。よって、DELLAタンパク質はエチレンの誘導するフック形成を抑制し、GAによるエチレン作用の強化はDELLAタンパク質の分解によるものであると考えられる。エチレン生合成阻害剤のAVGは、野生型植物やエチレンを恒常的に生産するeto1 変異体のフック形成を抑制するが、EIN3oxctr1 変異体、della 変異体に対しては効果がなかった。よって、della 変異体のフック形成の強調はエチレン生合成の増加によるものではない。しかし、エチレンシグナル伝達経路に関与する因子の変異体(ein2ein3 eil1 )ではdella 変異によるフック形成の強調が弱められることから、della 変異体でのフック形成の強調にはEIN3/EIL1といったエチレンシグナル伝達経路の因子が必要であると考えられる。HOOKLESS 1HLS1 )はN -アセチルトランスフェラーゼをコードしており、hls1 変異体黄化芽生えはACC存在下であってもフックが形成されない。hls1 変異体はGAを添加してもフックが形成されず、hls1 変異体にdella 変異を導入してもフック形成は起こらなかった。よって、GAやDELLAタンパク質によるフック形成制御はHLS1に依存していることが示唆される。エチレン処理はHLS1 の発現を誘導するが、GA処理もHLS1 の発現を誘導した。ein3 eil1 二重変異体ではACC処理によってもGA処理によってもHLS1 の発現が誘導されないことから、HLS1 の発現誘導にはEIN3/EIL1が必要であると考えられる。della 変異体や恒常的にGA応答を示すspy-3 変異体ではHLS1 の発現量が高くなっていた。EIN3ox ではHLS1 の発現量が増加するが、同時にGA2ox8 を過剰発現させるとHLS1 の発現量が低下し、EIN3oxspy-3 変異を導入するとHLS1 発現量はEIN3ox よりも増加した。ein3 eil1 変異体ににおいてエストラジオール処理によってEIN3 を過剰発現する系を導入したところ、EIN3 の発現を誘導した直後にHLS1 の発現が誘導された。よって、HLS1 はEIN3の直接のターゲット遺伝子であることが考えられる。HLS1 遺伝子のプロモーター領域にはEIN3結合部位(EBS、5'-ATTTCAAA-3')が存在し、ゲルシフトアッセイやクロマチン免疫沈降アッセイからEIN3はHLS1 プロモーター領域に結合し、HLS1 を直接のターゲット遺伝子としていることが確認された。DELLAタンパク質は転写抑制因子として機能するがDNA結合能はないため、他の転写因子と相互作用をしてターゲット遺伝子の発現制御を行なっている。よって、DELLAタンパク質によるHLS1 の発現抑制は、DELLAタンパク質がEIN3/EIL1の機能を抑制することによってなされていることが考えられる。そこで、EIN3/EIL1とRGA/GAIが相互作用するかを調査したところ、両者は相互作用を示し、この相互作用によってEIN3/EIL1の機能が抑制されることが確認された。DELLAタンパク質はEIN3のDNA結合領域と相互作用をすることから、この相互作用によってEIN3のDNA結合が抑制されるものと思われる。hls1 変異体でHLS1 を恒常的に発現させると、hls1 変異が回復してフック形成が強調されるが、この個体においてもPAC処理によるフック形成抑制、ACC、ACC+GA処理によるフック屈曲の強調が観察された。この個体をACCやGA処理することによってHLS1 転写産物量やHLS1タンパク質量に変化は見られないことから、HLS1 の転写制御とは別のフック形成制御経路が存在すると考えられる。過去知見において、オーキシン輸送阻害剤のNPAがHLS1 過剰発現個体のフックの屈曲を抑制することが報告されている。NPA処理は、ctr1 変異体、EIN3oxdella 変異体のフック形成も阻害することから、オーキシンはフック形成においてエチレンやGAの経路の下流において機能していることが示唆され、GAやエチレンはHLS1 の発現誘導に加えてオーキシン輸送にも影響を及ぼしてフック形成を制御していることが考えられる。

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